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第一章
16話
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「ごめん……っごめんなさい……」
小さな肩を震わせて誰かが泣いている。大丈夫だよ、と言って抱きしめてあげたいけれどなぜか触れられない。泣かないで、あなたは悪くないわ……。
「お嬢様、お目覚めですか?」
微睡の中で見えた景色が淡く消えて意識が引き戻された。
「……ええ。おはよう、ラナ」
久しぶりに夢を見た。その夢は心の中に重く残ってしまって何だか居心地が悪かった。
******************
今日はジェイくんが家に来る日だ。また1メートル間隔で目も合わないのかと思うと気が重い。そう思いながらも準備をして散歩を兼ねて庭へと向かった。お兄様とは相変わらずうまく話せないので一緒には行かないことにした。
「おはよう、ジェイくん」
1メートルくらい離れたところから声をかけるとジェイくんはパッと振り向いた。それからこちらに「おう、フィリア」と言いながら近づいてくる。あら?これは大丈夫なのかしら……。
「ジェイくん?距離は大丈夫なの?」
「そのことなんだけどさ、ロナン様が……」
ジェイくん曰く彼が我が家にやってきたとき、玄関には待ち伏せていたかのようにお兄様がいらっしゃったらしい。それから「私が言ったことは全て忘れろ」とおっしゃったのだとか……。
「あぁ、それから去り際に『もしフィリアを傷つけるようなことをしたら粉々にして海に沈めてやる』って」
「……お兄様」
脅しは良くないけれど私の言ったことをちゃんと考えてくださったのだと思うととても嬉しかった。お礼をしないといけないわね!何がいいかしら……
「あ!そうだわ!」
「っ何だよ」
「ジェイくん、頼みたいことがあるのだけれど……」
それから数時間経って私はお兄様の部屋の前にやって来た。
「お兄様、フィリアです」
「っあぁ、ど、どうぞ」
扉越しの声でも動揺しているのが分かる。数日間全く言葉を交わしていなかった妹がいきなり部屋を訪ねてきたらそれも無理はないだろう。
部屋に入るとお兄様はやはり事務作業をしていた。心なしかいつもより書いているときの音が大きい気がした。
「ど、どうしたんだい?」
「ジェイくんのことで、お礼がしたいと思い参りました」
「あ、あぁ、あのことか。それなら気にしなくていい。私が悪かったのだから」
「いいえ、私の言い方や態度も生意気でしたし、何より、私のお友達を認めて下ったことが嬉しいのです。なので、これを……」
私は用意してきたプレゼントをお兄様の目の前に出した。
「これは……」
「ブーケです。小さなものにはなりますし、色もお兄様好みではないかもしれませんが……」
何せメインのお花はピンクのガーベラなのだから。けれどその花言葉は「感謝」。きっと一番私の気持ちが伝わるだろうと思って選んだ。
「これは、ジェイくんにも手伝ってもらいました。全て、クロールさんや彼が心を込めて育てているお花です」
「とても……素敵だね」
お兄様はそう言って美しく微笑んだ。その顔が嬉しくてこちらも笑顔になってしまう。
それから突然お兄様が立ち上がった。そして気づいたころには私はお兄様に思い切り抱きしめられていた。
「ありがとう、私の天使!君と話せなかった日々は本当に死んでしまうかと思ったよ!」
「お、お兄様……痛いです」
私の声は届かなかったらしくお兄様はそれからだいぶ長い間私を抱きしめたままだった。苦しかったけれど久しぶりにお兄様の元気なところが見られてこちらも幸せな気分になった。
小さな肩を震わせて誰かが泣いている。大丈夫だよ、と言って抱きしめてあげたいけれどなぜか触れられない。泣かないで、あなたは悪くないわ……。
「お嬢様、お目覚めですか?」
微睡の中で見えた景色が淡く消えて意識が引き戻された。
「……ええ。おはよう、ラナ」
久しぶりに夢を見た。その夢は心の中に重く残ってしまって何だか居心地が悪かった。
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今日はジェイくんが家に来る日だ。また1メートル間隔で目も合わないのかと思うと気が重い。そう思いながらも準備をして散歩を兼ねて庭へと向かった。お兄様とは相変わらずうまく話せないので一緒には行かないことにした。
「おはよう、ジェイくん」
1メートルくらい離れたところから声をかけるとジェイくんはパッと振り向いた。それからこちらに「おう、フィリア」と言いながら近づいてくる。あら?これは大丈夫なのかしら……。
「ジェイくん?距離は大丈夫なの?」
「そのことなんだけどさ、ロナン様が……」
ジェイくん曰く彼が我が家にやってきたとき、玄関には待ち伏せていたかのようにお兄様がいらっしゃったらしい。それから「私が言ったことは全て忘れろ」とおっしゃったのだとか……。
「あぁ、それから去り際に『もしフィリアを傷つけるようなことをしたら粉々にして海に沈めてやる』って」
「……お兄様」
脅しは良くないけれど私の言ったことをちゃんと考えてくださったのだと思うととても嬉しかった。お礼をしないといけないわね!何がいいかしら……
「あ!そうだわ!」
「っ何だよ」
「ジェイくん、頼みたいことがあるのだけれど……」
それから数時間経って私はお兄様の部屋の前にやって来た。
「お兄様、フィリアです」
「っあぁ、ど、どうぞ」
扉越しの声でも動揺しているのが分かる。数日間全く言葉を交わしていなかった妹がいきなり部屋を訪ねてきたらそれも無理はないだろう。
部屋に入るとお兄様はやはり事務作業をしていた。心なしかいつもより書いているときの音が大きい気がした。
「ど、どうしたんだい?」
「ジェイくんのことで、お礼がしたいと思い参りました」
「あ、あぁ、あのことか。それなら気にしなくていい。私が悪かったのだから」
「いいえ、私の言い方や態度も生意気でしたし、何より、私のお友達を認めて下ったことが嬉しいのです。なので、これを……」
私は用意してきたプレゼントをお兄様の目の前に出した。
「これは……」
「ブーケです。小さなものにはなりますし、色もお兄様好みではないかもしれませんが……」
何せメインのお花はピンクのガーベラなのだから。けれどその花言葉は「感謝」。きっと一番私の気持ちが伝わるだろうと思って選んだ。
「これは、ジェイくんにも手伝ってもらいました。全て、クロールさんや彼が心を込めて育てているお花です」
「とても……素敵だね」
お兄様はそう言って美しく微笑んだ。その顔が嬉しくてこちらも笑顔になってしまう。
それから突然お兄様が立ち上がった。そして気づいたころには私はお兄様に思い切り抱きしめられていた。
「ありがとう、私の天使!君と話せなかった日々は本当に死んでしまうかと思ったよ!」
「お、お兄様……痛いです」
私の声は届かなかったらしくお兄様はそれからだいぶ長い間私を抱きしめたままだった。苦しかったけれど久しぶりにお兄様の元気なところが見られてこちらも幸せな気分になった。
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