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第二章
13.5話
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(レイチェル視点)
あーあ、みんな元気にしてるかなー。そんなことを考えながら頬杖をついて窓の外を眺める。お兄ちゃん(話せるようになってからは本人には「おにいさま」って呼んでる)やフィリアちゃんたちはみんな王立学院に行ってしまった。お兄ちゃんが入学してからの2年の間はフィリアちゃんとかレオンくんが来てくれたから退屈しなかったしむしろ忙しなかったけど、彼女たちも学院に入ると一気に暇になってしまった。最近の暇つぶしはもっぱらこの人だったりする。
「あのー、レイチェル様。俺も一応学校に通ってるから暇ってわけでは……」
今日も呼びつけたことに若干不満そうだけど身分を考えるとやはりはっきりはいえないらしい。うん、分かりやすくて良い子だわ。
お兄ちゃんと一緒にフィリアちゃんのお家に遊びに行った時、たまたま見かけたこの人。平民の学校なら寮もないし、意外と気軽に呼び出せる。反応がやんちゃな男の子って感じで何だか楽しいのよね。いじりがいがあるっていうか。
「ごめんね、ジェイくん」
自動的になってしまう上目遣いで彼の顔を覗けば無言で視線を逸らす。分かっているんだよ、君がこの手のタイプに強く出られないことは。だから甘んじてレオンくんに遊ばれてるんだもんね。
「いっしょにおしゃべりしてくれる?」
「あー、……はい」
今日は月の初めだからラナちゃんからの手紙も届いてるだろうし。たっぷり聞かせてもらうとしよう。5歳の好奇心ってのは底無しなんだからね!
******************
「フィリア様が屋上から落ちそうになったらしいです」
小さめのテーブルの向かいに座る彼が遠慮がちにお茶を飲みながら言った言葉に、食べていたクッキーを喉に詰まらせそうになる。幼い私のためにあらかじめ少し冷まされたお茶で何とか流し込んだ。
「っ…フィリアさまが?」
「はい。自殺未遂の女子生徒を助けようとしたらしく……今は調査中だそうです。あの方は本当に危なっかしいですね」
「へー……。ラナちゃんはどうしてるの?」
「フィリア様が調査に参加してるわけでもないらしいのでひたすら部屋の掃除とか食堂の手伝いとかをしているみたいです。心配しなくてもあいつは基本元気ですから」
「げんきなところもすきなんでしょ?」
フィリアちゃんの屋上云々の話も気になったけど食いつきすぎても不自然かと思って目の前で耳を赤くしている少年を冷やかすことにした。案の定首まで真っ赤になる。あれ、湯気出てない?
「最近の5歳はませてんな……」
そっぽを向いて小さく呟いた言葉はしっかりと私の耳に届いた。仕方ないので聞こえなかったことにしてあげよう。私だってただの5歳児ではない。あくまで社会人経験もある立派な大人だったんだからね!仕事に恋愛、友情、色んな不条理を乗り越えてきたんだから!
ラナちゃんへの想いにのぼせている彼を放置して私は大人っぽくクッキーを摘んでサクッといい感じの音を立てながら食べた。ほらね、大人でしょ?
「レイチェル様、クッキーの粕が溢れてますよ。今取りますね」
惚けていたはずのジェイくんは思ったより早く正気に戻っていて、ふふんと鼻を鳴らしながらクッキーを食べていた私に馬鹿にしたような顔でそう言ってきた。貴様…子どもだと思って甘く見やがって……いいんだぞ?あんたの真っ赤っかの醜態をラナちゃんに告げてやっても。デレッデレの会話を垂れ流ししてやっても。こっちにはいくらでもやりようがあるんだからな!あくまで無垢な子どものやったことになるんだもの。
席を立って私の服に落ちた粕を「仕方ないですねぇ」とか言いながら拾ってくる緑頭にむくれながらもクッキーの咀嚼を続けた。この男どうしてくれようかしら、なんて思いながらね。
それにしても……。忙しい思考の隙間でジェイくんが言っていた言葉がもう一度再生される。
『自殺未遂の女子生徒……』
それって第一の事件だよね。おかしいなぁ…私の考えだと事件なんか起きないはずだったのに。だってフィリアちゃん生きてるじゃん。それだけで事件の要因は根底から崩れるはずなのに……。私の考えが浅はかだったのか、それとも私の知らない何かが動いているのか。気になるな……。
あーあ、みんな元気にしてるかなー。そんなことを考えながら頬杖をついて窓の外を眺める。お兄ちゃん(話せるようになってからは本人には「おにいさま」って呼んでる)やフィリアちゃんたちはみんな王立学院に行ってしまった。お兄ちゃんが入学してからの2年の間はフィリアちゃんとかレオンくんが来てくれたから退屈しなかったしむしろ忙しなかったけど、彼女たちも学院に入ると一気に暇になってしまった。最近の暇つぶしはもっぱらこの人だったりする。
「あのー、レイチェル様。俺も一応学校に通ってるから暇ってわけでは……」
今日も呼びつけたことに若干不満そうだけど身分を考えるとやはりはっきりはいえないらしい。うん、分かりやすくて良い子だわ。
お兄ちゃんと一緒にフィリアちゃんのお家に遊びに行った時、たまたま見かけたこの人。平民の学校なら寮もないし、意外と気軽に呼び出せる。反応がやんちゃな男の子って感じで何だか楽しいのよね。いじりがいがあるっていうか。
「ごめんね、ジェイくん」
自動的になってしまう上目遣いで彼の顔を覗けば無言で視線を逸らす。分かっているんだよ、君がこの手のタイプに強く出られないことは。だから甘んじてレオンくんに遊ばれてるんだもんね。
「いっしょにおしゃべりしてくれる?」
「あー、……はい」
今日は月の初めだからラナちゃんからの手紙も届いてるだろうし。たっぷり聞かせてもらうとしよう。5歳の好奇心ってのは底無しなんだからね!
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「フィリア様が屋上から落ちそうになったらしいです」
小さめのテーブルの向かいに座る彼が遠慮がちにお茶を飲みながら言った言葉に、食べていたクッキーを喉に詰まらせそうになる。幼い私のためにあらかじめ少し冷まされたお茶で何とか流し込んだ。
「っ…フィリアさまが?」
「はい。自殺未遂の女子生徒を助けようとしたらしく……今は調査中だそうです。あの方は本当に危なっかしいですね」
「へー……。ラナちゃんはどうしてるの?」
「フィリア様が調査に参加してるわけでもないらしいのでひたすら部屋の掃除とか食堂の手伝いとかをしているみたいです。心配しなくてもあいつは基本元気ですから」
「げんきなところもすきなんでしょ?」
フィリアちゃんの屋上云々の話も気になったけど食いつきすぎても不自然かと思って目の前で耳を赤くしている少年を冷やかすことにした。案の定首まで真っ赤になる。あれ、湯気出てない?
「最近の5歳はませてんな……」
そっぽを向いて小さく呟いた言葉はしっかりと私の耳に届いた。仕方ないので聞こえなかったことにしてあげよう。私だってただの5歳児ではない。あくまで社会人経験もある立派な大人だったんだからね!仕事に恋愛、友情、色んな不条理を乗り越えてきたんだから!
ラナちゃんへの想いにのぼせている彼を放置して私は大人っぽくクッキーを摘んでサクッといい感じの音を立てながら食べた。ほらね、大人でしょ?
「レイチェル様、クッキーの粕が溢れてますよ。今取りますね」
惚けていたはずのジェイくんは思ったより早く正気に戻っていて、ふふんと鼻を鳴らしながらクッキーを食べていた私に馬鹿にしたような顔でそう言ってきた。貴様…子どもだと思って甘く見やがって……いいんだぞ?あんたの真っ赤っかの醜態をラナちゃんに告げてやっても。デレッデレの会話を垂れ流ししてやっても。こっちにはいくらでもやりようがあるんだからな!あくまで無垢な子どものやったことになるんだもの。
席を立って私の服に落ちた粕を「仕方ないですねぇ」とか言いながら拾ってくる緑頭にむくれながらもクッキーの咀嚼を続けた。この男どうしてくれようかしら、なんて思いながらね。
それにしても……。忙しい思考の隙間でジェイくんが言っていた言葉がもう一度再生される。
『自殺未遂の女子生徒……』
それって第一の事件だよね。おかしいなぁ…私の考えだと事件なんか起きないはずだったのに。だってフィリアちゃん生きてるじゃん。それだけで事件の要因は根底から崩れるはずなのに……。私の考えが浅はかだったのか、それとも私の知らない何かが動いているのか。気になるな……。
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