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教室に戻ると桐野が近づいてきた。
「たすく、午後の移動教室、場所かわったって」
「あ、ありがとう」
俺は机から教科書を出すと俺を待っている桐野にお礼を言った。
「どこに行ってたの?昼休み」
校内放送当番終わって三島のクラスに迎えに行ったらいないし。
そういって心配そうに眉を顰める。
そんな表情すら人好きする顔だ。
俺はまっすぐに見れず視線を外すと言った。
「きさらぎと外で食べてた」
「そう?ならいいけど」
この顔は後できさらぎに確認しようとしている顔だ。
そうして、この後にこう続くんだ。
「他のオメガの子たちならいいけど、絶対にアルファと二人にはならないでね」
「・・・番ヅラ?」
上目づかいでちらりと見ると、桐野は『当たり前』という顔で俺を見た
「そう、大切な『運命』だからね」
きゅっと腰を引かれる。
感じる体温は温かくこの場所は居心地がいい。
きっと桐野は俺が出しているフェロモンを感じている事だろう。
事あるごとに俺のフェロモンがどれだけ桐野を癒すかと熱く諭されるから。
でもさあ。
『運命』
じゃあ、俺が『運命』じゃなかったら
このフェロモンがなかったら。
その向けられる笑顔はボランティア用でしかないのか?
言おうとしてやめる。
・・・一回寝たくらいで番ヅラしてるのは俺だ。
俺は桐野のフェロモンが感じられなくても、桐野が好きだった。
平々凡々な俺が桐野の隣にいていいのかと悩むくらい桐野はキラキラして格好良くて優しくて・・・
まったく俺は不釣り合いのオメガだった。
実は図書館で待つ時間は嫌いじゃない。
図書館の中の資料室のさらに奥の物置になっている小部屋の窓から弓道場が見える。
桐野が弓を引く姿を見ることができるんだ。
勉強に飽きると俺はそこに行ってパックのリンゴジュースなんて飲みながら休憩をする。
残念ながらその弦をはじく音や的に矢が当たる音は聞こえないけれど、その的に向かうまっすぐな弓の軌跡にほれぼれとしてしまう。
この学校は部活か委員会に必ず所属する決まりとなっていて俺は迷わず図書委員を選んだ。
今までの経験上大してやることはないし、先生の信頼さえ得れば割と自由に部屋を使わせてもらうことができる。
桐野を待ちながら勉強をするために毎日顔を出していたら先生の覚え良く一か月後には鍵を預けてもらえるようになった。
桐野は一緒に弓道をやりたかったようだが、運動部なんて御免だと思っている俺が頷くわけがない。
せめてマネージャーでも・・・と言われたがそういうの、運動以上にまず向いてないと丁寧にお断りをした。
ぼんやり見ていると、的の前に桐野達が並んだ。
ちらりとこちらを見てへにゃりと笑うから、俺が見ているのに気付いたようだ。
いいのか?
そんな気の抜けたことで。
一応『武道』だろ?
でも次の瞬間にはきりっとした表情で的に向かう。
綺麗な形を作り際限まで引かれた弓が大きくしなり、矢がまっすぐに的にむかった。
的のど真ん中を貫いた矢。
また俺を見て「どうだ?」って顔をするけど、俺はどんな顔をしていいかわからず、休憩を終了するべく窓辺から離れた。
19時を少し回るころ。
そろそろ来るかなと戸締りを始める。
あとは入口のドアの鍵だけ・・・と思っていたらいいタイミングで桐野が顔を出した。
「お待たせ」
輝く笑顔。
こぼれる白い歯。
「・・・別に待ってないし」
「だよね」
俺のひねくれた回答も日常茶飯事だから桐野はまったく動じない。
すっと、手を取られて指を絡められる。
所謂『恋人つなぎ』というやつだ。
人前でこんなことをされると逃げ出すことを知っているから桐野は人目がないタイミングをうまく狙う。
俺も誰も見ていなければまあいいかと思う。
入学前にあちこちでいちゃついているカップルを見てドキドキしていたのにずいぶん大人になったもんだ。
部活上がりにさっとシャワーを浴びるらしく、桐野からは汗の匂いなんてしない。
繋がれた手が少し湿っているような気がする。
寮に着くまでの10分間。
特に会話はないんだけど、絡む指先からお互いの囁きが聞こえそうで恥ずかしくなる。
どきんどきんと脈打つ鼓動の音は伝わってしまうのだろうか。
もうすぐで俺の部屋に着く・・・って時に、桐野が言った。
ちょっとだけ、言おうか言うまいか悩んだらしく、最初目が泳いでいたが、決心した時にはその瞳は優しさをたたえていた。
「三島に聞いたよ。初めての発情期、覚えてないのが嫌なの?」
「は?」
「どんな自分だったか覚えてないから恥ずかしくてって言ってたよって三島が」
「・・・きさらぎ・・・」
俺は心の中で舌打ちした。
確かに俺が落ち込んでいる本当の理由を言わないでいてくれたのはありがたいけど、そんなねつ造はいらん。
「元気ないから。僕と発情期を過ごしたのが本当に嫌だったのかと思って。さっき三島に昼休み一緒にいたかどうかを確認するついでになんか原因思い当たらない?って聞いたらそう言ってた」
「そういうわけじゃない。まあ、覚えてないから何をしたかわからなくて不安もあるけど」
そういってうつむくと桐野は俺の手を外し、ぎゅっと抱きしめる。
気づけば俺の部屋の前だった。
「たすく、セックスしよう」
「は・・・い?」
頭の上から降る声に俺は間抜けな声で返事をする。
「どろどろに溶かして甘えさせたい」
声だけで妊娠させられそうないい声が耳元で響く。
何を言ってるんだ、こいつは。
「怖いのは、覚えてないからで、これからもしばらくは発情期中の行為は覚えていない可能性の方が高い。僕はたすくを怖がらせたくないんだ」
ぽんぽんと背中に回された手が俺を安心させるみたいに動く。
「桐野は、俺が『運命』だから好きなのか?」
桐野の腕の中で小さな声で訊くと、
「もちろん」
となんの迷いもない返事が返ってきた。
「たすく、午後の移動教室、場所かわったって」
「あ、ありがとう」
俺は机から教科書を出すと俺を待っている桐野にお礼を言った。
「どこに行ってたの?昼休み」
校内放送当番終わって三島のクラスに迎えに行ったらいないし。
そういって心配そうに眉を顰める。
そんな表情すら人好きする顔だ。
俺はまっすぐに見れず視線を外すと言った。
「きさらぎと外で食べてた」
「そう?ならいいけど」
この顔は後できさらぎに確認しようとしている顔だ。
そうして、この後にこう続くんだ。
「他のオメガの子たちならいいけど、絶対にアルファと二人にはならないでね」
「・・・番ヅラ?」
上目づかいでちらりと見ると、桐野は『当たり前』という顔で俺を見た
「そう、大切な『運命』だからね」
きゅっと腰を引かれる。
感じる体温は温かくこの場所は居心地がいい。
きっと桐野は俺が出しているフェロモンを感じている事だろう。
事あるごとに俺のフェロモンがどれだけ桐野を癒すかと熱く諭されるから。
でもさあ。
『運命』
じゃあ、俺が『運命』じゃなかったら
このフェロモンがなかったら。
その向けられる笑顔はボランティア用でしかないのか?
言おうとしてやめる。
・・・一回寝たくらいで番ヅラしてるのは俺だ。
俺は桐野のフェロモンが感じられなくても、桐野が好きだった。
平々凡々な俺が桐野の隣にいていいのかと悩むくらい桐野はキラキラして格好良くて優しくて・・・
まったく俺は不釣り合いのオメガだった。
実は図書館で待つ時間は嫌いじゃない。
図書館の中の資料室のさらに奥の物置になっている小部屋の窓から弓道場が見える。
桐野が弓を引く姿を見ることができるんだ。
勉強に飽きると俺はそこに行ってパックのリンゴジュースなんて飲みながら休憩をする。
残念ながらその弦をはじく音や的に矢が当たる音は聞こえないけれど、その的に向かうまっすぐな弓の軌跡にほれぼれとしてしまう。
この学校は部活か委員会に必ず所属する決まりとなっていて俺は迷わず図書委員を選んだ。
今までの経験上大してやることはないし、先生の信頼さえ得れば割と自由に部屋を使わせてもらうことができる。
桐野を待ちながら勉強をするために毎日顔を出していたら先生の覚え良く一か月後には鍵を預けてもらえるようになった。
桐野は一緒に弓道をやりたかったようだが、運動部なんて御免だと思っている俺が頷くわけがない。
せめてマネージャーでも・・・と言われたがそういうの、運動以上にまず向いてないと丁寧にお断りをした。
ぼんやり見ていると、的の前に桐野達が並んだ。
ちらりとこちらを見てへにゃりと笑うから、俺が見ているのに気付いたようだ。
いいのか?
そんな気の抜けたことで。
一応『武道』だろ?
でも次の瞬間にはきりっとした表情で的に向かう。
綺麗な形を作り際限まで引かれた弓が大きくしなり、矢がまっすぐに的にむかった。
的のど真ん中を貫いた矢。
また俺を見て「どうだ?」って顔をするけど、俺はどんな顔をしていいかわからず、休憩を終了するべく窓辺から離れた。
19時を少し回るころ。
そろそろ来るかなと戸締りを始める。
あとは入口のドアの鍵だけ・・・と思っていたらいいタイミングで桐野が顔を出した。
「お待たせ」
輝く笑顔。
こぼれる白い歯。
「・・・別に待ってないし」
「だよね」
俺のひねくれた回答も日常茶飯事だから桐野はまったく動じない。
すっと、手を取られて指を絡められる。
所謂『恋人つなぎ』というやつだ。
人前でこんなことをされると逃げ出すことを知っているから桐野は人目がないタイミングをうまく狙う。
俺も誰も見ていなければまあいいかと思う。
入学前にあちこちでいちゃついているカップルを見てドキドキしていたのにずいぶん大人になったもんだ。
部活上がりにさっとシャワーを浴びるらしく、桐野からは汗の匂いなんてしない。
繋がれた手が少し湿っているような気がする。
寮に着くまでの10分間。
特に会話はないんだけど、絡む指先からお互いの囁きが聞こえそうで恥ずかしくなる。
どきんどきんと脈打つ鼓動の音は伝わってしまうのだろうか。
もうすぐで俺の部屋に着く・・・って時に、桐野が言った。
ちょっとだけ、言おうか言うまいか悩んだらしく、最初目が泳いでいたが、決心した時にはその瞳は優しさをたたえていた。
「三島に聞いたよ。初めての発情期、覚えてないのが嫌なの?」
「は?」
「どんな自分だったか覚えてないから恥ずかしくてって言ってたよって三島が」
「・・・きさらぎ・・・」
俺は心の中で舌打ちした。
確かに俺が落ち込んでいる本当の理由を言わないでいてくれたのはありがたいけど、そんなねつ造はいらん。
「元気ないから。僕と発情期を過ごしたのが本当に嫌だったのかと思って。さっき三島に昼休み一緒にいたかどうかを確認するついでになんか原因思い当たらない?って聞いたらそう言ってた」
「そういうわけじゃない。まあ、覚えてないから何をしたかわからなくて不安もあるけど」
そういってうつむくと桐野は俺の手を外し、ぎゅっと抱きしめる。
気づけば俺の部屋の前だった。
「たすく、セックスしよう」
「は・・・い?」
頭の上から降る声に俺は間抜けな声で返事をする。
「どろどろに溶かして甘えさせたい」
声だけで妊娠させられそうないい声が耳元で響く。
何を言ってるんだ、こいつは。
「怖いのは、覚えてないからで、これからもしばらくは発情期中の行為は覚えていない可能性の方が高い。僕はたすくを怖がらせたくないんだ」
ぽんぽんと背中に回された手が俺を安心させるみたいに動く。
「桐野は、俺が『運命』だから好きなのか?」
桐野の腕の中で小さな声で訊くと、
「もちろん」
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