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桂と薫と野薔薇の異界探検

9☆妻との再会、ひ孫と未来

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「ほんとでつね……髪の毛長かったらでつけど….」
 野薔薇は宝石でも見るようにまじまじと観察する。
「でも、叔父さんはすごくイケメンでつ。オカマさんではありません!」
 野薔薇は流花と瑠香の違いを正直に口にする。
「ブハッ!子供は正直だね…野薔薇ちゃんは橘に似てるね!」
 威津那はツボに入って、肩を震わし腹を抱えて後ろを向く。
「そうね…でも、突拍子のないところはサキお姉ちゃんそっくりよ、ね、母様」
 橘は苦笑する。自分にそっくりと言えばそっくりだと思うが、三人姉の三番目のサキはおかしな人というイメージが強い。
 「そうね…あの子が一番、歳の差なんて関係なくて、生まれた時から運命の相手を狙っていて一途で強引。あなたに似たのかもね明綛…」
 流花は明綛に困ったように微笑みかけた。
「流花……本当に…」
 最後に会った時と変わらない姿だ。
 死んだものだとは信じたくないほどだが、明綛は立ち上がり、流花の手を取ろうとしたがすり抜けた……
「ああ……」
 この世のものではないと確信すると辛く涙が出た。
 流花も悲しい顔をする。
「私を愛したせいで異界を彷徨わせてごめんなさい……」
 流花はそのことが一番心残りでもあった。
 愛しき夫二人を置いて先に亡くなったことを……
 もう一度会いたいという気持ちがあり、ひ孫たちが明綛と縁を結び実現した。
「私も君と同じ存在になってもいいか?」
「だめよ…。あなたの未来はまだ続いているもの……」
 流花から明綛の手を握ることはでき、その力強さは言葉の意味を強くする。

「それに、私は晴綛を待っているから……」
 その言葉に明綛はハッとして、流花を睨む。
「晴綛は、約束破ったんだな…私と流花との誓を……」
「あなたとの娘三人と生きるため…晴綛の想いも受け入れたの…そして、橘が生まれた」
 橘は照れる。
 愛し合って生まれた存在と言われるのはいつまでも嬉しいものだ。

「晴綛は……ジジィになったと聞いたぞ…醜いジジイにな…私と流花との約束を破って…呪いを被ったのだな…ふふふふ…」
 明綛はせめて嘲笑う。
(あの姿は黒狐様の呪いだったのか!)
 子供達は驚愕する。
「……ええ、そうね。でも後悔はないわ…私にもあの人にも、きっとね」
 流花は自信たっぷりに微笑む。
 それに、晴綛のことをよく知っているように言う。
 それは人生を満足に全うしたからの自信の笑みだが、その笑みを見て明綛は胸に支えていたものが噴き出す。
「私にはある…後悔だらけだ…っ!」
 ポロポロと明綛は涙をこぼす。
「陛下よりも流花を思ってしまっていたなら潔く神誓いなど諦めて、流花と共に過ごしたかった!流花と、もっと幸せになりたかった…!
 生まれてくる子供達と幸せになりたかった!それを全て晴綛が叶っているなんてずるいだろっ!」
 明綛は胸に詰まっていた思いを吐き出す。
 いや、子供や人が見ている前で普段なら吐き出さないが、心の掃き溜めの空間なのだ。
 強い負の感情をむき出しになってしまうのだが、吐き出して仕舞えば浄化してスッキリしてしまうこともある。
 それゆえ、黄泉とも異界ともいえる不思議な空間なのだ。
 流花は涙し咽ぶ明綛を抱きしめる。
 明綛から抱きしめようとしても空を切ってしまう。
 もう交わることは叶わないと思うと尚更虚しくなる……
「ごめんなさい……私だけ幸せになって……でもあなたの事もずっと思ってた、忘れられなかった……初めて愛した人だから…夫婦の契りを交わした縁深い人だから…こうやって再開できただけでも幸せ…」
 流花も思わず涙する。
 だが、恋人や夫婦という者の愛おしさではない、親しい友に接する態度だと思う。
 もう、流花の心は陛下にではなく晴綛を素直に愛していると感じた。
「………幸せだったんだな……」
「ええ…幸せよ…私は幸せだった……」
 自分の人生を思えば幸せだった。
 けれど、流花が亡くなった後の晴綛はしばらく苦るしんだ……
 愛おしいものは自分を置いて先に逝ってしまったのだから……
 その苦しみも人生も労ってあげたいために転生の川を渡らないで、阿部野屋敷で留まらせてもらっている。
 阿部野屋敷の異界は記憶や心が伝わりやすく、その記憶が明綛に流れ込んで来て、腑に落ちた。
 追体験したわけではないけれど、本来己が辿るはずだったもう一つの人生だと思うと晴綛を羨むこともなくならないとは言わないが怒りはない。
「いつまでも双子ということだな……私の代わりに流花を幸せにしてくれたならば私も労ってやりたいな……」
 短い間に時は隔たれ、晴綛の人生はもうすぐ終わりを迎えるだろう……だからこそ最後は…と思った時、
「そうでつよ!だから一緒に今度こそ現世に戻りましょう!ひぃおじいちゃま!」
「ひいおじいちゃま…?」
 明綛は野薔薇の言葉にきょとんとする。
 流花は微笑む。
「あなたと私の間に三姉妹がいるの。その一人の子供の孫が野薔薇ちゃんよ」
 まだ、明綛は二十代後半…ひ孫だと言われても困惑するのだが…自分の血筋は流花に残せたということかと理解すると嬉しくなる。
「そうか……野薔薇と私の縁は繋がっていたんだな…」
 明綛は野薔薇を抱き上げて腕に抱っこする。
「これからは、そう呼んでくれ,野薔薇」
「はい!ひいおじいちゃま!」
「俺も抱っこしてほしい!」
 背の高い明綛の抱っこを羨ましく思った薫は無理矢理這い上り左腕の中に座る。
「薫!雰囲気を壊しちゃダメだぞ!」
 せっかくの本当の曾祖父との触れ合いなのにと思うと、自分もふわっと抱き上げられた。
「桂は僕が抱っこしていいかい?」
「威津那さんはやきもち焼きだから、ね。一番孫とお話ししたいし触れ合いたかったんだものね、私もだけど」
 この屋敷の主人でもある二人は桂に触れるらしい。
 暗い悲しい雰囲気は子供達がいたからこそすぐに明るくなった。
 子供達を呼んだのは、母と叔父の夫婦間の隔たりもみえていたが、子供達がいるだけで雰囲気が変わるということを橘は知っていたからだ。
 未来の縁を繋げて、いつまでも彷徨う明綛を救う事も目的で、未来の阿倍野殿として、必要なこととして宿命づけられていると威津那は未来を見た。
 そして…
「いつになったら日和は世界の悪意に晒されないですむのだろうか…」
 と、やれやれと威津那は言う。
「威津那さんにいわれてもねぇ……」
 橘は生前の若い頃を思い出して苦笑する。
「あははは、だよね。まぁ、なんとかなるよ。晴綛様の兄なんだから……」
 色々自分と重なる宿命を背負っているなと明綛の子供達に囲まれて楽しくこの空間を過ごそうとしているのを見て未来の希望を見出すのだった。
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