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セクト主義と利己利益主義

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 病院に喫茶店を創るのは誰が考えてもインフラではない。しかし、どちらも企業局組織として統括されているため話ががインフラ部局に来たのだ。

 病院に患者のためのお洒落な喫茶店を入れるのは、厚労省からもなんの通知もないながらも、当時の政府筋であり、国の医療のトップ的な立場にいる医療官僚からの指示であった。

 もっとも、以前から病院でも必要なものだとの認識がありながらも、設営を10年以上も放置してきたのだから、病院にとってもチャンスであった。

 また、当時は大手チェーン店が県内に発進出するチャンスを狙ってもいた。

 ある大手はもっと大きな処に打診したようであったが、労働組合が経営する売店と地元企業で経営する食堂の反対で、あっさりと断っていた。

 僕は早速、その大手との交渉を試みたがこれまたあっさりと断られた。

 県内発出店とするにはそれなりの立地にしたいというのが理由であった。さすが、デコレーションだらけのコーヒーを、イメージだけで高額で売り抜く大手チェーン店の戦略だ。

 次に規模の大きな大手のコーヒーチェーン店は、病院という場所にすぐに興味を示した。

 黙っていても、外来患者は一日1000人、入院患者は常に800人、病院内で働く職員の数は2000人を越える。儲からない訳がない。

 合わせて、儲からないからと、入院患者への病院食の委託と抱き合わせにされていた外来患者などのためのお荷物食堂もお願いできないかと打診してみた。
 
 これだって、儲からないはずがないのだか、病院食などという簡単な経営で味を占めている地元業者にはノウハウもやる気もないのだ。
 まずいご飯、ぬるいお茶、汚い食器、だるい注文とり、これで流行るはずがない。
 病院内職員に加えて、外来患者1000人の潜在的な需要は喫茶店のコーヒーを遥かに越えるはずなのだ。

 当然、大手チェーン店はこちらも受託する意向を示した。しかし、最低利益の補償を求めてきた。民間経営の利益を補償する事などできないから至難の技だ。
 
 労働組合費として職員の慰安旅行をしていた積み立金は、時代の流れで、ただ凍結されているものがあった。

 食堂の改善に共感する労働組合は、容易にこの金を使うことに同意してくれた。

 形式的に、喫茶店、食堂を別々に委託業務の告示をし、予想通り地元業者は入札希望もなく、大手との契約が決まった。

 これまでの食堂で働いていたおばさま二名も引き続き大手の食堂に採用されるようにお願いした。

 やる気のない地元業者の食堂ではいい働き具合ではなかった二人は、新しい環境のより、見違えるようにきびきびとした明るい対応を見せ始めた。食堂も想像以上の繁盛となった。

 反対していた古参幹部は、喫茶店と食堂の役所業務には不釣り合いな商売アシストの成功を見ると、なぜ、新装開店のセレモニーをしなかったのかといい出す始末だ。

 商売は結果だ。予算の配分とその消化と政治的な風見鶏だけで成り上がった役人は、責任は回避する。成功した結果には乗ってくる。

 僕達は、仕事を上のためにやる気はなかった。上に上がるために仕事をする気もなかった。

 僕達は市民の利便を上司としていた。そのための負の行為などは、乗り越えなくては行けない、そう考えていた。
  
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