16 / 117
第一章
12話
しおりを挟む
「最近の体調はどうだい?散歩を始めたとは手紙に書いてくれたが無理をしてはいないかい?」
「ええ、無理はしていませんよ。体力も少しずつついてきましたし、早く丈夫な体を手に入れたいです!」
相変わらず体調を気にしてくださるお兄様に笑顔で返すと、お兄様は何か納得のいっていないような顔をした。
「嘘はいけないなぁ、私の天使。少し前に倒れてしまったんだろう?父様が仕事を放棄して帰ろうとしたって執事から報告を受けているよ」
「え?」
執事がお兄様に私が倒れたことなんかを報告していることとお父様がそんなに心配してくださっていたことの両方に驚いてしまった。
「とにかく無理は禁物だ。またいつ倒れてしまうか分からない。だから!毎日お兄様と一緒に散歩をしよう!」
満面の笑みでお兄様がそう提案してくださった。私はすぐに了承しようとしたが思いとどまった。毎日お兄様と散歩をするということは毎週一回はお庭にくるジェイくんとお兄様が何度も対面することになる。それはジェイくんの負担が大きすぎる気がする。努力の賜物でジェイくんは少し拙いけれどそれらしい作法は身につけた。それでも慣れていない彼に何度もそれを実行させるのは酷だ。しかしこんなに笑顔のお兄様を落ち込ませるのも心苦しい。どうしようかしら……
「どうしたんだい、私の天使。っ!まさかお兄様と一緒が嫌なのかい?!」
「そんなことは断じてありません!ですが、……私の習慣にお兄様を付き合わせるわけにはまいりませんし……それにお兄様はお忙しいでしょう?」
「そんなことか……君はなんて健気な子なんだ!私は感動したよ!気にしなくていいんだ。しばらくは家で出来る作業ばかりだからね。だから、明日から!必ず毎日!一緒に!散歩をしよう!」
「は、はい。ありがとう、ございます」
ごめんなさい、ジェイくん。私の頭にはこの言葉しか浮かばなかった。明日はジェイくんが来るって言っていたのに……。その日はそのまま自分の部屋に帰って眠りにつくことにした。考え込んでもキリがないので前向きに考えよう。ジェイくんはあんなに頑張ったんだもの!きっと何とかなるわ!
******************
翌日、爽やかな朝ではあったが私の心はやはり重かった。何も起こらずに終わりますように。初対面での印象が良ければまだ何とかなる。大事なのは間違いなく今日なのだ。
「そろそろ行こうか、私の天使」
お兄様は美しい笑顔で私に手を差し伸べた。私はぎこちない笑顔になりながらその手を取った。一歩踏みしめるたびに心臓の音が大きくなる気がした。
「やっぱりうちの庭は綺麗だね」
「ええ。クロールさんが大切に管理してくださってますから」
「あれ?あそこに見たことのない人がいるなぁ」
そう言ったお兄様の視線の先にいたのは紛れもなくジェイくんだった。こうなってしまってはどうしようも無い。頑張ってね、ジェイくん。
「あちらは庭師のクロールさんのお孫さんで、ジェイくんといいます。お花に関心があると聞いたのでこの庭を見てほしくて私が招待いたしました。それからは良き友人です」
「ふーん。そうか」
お兄様の声がワントーン落ちた気がしたがきっと気のせいだろう。会話してもいないのに人を嫌うことなんてあり得ないもの。
そう思っていると急にお兄様が速度を上げてジェイくんの方へと歩き出した。
「こんにちは、ジェイくん、だったかな?」
「こんにちは。そうです。あなたはフィリア様のお兄様ですか?」
ジェイくんは何とか敬語で話すことができた。まだ少しぎこちないけれどね。
「そうだよ。それにしてもびっくりしたなぁ。フィリアが男の友達を作るなんて」
「お兄様、お友達に性別は関係ないと思いますが……」
「そうかもしれないが、今までいなかっただろう?」
「はい……」
「とにかくジェイくん、私は君がフィリアの友達になってくれて嬉しい。だから教えてあげよう!友達の正しい距離感というものをね」
「お、お兄様?」
「あぁ、フィリアは先に屋敷の中に戻っておきなさい。また後でゆっくりお茶でもしよう」
「え、は、はい。かしこまりました」
お兄様は微笑んでくれたがそれはいつもの優しいものではないような気がした。心配になってジェイくんの方を向くとジェイくんはこちらを見て頷いた。大丈夫だ、ということなのだろう。それを確認した頃にお兄様が咳払いをなさった。早く行け、ということなのかと思い私はすぐに部屋に戻った。本当に大丈夫なのかしら……?
「ええ、無理はしていませんよ。体力も少しずつついてきましたし、早く丈夫な体を手に入れたいです!」
相変わらず体調を気にしてくださるお兄様に笑顔で返すと、お兄様は何か納得のいっていないような顔をした。
「嘘はいけないなぁ、私の天使。少し前に倒れてしまったんだろう?父様が仕事を放棄して帰ろうとしたって執事から報告を受けているよ」
「え?」
執事がお兄様に私が倒れたことなんかを報告していることとお父様がそんなに心配してくださっていたことの両方に驚いてしまった。
「とにかく無理は禁物だ。またいつ倒れてしまうか分からない。だから!毎日お兄様と一緒に散歩をしよう!」
満面の笑みでお兄様がそう提案してくださった。私はすぐに了承しようとしたが思いとどまった。毎日お兄様と散歩をするということは毎週一回はお庭にくるジェイくんとお兄様が何度も対面することになる。それはジェイくんの負担が大きすぎる気がする。努力の賜物でジェイくんは少し拙いけれどそれらしい作法は身につけた。それでも慣れていない彼に何度もそれを実行させるのは酷だ。しかしこんなに笑顔のお兄様を落ち込ませるのも心苦しい。どうしようかしら……
「どうしたんだい、私の天使。っ!まさかお兄様と一緒が嫌なのかい?!」
「そんなことは断じてありません!ですが、……私の習慣にお兄様を付き合わせるわけにはまいりませんし……それにお兄様はお忙しいでしょう?」
「そんなことか……君はなんて健気な子なんだ!私は感動したよ!気にしなくていいんだ。しばらくは家で出来る作業ばかりだからね。だから、明日から!必ず毎日!一緒に!散歩をしよう!」
「は、はい。ありがとう、ございます」
ごめんなさい、ジェイくん。私の頭にはこの言葉しか浮かばなかった。明日はジェイくんが来るって言っていたのに……。その日はそのまま自分の部屋に帰って眠りにつくことにした。考え込んでもキリがないので前向きに考えよう。ジェイくんはあんなに頑張ったんだもの!きっと何とかなるわ!
******************
翌日、爽やかな朝ではあったが私の心はやはり重かった。何も起こらずに終わりますように。初対面での印象が良ければまだ何とかなる。大事なのは間違いなく今日なのだ。
「そろそろ行こうか、私の天使」
お兄様は美しい笑顔で私に手を差し伸べた。私はぎこちない笑顔になりながらその手を取った。一歩踏みしめるたびに心臓の音が大きくなる気がした。
「やっぱりうちの庭は綺麗だね」
「ええ。クロールさんが大切に管理してくださってますから」
「あれ?あそこに見たことのない人がいるなぁ」
そう言ったお兄様の視線の先にいたのは紛れもなくジェイくんだった。こうなってしまってはどうしようも無い。頑張ってね、ジェイくん。
「あちらは庭師のクロールさんのお孫さんで、ジェイくんといいます。お花に関心があると聞いたのでこの庭を見てほしくて私が招待いたしました。それからは良き友人です」
「ふーん。そうか」
お兄様の声がワントーン落ちた気がしたがきっと気のせいだろう。会話してもいないのに人を嫌うことなんてあり得ないもの。
そう思っていると急にお兄様が速度を上げてジェイくんの方へと歩き出した。
「こんにちは、ジェイくん、だったかな?」
「こんにちは。そうです。あなたはフィリア様のお兄様ですか?」
ジェイくんは何とか敬語で話すことができた。まだ少しぎこちないけれどね。
「そうだよ。それにしてもびっくりしたなぁ。フィリアが男の友達を作るなんて」
「お兄様、お友達に性別は関係ないと思いますが……」
「そうかもしれないが、今までいなかっただろう?」
「はい……」
「とにかくジェイくん、私は君がフィリアの友達になってくれて嬉しい。だから教えてあげよう!友達の正しい距離感というものをね」
「お、お兄様?」
「あぁ、フィリアは先に屋敷の中に戻っておきなさい。また後でゆっくりお茶でもしよう」
「え、は、はい。かしこまりました」
お兄様は微笑んでくれたがそれはいつもの優しいものではないような気がした。心配になってジェイくんの方を向くとジェイくんはこちらを見て頷いた。大丈夫だ、ということなのだろう。それを確認した頃にお兄様が咳払いをなさった。早く行け、ということなのかと思い私はすぐに部屋に戻った。本当に大丈夫なのかしら……?
57
お気に入りに追加
6,020
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は処刑を回避するために領地改革に奔走する
同画数
恋愛
ある日自分の前世の記憶がフラッシュバックし、自分が前世の乙女ゲームの悪役令嬢ベアトリーチェ・D・チェンバレンに生まれ変わったことを知る。
このまま行くと1年後の断罪イベントで私は処刑コース。どうにかして回避しようと奮闘して生存ルートに突き進もうと思ったら、私の無実の理由か実力を示さなければ処刑は回避できないそうようだ。
他領で実力を見せなければならなくなりました。
ゼロどころかマイナスからの領地経営頑張ります。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる