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第一章

12話

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「最近の体調はどうだい?散歩を始めたとは手紙に書いてくれたが無理をしてはいないかい?」

「ええ、無理はしていませんよ。体力も少しずつついてきましたし、早く丈夫な体を手に入れたいです!」

 相変わらず体調を気にしてくださるお兄様に笑顔で返すと、お兄様は何か納得のいっていないような顔をした。

「嘘はいけないなぁ、私の天使。少し前に倒れてしまったんだろう?父様が仕事を放棄して帰ろうとしたって執事から報告を受けているよ」

「え?」

 執事がお兄様に私が倒れたことなんかを報告していることとお父様がそんなに心配してくださっていたことの両方に驚いてしまった。

「とにかく無理は禁物だ。またいつ倒れてしまうか分からない。だから!毎日お兄様と一緒に散歩をしよう!」

 満面の笑みでお兄様がそう提案してくださった。私はすぐに了承しようとしたが思いとどまった。毎日お兄様と散歩をするということは毎週一回はお庭にくるジェイくんとお兄様が何度も対面することになる。それはジェイくんの負担が大きすぎる気がする。努力の賜物でジェイくんは少し拙いけれどそれらしい作法は身につけた。それでも慣れていない彼に何度もそれを実行させるのは酷だ。しかしこんなに笑顔のお兄様を落ち込ませるのも心苦しい。どうしようかしら……

「どうしたんだい、私の天使。っ!まさかお兄様と一緒が嫌なのかい?!」

「そんなことは断じてありません!ですが、……私の習慣にお兄様を付き合わせるわけにはまいりませんし……それにお兄様はお忙しいでしょう?」

「そんなことか……君はなんて健気な子なんだ!私は感動したよ!気にしなくていいんだ。しばらくは家で出来る作業ばかりだからね。だから、明日から!必ず毎日!一緒に!散歩をしよう!」

「は、はい。ありがとう、ございます」

 ごめんなさい、ジェイくん。私の頭にはこの言葉しか浮かばなかった。明日はジェイくんが来るって言っていたのに……。その日はそのまま自分の部屋に帰って眠りにつくことにした。考え込んでもキリがないので前向きに考えよう。ジェイくんはあんなに頑張ったんだもの!きっと何とかなるわ!



******************



 翌日、爽やかな朝ではあったが私の心はやはり重かった。何も起こらずに終わりますように。初対面での印象が良ければまだ何とかなる。大事なのは間違いなく今日なのだ。

「そろそろ行こうか、私の天使」

 お兄様は美しい笑顔で私に手を差し伸べた。私はぎこちない笑顔になりながらその手を取った。一歩踏みしめるたびに心臓の音が大きくなる気がした。

「やっぱりうちの庭は綺麗だね」

「ええ。クロールさんが大切に管理してくださってますから」

「あれ?あそこに見たことのない人がいるなぁ」

 そう言ったお兄様の視線の先にいたのは紛れもなくジェイくんだった。こうなってしまってはどうしようも無い。頑張ってね、ジェイくん。

「あちらは庭師のクロールさんのお孫さんで、ジェイくんといいます。お花に関心があると聞いたのでこの庭を見てほしくて私が招待いたしました。それからは良き友人です」

「ふーん。そうか」

 お兄様の声がワントーン落ちた気がしたがきっと気のせいだろう。会話してもいないのに人を嫌うことなんてあり得ないもの。

 そう思っていると急にお兄様が速度を上げてジェイくんの方へと歩き出した。

「こんにちは、ジェイくん、だったかな?」

「こんにちは。そうです。あなたはフィリア様のお兄様ですか?」

 ジェイくんは何とか敬語で話すことができた。まだ少しぎこちないけれどね。

「そうだよ。それにしてもびっくりしたなぁ。フィリアがの友達を作るなんて」

「お兄様、お友達に性別は関係ないと思いますが……」

「そうかもしれないが、今までいなかっただろう?」

「はい……」

「とにかくジェイくん、私は君がフィリアの友達になってくれて嬉しい。だから教えてあげよう!友達の正しい距離感というものをね」

「お、お兄様?」

「あぁ、フィリアは先に屋敷の中に戻っておきなさい。また後でゆっくりお茶でもしよう」

「え、は、はい。かしこまりました」

 お兄様は微笑んでくれたがそれはいつもの優しいものではないような気がした。心配になってジェイくんの方を向くとジェイくんはこちらを見て頷いた。大丈夫だ、ということなのだろう。それを確認した頃にお兄様が咳払いをなさった。早く行け、ということなのかと思い私はすぐに部屋に戻った。本当に大丈夫なのかしら……?
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