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第二章
23話
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「やくそく、まもってね」
突然明るくなった視界に驚いているとレイチェルちゃんがそう言ってにっこりと笑っていた。その表情は何だか5歳児には見えなくて私も少しドキッとしてしまった。店主の方はまじまじと私の顔を見た後で大きくため息をついた。もしかして、幻滅されたのかしら?やっぱり噂がハードルを上げすぎているからこんなことになるのよね。そう思っていると店主が口を開いた。
「仕方ない、教えますよ」
嫌そうに言われてさらに幻滅された感じが否めない。でも情報が手に入るらしいことがわかって少し落ち込んだ心を持ち上げる。
「虚ろだったんです、目の奥が。なんというか、吸い込まれてしまいそうな、深い暗闇に近いものを感じました。……そこのお嬢さんの言っていた情報はこれだけですからこれ以上詳しいことは言えませんけど、これでよろしいですか?」
「虚ろ……あ、あの、最近鴉の羽を買いに来たのはその人だけですか?」
「まぁそうですね。あんな露骨な悪意は中々売れませんから」
「そうですか。……貴重な情報をありがとうございました」
お礼を言うと店主は疲れたように店の奥の方に引っ込んでしまった。少し気になりはしたけれど情報を手に入ったことには変わりないので、私達は寮に帰ることになった。レイチェルちゃん達ともここでお別れだ。ふとジェイくんの方を見てみると彼はラナをじっと見つめて何か言いたげにしている。私の護衛に徹してくれているラナには気付かれていないみたいだけれど……。
するとレイチェルちゃんがこちらに近づいてきた。
「フィリアさま、ラナちゃんのほかにごえいっていますか?」
「えぇ、少し離れたところに学院からお借りした護衛の方が数人いらっしゃるけど」
「ここからよんだらきてくれますか?」
「……ええ、おそらく」
おそらくというより間違いなく来てくれる気がする。学院からと言ったけれど正確に言えばお兄様からお借りしたようなものなのだ。お借りするときに「この人たちならなんでもしてくれるからね。建物10件分離れたところから手招きしても駆けつけれくれるよ」とおっしゃっていたし、きっと相当優秀な方々をつけてくださったのだと思う。
「すこしだけこちらにとどめてもらえませんか?」
「良いけれど、どうしたの?」
「あのふたりをふたりきりにしてあげたくて……」
レイチェルちゃんは小声でそう言いながらジェイくんとラナのいる方を指差した。その表情は何だか「仕方ないなぁ」と聞こえてきそうなもので、やはり年相応ではなかった。でも私自身もあの二人に関してはどうにかしてあげたかったのでもちろん賛成して護衛の方を呼ぶことにした。
店の扉から少しだけ外に顔を出して手招きしてみると弾丸のような速さで駆けつけてくれた。
「何かございましたか!?」
「えっと…………少しだけ、ここにいてくださいませんか?」
体格の良いその人に曖昧にそう言うと彼は突然自分の頭を勢いよく殴った。
「え?!ど、どうして……」
「ああ、気にしないでください。ロナン様の命令に従ったまでのことです。それよりもここでの護衛をご所望でしたら謹んで引き受けさせていただきます!」
爽やかな笑顔でなんてことのないように言っていたけれど、え?お兄様の命令?だとしたら少しお兄様とお話をしなくては。護衛をしてくださってる方に何てことを……。
とにかく、ここの護衛は問題ないみたいなので彼がここにいてくれる間はラナも安心してジェイくんと話すことができるだろう。私とレイチェルちゃんは同時にジェイくんの方に顔を向けて「行け!」と合図を出した。それに気づくとジェイくんは大きく頷いてからラナに近づくと、彼女の腕を引いて店の外に出て行った。ラナの方はまだ私の身辺に気を張り巡らせてくれていたみたいで「は?え、何すんのよ!」と驚いて少し反抗気味だったけれど、まあ問題ないだろう。あの二人はずっとそうなのだから。喧嘩しているように見えて会話していたりするのだ。
数分すると二人は少し距離をとった状態で帰ってきた。でもラナの顔が真っ赤に染まっていたからとりあえず良いことはあったのだろう。これで安心してラナについてきてもらうことができる。私の側で見ていたラズリアさんもラナの様子を見て色々と察したらしくとても優しい笑顔をしていた。
「じゃあ帰りましょうか、学院に」
「はい!一つ大きな情報も手に入りましたからね!」
「えぇ、すぐに他の方にも共有しましょう」
帰りの馬車が来てくれたのでそれに乗り込んだ。得られた情報は鴉の羽を買いに来た人物が虚ろな闇を持った目をしていたということ。馬車に揺られながらそれについて考え、最初に感じたことを思い出していた。正面に座るラズリアさんにちらりと視線を向ける。同じなのだ。彼女に初めて会ったときに彼女の瞳から感じた印象と。そしてこれが事実なのだとしたら、彼女の自殺未遂も今回の件と関わりがないとは言い切れないのかもしれない。
******************
余談
それからお兄様に護衛をお返ししてお礼を言いに行った時のこと。
「先生、護衛の方に一度近くでの護衛をお頼みしたら頭を殴っていらっしゃったのですが、それを先生の命令だとおっしゃっていました。どういうことですか?」
「……なるほど、それがどの人か覚えているかな?」
「え、茶髪の背が高い……」
「あぁ、彼か。後で話をしなくてはいけないね」
「え?いえ、そうではなく、どのような命令をされたのですか?」
「なんてことはない。警護に集中するように言っただけさ」
「は、はぁ……」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
お兄様の命令は「私の天使に少しでも変な気を起こそうものなら自分を殴ってでも止めろ」でした。護衛から見れば上目遣いでためらったようにあのセリフだったので無理はないのかもしれません……。ちなみに店主の態度は自分の予想を遥かに超える美少女がきたためノックアウトされてしまったことからきていました。
突然明るくなった視界に驚いているとレイチェルちゃんがそう言ってにっこりと笑っていた。その表情は何だか5歳児には見えなくて私も少しドキッとしてしまった。店主の方はまじまじと私の顔を見た後で大きくため息をついた。もしかして、幻滅されたのかしら?やっぱり噂がハードルを上げすぎているからこんなことになるのよね。そう思っていると店主が口を開いた。
「仕方ない、教えますよ」
嫌そうに言われてさらに幻滅された感じが否めない。でも情報が手に入るらしいことがわかって少し落ち込んだ心を持ち上げる。
「虚ろだったんです、目の奥が。なんというか、吸い込まれてしまいそうな、深い暗闇に近いものを感じました。……そこのお嬢さんの言っていた情報はこれだけですからこれ以上詳しいことは言えませんけど、これでよろしいですか?」
「虚ろ……あ、あの、最近鴉の羽を買いに来たのはその人だけですか?」
「まぁそうですね。あんな露骨な悪意は中々売れませんから」
「そうですか。……貴重な情報をありがとうございました」
お礼を言うと店主は疲れたように店の奥の方に引っ込んでしまった。少し気になりはしたけれど情報を手に入ったことには変わりないので、私達は寮に帰ることになった。レイチェルちゃん達ともここでお別れだ。ふとジェイくんの方を見てみると彼はラナをじっと見つめて何か言いたげにしている。私の護衛に徹してくれているラナには気付かれていないみたいだけれど……。
するとレイチェルちゃんがこちらに近づいてきた。
「フィリアさま、ラナちゃんのほかにごえいっていますか?」
「えぇ、少し離れたところに学院からお借りした護衛の方が数人いらっしゃるけど」
「ここからよんだらきてくれますか?」
「……ええ、おそらく」
おそらくというより間違いなく来てくれる気がする。学院からと言ったけれど正確に言えばお兄様からお借りしたようなものなのだ。お借りするときに「この人たちならなんでもしてくれるからね。建物10件分離れたところから手招きしても駆けつけれくれるよ」とおっしゃっていたし、きっと相当優秀な方々をつけてくださったのだと思う。
「すこしだけこちらにとどめてもらえませんか?」
「良いけれど、どうしたの?」
「あのふたりをふたりきりにしてあげたくて……」
レイチェルちゃんは小声でそう言いながらジェイくんとラナのいる方を指差した。その表情は何だか「仕方ないなぁ」と聞こえてきそうなもので、やはり年相応ではなかった。でも私自身もあの二人に関してはどうにかしてあげたかったのでもちろん賛成して護衛の方を呼ぶことにした。
店の扉から少しだけ外に顔を出して手招きしてみると弾丸のような速さで駆けつけてくれた。
「何かございましたか!?」
「えっと…………少しだけ、ここにいてくださいませんか?」
体格の良いその人に曖昧にそう言うと彼は突然自分の頭を勢いよく殴った。
「え?!ど、どうして……」
「ああ、気にしないでください。ロナン様の命令に従ったまでのことです。それよりもここでの護衛をご所望でしたら謹んで引き受けさせていただきます!」
爽やかな笑顔でなんてことのないように言っていたけれど、え?お兄様の命令?だとしたら少しお兄様とお話をしなくては。護衛をしてくださってる方に何てことを……。
とにかく、ここの護衛は問題ないみたいなので彼がここにいてくれる間はラナも安心してジェイくんと話すことができるだろう。私とレイチェルちゃんは同時にジェイくんの方に顔を向けて「行け!」と合図を出した。それに気づくとジェイくんは大きく頷いてからラナに近づくと、彼女の腕を引いて店の外に出て行った。ラナの方はまだ私の身辺に気を張り巡らせてくれていたみたいで「は?え、何すんのよ!」と驚いて少し反抗気味だったけれど、まあ問題ないだろう。あの二人はずっとそうなのだから。喧嘩しているように見えて会話していたりするのだ。
数分すると二人は少し距離をとった状態で帰ってきた。でもラナの顔が真っ赤に染まっていたからとりあえず良いことはあったのだろう。これで安心してラナについてきてもらうことができる。私の側で見ていたラズリアさんもラナの様子を見て色々と察したらしくとても優しい笑顔をしていた。
「じゃあ帰りましょうか、学院に」
「はい!一つ大きな情報も手に入りましたからね!」
「えぇ、すぐに他の方にも共有しましょう」
帰りの馬車が来てくれたのでそれに乗り込んだ。得られた情報は鴉の羽を買いに来た人物が虚ろな闇を持った目をしていたということ。馬車に揺られながらそれについて考え、最初に感じたことを思い出していた。正面に座るラズリアさんにちらりと視線を向ける。同じなのだ。彼女に初めて会ったときに彼女の瞳から感じた印象と。そしてこれが事実なのだとしたら、彼女の自殺未遂も今回の件と関わりがないとは言い切れないのかもしれない。
******************
余談
それからお兄様に護衛をお返ししてお礼を言いに行った時のこと。
「先生、護衛の方に一度近くでの護衛をお頼みしたら頭を殴っていらっしゃったのですが、それを先生の命令だとおっしゃっていました。どういうことですか?」
「……なるほど、それがどの人か覚えているかな?」
「え、茶髪の背が高い……」
「あぁ、彼か。後で話をしなくてはいけないね」
「え?いえ、そうではなく、どのような命令をされたのですか?」
「なんてことはない。警護に集中するように言っただけさ」
「は、はぁ……」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
お兄様の命令は「私の天使に少しでも変な気を起こそうものなら自分を殴ってでも止めろ」でした。護衛から見れば上目遣いでためらったようにあのセリフだったので無理はないのかもしれません……。ちなみに店主の態度は自分の予想を遥かに超える美少女がきたためノックアウトされてしまったことからきていました。
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