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結城の土塁
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「お前は二重人格か」と結城は小学校2年の高梁を怒鳴った。
「先生の前では大人しく、いない時はそんな悪いことをするのか」
高梁は小さな声で「違います」と言った。
「違わねーよ」と結城は圧倒的な優位を背負って学級生の前で、また怒鳴る。
「違います」
「違わねーよ」
「だったら、そーです」
「何?」
「僕はそう、思いませんが、先生がそう、言うのならそうなんでしょう」
戦争談義でいつも授業を中断させる軍人まがいの体格のいい結城は、まだあどけない小さな体の高梁を胸をどついて倒れさせる。
小学校低学年の授業風景とは思えない。
生徒も当然、自分に災難が降り架かることを恐れて下を向いている。結城と目を会わせることは危険なことであるのを本能のように分かっている。
結城は教師だが自己本位の、しかも戦争犠牲者とも言うことが出来る可哀想な人ではあった。むしろ、二重人格なのはこの結城本人なのだ。
軍隊当時に上官からやられたことを、小学生相手に同じ事をやることで、精神を保とうとしていた。
結城の軍隊で培った集団で生き延びる術は、戦後の日本でも十分に役立った。
親玉を関東軍から日教組に変えて、小隊長を校長とPTA会長に変えて、力のある上のものだけに、気配りしていれば、こんな訳の分からない子供やこいつらの親など、何の影響力もない、そうした考えがありありの対応だ。
「先生が間違ってると思います。」
そう、切り出したのは、結城がへつらい、植木等を上納しては機嫌を取っているPTAの役員の娘、節子だった。
会社経営の町の有力者の娘、節子には、結城も丁寧に特別に扱ってきた。
遠足で子供は持ってはこれないものを、こっそり節子とその友達に分け与えたり、綺麗な蝶々を一緒に取って上げたりしていた。
その節子が皆の前で自分を批判する、結城は怒りを感じたが、節子を叱る訳にはいかない。節子から親に告げ口されたら厄介なことになる。
怒鳴り、立たせていた高梁を席に戻し、これまでの蛮行の終始の後始末もするまでもなく、教科書を読み上げた。
こいつが教師?
小学生2年にそう思わせるこの教師は俗世間な住む邪鬼というの存在と、そういう奴との付き合いを学ぶ、なるほど、生きた教材ではあった。
結城は、後に、どこかの校長となったと聞いた。
結城を慕う生徒もいるとの話も聞こえてきた。
所詮、仲間意識だけだ。
生きた教材は、仲間意識、俗世間、猿の群れの掟だ。教科書でも学問でもないのだろう。
早熟な、結城から早熟にされた高梁は、そう、思った。
「先生の前では大人しく、いない時はそんな悪いことをするのか」
高梁は小さな声で「違います」と言った。
「違わねーよ」と結城は圧倒的な優位を背負って学級生の前で、また怒鳴る。
「違います」
「違わねーよ」
「だったら、そーです」
「何?」
「僕はそう、思いませんが、先生がそう、言うのならそうなんでしょう」
戦争談義でいつも授業を中断させる軍人まがいの体格のいい結城は、まだあどけない小さな体の高梁を胸をどついて倒れさせる。
小学校低学年の授業風景とは思えない。
生徒も当然、自分に災難が降り架かることを恐れて下を向いている。結城と目を会わせることは危険なことであるのを本能のように分かっている。
結城は教師だが自己本位の、しかも戦争犠牲者とも言うことが出来る可哀想な人ではあった。むしろ、二重人格なのはこの結城本人なのだ。
軍隊当時に上官からやられたことを、小学生相手に同じ事をやることで、精神を保とうとしていた。
結城の軍隊で培った集団で生き延びる術は、戦後の日本でも十分に役立った。
親玉を関東軍から日教組に変えて、小隊長を校長とPTA会長に変えて、力のある上のものだけに、気配りしていれば、こんな訳の分からない子供やこいつらの親など、何の影響力もない、そうした考えがありありの対応だ。
「先生が間違ってると思います。」
そう、切り出したのは、結城がへつらい、植木等を上納しては機嫌を取っているPTAの役員の娘、節子だった。
会社経営の町の有力者の娘、節子には、結城も丁寧に特別に扱ってきた。
遠足で子供は持ってはこれないものを、こっそり節子とその友達に分け与えたり、綺麗な蝶々を一緒に取って上げたりしていた。
その節子が皆の前で自分を批判する、結城は怒りを感じたが、節子を叱る訳にはいかない。節子から親に告げ口されたら厄介なことになる。
怒鳴り、立たせていた高梁を席に戻し、これまでの蛮行の終始の後始末もするまでもなく、教科書を読み上げた。
こいつが教師?
小学生2年にそう思わせるこの教師は俗世間な住む邪鬼というの存在と、そういう奴との付き合いを学ぶ、なるほど、生きた教材ではあった。
結城は、後に、どこかの校長となったと聞いた。
結城を慕う生徒もいるとの話も聞こえてきた。
所詮、仲間意識だけだ。
生きた教材は、仲間意識、俗世間、猿の群れの掟だ。教科書でも学問でもないのだろう。
早熟な、結城から早熟にされた高梁は、そう、思った。
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