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第一章
9.5話①
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(ジェイ視点)
昔から花が好きだった。家は花屋でじいちゃんも公爵家の庭師だから生まれた時からずっと花の香りに包まれて生きてきた。だからその日も全部花のためだった。
「ジェイ、公爵邸の庭に行ってみないかい?」
家に帰ってきてすぐじいちゃんが言った。
「じいちゃん、いきなり何だよ」
「わしが育てている花もあるし、お前がこの前分けてくれた花も植え替えてあるんだけどね」
俺の耳は「わしの育てている花」という言葉に反応した。俺は自分でもわかるくらい期待を込めて目を輝かせた。
「じいちゃんの花が見れんのか!行く!」
「そうかい。じゃあ明日ついておいで」
じいちゃんはシワだらけの手で乱暴に俺の頭を撫でた。俺はじいちゃんの花が見れることで頭がいっぱいだった。
******************
「こんにちは!私はフィリアっていうの。あなたのお名前は?」
じいちゃんについて来て馬鹿みたいに広い屋敷に着いたと思ったらこの屋敷のお嬢様だという女が声をかけてきた。どうせ貴族なんだから俺のことなんて見下してるくせに。面倒なんだから演技なんてやめろよ。
「俺はジェイ。っていうか俺はお前に会いに来たんじゃなくてじいちゃんの庭を見に来たんだよね。早く案内してくんない?」
俺は怒らせてやろうと思ってこう言った。けど女は怒らなかった。代わりにちっこい侍女がキャンキャン吠えてきた。生意気な奴だ。
それから庭に着くと、そこは俺にとっての理想が詰まったような場所だった。春の花たちが最も美しい状態で咲き誇っている。水や肥料がちょうどいいバランスで与えられているのがよく分かった。やっぱりじいちゃんはすごい人なんだ!じゃなきゃ公爵家の庭師になんてなれないしな!
俺はしばらくじいちゃんと話していた。俺は興奮していて例のお嬢様のことはすっかり忘れていたけど、じいちゃんがいきなり声を落として話しかけてきた。
「お前がここに来られたのはね、お嬢様のおかげなんだよ」
「何でだよ?じいちゃんがここで働いてたから来れたんじゃねぇの?」
「お前は馬鹿だねぇ……。わしにそんな権限があるはずがないだろうに。お嬢様がお前を招待してくれたんだよ。公爵家のお客さんとしてね」
俺は目を見開いた。貴族なんか平民を見下してる奴ばっかだと思ってたのにあいつは俺を一人の客として、対等な立場として扱ったんだ。
「お嬢様は優しい子なんだよ。ほら、早くお礼を言っておいで」
じいちゃんは少し強めの力で俺の背中を押した。俺はバランスを崩しそうになりながらあいつの方へと歩いた。
「おい、お前」
「フィリアです」
「フ、フィリア…………ありがとな」
「何のことですか?」
俺が振り絞った勇気を何でもないもののようにキョトンとした顔でこっちを見てくる。
「っお前が、俺をここに呼べるようにしてくれたんだろ?」
「あぁ、そのことですか!気にしないでください。クロールさんにはいつも良くしていただいてますし、ジェイくんにも会ってみたかったので」
そう言ってフィリアは柔らかく微笑んだ。少しも感謝しろとは口にせずにむしろ俺に会ってみたかったと言った。
「……お前、いい奴だな」
俺は肩の力が抜けた気がした。貴族にはこういう優しい奴もいるんだ。そりゃそうか。人の良し悪しに平民も貴族も関係ないんだ。今目の前にいる奴がいい奴だと思えることが大切で奇跡みたいなことなんだ。そう思うと自然と俺は笑顔になっていた。
それから俺はじいちゃんについていって週に一回公爵邸に通うようになった。一つはじいちゃんの技を学ぶため。もう一つはいい奴だって心から言える奴の笑顔が見たいから。
昔から花が好きだった。家は花屋でじいちゃんも公爵家の庭師だから生まれた時からずっと花の香りに包まれて生きてきた。だからその日も全部花のためだった。
「ジェイ、公爵邸の庭に行ってみないかい?」
家に帰ってきてすぐじいちゃんが言った。
「じいちゃん、いきなり何だよ」
「わしが育てている花もあるし、お前がこの前分けてくれた花も植え替えてあるんだけどね」
俺の耳は「わしの育てている花」という言葉に反応した。俺は自分でもわかるくらい期待を込めて目を輝かせた。
「じいちゃんの花が見れんのか!行く!」
「そうかい。じゃあ明日ついておいで」
じいちゃんはシワだらけの手で乱暴に俺の頭を撫でた。俺はじいちゃんの花が見れることで頭がいっぱいだった。
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「こんにちは!私はフィリアっていうの。あなたのお名前は?」
じいちゃんについて来て馬鹿みたいに広い屋敷に着いたと思ったらこの屋敷のお嬢様だという女が声をかけてきた。どうせ貴族なんだから俺のことなんて見下してるくせに。面倒なんだから演技なんてやめろよ。
「俺はジェイ。っていうか俺はお前に会いに来たんじゃなくてじいちゃんの庭を見に来たんだよね。早く案内してくんない?」
俺は怒らせてやろうと思ってこう言った。けど女は怒らなかった。代わりにちっこい侍女がキャンキャン吠えてきた。生意気な奴だ。
それから庭に着くと、そこは俺にとっての理想が詰まったような場所だった。春の花たちが最も美しい状態で咲き誇っている。水や肥料がちょうどいいバランスで与えられているのがよく分かった。やっぱりじいちゃんはすごい人なんだ!じゃなきゃ公爵家の庭師になんてなれないしな!
俺はしばらくじいちゃんと話していた。俺は興奮していて例のお嬢様のことはすっかり忘れていたけど、じいちゃんがいきなり声を落として話しかけてきた。
「お前がここに来られたのはね、お嬢様のおかげなんだよ」
「何でだよ?じいちゃんがここで働いてたから来れたんじゃねぇの?」
「お前は馬鹿だねぇ……。わしにそんな権限があるはずがないだろうに。お嬢様がお前を招待してくれたんだよ。公爵家のお客さんとしてね」
俺は目を見開いた。貴族なんか平民を見下してる奴ばっかだと思ってたのにあいつは俺を一人の客として、対等な立場として扱ったんだ。
「お嬢様は優しい子なんだよ。ほら、早くお礼を言っておいで」
じいちゃんは少し強めの力で俺の背中を押した。俺はバランスを崩しそうになりながらあいつの方へと歩いた。
「おい、お前」
「フィリアです」
「フ、フィリア…………ありがとな」
「何のことですか?」
俺が振り絞った勇気を何でもないもののようにキョトンとした顔でこっちを見てくる。
「っお前が、俺をここに呼べるようにしてくれたんだろ?」
「あぁ、そのことですか!気にしないでください。クロールさんにはいつも良くしていただいてますし、ジェイくんにも会ってみたかったので」
そう言ってフィリアは柔らかく微笑んだ。少しも感謝しろとは口にせずにむしろ俺に会ってみたかったと言った。
「……お前、いい奴だな」
俺は肩の力が抜けた気がした。貴族にはこういう優しい奴もいるんだ。そりゃそうか。人の良し悪しに平民も貴族も関係ないんだ。今目の前にいる奴がいい奴だと思えることが大切で奇跡みたいなことなんだ。そう思うと自然と俺は笑顔になっていた。
それから俺はじいちゃんについていって週に一回公爵邸に通うようになった。一つはじいちゃんの技を学ぶため。もう一つはいい奴だって心から言える奴の笑顔が見たいから。
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