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第四章 王立学院中等部三年生
239 甘いくちどけとトキメキ②
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Side:アシェル14歳 夏
体術の授業の終わりに、改めて幼馴染達にお礼を言い。
イザベルから渡されていたゼリーと一緒に解熱剤を飲んだ。ゼリーは栄養もだが、出来るだけ胃に負担を掛けないようにだ。
そのまま経済学の授業に出て、今日からアークエイドのお昼の味見役は近衛騎士にお任せしてしまったので、メルティーの食事の味見だけして校舎の五階へと向かう。
味見はしないが、差し入れだけは毎日持ってくると伝えてある。
——でないと二人の護衛達のお昼ご飯は、毎日味気ない栄養バーになりそうだ。
渋られるかと思ったが、一応一部の近衛騎士は毒見の訓練も受けているようだ。
ダニエルが居ない日だけは毒見をして欲しいと言われたので、それには了承しておいた。
食堂の食事であれば大丈夫だとは思うが、やはり訓練をしていない人間に毒見をさせる訳にはいかない。
五階の廊下には既に二か所。ファンクラブ会員達が集まっていた。
——ちゃんとお昼ご飯は食べたのだろうか。
「あ、アシェル様。こちらは準備万端ですわ。」
「カナリア嬢……思ったより賑わっているわね。っていうか、エトとトワも参加者なの?」
エラートとエトワールから、今日だけだと言われる。
ちょっぴり嫌そうな顔をしている辺り、強制招集されたらしい。
二人の周囲はシオンにイザーク、そしてリリアーデとデュークまで固めているので、この予想は間違っていないだろう。
今カナリアが居る場所が入場口で、ユーリと数名の女生徒が居る場所が出口になっているようだ。
運営スタッフは、それぞれお揃いの紫色の腕章まで付けている。
集まっている生徒達は既にリボンもネクタイも外していた。
新しく5階へやってくる生徒も、学年を示すリボンやネクタイは外したうえで集まっている。
既に整列しているし、相変わらず【シーズンズ】の教育は行き届いているようだ。
「ふふふ、やっぱり大盛況ですわ。イベントの開始ですが、アシェル様が踊り場に向かわれて、程なくすれば1人目が向かいますわ。最後はわたくしかミルル先輩のどちらかが伺いますので、その時に終了のご案内をいたしますわね。」
「分かったわ。何から何までありがとう。」
「いえいえ。わたくし共は楽しませていただいてますので。アシェル様も存分にお楽しみくださいませ。あ、でも出来ましたら。喋り口調は普段通りでお願いいたします。イベント中は服装に関わらず口調は自由にしていただいていいと、イザベルさんより許可は頂いておりますから。」
その方が楽なので嬉しい申し出なのだが、わざわざイザベルからの許可も貰っているところが用意周到だなと思ってしまう。
「ありがとう。じゃあ、運営お願いね。」
「えぇ。いってらっしゃいませ。」
カナリアに送り出されて、五階と屋上を繋ぐ踊り場に移動する。
階段に腰掛けて待っていると、廊下からカナリアの声が響いた。
「ただいまよりアシェル様公認、ファンクラブ公式イベント。【甘いくちどけとトキメキ】イベントを開始いたします!ルールは皆様ご存知だと思いますが、分からない事があれば腕章をつけたスタッフに確認してくださいませ。」
少し廊下がざわついたが、一瞬で静まり返る。
——やっぱり教育が行き届いている。
最初にやってきたのはシオンだった。
もしあの行列通りに来るのなら、最初は身内ばかりだ。
「アシェル様っ。早速来てしまいました。どうしたらいいですか?」
「ここにおいで。」
ぽんぽんと膝の上を叩くと、シオンは嬉しそうに微笑んでアシェルに跨ってくる。
そのアシェルより少しだけ小柄な身体を抱きしめれば、シオンもアシェルに抱き着いてくる。
「アシェル様を独り占め出来ないのが残念です。」
「これはそういうイベントだし、チョコレートが無くなるまではシオンが独り占めできるよ?」
「それもそうですね。早速良いですか?」
「うん。シオンの場合、指じゃなくて口で良いんだよね?」
頷いたシオンが『ストレージ』から出したチョコレートを口に咥える。
そのチョコレートをシオンの口に押し込むように唇を重ねた。
二人の体温で溶けたチョコレートの甘さが口の中に広がり、唾液と舌にねっとりと絡む。
味がしなくなるまでたっぷりと舌を絡めてキスをして、腕の中の温もりも堪能する。
やっぱりシオンのキスは上手で、気を抜くとアシェルまで溶かされてしまいそうだ。
「……っ……はぁっ……やっぱり、アシェル様のキスは凄いです。」
「ふふ、ごちそうさま。」
唇が離れ、蕩けた表情のシオンがぎゅっと抱き着いてくる。
少し落ち着いたのか、チュッと最後にアシェルの唇にキスをして離れたシオンは、いつもの可愛い笑顔を浮かべた。
「また明日も来ますね。……気分が悪くなったりはしてませんか?」
「うん、チョコレートは大丈夫みたい。ゼリーも食べれることが判明したし、少しずつ調子は良くなってるのかなって思うよ。」
「良かったです。じゃあ、交代しますね。」
手を振るシオンに手を振り返し、少し待っていると次がやってくる。
今度はエラートだ。
「いらっしゃい。さすがにエトを抱えるのは無理だな。エトはどっち?」
「抱えるって……そっか、シオンなら乗せれるもんな。指で。流石にダチとキスしたくねぇ。」
「ふふっ、りょーかい。じゃあ、エトが座って?」
首を傾げて階段に腰掛けたエラートの前に座る。
「待て、流石に床に座るのは……。」
「やっぱりダメなの?……じゃあエトの上に乗って良い?」
「ばっ、なんでそうなるんだよっ。」
エラートは顔を真っ赤にしてしまう。
エラートは初心なので、下から見上げる様に舐めてあげたほうが反応を楽しめるかと思ったが、床に座るのがダメなら乗せてもらうしかない。
身長差もあるし、今日なら女物の制服なので妥協できる。
「だって、床に座っちゃダメなんでしょ?それに元々、これは僕が誰かとイチャイチャするためのイベントだよ。人の温もりを感じたいじゃない。」
クスクスと悪戯っぽく笑うアシェルに、エラートは小さく溜め息を吐いた。
「それ……どっちの方が俺へのダメージが少ない?」
「エッチな気分になることがダメージなら、抱えて貰った方が良いと思うよ?この位置で指を舐めるのが一番効果的だと思ったから、僕はこうして座ったわけだし。お楽しみしたいなら、間違いなく今のままだね。」
「あーくそっ。今回だけだぞ。」
ひょいっと床に座っていた身体が持ち上げられ、エラートのがっしりした身体に抱き抱えられる。
その身体に腕を回せば、背中にまで羨ましいほど綺麗な筋肉が付いている。
「はぁ……いいなぁ、エトは筋肉質で……。ねぇ、チョコちょうだい?」
「女にはこんなに筋肉いらねぇだろ。アシェはそれくらいで丁度いいんだよ。ほれ。」
小さなラッピングの中から取り出されたチョコレートを、人差し指と親指でつまんで差し出してくれる。
「人差し指と中指で挟んで?食べにくいから。」
「うっ……これで良いか?」
「うん、いただきます。」
摘まみ直されたチョコレートを挟む指に、まずは舌を這わせる。
濡らしておかないと口に入れにくい。
根元から先端までしっかり唾液で濡らして、チョコレートを口に含む。
口の中で溶けるチョコレートの甘さを堪能しながら、長くて男らしい指に舌を這わせ絡めていく。
チラリとエラートの顔を見れば、真っ赤にしたまま目は逸らされている。
身体は緊張で固まってしまっている。
それならばとピチャ、チュクっと音が出る様に舌を絡めれば、エラートの身体がびくりと跳ねた。
回されている腕にも力が入ったのを感じる。
見てない方が余計な妄想を掻き立てる気がするのだが、その反応が楽しくて結局最後まで音を立ててチョコレートを堪能し、唇を離した。
そのまま指先にチュッとキスをして、終わりを告げる。
「ごちそうさま。すっごく美味しかったよ。」
「……コレ……他の男にもするのか?」
「男女問わず、指をご希望なら。……っていうか、どんなことされるか分かってて来てるでしょ?もう少し驚いてくれるかと思ったのに。」
「聞くとされるとじゃ大違いだけどな。……コレはマジでやべぇ……。」
「それって、どうヤバイのか聞いてほしいって意味で良いの?一応イベント中で時間もなさそうだから、質問は遠慮してたんだけど。」
「聞くなっ。今後聞かれても答えねぇからなっ。」
「ふふっ、残念。じゃあ交代してきてね。」
緩まった腕の中から抜け出して、また階段に腰掛ける。
指をハンカチで拭いているが、エラート相手ならこちらでクリーンをかけてあげた方が良かっただろうか。
というよりも手だけなら自分で見える場所なので、それくらいはいい加減練習がてら、クリーンを使えば良いのにと思う。
「はぁ……楽しそうなのは良いけど、嫌なことされたり襲われそうになったら卓上ベル鳴らせよ?毎日俺かマリクが近くに居るから。」
「うん、ありがと。」
どうやらエラートとマリクは、緊急時の対応要員として駆り出されるようだ。
その緊急時に鳴らす卓上ベルは、一応手を伸ばせば届く距離に置いてある。
使うことは無いと思うがアシェルの安全の為に渡された物なので、咄嗟の時に使える様にしてあった。
エラートの次はエトワールがやってくる。
少し時間が空いたし、エラートから事前情報を仕入れたのかもしれない。
既に顔が真っ赤だ。
「トワはどっち?」
「ファーストキスは、婚約者にする彼女とって決めてるから指……なんだけど。チョコをアシェの口に放り込むだけじゃダメか?」
「クスクス、トワって結構ロマンチストなんだね。でも、それはダメだよ。僕が楽しめないじゃない。」
「やっぱり……。」
「トワならギリギリ抱えてあげても、抱えられても良いよ?」
「それは断固として拒否するっ。」
「仕方ないなぁ。じゃあ目の前に立ってよ。で、チョコ食べさせて?」
アシェルの様子を警戒したまま、エトワールが目の前に立つ。
エラートも事前に何をされるか知っていたし、さっきのエラートの話をエトワールは聞いたはずだ。
指示しなくてもしっかり人差し指と中指で挟んで出されたチョコレートを、エトワールの手ごと掴んで口をつける。
エラートにしたようにしっかりとチョコレートを堪能させてもらったのだが、途中でエトワールはしゃがみ込んでしまった。
「ごちそうさま。」
終わりにチュッと指先にキスして手を離せば、即『クリーン』が掛けられ手が引っ込められる。
「俺もうお婿にいけない……。」
「これくらいで何言ってるのさ。……もしかして想像しすぎて暴発した?」
「してないからなっ!」
「じゃあ問題ないでしょ。」
少し揶揄えば直ぐに返事が返ってくる。
その反応が楽しくてクスクスと笑っていると、エトワールが溜め息を吐いた。
「錬金どころじゃないんだろうけど、もっとこう……他に気分転換になるものは無かったわけ?」
「トワまで男ばっかりだけど、女の子の反応を見るのって楽しいでしょ?恥ずかしがってくれるならなおさら。……人肌恋しかったから、需要があればお互い楽しめるかなーって。」
「リリィが言ってたのってそういう意味かよ……。まぁ、いいや。とりあえず次からはアシェご所望の女生徒ばっかりだぜ。ってか、イザークも巻き込まねぇと納得いかねぇ。あいつだけシレっと運営に回りやがったからな。」
「時間内で婚約者が居なければ、誰でも受け付けてるから。頑張って。」
この後どんなやり取りをするのかは分からないが、イザークは恐らく最後尾に並ばされるんだろうなと思う。
きっと強制招集された同士のエラートと一緒に、イザークを列に並ばせる攻防戦が行われるのだろう。
体術の授業の終わりに、改めて幼馴染達にお礼を言い。
イザベルから渡されていたゼリーと一緒に解熱剤を飲んだ。ゼリーは栄養もだが、出来るだけ胃に負担を掛けないようにだ。
そのまま経済学の授業に出て、今日からアークエイドのお昼の味見役は近衛騎士にお任せしてしまったので、メルティーの食事の味見だけして校舎の五階へと向かう。
味見はしないが、差し入れだけは毎日持ってくると伝えてある。
——でないと二人の護衛達のお昼ご飯は、毎日味気ない栄養バーになりそうだ。
渋られるかと思ったが、一応一部の近衛騎士は毒見の訓練も受けているようだ。
ダニエルが居ない日だけは毒見をして欲しいと言われたので、それには了承しておいた。
食堂の食事であれば大丈夫だとは思うが、やはり訓練をしていない人間に毒見をさせる訳にはいかない。
五階の廊下には既に二か所。ファンクラブ会員達が集まっていた。
——ちゃんとお昼ご飯は食べたのだろうか。
「あ、アシェル様。こちらは準備万端ですわ。」
「カナリア嬢……思ったより賑わっているわね。っていうか、エトとトワも参加者なの?」
エラートとエトワールから、今日だけだと言われる。
ちょっぴり嫌そうな顔をしている辺り、強制招集されたらしい。
二人の周囲はシオンにイザーク、そしてリリアーデとデュークまで固めているので、この予想は間違っていないだろう。
今カナリアが居る場所が入場口で、ユーリと数名の女生徒が居る場所が出口になっているようだ。
運営スタッフは、それぞれお揃いの紫色の腕章まで付けている。
集まっている生徒達は既にリボンもネクタイも外していた。
新しく5階へやってくる生徒も、学年を示すリボンやネクタイは外したうえで集まっている。
既に整列しているし、相変わらず【シーズンズ】の教育は行き届いているようだ。
「ふふふ、やっぱり大盛況ですわ。イベントの開始ですが、アシェル様が踊り場に向かわれて、程なくすれば1人目が向かいますわ。最後はわたくしかミルル先輩のどちらかが伺いますので、その時に終了のご案内をいたしますわね。」
「分かったわ。何から何までありがとう。」
「いえいえ。わたくし共は楽しませていただいてますので。アシェル様も存分にお楽しみくださいませ。あ、でも出来ましたら。喋り口調は普段通りでお願いいたします。イベント中は服装に関わらず口調は自由にしていただいていいと、イザベルさんより許可は頂いておりますから。」
その方が楽なので嬉しい申し出なのだが、わざわざイザベルからの許可も貰っているところが用意周到だなと思ってしまう。
「ありがとう。じゃあ、運営お願いね。」
「えぇ。いってらっしゃいませ。」
カナリアに送り出されて、五階と屋上を繋ぐ踊り場に移動する。
階段に腰掛けて待っていると、廊下からカナリアの声が響いた。
「ただいまよりアシェル様公認、ファンクラブ公式イベント。【甘いくちどけとトキメキ】イベントを開始いたします!ルールは皆様ご存知だと思いますが、分からない事があれば腕章をつけたスタッフに確認してくださいませ。」
少し廊下がざわついたが、一瞬で静まり返る。
——やっぱり教育が行き届いている。
最初にやってきたのはシオンだった。
もしあの行列通りに来るのなら、最初は身内ばかりだ。
「アシェル様っ。早速来てしまいました。どうしたらいいですか?」
「ここにおいで。」
ぽんぽんと膝の上を叩くと、シオンは嬉しそうに微笑んでアシェルに跨ってくる。
そのアシェルより少しだけ小柄な身体を抱きしめれば、シオンもアシェルに抱き着いてくる。
「アシェル様を独り占め出来ないのが残念です。」
「これはそういうイベントだし、チョコレートが無くなるまではシオンが独り占めできるよ?」
「それもそうですね。早速良いですか?」
「うん。シオンの場合、指じゃなくて口で良いんだよね?」
頷いたシオンが『ストレージ』から出したチョコレートを口に咥える。
そのチョコレートをシオンの口に押し込むように唇を重ねた。
二人の体温で溶けたチョコレートの甘さが口の中に広がり、唾液と舌にねっとりと絡む。
味がしなくなるまでたっぷりと舌を絡めてキスをして、腕の中の温もりも堪能する。
やっぱりシオンのキスは上手で、気を抜くとアシェルまで溶かされてしまいそうだ。
「……っ……はぁっ……やっぱり、アシェル様のキスは凄いです。」
「ふふ、ごちそうさま。」
唇が離れ、蕩けた表情のシオンがぎゅっと抱き着いてくる。
少し落ち着いたのか、チュッと最後にアシェルの唇にキスをして離れたシオンは、いつもの可愛い笑顔を浮かべた。
「また明日も来ますね。……気分が悪くなったりはしてませんか?」
「うん、チョコレートは大丈夫みたい。ゼリーも食べれることが判明したし、少しずつ調子は良くなってるのかなって思うよ。」
「良かったです。じゃあ、交代しますね。」
手を振るシオンに手を振り返し、少し待っていると次がやってくる。
今度はエラートだ。
「いらっしゃい。さすがにエトを抱えるのは無理だな。エトはどっち?」
「抱えるって……そっか、シオンなら乗せれるもんな。指で。流石にダチとキスしたくねぇ。」
「ふふっ、りょーかい。じゃあ、エトが座って?」
首を傾げて階段に腰掛けたエラートの前に座る。
「待て、流石に床に座るのは……。」
「やっぱりダメなの?……じゃあエトの上に乗って良い?」
「ばっ、なんでそうなるんだよっ。」
エラートは顔を真っ赤にしてしまう。
エラートは初心なので、下から見上げる様に舐めてあげたほうが反応を楽しめるかと思ったが、床に座るのがダメなら乗せてもらうしかない。
身長差もあるし、今日なら女物の制服なので妥協できる。
「だって、床に座っちゃダメなんでしょ?それに元々、これは僕が誰かとイチャイチャするためのイベントだよ。人の温もりを感じたいじゃない。」
クスクスと悪戯っぽく笑うアシェルに、エラートは小さく溜め息を吐いた。
「それ……どっちの方が俺へのダメージが少ない?」
「エッチな気分になることがダメージなら、抱えて貰った方が良いと思うよ?この位置で指を舐めるのが一番効果的だと思ったから、僕はこうして座ったわけだし。お楽しみしたいなら、間違いなく今のままだね。」
「あーくそっ。今回だけだぞ。」
ひょいっと床に座っていた身体が持ち上げられ、エラートのがっしりした身体に抱き抱えられる。
その身体に腕を回せば、背中にまで羨ましいほど綺麗な筋肉が付いている。
「はぁ……いいなぁ、エトは筋肉質で……。ねぇ、チョコちょうだい?」
「女にはこんなに筋肉いらねぇだろ。アシェはそれくらいで丁度いいんだよ。ほれ。」
小さなラッピングの中から取り出されたチョコレートを、人差し指と親指でつまんで差し出してくれる。
「人差し指と中指で挟んで?食べにくいから。」
「うっ……これで良いか?」
「うん、いただきます。」
摘まみ直されたチョコレートを挟む指に、まずは舌を這わせる。
濡らしておかないと口に入れにくい。
根元から先端までしっかり唾液で濡らして、チョコレートを口に含む。
口の中で溶けるチョコレートの甘さを堪能しながら、長くて男らしい指に舌を這わせ絡めていく。
チラリとエラートの顔を見れば、真っ赤にしたまま目は逸らされている。
身体は緊張で固まってしまっている。
それならばとピチャ、チュクっと音が出る様に舌を絡めれば、エラートの身体がびくりと跳ねた。
回されている腕にも力が入ったのを感じる。
見てない方が余計な妄想を掻き立てる気がするのだが、その反応が楽しくて結局最後まで音を立ててチョコレートを堪能し、唇を離した。
そのまま指先にチュッとキスをして、終わりを告げる。
「ごちそうさま。すっごく美味しかったよ。」
「……コレ……他の男にもするのか?」
「男女問わず、指をご希望なら。……っていうか、どんなことされるか分かってて来てるでしょ?もう少し驚いてくれるかと思ったのに。」
「聞くとされるとじゃ大違いだけどな。……コレはマジでやべぇ……。」
「それって、どうヤバイのか聞いてほしいって意味で良いの?一応イベント中で時間もなさそうだから、質問は遠慮してたんだけど。」
「聞くなっ。今後聞かれても答えねぇからなっ。」
「ふふっ、残念。じゃあ交代してきてね。」
緩まった腕の中から抜け出して、また階段に腰掛ける。
指をハンカチで拭いているが、エラート相手ならこちらでクリーンをかけてあげた方が良かっただろうか。
というよりも手だけなら自分で見える場所なので、それくらいはいい加減練習がてら、クリーンを使えば良いのにと思う。
「はぁ……楽しそうなのは良いけど、嫌なことされたり襲われそうになったら卓上ベル鳴らせよ?毎日俺かマリクが近くに居るから。」
「うん、ありがと。」
どうやらエラートとマリクは、緊急時の対応要員として駆り出されるようだ。
その緊急時に鳴らす卓上ベルは、一応手を伸ばせば届く距離に置いてある。
使うことは無いと思うがアシェルの安全の為に渡された物なので、咄嗟の時に使える様にしてあった。
エラートの次はエトワールがやってくる。
少し時間が空いたし、エラートから事前情報を仕入れたのかもしれない。
既に顔が真っ赤だ。
「トワはどっち?」
「ファーストキスは、婚約者にする彼女とって決めてるから指……なんだけど。チョコをアシェの口に放り込むだけじゃダメか?」
「クスクス、トワって結構ロマンチストなんだね。でも、それはダメだよ。僕が楽しめないじゃない。」
「やっぱり……。」
「トワならギリギリ抱えてあげても、抱えられても良いよ?」
「それは断固として拒否するっ。」
「仕方ないなぁ。じゃあ目の前に立ってよ。で、チョコ食べさせて?」
アシェルの様子を警戒したまま、エトワールが目の前に立つ。
エラートも事前に何をされるか知っていたし、さっきのエラートの話をエトワールは聞いたはずだ。
指示しなくてもしっかり人差し指と中指で挟んで出されたチョコレートを、エトワールの手ごと掴んで口をつける。
エラートにしたようにしっかりとチョコレートを堪能させてもらったのだが、途中でエトワールはしゃがみ込んでしまった。
「ごちそうさま。」
終わりにチュッと指先にキスして手を離せば、即『クリーン』が掛けられ手が引っ込められる。
「俺もうお婿にいけない……。」
「これくらいで何言ってるのさ。……もしかして想像しすぎて暴発した?」
「してないからなっ!」
「じゃあ問題ないでしょ。」
少し揶揄えば直ぐに返事が返ってくる。
その反応が楽しくてクスクスと笑っていると、エトワールが溜め息を吐いた。
「錬金どころじゃないんだろうけど、もっとこう……他に気分転換になるものは無かったわけ?」
「トワまで男ばっかりだけど、女の子の反応を見るのって楽しいでしょ?恥ずかしがってくれるならなおさら。……人肌恋しかったから、需要があればお互い楽しめるかなーって。」
「リリィが言ってたのってそういう意味かよ……。まぁ、いいや。とりあえず次からはアシェご所望の女生徒ばっかりだぜ。ってか、イザークも巻き込まねぇと納得いかねぇ。あいつだけシレっと運営に回りやがったからな。」
「時間内で婚約者が居なければ、誰でも受け付けてるから。頑張って。」
この後どんなやり取りをするのかは分からないが、イザークは恐らく最後尾に並ばされるんだろうなと思う。
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