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第一章
9.5話②
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(ジェイ視点)
俺が公爵邸に通うようになって少ししたある日のことだった。その日もいつも通りちっこい侍女がうるさかった。フィリアはめずらしくずっとぼーっとしていて話しかけてみても無反応だった。
「おい、フィリア!何ぼーっとしてんだよ!」
「ちょっと何回言ったら分かるのよ!お嬢様への口の聞き方をもっと考えなさいってば!」
ちっこい侍女は思いっきり俺の肩を殴った。あいつはしつけだの何だの言っていたがあれは完全なる暴力だ。まず女の力じゃなかった。俺は倍返しをしようとじいちゃんが置いていった金属製のスコップを握った。ただ俺はこれの先端を使おうとしたわけではない。面で頭をたたいてやろうとしただけだ。それに対してあいつは箒を構えた。持ち方は完全に剣のそれだった。絶対あいつは武術をやっている。俺はそう確信した。互いに緊張感が走ったその時……
「二人とも落ち着いて!」
それまでぼーっとしていたフィリアの声がかかった。しかしそれから後も俺とちっこい侍女の喧嘩は続いた。俺はもちろん引く気はないがあっちもなかなか引かない。喧嘩に火がついてきた頃だった。
「もう!二人ともいい加減にしなさい。喧嘩せずにいられるようになるまで私は二人とは話しません!少しは歩み寄ることを覚えるべきよ」
フィリアが今まで見たことのない怒った顔でそう言った。俺は驚いて言葉も出なかった。いつもは笑顔で仲裁に入ってくるのに。そう思っていたのはちっこい侍女も同じらしく俺とあいつは全く同じ顔をしていた。フィリアは今までにないオーラを放ちながら屋敷の中に帰っていった。
「おい、どうすんだよ」
沈黙を断ち切るためにちっこい侍女に話しかけた。
「どうするって……お嬢様と話せるようになるには喧嘩をやめないと……でもあんたはムカつく奴だし」
「俺もお前はムカつく奴だと思う」
「何よ!って……だからこれがダメなのに……」
ちっこい侍女はそう言って俯いた。俺もどうすればいいかわからずにいた。するとちっこい侍女とは別の侍女がこっちに向かって走ってきた。
「ちょっとラナ!それにそこの坊主!」
「リサさん!」
「俺坊主じゃねぇし」
「そんなことはどうでもいいのよ!それより、お嬢様がっ」
リサという侍女が言うにはフィリアが突然倒れてしまったらしい。フィリアの体が弱いのは本人から聞いていたが、俺が来てからはそんな様子は見られなかったので俺は動揺した。頭が真っ白になった。それでも何とか足を動かしてフィリアのいる部屋に向かった。
扉から一歩足を踏み入れてフィリアの顔を見た時俺は言葉を失った。フィリアの顔は真っ白だった。まるで死体のように。それから近づくのが怖くなって俺は動けなくなった。
「お嬢様!」
一緒に部屋まで来たちっこい侍女はすぐにフィリアの眠るベッドの方へと走っていった。フィリアの手を握って叫んでいる。それを見ている俺は未だに頭が真っ白だった。
「……っと、ちょっと!あんた何突っ立ってんのよ!聞いてるの?」
「……」
「ねぇ、……っジェイ!」
俺はハッとして我に帰った。
「俺、は……」
うまく頭が回らない。するとちっこい侍女が俺の方にズンズンと歩いてきた。それから思いっきり俺の両頬を掌で叩いた。パァン!と大きな音が鳴る。
「いってっ……何す……」
「怖いのはわかる。私だって最初はそうだった。だけど!ここで突っ立ってたって何も変わんないの!あんたお嬢様のお友達なんでしょ?だったらお嬢様の意識が戻るために、願掛けでも何でもしなさいよ!」
俺の両頬を手で挟んだままちっこい侍女はそう言った。そうか、呼び戻せばいいんだ。俺は俺なりの方法で。そう思って俺はすぐに部屋を飛び出した。
「って、ちょっとあんたどこ行くのよ!」
ちっこい侍女の声を背中に浴びながら俺は走った。庭に出てじいちゃんを見つけると俺は叫んだ。
「じいちゃん!」
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
じいちゃんは俺たちからだいぶ離れたところにいたのでフィリアが倒れたことは知らない。ただ伝えてもぎっくり腰になってしまいそうなので用件だけ伝えることにした。
「あぁ、それならあるよ」
俺がとある花が欲しいと言うとじいちゃんは笑顔でそう答えた。じいちゃんからそれを受け取ってお礼を言うと俺はまたフィリアの部屋に向かって走った。
「おい、フィリアは?」
部屋に着いてすぐちっこい侍女に聞くとあいつは首を横に振った。まだ目が覚めないらしい。俺は本当に願掛けでしかないが持っていた花をフィリアの枕の横に置いた。
「ねぇ、それは?」
「カモミール」
ちっこい侍女に答えてやると奴は不思議そうな顔をした。何でカモミールを選んだかが分からないんだろう。
カモミールの花言葉は「逆境に耐える」。どんなに苦しくても戻ってきて欲しい。また微笑みかけて欲しい。そう思って選んだ。まぁ絶対にちっこい侍女には教えてやらねぇけど。
フィリアの方へ向き直ったちっこい侍女は叫び始めた。病人に叫ぶのはどうかと思うが今は言わないでおこう。
「お嬢様!起きてください!お嬢様!」
「…………ラ、ナ……。だから何度も言ってるでしょう?病人に叫ぶのはダメだって」
「お嬢様!」
「フィリア!」
フィリアはゆっくりと目を開けて、すぐにちっこい侍女を注意した。確かに注意の内容はもっともだがここで注意するフィリアもフィリアだと思う。
「ジェイくんも、待っててくれたのね。ありがとう」
フィリアは俺に向かってそう言うといつも通りに微笑んだ。その顔があまりに綺麗で俺は泣きたくなってしまった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
⚠︎時期的には五月のイメージで書いてます。作者はお花に関しての知識が皆無なので間違っていたり、おかしいと思うところがあったら教えていただけると幸いです。
俺が公爵邸に通うようになって少ししたある日のことだった。その日もいつも通りちっこい侍女がうるさかった。フィリアはめずらしくずっとぼーっとしていて話しかけてみても無反応だった。
「おい、フィリア!何ぼーっとしてんだよ!」
「ちょっと何回言ったら分かるのよ!お嬢様への口の聞き方をもっと考えなさいってば!」
ちっこい侍女は思いっきり俺の肩を殴った。あいつはしつけだの何だの言っていたがあれは完全なる暴力だ。まず女の力じゃなかった。俺は倍返しをしようとじいちゃんが置いていった金属製のスコップを握った。ただ俺はこれの先端を使おうとしたわけではない。面で頭をたたいてやろうとしただけだ。それに対してあいつは箒を構えた。持ち方は完全に剣のそれだった。絶対あいつは武術をやっている。俺はそう確信した。互いに緊張感が走ったその時……
「二人とも落ち着いて!」
それまでぼーっとしていたフィリアの声がかかった。しかしそれから後も俺とちっこい侍女の喧嘩は続いた。俺はもちろん引く気はないがあっちもなかなか引かない。喧嘩に火がついてきた頃だった。
「もう!二人ともいい加減にしなさい。喧嘩せずにいられるようになるまで私は二人とは話しません!少しは歩み寄ることを覚えるべきよ」
フィリアが今まで見たことのない怒った顔でそう言った。俺は驚いて言葉も出なかった。いつもは笑顔で仲裁に入ってくるのに。そう思っていたのはちっこい侍女も同じらしく俺とあいつは全く同じ顔をしていた。フィリアは今までにないオーラを放ちながら屋敷の中に帰っていった。
「おい、どうすんだよ」
沈黙を断ち切るためにちっこい侍女に話しかけた。
「どうするって……お嬢様と話せるようになるには喧嘩をやめないと……でもあんたはムカつく奴だし」
「俺もお前はムカつく奴だと思う」
「何よ!って……だからこれがダメなのに……」
ちっこい侍女はそう言って俯いた。俺もどうすればいいかわからずにいた。するとちっこい侍女とは別の侍女がこっちに向かって走ってきた。
「ちょっとラナ!それにそこの坊主!」
「リサさん!」
「俺坊主じゃねぇし」
「そんなことはどうでもいいのよ!それより、お嬢様がっ」
リサという侍女が言うにはフィリアが突然倒れてしまったらしい。フィリアの体が弱いのは本人から聞いていたが、俺が来てからはそんな様子は見られなかったので俺は動揺した。頭が真っ白になった。それでも何とか足を動かしてフィリアのいる部屋に向かった。
扉から一歩足を踏み入れてフィリアの顔を見た時俺は言葉を失った。フィリアの顔は真っ白だった。まるで死体のように。それから近づくのが怖くなって俺は動けなくなった。
「お嬢様!」
一緒に部屋まで来たちっこい侍女はすぐにフィリアの眠るベッドの方へと走っていった。フィリアの手を握って叫んでいる。それを見ている俺は未だに頭が真っ白だった。
「……っと、ちょっと!あんた何突っ立ってんのよ!聞いてるの?」
「……」
「ねぇ、……っジェイ!」
俺はハッとして我に帰った。
「俺、は……」
うまく頭が回らない。するとちっこい侍女が俺の方にズンズンと歩いてきた。それから思いっきり俺の両頬を掌で叩いた。パァン!と大きな音が鳴る。
「いってっ……何す……」
「怖いのはわかる。私だって最初はそうだった。だけど!ここで突っ立ってたって何も変わんないの!あんたお嬢様のお友達なんでしょ?だったらお嬢様の意識が戻るために、願掛けでも何でもしなさいよ!」
俺の両頬を手で挟んだままちっこい侍女はそう言った。そうか、呼び戻せばいいんだ。俺は俺なりの方法で。そう思って俺はすぐに部屋を飛び出した。
「って、ちょっとあんたどこ行くのよ!」
ちっこい侍女の声を背中に浴びながら俺は走った。庭に出てじいちゃんを見つけると俺は叫んだ。
「じいちゃん!」
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
じいちゃんは俺たちからだいぶ離れたところにいたのでフィリアが倒れたことは知らない。ただ伝えてもぎっくり腰になってしまいそうなので用件だけ伝えることにした。
「あぁ、それならあるよ」
俺がとある花が欲しいと言うとじいちゃんは笑顔でそう答えた。じいちゃんからそれを受け取ってお礼を言うと俺はまたフィリアの部屋に向かって走った。
「おい、フィリアは?」
部屋に着いてすぐちっこい侍女に聞くとあいつは首を横に振った。まだ目が覚めないらしい。俺は本当に願掛けでしかないが持っていた花をフィリアの枕の横に置いた。
「ねぇ、それは?」
「カモミール」
ちっこい侍女に答えてやると奴は不思議そうな顔をした。何でカモミールを選んだかが分からないんだろう。
カモミールの花言葉は「逆境に耐える」。どんなに苦しくても戻ってきて欲しい。また微笑みかけて欲しい。そう思って選んだ。まぁ絶対にちっこい侍女には教えてやらねぇけど。
フィリアの方へ向き直ったちっこい侍女は叫び始めた。病人に叫ぶのはどうかと思うが今は言わないでおこう。
「お嬢様!起きてください!お嬢様!」
「…………ラ、ナ……。だから何度も言ってるでしょう?病人に叫ぶのはダメだって」
「お嬢様!」
「フィリア!」
フィリアはゆっくりと目を開けて、すぐにちっこい侍女を注意した。確かに注意の内容はもっともだがここで注意するフィリアもフィリアだと思う。
「ジェイくんも、待っててくれたのね。ありがとう」
フィリアは俺に向かってそう言うといつも通りに微笑んだ。その顔があまりに綺麗で俺は泣きたくなってしまった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
⚠︎時期的には五月のイメージで書いてます。作者はお花に関しての知識が皆無なので間違っていたり、おかしいと思うところがあったら教えていただけると幸いです。
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