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番外編

ラナとジェイ①

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(ラナ視点)
(フィリアが過労で倒れた日から後のお話です)



 気に入らない。ほんっとうに気に入らない。

「おい、!」

 そう、私の名を呼ぶこのジェイという男は本当に気に入らない。思えば初対面の時から生意気だった。お嬢様に対してあり得ない口の聞き方、態度。私に対してならまだ5000歩譲って許してやろう。でもお嬢様にあの口の聞き方はない。まぁ、すぐにお嬢様の素晴らしさに気付いたみたいで少しはマシになったけどね。それに、「ああ言えばこう言う」の典型例なあの無駄に達者な口も腹が立つ。まぁ、いざとなったら力づくでその口を開けないようにしてやるまでだけど。


「ラナ、おい、ラナ!」

「……なに?耳元でうるさいわね」

「お前が返事しないからだろ!」

「一体何の用?お嬢様がクロールさんとお話がしたいとおっしゃるからここで待機してるだけで、あんたとお喋りするためじゃないんだけど」

 あくまでも少し離れた場所にいるお嬢様には聞こえないよう、声を荒げないように注意した。まぁ、屋外の庭園なんだからそうそう響くこともないけど。

「いや、だから、その……」

「何よ」

「この前は、ありがとな……」

「この前?」

 私が何のことかわからないでいるとジェイが突然バッと目の前に花を差し出してきた。これは……確かお嬢様が倒れてしまわれた時に枕元に置いてた花?

「これ、やる」

 それだけ言って無理やり私にその花を握らせるとどこかに言ってしまった。いや、花だけ渡されてもどうしろっていうのよ。なんとも気遣いのできない男だ。私がまた少しイラついているとクロールさんとのお話を終えたらしいお嬢様がこちらにいらっしゃった。

「あら、どうしたの?そのお花」

「いえ、ジェイが勝手に……」

「……ふふっ。なるほどね」

「お嬢様?」

「すぐにお部屋に帰りましょう。貴女に読んで欲しい本があるの」

「本、ですか?」

 そしてお嬢様のお部屋で渡されたのは花言葉の本だった。お嬢様のために必要な知識ならばなんでも身につけてきたし、武術も習得してきたけど花言葉に関しては私は全くの無知だ。お嬢様がわざわざ私に読ませてくださるのだから一言一句忘れることなく暗記しなくては。私はお嬢様がお休みになった後、旦那様が与えてくださっている自室でじっくりとその本を読んだ。


「この花って……」

 とある1ページでページをめくる手が止まった。白い花びらが小さくて可愛いこの花は、今日ジェイに渡されたものだ。名前はカモミール。花言葉は……「逆境に耐える」。そうか、だからあの時お嬢様にこの花を送ったのね。あ、でもまだ花言葉がある。これは……

「仲直り、友情」

 その文字が目に止まると私はなんだか難しい気持ちになった。……まぁ、嫌な奴ではない……ってことか。
 




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