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第二章
30話
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真っ暗で、でも先程までとは全く違う。先程までは確かに建物であったし、踏み締める床があった。でもここは、まるで何もない。暗くて、足がつく場所もなくて、でも沈んでいくわけでもない。ただ、暗い世界だった。
《余計なのが入ってきたな》
辺り全体に響くように声が聞こえて顔を上げる。それは聞いたことのない声だけれど、口調からして「澱み」だということは分かった。
「ここはどこなの?」
《ルークベルトの精神世界だ。ふっ。随分平然としているが、ここから出られなければお前は死ぬぞ。いつまで正気でいられるか、見ものだな》
それだけ言うとその声は止んでしまい、気配まで消えてしまった。……ルーク様の精神世界、ということは、ここにいる私の体も私の精神みたいなものだということかしら?だからこそ、戻れないと死んでしまう。でも、戻るには……?考えよう。私は「澱み」に飲み込まれてここに来たのだ。だとしたら「澱み」をここから出せば出られる。そして「澱み」を人の体から切り離すにはその人の心の闇をなくせばいい。つまり、まずはルーク様の心を、その闇を、ちゃんと知る必要があるわね。
「……あれは…?」
ふと見てみると遠くに何だか淡い光が見える。光ということはおそらく澱みからの干渉を確実に避けられる部分のはず。今もあまり気配は感じないけれど彼はきっとまだどこかにいるだろう。そう考えると、あの光の元が一番動きやすいかもしれない。
私はその光に向かって足を一歩踏み出した。床のような感覚はないし歩けないのかとも少し考えたのだけれど、不安定なだけで歩けないということはないらしい。私は光に向けて歩くことにした。
「ルーク様!またここにいらしたのですね」
光に近づいていくと、幼い少女の声が聞こえた。耳を澄ませば鳥の鳴き声や木の葉の揺れる音がする。……これはルーク様の記憶ではないだろうか?それならきっとルーク様の心を知るのに重要な手がかりになる。私はさらにその光に近づいた。先程までとはまるで違って真っ白な光が辺りを包む。その眩しさに目を細めた。そしてあるところまで歩いていくと、何だか境界のようで、膜のようにも見える不思議なものが現れた。そこに腕を持っていくと、どうやら通り抜けることができるらしい。私は一度大きく息を吸うと走ってそこを一気に通り抜けた。
「ルーク様!ほら!ここにお花が咲いていますよ!」
先程と同じ声がする。私はその声の主を探して視線を動かした。そしてあまり時間はかからずに小さな一人の少女が視界に映った。
庭園のような場所で、穏やかな陽だまりの中、何も知らない無垢な子どもらしい表情で笑っている。そして、私はその少女を知っていた。だってそれは……
「……わ、たし…?」
そこにいるのは幼い頃の私だった。そしてそのすぐ側に同じく幼いルーク様がいる。二人とも笑って、幸せそうに一輪の花を見つめている。
「……どういうこと?」
私がルーク様と初めてお会いしたのは婚約が成立した8歳の時だ。これはそれよりも幼い姿に見える。おかしい、そんなはずないのに。私がこれくらいの時は……あれ?分からない。思い出せない。一生懸命振り返ろうと思っても頭の中に見当たるものが一切なかった。……これは、今見えている光景は、一体何なの?
《余計なのが入ってきたな》
辺り全体に響くように声が聞こえて顔を上げる。それは聞いたことのない声だけれど、口調からして「澱み」だということは分かった。
「ここはどこなの?」
《ルークベルトの精神世界だ。ふっ。随分平然としているが、ここから出られなければお前は死ぬぞ。いつまで正気でいられるか、見ものだな》
それだけ言うとその声は止んでしまい、気配まで消えてしまった。……ルーク様の精神世界、ということは、ここにいる私の体も私の精神みたいなものだということかしら?だからこそ、戻れないと死んでしまう。でも、戻るには……?考えよう。私は「澱み」に飲み込まれてここに来たのだ。だとしたら「澱み」をここから出せば出られる。そして「澱み」を人の体から切り離すにはその人の心の闇をなくせばいい。つまり、まずはルーク様の心を、その闇を、ちゃんと知る必要があるわね。
「……あれは…?」
ふと見てみると遠くに何だか淡い光が見える。光ということはおそらく澱みからの干渉を確実に避けられる部分のはず。今もあまり気配は感じないけれど彼はきっとまだどこかにいるだろう。そう考えると、あの光の元が一番動きやすいかもしれない。
私はその光に向かって足を一歩踏み出した。床のような感覚はないし歩けないのかとも少し考えたのだけれど、不安定なだけで歩けないということはないらしい。私は光に向けて歩くことにした。
「ルーク様!またここにいらしたのですね」
光に近づいていくと、幼い少女の声が聞こえた。耳を澄ませば鳥の鳴き声や木の葉の揺れる音がする。……これはルーク様の記憶ではないだろうか?それならきっとルーク様の心を知るのに重要な手がかりになる。私はさらにその光に近づいた。先程までとはまるで違って真っ白な光が辺りを包む。その眩しさに目を細めた。そしてあるところまで歩いていくと、何だか境界のようで、膜のようにも見える不思議なものが現れた。そこに腕を持っていくと、どうやら通り抜けることができるらしい。私は一度大きく息を吸うと走ってそこを一気に通り抜けた。
「ルーク様!ほら!ここにお花が咲いていますよ!」
先程と同じ声がする。私はその声の主を探して視線を動かした。そしてあまり時間はかからずに小さな一人の少女が視界に映った。
庭園のような場所で、穏やかな陽だまりの中、何も知らない無垢な子どもらしい表情で笑っている。そして、私はその少女を知っていた。だってそれは……
「……わ、たし…?」
そこにいるのは幼い頃の私だった。そしてそのすぐ側に同じく幼いルーク様がいる。二人とも笑って、幸せそうに一輪の花を見つめている。
「……どういうこと?」
私がルーク様と初めてお会いしたのは婚約が成立した8歳の時だ。これはそれよりも幼い姿に見える。おかしい、そんなはずないのに。私がこれくらいの時は……あれ?分からない。思い出せない。一生懸命振り返ろうと思っても頭の中に見当たるものが一切なかった。……これは、今見えている光景は、一体何なの?
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