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自己顕示のためのボランティア強要

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 大きな揺れは何分続いたんだろう。
 ライフライン部局の二階建て庁舎も左右に揺れ、オフィスの机も大きくずれ始めた。書棚からは書類が崩れ落ちる。

 エントランス近くにいた僕は、耐震強度が不明なこの建物が壊れるかも知れないとして外に出るように促そうとしたが、マニュアルでは揺れが収まるまでは安全を確保とされていることを思いだし、自分だけ数歩の距離を歩き外にでた。

 エントランスの前の池は大きく水面が揺れ、その揺れにより、徐々に左右に溢れ出した。最終的に池の水は半分以上になくなっていた。

 「大きな揺れだったね、東海地震だろうか、東京は大丈夫だろうか。」と周囲では話をしだした。

 地震により停電となったが、自家発電により見ることができたテレビの情報では、東北が震源地だと言うことまでは分かった。

 ほとんどの職員は庁舎に夜通し残り、情報を取ろうとしたが、電話もなかなか繋がらなかった。

 夜にテレビ映像から空港の飛行機が津波で流される映像が衝撃的に流れた。

 その後の原発の状況は周知の通りの大惨事となった。地震よりも、津波か、そして、津波を原因とする原発による被害は未曾有のものとなった。

 穂高市のライフラインは、一部の橋梁を除き、ほとんど災害というほどの被害はなかったが、姉妹都市はじめ、関東、東北への救援体制が必要となるだろう。

 小早川は体調を壊しての長期入院のため、代わりに副の指示に従うこととなった。何の問題もなかった。

 むしろライフライントップがいない方が迅速な指揮命令が行えた。小早川は居なくてもいいことがいみじくも露呈した。いや、居ない方がすべてが上手くいくことに皆は気づいた。

 つまり、何のことはない、猿左衛門のみを配下に置くボーダーの小早川自身が猿左衛門、そのものなのだ。

 数ヶ月、数年経ても、被災地の市町村からは職員の派遣要請が呼びかけられた。

 「いつまでも、派遣というの宙ぶらりんの状態で仕事をやるのは、派遣の職員がもたないよ。」

 「自分がいいかっこしたいだけで実態も考えないで、派遣要請を引き受けて。それも、意見交換という宴席でのことでだよ。いいご身分だ。」

 「被災地は実際大変だよ、仕事が。しかし、通常の業務は被災地の職員が残業もしないで普通にやってるのに、何で派遣された各県からの職員でやっている大変な復興の仕事だけは、死に物狂いでやらなければならないんだよ。逆だろうが。楽な仕事は残して、大変な仕事は委託を出すという公務員のやることが、この一大事でも平気でやられているんだよな。あいつら、自分の町のことだろうが、早く帰らずに手伝えよって言いたいな。」

 一方で、民間は復興投資予算の工事でバブル景気並み繁盛だ。被災地の夜の繁華街は作業服からネクタイをしめた背広な着替えた労働者で溢れかえった。

 綺麗ごとの、がんばれ日本の背景のは、誰もが知ってる、誰もがおかしいとおもってる、そして、誰もが糺そうとはもしない、こんな裏の実体があった。

 長年、ボランティアといった概念は日本には希薄だった。精々、一日一善程度の軽い絆で十分だった。終身雇用を中心とした満足な雇用条件の整った日本でのチップの習慣が存在しなかったように。
 
 いくら綺麗事のを言っても、ボランティアとは生活に困らない基盤のある人間が、自分と同じか、自分より生活等に困っているか、自分より裕福でも一時的に緊急避難を必要性とする者に対して行なう相互扶助か、その延長のようなものだ。

 緊急避難以外に、己の生活がままならぬ者が他の者を助けにいくこと自体できないからだ。緊急避難ですら、己の命を投げ打っても助けるべき相手は誰なのかにより、人は躊躇し、判断する。

 公務員のボランティアは、ボランティア休暇という有給休暇により支えられている。

 ボランティアがもてはやされた時に、割り当てられた任務に、こんなことのために我々はボランティアにきたのではないと怒った人がおろ、大分、マスコミからバッシングされたが、どっちもどっちのことだ。

 小早川も、ボランティアの美名欲しさに、穂高のライフライン部局の職員をほぼ強制的に募り、被災地へのボランティア活動を被災地の日程も場所も考えずに無理やり行った。

 被災地は感謝の気持ちを伝えた。
 しかし、実態は、そのボランティアのために無理やりやらなくてもいい仕事を作り、無駄な弁当の手配や作業用具を準備しなくてはならなかった。

 小早川は職員のボランティア活動を広報しては実績だと誇った。穂高の市民にも同じようなボランティアを必要としている困っている市民はごまんといる。
 
 

 

 
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