上 下
21 / 117
第一章

17話

しおりを挟む
 お兄様に解放されてから自分の部屋に戻った私はラナに少し休むから一人にしてほしいと頼んだ。大きめのソファに身を沈めてため息をつく。お兄様とのことが解決したのは嬉しいけれど、私にはまだ考えないといけないことが残っているのだ。

「何でルカルド…様が私を訪ねてきたのか、よね」

 それからルカルド様の発言のこともある。

『兄上の婚約者にはしっかりしておいてもらわないとね、僕のためにも、貴女自身のためにも』

 なぜ私がしっかりするとルカルド様のためになるのか。「しっかりする」というのはどういう意味で使ったのか。だいたい私はルークベルト殿下の婚約者であってルカルド様には関係ないのに……。あ、「ルーク様」だったわ。

「いや、今それはどうでもいいのよ!……そういえば『今』って……」

 今、つまりこの時期は私と同い年のルカルド様がまだ十歳なのでゲーム開始の五年前ということになる。第一王子派と第二王子派に分かれていた派閥が無くなるのはゲーム開始の……何年前だったかしら?とりあえず、今はまだ派閥が無くなっていない可能性は大いにある。むしろ……

「無くなっていないからこそ、私の行動がルカルド様にも関わる……?」

 ルカルド様には婚約者がいない。これは私の勝手な推測だけれど、その理由はルーク様の王位継承を優位にするためではないだろうか?王妃がいなくても王にはなれる。ただ王妃となる者がいる方がやはり優位だ。

 それにラブリリのシナリオから見るとルカルド様は本来の能力を発揮しようとしない。ルーク様を超えない程度の力のみ発揮するのだ。つまりは元々ルカルド様には王になりたいという欲がない、ということ。実際人間嫌いのルカルド様よりは、一見冷たくても人のために働きたいという意思が強いルーク様の方が王には向いていると思う。ちなみにルーク様の人柄はラブリリのシナリオでのものなので実際がどうかは私は知らない。吹雪のようなオーラしか見たことがないもの……。

「とにかく!ルカルド様を王にしたい人達が増えないようにするにはルーク様の王としての素質が高い方がいい。その要素に婚約者の私も含まれる……ということ?」

 確かに未来の王妃は立派な方がいい。病弱だったり頭が悪い人は向いていないだろう。だから本来頭の方はともかく病弱な私は向いていない。けれど最近お散歩を始めて少し健康になりつつある。予想の域を出ない話だけれど、私がずっと病弱なままだったらたぶんルカルド様は私の顔を見には来なかっただろう。王妃になることなくどこかしらで死ぬものとして切り捨てられていただろう。ところがこのままいけば死ぬだろう人間がいきなり健康になろうとし始めたものだから未来の王妃になる可能性が出てきたのだ。そのため、それがどんな人間か確かめておく必要が出たのかもしれない。下手に派閥を動かす源にならないかどうかを、自分の目で。

「つまり私は、試されていたのね……」

 頭が真っ白になるほど緊張したこちらとしてはたまったものではないけれど、あちらとしては必要な訪問だったのだろう。アポなしだったのは準備できない状況の、より素に近い私を見て判断したかったからなのかもしれない。

「ふぅ、疲れた……」

 合っているかは分からないけれど、自分の中ではどこぞの名探偵並みの推理を繰り広げたつもりの私は思い切り息を吐きながらこめかみを押さえた。

『またね』

 最後のルカルド様の言葉を思い出す。これはきっと、とりあえずは私が邪魔にはならないと判断された、ということなのだろう。それにしても……来るの?それを考えた瞬間、胃が痛むのを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑を回避するために領地改革に奔走する

同画数
恋愛
ある日自分の前世の記憶がフラッシュバックし、自分が前世の乙女ゲームの悪役令嬢ベアトリーチェ・D・チェンバレンに生まれ変わったことを知る。 このまま行くと1年後の断罪イベントで私は処刑コース。どうにかして回避しようと奮闘して生存ルートに突き進もうと思ったら、私の無実の理由か実力を示さなければ処刑は回避できないそうようだ。 他領で実力を見せなければならなくなりました。 ゼロどころかマイナスからの領地経営頑張ります。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

処理中です...