10 / 13
【古典】芝浜(後半)
しおりを挟む
『ーーちょいと、ちょいとおまえさん』
『あー……なんだ?』
『いつまで寝てるんだい? もう、お天道様はのぼっちまったよ? 今日こそは商いに行くって約束したじゃないか』
『あぁ? 四十両も拾ったのに、商いなんて行ってられるか』
「いい気持ちで寝ていたところを、女房が起こされ、不機嫌な三郎。しかし、それを聞いた女房は三郎を睨み、怒りだしました」
『どこにそんなお金があるんだい? ははぁ、おまえさん、仕事をしたくないもんだから夢でお金を拾う夢を見たんだね』
『な、なんだと?』
「女房が言うには、昨夜にずっと酒を呑んでいて、急に寝たと思ったら、なにやら喜ぶ寝言を叫んだと言うのです。言われてみれば、ここ数日はずっと呑んだくれていたので、自分でも自信が無くなってきました」
『それじゃ、なにかい? 俺が酒を呑んだのは現実で、金を拾ったのは夢だってのか?』
『そうだよ。疑うなら、家中探してごらんよ。四十両という大金なら、すぐ見つかるでしょうよ』
『…………』
「女房に言われて、三郎、戸棚の中など探してみますが、小判の一枚も出てきませんでした。しばらく探した三郎、さすがに自分が情けなくなり、『今日から酒はきっぱりやめて仕事に精を出す』と、女房に誓うのでした。そして三年後……」
『あー。今年はやっと借金のない年を迎えられるな』
『お仕事、ご苦労さまでした』
『そう、かしこまるなって。夫婦じゃねえか』
『……おまえさん、これを見てくださいな』
『なんだい、なんだい』
「三郎は、妙に緊張した面持ちの女房に笑って答えると、女房が出してきたのは夢の中で拾った財布でした」
『実は、おまえさんがこの財布を拾った時、酒を買って来いって言ったじゃない? あの時、おまえさんが酔っぱらって寝た後で、大家さんに相談しにいったのさ』
「当時、拾ったお金を使ったり、ネコババしようものなら、犯罪として逮捕されました。ましてや四十両などという大金を使い切ろうものなら、死罪もまぬがれませんでした」
『だから、これは奉行所に届け、あの時のお酒の代金は大家さんから借りたのさ』
『……拾ったのは夢にしろって大家さんから言われたのか?』
『そうだよ。このお金は落とし主不明ということでお奉行様から先日、届けて頂いたものです』
「そうとも知らず、おまえさんが好きな酒もやめて懸命に働くのを見るにつけ、辛くて申し訳なくて、陰で手を合わせていたと泣く女房」
左近が、女房を真似て、泣くしぐさがなんとも女性らしい。思わず梓はぞわっと鳥肌がたった。
『とんでもねえ。おめえが夢にしてくれなかったら、今ごろ、おれの首はなかったかもしれねえ。手を合わせるのはこっちの方だ。女房大明神様だ』
『よしとくれよ。ささ、もうおまえさんはもう立派に禁酒を果たしたんだ。もう大丈夫だから、呑んどくれ』
「三郎は女房がついでくれたお猪口を手に取るが、そっと返しました」
『どうしたんだい?』
『いや、やっぱり、呑むのは止めておこう』
「また夢になるといけねえ」
そう締めくくり、左近が頭をさげる。
すると、会場から拍手がおきた。
「ああ、そういう終わり方なのね」
梓が独り言をつぶやくと、周りからぎょっとされた。
「では、次は同じ題材で梓さんと風音さんに演ってもらう予定ですが、準備はどうですか?」
「はーい。では着替えてきます」
言うなり、梓が風音の手をとり、舞台裏へとかけだした。
『あー……なんだ?』
『いつまで寝てるんだい? もう、お天道様はのぼっちまったよ? 今日こそは商いに行くって約束したじゃないか』
『あぁ? 四十両も拾ったのに、商いなんて行ってられるか』
「いい気持ちで寝ていたところを、女房が起こされ、不機嫌な三郎。しかし、それを聞いた女房は三郎を睨み、怒りだしました」
『どこにそんなお金があるんだい? ははぁ、おまえさん、仕事をしたくないもんだから夢でお金を拾う夢を見たんだね』
『な、なんだと?』
「女房が言うには、昨夜にずっと酒を呑んでいて、急に寝たと思ったら、なにやら喜ぶ寝言を叫んだと言うのです。言われてみれば、ここ数日はずっと呑んだくれていたので、自分でも自信が無くなってきました」
『それじゃ、なにかい? 俺が酒を呑んだのは現実で、金を拾ったのは夢だってのか?』
『そうだよ。疑うなら、家中探してごらんよ。四十両という大金なら、すぐ見つかるでしょうよ』
『…………』
「女房に言われて、三郎、戸棚の中など探してみますが、小判の一枚も出てきませんでした。しばらく探した三郎、さすがに自分が情けなくなり、『今日から酒はきっぱりやめて仕事に精を出す』と、女房に誓うのでした。そして三年後……」
『あー。今年はやっと借金のない年を迎えられるな』
『お仕事、ご苦労さまでした』
『そう、かしこまるなって。夫婦じゃねえか』
『……おまえさん、これを見てくださいな』
『なんだい、なんだい』
「三郎は、妙に緊張した面持ちの女房に笑って答えると、女房が出してきたのは夢の中で拾った財布でした」
『実は、おまえさんがこの財布を拾った時、酒を買って来いって言ったじゃない? あの時、おまえさんが酔っぱらって寝た後で、大家さんに相談しにいったのさ』
「当時、拾ったお金を使ったり、ネコババしようものなら、犯罪として逮捕されました。ましてや四十両などという大金を使い切ろうものなら、死罪もまぬがれませんでした」
『だから、これは奉行所に届け、あの時のお酒の代金は大家さんから借りたのさ』
『……拾ったのは夢にしろって大家さんから言われたのか?』
『そうだよ。このお金は落とし主不明ということでお奉行様から先日、届けて頂いたものです』
「そうとも知らず、おまえさんが好きな酒もやめて懸命に働くのを見るにつけ、辛くて申し訳なくて、陰で手を合わせていたと泣く女房」
左近が、女房を真似て、泣くしぐさがなんとも女性らしい。思わず梓はぞわっと鳥肌がたった。
『とんでもねえ。おめえが夢にしてくれなかったら、今ごろ、おれの首はなかったかもしれねえ。手を合わせるのはこっちの方だ。女房大明神様だ』
『よしとくれよ。ささ、もうおまえさんはもう立派に禁酒を果たしたんだ。もう大丈夫だから、呑んどくれ』
「三郎は女房がついでくれたお猪口を手に取るが、そっと返しました」
『どうしたんだい?』
『いや、やっぱり、呑むのは止めておこう』
「また夢になるといけねえ」
そう締めくくり、左近が頭をさげる。
すると、会場から拍手がおきた。
「ああ、そういう終わり方なのね」
梓が独り言をつぶやくと、周りからぎょっとされた。
「では、次は同じ題材で梓さんと風音さんに演ってもらう予定ですが、準備はどうですか?」
「はーい。では着替えてきます」
言うなり、梓が風音の手をとり、舞台裏へとかけだした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
フリー台本[1人語り朗読]男性向け|女性向け混ざっています。一人称などで判断いただければと思います
柚木さくら
ライト文芸
※140字で書いたものですが、本文に挿絵として画像をつけてますので、140字になってません💦
画像を入れると記号が文字数になってしまうみたいです。
⬛︎ 報告は任意です
もし、報告してくれるのであれば、事前でも事後でもかまいませんので、フリー台本用ポストへリプ|引用|メンションなどしてれると嬉しいです
⬛︎ 投稿について
投稿する時は、私のX(旧twitter)のユーザー名かIDのどちらかと、フリー台本用Tag【#柚さく_シナリオ】を付けてください
❤︎︎︎︎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❤︎
【可能なこと】
⬛︎タイトルの変更
◾︎私の方で既にタイトルをつけている場合があります。もし他に付けたいタイトルがあれば変更していただいてかまいません (不可なものには不可の記載します)
⬛︎ 一人称|二人称|口調|性別|語尾|読み方の変更
◾︎読み方の変更とは、一部を方言にしたり、英語にしたりとかです。
【ダメなこと】
⬛︎大幅なストーリーの変更
⬛︎自作発言(著作権は放棄していません)
⬛︎無断転載
⬛︎許可なく文章を付け加える|削る
※どうしても加筆や減筆をしないとしっくり来ないなどの場合は、事前に質問してください
✧• ───── ✾ ───── •✧
【BGMやSEについて】
⬛︎私が書いたものに合うのがあれば、BGMやSEなどは自由につけてもらって大丈夫です。
◾︎その際、使用されるものは許可が出ている音源。フリー音源のみ可
【投稿(使用)可能な場所】
⬛︎ X(旧twitter)|YouTube|ツイキャス|nana
◾︎上記以外の場所での投稿不可
◾︎YouTubeやツイキャス、nanaで使用される(された)場合、可能であれば、日時などを教えて貰えると嬉しいです
生配信はなかなか聞きにいけないので💦
【その他】
⬛︎使用していただくにあたり、X(旧twitter)やpixivをフォローするは必要ありません
◾︎もちろん繋がれたら嬉しいのでフォローは嬉しいです
⬛︎ 予告無しに規約の追加などあるかもしれません。ご了承ください
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる