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第二章
33話
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ルーク様の静かな呼吸の音だけが聞こえる部屋はひどく虚しく感じた。元からこの方とお話しする時は沈黙の時間もあったはずなのに。5年前は息苦しく感じていたそれを、苦ではないと思いはじめたのはいつからだっただろう。ぽつりと途切れてしまう会話の中のぎこちないその雰囲気に、居心地の良さを感じていたのはいつからだっただろう。今はそれとは全く違う。胸の奥に広がるのは不安ばかりだ。
私はきっと、色んなことについてちゃんと考えるのを怠けていた。この世界のこと、自分自身のこと、周りの人のこと、そして何よりもルーク様のこと。ちゃんと、今までの分もちゃんと向き合って話したい。自分の中にある気持ちを確認したい。ルーク様のことを知りたい。これが自分のエゴでしかないことは分かっている。それでも、もう一度……。
「お願い……」
握る手の力をさらに強めた。目を閉じてただ祈る。すると、握っていた手が少しだけ動いたのがわかった。
「っ!…ルーク様?」
ハッとして目を開けるとその瞳がぎゅっと強く閉じられて少し眉間に皺が寄ったのが見えた。
「…………フィ、リア?」
「っはい!フィリアです!」
やっと開かれた瞳と部屋に静かに響いたその声に、思わず声が上ずる。ルーク様は数度瞬きをして、それからまたゆっくりと目を開けた。視線が合う。それだけで涙が出そうになってしまった。
「……そんなに握っていては血が通わなくなってしまう」
ルーク様はふと視線を手元に移して、溢すように少し微笑みながらそう言った。その言葉で何だか力が抜けてしまってとうとう涙が溢れてしまう。
「あ、も、申し訳ございません……」
すぐに手を離そうとするとその手がなぜかルーク様の手の中に収められる。驚いて思わず手元にあった視線をルーク様の方に移した。するとルーク様は視線を逸らして小さく「離す必要はない」と呟いた。それが何だか嬉しくなってしまって困る。それからルーク様はこちらに視線を戻すと口元に優しい弧を描いた。すると、
「……っルーク様!模様が……」
それまで顔にあったあの黒い模様がすっと消えていった。ルーク様は何のことかわからなかったようで首を傾げた。確かにそれがついていた本人には見えないのだから当たり前だ。そこで私が事情を説明すると、ルーク様は少しだけ遠い目をした。
「奴と、話をした。俺はここに帰ってくることを望んだ。だから奴が消えた。きっと、それだけの話だろう」
詳しいことは教えてくださらなかった。ただ、私の手を握っていない方の手で優しく私の頭を撫でてくださった。その温かさが無性に懐かしく感じて心がむず痒かった。ゆっくりと目を閉じれば、静かなこの部屋に、鳥の囀りや木の葉の音が聞こえるような気すらした。
「全部フィリアのおかげだ。ありがとう」
「いいえ、感謝しなければいけないのは私の方です。ルーク様の体調が万全に戻ってから、ゆっくりお話ししましょう」
「ああ、そうだな」
やっと、私たちは前に進めるのかもしれない。ちゃんと私たち自身の物語を作っていけるのかもしれない。
それから他の人を呼んだりして少ししてから、私は自室に戻った。一つ息をつく。まだこれからだ。向き合わないといけないことが、まだ残っている。
私はきっと、色んなことについてちゃんと考えるのを怠けていた。この世界のこと、自分自身のこと、周りの人のこと、そして何よりもルーク様のこと。ちゃんと、今までの分もちゃんと向き合って話したい。自分の中にある気持ちを確認したい。ルーク様のことを知りたい。これが自分のエゴでしかないことは分かっている。それでも、もう一度……。
「お願い……」
握る手の力をさらに強めた。目を閉じてただ祈る。すると、握っていた手が少しだけ動いたのがわかった。
「っ!…ルーク様?」
ハッとして目を開けるとその瞳がぎゅっと強く閉じられて少し眉間に皺が寄ったのが見えた。
「…………フィ、リア?」
「っはい!フィリアです!」
やっと開かれた瞳と部屋に静かに響いたその声に、思わず声が上ずる。ルーク様は数度瞬きをして、それからまたゆっくりと目を開けた。視線が合う。それだけで涙が出そうになってしまった。
「……そんなに握っていては血が通わなくなってしまう」
ルーク様はふと視線を手元に移して、溢すように少し微笑みながらそう言った。その言葉で何だか力が抜けてしまってとうとう涙が溢れてしまう。
「あ、も、申し訳ございません……」
すぐに手を離そうとするとその手がなぜかルーク様の手の中に収められる。驚いて思わず手元にあった視線をルーク様の方に移した。するとルーク様は視線を逸らして小さく「離す必要はない」と呟いた。それが何だか嬉しくなってしまって困る。それからルーク様はこちらに視線を戻すと口元に優しい弧を描いた。すると、
「……っルーク様!模様が……」
それまで顔にあったあの黒い模様がすっと消えていった。ルーク様は何のことかわからなかったようで首を傾げた。確かにそれがついていた本人には見えないのだから当たり前だ。そこで私が事情を説明すると、ルーク様は少しだけ遠い目をした。
「奴と、話をした。俺はここに帰ってくることを望んだ。だから奴が消えた。きっと、それだけの話だろう」
詳しいことは教えてくださらなかった。ただ、私の手を握っていない方の手で優しく私の頭を撫でてくださった。その温かさが無性に懐かしく感じて心がむず痒かった。ゆっくりと目を閉じれば、静かなこの部屋に、鳥の囀りや木の葉の音が聞こえるような気すらした。
「全部フィリアのおかげだ。ありがとう」
「いいえ、感謝しなければいけないのは私の方です。ルーク様の体調が万全に戻ってから、ゆっくりお話ししましょう」
「ああ、そうだな」
やっと、私たちは前に進めるのかもしれない。ちゃんと私たち自身の物語を作っていけるのかもしれない。
それから他の人を呼んだりして少ししてから、私は自室に戻った。一つ息をつく。まだこれからだ。向き合わないといけないことが、まだ残っている。
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