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第四章 王立学院中等部三年生
211 ダブルデート④
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※にするか悩むレベルの表現あり。
(アークエイド後半)
その後アルフォード視点に切り替わります。
なんにせよ、※じゃないけどエロ回です。
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Side:アークエイド14歳 春
何故婚約式にアシェルが出られないのか首を傾げていると、見かねたイザベルが助け舟を出してくれた。
「アシェル様。まだアークエイド様にはお話されていないのでしょう?首を傾げておられますわ。」
「あっ、そうだったわ。アーク……わたくしね、前世の記憶を持っているでしょう?それも授け子みたいに、ほとんど全部をハッキリと。だから家族の婚約式にも参加できないし、自分自身の婚約式も、式自体には参加できないみたいなの。」
つい先日メルティーとマリクの婚約式が執り行われたはずだ。
その婚約式に参加することが出来なかったのだろう。悲しそうにアシェルが口にする。
だが、前世の記憶を持っているから婚約式に参加できない理由が分からない。
「アシェル様。その説明では、何故婚約式に参加できないのか分かりませんわ。」
「神官様が言うには、記憶持ちは儀式の間に体調不良を起こしやすいらしいの。ほとんど何も思い出せないくらいだとそこまで影響はないらしいんだけど、記憶が残っていれば残っているほど酷い症状が出るらしくって。確かにあの部屋はわたくしの記憶と関係なく、どこか不安になるお部屋だったわ。体調不良の原因は不明らしいのだけれど、記憶持ちは儀式には参加せずに控室に行くように言われたわ。控室に行く前に聖杯みたいなものに血を垂らしたけど、わたくしが参加できたのはそれだけ。それに、わたくし自身が婚約式をする時も、同じような感じになると言われたわ。……王族の婚約式に本人が参加できないのがダメなら。早くわたくしのことは諦めて、シャーロット嬢と婚約するなり、他に良い人を探してちょうだい。アークと婚約をすることに決めて、直前になって無理ですって言われるのだけは嫌だわ。」
何故今の話から、アークエイドがアシェルを諦めるという話になるのだろうか。
だが、アシェルがアークエイドのことを思って口にしたことは分かる。そして少なからず婚約のことも、きちんと視野に入れてくれていることも。
「たったそれだけの理由で、アシェのことを諦めるわけないだろ。王族の愛はしつこいんだ。それに、もしあの儀式の間だけが要因なら、正式な婚約式への参加が無理でも別の場所でもう一度婚約式をすればいい。俺はアシェがずっと隣に居てくれるなら、別に婚約や結婚に拘るつもりはないしな。だが、婚約も結婚もしてないと、アシェはフリーだからと他のヤツと遊んでも問題ないと言い張るだろ?だから早く婚約したいだけだ。それにアシェは俺のモノだと、周りに言いふらしたいし見せびらかしたい。」
「何よ、ソレ。アークはバカップル思考なの?どちらにせよ、わたくしは“特別な好き”が理解できるまで、アークに返事はしないわよ。」
いつもの調子に戻ったアシェルに少し安心する。
大好きな女性が落ち込んでいる姿を見るのは、どんな理由であっても嫌だ。
「それは卒業までならいつまででも待つし、アシェが悩んで出した答えなら、どんな答えでも受け入れる。ただ、それまで他のヤツと遊んだりしないでくれ。……特にシオンと。アシェがシたいなら、俺がいくらでも満たしてやる。」
抱き寄せてチュッと頬にキスを落とすと、抵抗はないもののじとっと非難がましい視線が飛んでくる。
抵抗しないのは、アルフォードの前でイチャイチャして荒療治をするという話をしていたからだろうか。
「シたいのは僕じゃなくてアークでしょ?それに僕は現状フリーなんだから、別に僕が誰とキスしようと肌を重ねようと、アークには関係ないよね。それに、シオンだって僕とのことは遊びだって割り切ってるみたいだし、お互い遊びなら問題ないでしょ?少しくらいいつもの言葉遊びのご褒美をあげても、罰は当たらないと思うんだけど。」
「なぁ……何度も言ってるが、俺はアシェに求婚してるんだが?遊びだろうとなんだろうと、問題ないわけないだろ。そんなにお望みなら、今すぐこの場で抱いてやろうか?丁度今、言葉遣いも間違ったことだしな。そんな憎まれ口が叩けないくらい、ドロドロに溶かしてやる。」
言葉遣いの指摘に、ハッとアシェルが身体を硬直させたのが伝わってくる。
遠慮なくワンピースの上からアシェルの太腿を撫でると、ピクリとアシェルの身体が反応し、真っ赤に頬が染まった。
人に見られている自覚があるからか、やはりいつもより良い反応が返ってきている。
「ゃっ……ちがっ……わたくしがシたいんじゃなくって……。」
「さっきアシェは、キスのおねだりをしてくれただろう?アルフォード達が居ても構わないと。」
アークエイドの指摘に、それを否定できないアシェルは、より一層綺麗な白肌を赤く染める。
ここまでやれば流石に抵抗されるかと思ったが、肌を撫でる刺激にビクビクと身体を震わせるだけで、腕の中から逃れようともしない。
先程から何度もお預け状態で辛うじて理性を働かせているのに、ここまで抵抗が無いと本当に襲ってしまいそうだ。
「だってぇ……それ、キスだけだもんっ……。っん、えっちな触りかた、しちゃやだぁ……。あーくにされたら、ふわふわになっちゃうっ。やっ、きもちぃのに……おにいさまたちいるから、だめなのっ……。あーくぅ……それだめなの……っんぅ……。あーくのてぇ、きもちくて、んんっ。もっとほしくなっちゃうからぁ……だから、だめなのっ。」
ようやくアークエイドの手を抑えてきて、いやいやと首を振って抗議してくる。
だが、この言葉で散々煽ってくるのはどうにかならないのだろうか。
ダメだというが、どう聞いてももっとシてくれと言っているようにしか聞こえない。
二人っきりの時は嬉しいが、こちらは我慢せざるを得ない状況なのに煽るだけ煽られて、熱の行く先が無い状態だ。
アークエイドが太腿を撫でる手を止めれば、蕩け始めていたアシェルの表情が物欲しそうに悲し気に変わる。
そしてずいっと顔が近づいてくる。
「あーく……コレはだめだから、お仕置き、キスじゃダメ?いっぱいアーク気持ちよくするから。だから、お兄様達の前でえっちするのはダメ……。」
そんなことは百も承知だし、何故アシェル自身に言い聞かせるように言うのか。
ソレはもっとしてくれと言っているようにしか聞こえない。
「アシェがキスしたいんだろ?」
想定していた否定の言葉は返ってこずに、小さく頷いたアシェルと唇が重なる。
啄むようなキスの後、こちらから舌をいれてやるつもりだったのに、ぬるりとアシェルの舌が侵入してくる。
——これはかなり不味い。
アシェルが受け身の時とは全く違う、上手すぎるキスに身体の酸素が全て吸い取られているんじゃないかという錯覚すら覚えてしまう。
たっぷりと、好きなだけアークエイドの口の中を堪能した舌が、ようやく離れていく。
欲望のままにアシェルを襲わないだけで精一杯なのに、アシェルはソレを分かっているのだろうか。
「ふふっ、蕩けた表情のアークも可愛いわ。ねぇ、エッチはダメだけど、アークが辛いならお口でシてあげるわ。大丈夫、ちゃんとお兄様達からは見えないようにシてあげるから。」
言うが早いか、アークエイド自身を服の上から触れられた感覚に、慌ててアシェルの手を掴む。
これで少しでもキスの余韻にぼんやりしていると、間違いなく手際よくアークエイド自身を剥き出しにして、何の躊躇いもなく口に含んでくるだろう。
「待てっ。もう既に散々我慢させられてるんだ。そんなことされたら、間違いなくアシェが嫌だと言っても襲う自信がある。それに、俺が一回じゃ満足しないって知ってるだろ?」
これだけ言えば流石に止めてくれると思ったのに、手首を押さえられていても自由に動かせる指が、ズボン越しにアークエイドのものをスリスリと撫でてくる。痛くないか心配だが、少し力を入れて、アシェルの手を遠ざける。
——もういっそのこと、恥も外聞も捨てて本気で襲ってやろうか。
「我慢する必要はないわ。こんなにおっきくなって辛そうなんだもの。本当はお腹に欲しいけど……お口の中なら一杯出して良いのよ?ちゃんと全部ごっくんするから、何度イっても構わないわ。お口に一杯出して、お腹いっぱいにさせて?」
アークエイドが慌てたり、頬を染めたりするのを楽しんでいるのだろう。
意図した言葉で巧みに煽ってきながら、艶っぽいアメジスト色の瞳はどこか悪戯っぽく輝いている。
どうにかして回避できないかと助けを求めて二人を見ると、アルフォードは少し身を屈めて恥ずかしそうに座っているが、イザベルはお手洗いにでも行ってたのか、外から戻ってきたところだった。
そしてそのイザベルが微笑んだ唇が声を出さずに、「一日貸し切ったので、シていただいて構いませんよ。」と動いた。
なんなのだろうか、これは。公開処刑にされているのだろうか。
というよりも、見間違いでなければ一日貸し切ったと言っていた。今日のデートは中止で、このままここに籠るつもりなのだろうが、一体何回することを想定しているのだろうか。
そして、それを全て見せられているアルフォードは大丈夫なのだろうか。
色々な考えが脳裏を掠めるが、今はまず、アークエイドを襲う気満々のアシェルの対処をしなくてはいけない。
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Side:アルフォード18歳 春
イザベルとアシェルとアークエイドの四人でダブルデートに来て。
何故かアシェルとアークエイドがイチャイチャするところを見せられて——イザベルから脅されながら。
アレリオンの話をして、アシェルが婚約式に出れない話をして……。
そしてなぜか今、妹の口から、フリーだから誰とキスや閨事をしても問題ないはずだという、爆弾発言が投下された。
それに当たり前のように言い返すアークエイドの言葉も態度も、もう付き合っている恋人同士のそれだ。
それなのに婚約していない上にアシェルがあの思考なのであれば、あれだけハッキリとアシェルに好きだとか求婚していると口にするアークエイドが不憫に思えてくる。
「なぁ、ベル……もしかして、普段からこんな感じなのか?」
どう見ても、何度も押し問答しているようだった。
そして妹が羞恥に頬を染めていて、アークエイドの手の動きに反応しながら、男が聞くには辛いセリフを並べ立てている。
確実に兄が見るべきでは無い状況に、せめて視線だけでも反らすべく隣に座るイザベルに問いかける。
「あんな風に可愛らしいアシェル様を見るのは初めてですけれど、同じような押し問答もされているようですし、普段からお付き合いされているかのような関係ですわよ。あれで婚約してないのが不思議なくらいには。」
「だよな……。」
「それよりも普段聞いているお話だけだと、今のように、アシェル様がアークエイド様を揶揄っているほうがしっくりきますわね。延長しないとダメね、これは。」
気付けばあんなに恥ずかしそうにしていたアシェルが、いつの間にか重ねていた唇を離すところだった。
その台詞からも瞳の輝きからも、アシェルがアークエイドの反応を楽しんでいると知る事が出来る。生徒会室で揶揄っている時のように。
確かに先程までの姿より、今の姿の方がしっくりくる気がする。
そして、自然にアークエイドの股間に手が伸ばされるのも、バッチリ目撃してしまった。
紅茶を口に含んでいたら、間違いなく噴き出していただろう。
コンコンと扉が叩かれ、イザベルが少しだけ開けた扉から外へと踏み出した。
「アルお義兄様。アシェル様達がナニをしても止めてはダメですし、目も逸らさないでくださいませね。」
と笑顔で言った上で。
アシェル達は声を押さえているわけではないので、全てが筒抜けだ。
目を閉じて耳を塞ぎたくなるような仕草と言葉の応酬を、イザベルの言いつけを守らないと何をされるか分からない恐怖に、言いつけを守ることしか出来ない。
怒ったイザベルは手が付けられなくなるので、出来るだけ怒らせたくないのだ。
辛うじて、二人とも魔道具で普段の見た目とは違うことだけが、このよく分からない状況下でのせめてもの救いだった。
アークエイドから助けてくれと視線が飛んできた辺りで、少し外に出ていたイザベルが戻ってきた。
そして救助を諦めたかのように、アークエイドの視線がアシェルへと戻る。
「なぁ、殿下を助けなくて良いのか?」
「構いませんわ。たった今、このお部屋は閉店まで貸し切りましたから。」
「閉店までって……。」
一体アシェルとアークエイドに、ナニをどこまでさせるつもりなのだろうか。
そして、もしかしてアルフォードは荒療治と言う名目の元、それをこの目に納めなくてはいけないのだろうか。
イザベルの真意が分からず、どうするべきなのか分からない。
いや、イザベルが咎めてこないのなら、間違いなく今すぐイザベルを連れて外に出るべきなのだと思う。
「ベル、俺と他のとこに——。」
「嫌ですわ。アル義兄様は、殿下たちを見てドキドキしませんの?」
嫌だという言葉と共に、イザベルが上目遣いにしなだれかかってくる。
そしてそのままイザベルの手が、添えられたアルフォードの胸からゆっくりと下半身へ向かって降りてくる。
その手を慌てて掴んだ。ただでさえ誤魔化せない状態なのに、触られてしまうのは不味い。
「え、あっ、ベル。ちょっと待ってくれ。そりゃドキドキするけど、それとこれとはっ……。」
「もうっ、これだけお膳立てしても駄目ですの?わたくしはアル義兄様がどんな答えを出そうと、お返事がいつになろうと、今日はそのつもりで来たのよ。それともこれだけムラムラする状況でも、抱く気が起きないほどわたくしには魅力がないかしら?」
見上げて来ていたイザベルの瞳が、そっと伏せられた。
昔は小さかったイザベルもちゃんと成長していて、身体つきだって十分魅力的な女性だ。
別に女性としての魅力を感じていないわけではない。
「違うっ、魅力が無いとかそういうのじゃなくって……。ちゃんとするまで、そういうのはするもんじゃないだろ……。ベルは女の子なんだから、身体は大事にするべきだ。」
羞恥で頬が熱を持つのを感じながら、アルフォードは一生懸命に答える。
椅子のスペースが狭いので辛うじて押し倒されてはいないが、ほとんど変わらない状況だろう。
アルフォードにかかるイザベルの体重と体温、そして押し付けられている膨らみの柔らかさと鼻腔をくすぐる甘い香りが、寮で夜這いしてきたイザベルの姿を思い出させる。
——薄明りの下でも身体のラインが見えてしまいそうなほど薄い布を纏った、アルフォードに跨って頬を染めていたイザベルの姿が。
ただでさえ下半身が誤魔化せない状態になっているのに、余計なことを思い出してしまったせいで余計に熱が集まるのを感じる。
「ちゃんとって、ソレはいつまで待てばいいのかしら?……わたくし、これでも勇気を出してアル義兄様に想いを伝えたのよっ。それなのにっ、お返事を頂けないどころか、指一本触れていただけなかったなんて……お慕いした殿方に受け取っていただけないのに、大事に取っておく意味なんてないわっ。今日だって、アル義兄様にその気になっていただきたくて頑張ったのに……変な期待を抱かせるくらいなら、いっそキッパリ振っていただいた方がマシよっ。」
泣きそうな顔でぽかぽかとアルフォードの胸を叩きながら、イザベルが感情を顕わにする。
使用人として屋敷に勤め始めてからは見たことが無かったが、昔はこうやって感情のままに喋るのはよくあることだった。
昔そうしていたみたいに、イザベルの身体をギュッと抱きしめる。
こんな状態でも引き切ってくれない下半身の熱がバレるかもしれないが、今はそれどころではないのだ。
「返事はちゃんと考えて来たし、本当は今日言うつもりだったんだ。殿下たちと別行動するならその時に。しないならディナーに誘うか、ディナーのあとにアシェだけ先に帰らせてって……。」
今日のデートコースは分からなかったが、ダブルデートでも二人きりになる時間があるだろうと思っていたし、夕食の有無で拘束時間も変わってくる。
ディナーは王族専用の部屋と言っていたのでアークエイドにお願いして、少しだけアシェルと一緒に使用人の控室辺りに席を外してもらえば良いと思っていた。
それがまさかのアシェルが夜這いについてまで知っていたので、それならまどろっこしいことをせずに、アシェル達の前でも良いかと思っていたくらいなのだ。
こんな風になし崩し的に言うつもりは無かったのに、イザベルを泣かせたい訳でも返事を先延ばしにして不安にさせたい訳でもない。
あーくそっと心の中で悪態を吐きながら、情けない顔を見せたくなくてイザベルの身体を抱きしめたまま引き寄せる。
——なんで俺はこういう時に、スマートに物事を進められないのだろうか。
「本当はちゃんと、雰囲気とか考えて言うつもりだったんだからなっ。……イザベル・トラスト伯爵令嬢。ちゃんと考えて、一番大切なモノだって気付いたんだ。周囲が反対したとしても、俺は大切なベルを諦めるつもりはない。必ず幸せにしてみせる。だから、俺と結婚していただけませんか?」
「~~~っ、はい、喜んでっ!アルフォード様……ずっと、ずっとお慕いしておりました。本当に、夢ではないのよね……?」
ばっと上げられたイザベルの瞳に、涙が光る。
その涙をチュッと口付けて吸い取れば、一瞬でイザベルの顔が真っ赤に染まった。
その真っ赤に熟れた唇に口付けたい衝動を、悟られてしまわないように押さえる。
流石にプロポーズ直後に唇を奪ってしまうと、ガッツきすぎだと思われそうだ。
夜這いで起こされた時に唇は奪われたのでイザベルのファーストキスではないとしても、少しはムードも大切にしてあげたい。
こんなムードの欠片もないプロポーズをしたので、余計にだ。
「泣くほど思いつめさせてごめんな。でもベルには泣かずに笑っててほしい。それと……プロポーズがこんな状況ですまない……。もっとカッコよく、ちゃんと求婚したかったんだが……。」
「別にそんなこと……御返事が頂けたことに比べたら、些細な事ですわ。……でもお父様はきっと大丈夫だけれど、お母様は許して下さるかしら。……物凄く反対されそうな気がするわ。」
「ベルは心配するな。さっきも言っただろ、例え父上が反対しても、俺はベルを諦めるつもりは無いからな。時間はかかっちまったけど、大切なモノの中でベルが一番大事だって気付いたんだ。気付いてしまったのに手放すことが出来ないのは、ベルもよく知ってるだろ?例え周囲に反対されたとしても、幸い、俺は次男で家を出る身だしな。逆に、公爵家の息子と言っても跡継ぎじゃないから、金銭面で迷惑をかける事があるかもしれない。それでも俺と結婚してくれるか?」
「えぇ、勿論ですわ。でも、結婚したとしてもアシェル様の侍女は続けても良いかしら……?アシェル様を他の人にお任せしたくないの。お金はもし必要なら、アシェル様からたっぷりお給金を頂きますわ。と、いうよりも。既に生活費の残りとお小遣いを頂いているので、メイディーとアシェル様からお給金を貰っている状態だから、ある程度蓄えはありますわ。」
学院での生活費に限らず、イザベルにお小遣いまで渡してるのかと思ってしまうが、それもアシェルらしいと思ってしまう。
そして必要ならアシェルから給与としてたっぷりお金を貰おうというイザベルは、冗談ではなく本気で言っているだろう。それもイザベルらしいと思ってしまう。
「当たり前だろ。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ。でも……王宮に住み込みは止めてくれよ?せめて通いにしてくれ。」
「あらアル義兄様は、アシェル様がアークエイド様に嫁ぐと思っていらっしゃるの?……名前はなんてお呼びしたらいいかしら?まだ旦那様と呼ぶには早いし、お義兄様は変な感じだわ。」
「アシェの一番大切なモノは、間違いなく殿下だろうからな。俺自身悩んで出した答えってのもあるが、答えを出した後に、アン兄や父上にもどうやって相手を決めたんだって聞いてみたんだ。そしたら、見事に決め方が一緒だった。笑える話だろ?名前は好きに呼んだらいいけど、二人っきりの時はアルが良いな。お義兄様抜きの。どっちにしろ、婚約式をするまでは周りにバレないようにしないと、他の奴らがなんか言ってたら許せる気がしないからな。」
一生懸命イザベルの返事を考えたアルフォードは、ただ社交界で交流のあるだけの女性から、アビゲイルのような大切なモノの中にいる女性まで。
片っ端からパートナーとして、一生を添い遂げることが出来るかどうかを考えることにした。
すると不思議なことに、イザベル以外の女性からは告白された時点ですぐにお断りしただろうという結論に至ったのだ。
逆に言うと、イザベルとなら将来を思い描くことが出来ると。そして、大切なモノの中でも一番なのだと気付いた。
つまり、返事に迷った時点で、もう答えは出ていたのである。
ただ、こんな理由で好きと言ってしまっていいのか不安になって、アレリオンとアベルにどうやってパートナーを決めたのか聞きに行ってしまった。
別々に聞きに行ったのに、返ってきた答えはアルフォードと同じ、ふるいにかける作業だった。
アレリオンからは思ったより答えに辿り着くのが早かったねと笑われてしまったが、自分で答えに辿り着けるように黙っていてくれたのだ。
確かにこれは、自分で辿り着くべき答えだ。
いくら前世の記憶があると言っても、アシェルはアルフォードよりもメイディーらしい。
それにあれだけ素でアークエイドと接することが出来ている。
間違いなくアシェルの一番大切なモノはアークエイドだと、自分自身の一番を見つけた今なら確信を持って言えた。
「どうやって決めたかは、いつか聞かせて頂きますわ。ぽろっとアシェル様に言ってしまわないように。その方が良いのでしょう?アル様。……思ったよりも恥ずかしいわ。今まで通りバレないように振舞いますから、お願いですから使用人仲間に手を出さないで下さいね?暴力的な意味で。基本的に使用人仲間の恋愛話は、面白おかしく娯楽としてお喋りしているだけですから。一部主人の反応を楽しむ者も居るので、真に受けない方が良いですわ。」
「あぁ。自分で辿り着かないと意味が無い決め方だからな。殿下がしつこくって、ある意味良かったよ。まぁ、ベルに教えるとしたら、アシェが答えを出した後か、タイムリミット間際だな。面白おかしくって……なんだそれ、そう聞くとちょっと怖いな。あぁ、使用人達に手を出したりしないって約束する。暴力的にも恋愛的にもな。そもそも、ベル以外に手を出すつもりもないしな。」
「手を出すと言えば……わたくしを抱いてくださいませんの?」
今身体が密着していることを、なるべく意識しないようにマルベリー色の髪の毛を撫でながら会話をしていたのに、イザベルの言葉に噴き出しそうになる。
「抱くってっ。」
「ふふっ、アル様。顔が真っ赤ですわ。ちゃんと照れてくださるのね、嬉しいわ。もうプロポーズはお受けしましたわ。婚約式はまだだけれど、相思相愛なんだもの。身体を繋げてしまっても問題ないはずだわ。」
「問題なくないだろっ。こんな場所で……アシェも殿下もいるし、寝台すら無いんだぞ?それにベルは初めてだろ。流石に準備が……。」
女性の初体験を、いくらその目的利用の可能性がある店だとはいえ、こんな外で貰っていい訳がない。それも目撃者を作ってしまうような状態で。
それに、初体験は痛みや出血を伴うことが多い。
出血はクリーンやヒールでどうにかできるだろうが、せめて香油の準備は必要だ。
今日はそんなつもりはなかったので、用意していない。
いくら迫られても、イザベルに苦痛は与えたくなかった。
※にするか悩むレベルの表現あり。
(アークエイド後半)
その後アルフォード視点に切り替わります。
なんにせよ、※じゃないけどエロ回です。
******
Side:アークエイド14歳 春
何故婚約式にアシェルが出られないのか首を傾げていると、見かねたイザベルが助け舟を出してくれた。
「アシェル様。まだアークエイド様にはお話されていないのでしょう?首を傾げておられますわ。」
「あっ、そうだったわ。アーク……わたくしね、前世の記憶を持っているでしょう?それも授け子みたいに、ほとんど全部をハッキリと。だから家族の婚約式にも参加できないし、自分自身の婚約式も、式自体には参加できないみたいなの。」
つい先日メルティーとマリクの婚約式が執り行われたはずだ。
その婚約式に参加することが出来なかったのだろう。悲しそうにアシェルが口にする。
だが、前世の記憶を持っているから婚約式に参加できない理由が分からない。
「アシェル様。その説明では、何故婚約式に参加できないのか分かりませんわ。」
「神官様が言うには、記憶持ちは儀式の間に体調不良を起こしやすいらしいの。ほとんど何も思い出せないくらいだとそこまで影響はないらしいんだけど、記憶が残っていれば残っているほど酷い症状が出るらしくって。確かにあの部屋はわたくしの記憶と関係なく、どこか不安になるお部屋だったわ。体調不良の原因は不明らしいのだけれど、記憶持ちは儀式には参加せずに控室に行くように言われたわ。控室に行く前に聖杯みたいなものに血を垂らしたけど、わたくしが参加できたのはそれだけ。それに、わたくし自身が婚約式をする時も、同じような感じになると言われたわ。……王族の婚約式に本人が参加できないのがダメなら。早くわたくしのことは諦めて、シャーロット嬢と婚約するなり、他に良い人を探してちょうだい。アークと婚約をすることに決めて、直前になって無理ですって言われるのだけは嫌だわ。」
何故今の話から、アークエイドがアシェルを諦めるという話になるのだろうか。
だが、アシェルがアークエイドのことを思って口にしたことは分かる。そして少なからず婚約のことも、きちんと視野に入れてくれていることも。
「たったそれだけの理由で、アシェのことを諦めるわけないだろ。王族の愛はしつこいんだ。それに、もしあの儀式の間だけが要因なら、正式な婚約式への参加が無理でも別の場所でもう一度婚約式をすればいい。俺はアシェがずっと隣に居てくれるなら、別に婚約や結婚に拘るつもりはないしな。だが、婚約も結婚もしてないと、アシェはフリーだからと他のヤツと遊んでも問題ないと言い張るだろ?だから早く婚約したいだけだ。それにアシェは俺のモノだと、周りに言いふらしたいし見せびらかしたい。」
「何よ、ソレ。アークはバカップル思考なの?どちらにせよ、わたくしは“特別な好き”が理解できるまで、アークに返事はしないわよ。」
いつもの調子に戻ったアシェルに少し安心する。
大好きな女性が落ち込んでいる姿を見るのは、どんな理由であっても嫌だ。
「それは卒業までならいつまででも待つし、アシェが悩んで出した答えなら、どんな答えでも受け入れる。ただ、それまで他のヤツと遊んだりしないでくれ。……特にシオンと。アシェがシたいなら、俺がいくらでも満たしてやる。」
抱き寄せてチュッと頬にキスを落とすと、抵抗はないもののじとっと非難がましい視線が飛んでくる。
抵抗しないのは、アルフォードの前でイチャイチャして荒療治をするという話をしていたからだろうか。
「シたいのは僕じゃなくてアークでしょ?それに僕は現状フリーなんだから、別に僕が誰とキスしようと肌を重ねようと、アークには関係ないよね。それに、シオンだって僕とのことは遊びだって割り切ってるみたいだし、お互い遊びなら問題ないでしょ?少しくらいいつもの言葉遊びのご褒美をあげても、罰は当たらないと思うんだけど。」
「なぁ……何度も言ってるが、俺はアシェに求婚してるんだが?遊びだろうとなんだろうと、問題ないわけないだろ。そんなにお望みなら、今すぐこの場で抱いてやろうか?丁度今、言葉遣いも間違ったことだしな。そんな憎まれ口が叩けないくらい、ドロドロに溶かしてやる。」
言葉遣いの指摘に、ハッとアシェルが身体を硬直させたのが伝わってくる。
遠慮なくワンピースの上からアシェルの太腿を撫でると、ピクリとアシェルの身体が反応し、真っ赤に頬が染まった。
人に見られている自覚があるからか、やはりいつもより良い反応が返ってきている。
「ゃっ……ちがっ……わたくしがシたいんじゃなくって……。」
「さっきアシェは、キスのおねだりをしてくれただろう?アルフォード達が居ても構わないと。」
アークエイドの指摘に、それを否定できないアシェルは、より一層綺麗な白肌を赤く染める。
ここまでやれば流石に抵抗されるかと思ったが、肌を撫でる刺激にビクビクと身体を震わせるだけで、腕の中から逃れようともしない。
先程から何度もお預け状態で辛うじて理性を働かせているのに、ここまで抵抗が無いと本当に襲ってしまいそうだ。
「だってぇ……それ、キスだけだもんっ……。っん、えっちな触りかた、しちゃやだぁ……。あーくにされたら、ふわふわになっちゃうっ。やっ、きもちぃのに……おにいさまたちいるから、だめなのっ……。あーくぅ……それだめなの……っんぅ……。あーくのてぇ、きもちくて、んんっ。もっとほしくなっちゃうからぁ……だから、だめなのっ。」
ようやくアークエイドの手を抑えてきて、いやいやと首を振って抗議してくる。
だが、この言葉で散々煽ってくるのはどうにかならないのだろうか。
ダメだというが、どう聞いてももっとシてくれと言っているようにしか聞こえない。
二人っきりの時は嬉しいが、こちらは我慢せざるを得ない状況なのに煽るだけ煽られて、熱の行く先が無い状態だ。
アークエイドが太腿を撫でる手を止めれば、蕩け始めていたアシェルの表情が物欲しそうに悲し気に変わる。
そしてずいっと顔が近づいてくる。
「あーく……コレはだめだから、お仕置き、キスじゃダメ?いっぱいアーク気持ちよくするから。だから、お兄様達の前でえっちするのはダメ……。」
そんなことは百も承知だし、何故アシェル自身に言い聞かせるように言うのか。
ソレはもっとしてくれと言っているようにしか聞こえない。
「アシェがキスしたいんだろ?」
想定していた否定の言葉は返ってこずに、小さく頷いたアシェルと唇が重なる。
啄むようなキスの後、こちらから舌をいれてやるつもりだったのに、ぬるりとアシェルの舌が侵入してくる。
——これはかなり不味い。
アシェルが受け身の時とは全く違う、上手すぎるキスに身体の酸素が全て吸い取られているんじゃないかという錯覚すら覚えてしまう。
たっぷりと、好きなだけアークエイドの口の中を堪能した舌が、ようやく離れていく。
欲望のままにアシェルを襲わないだけで精一杯なのに、アシェルはソレを分かっているのだろうか。
「ふふっ、蕩けた表情のアークも可愛いわ。ねぇ、エッチはダメだけど、アークが辛いならお口でシてあげるわ。大丈夫、ちゃんとお兄様達からは見えないようにシてあげるから。」
言うが早いか、アークエイド自身を服の上から触れられた感覚に、慌ててアシェルの手を掴む。
これで少しでもキスの余韻にぼんやりしていると、間違いなく手際よくアークエイド自身を剥き出しにして、何の躊躇いもなく口に含んでくるだろう。
「待てっ。もう既に散々我慢させられてるんだ。そんなことされたら、間違いなくアシェが嫌だと言っても襲う自信がある。それに、俺が一回じゃ満足しないって知ってるだろ?」
これだけ言えば流石に止めてくれると思ったのに、手首を押さえられていても自由に動かせる指が、ズボン越しにアークエイドのものをスリスリと撫でてくる。痛くないか心配だが、少し力を入れて、アシェルの手を遠ざける。
——もういっそのこと、恥も外聞も捨てて本気で襲ってやろうか。
「我慢する必要はないわ。こんなにおっきくなって辛そうなんだもの。本当はお腹に欲しいけど……お口の中なら一杯出して良いのよ?ちゃんと全部ごっくんするから、何度イっても構わないわ。お口に一杯出して、お腹いっぱいにさせて?」
アークエイドが慌てたり、頬を染めたりするのを楽しんでいるのだろう。
意図した言葉で巧みに煽ってきながら、艶っぽいアメジスト色の瞳はどこか悪戯っぽく輝いている。
どうにかして回避できないかと助けを求めて二人を見ると、アルフォードは少し身を屈めて恥ずかしそうに座っているが、イザベルはお手洗いにでも行ってたのか、外から戻ってきたところだった。
そしてそのイザベルが微笑んだ唇が声を出さずに、「一日貸し切ったので、シていただいて構いませんよ。」と動いた。
なんなのだろうか、これは。公開処刑にされているのだろうか。
というよりも、見間違いでなければ一日貸し切ったと言っていた。今日のデートは中止で、このままここに籠るつもりなのだろうが、一体何回することを想定しているのだろうか。
そして、それを全て見せられているアルフォードは大丈夫なのだろうか。
色々な考えが脳裏を掠めるが、今はまず、アークエイドを襲う気満々のアシェルの対処をしなくてはいけない。
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Side:アルフォード18歳 春
イザベルとアシェルとアークエイドの四人でダブルデートに来て。
何故かアシェルとアークエイドがイチャイチャするところを見せられて——イザベルから脅されながら。
アレリオンの話をして、アシェルが婚約式に出れない話をして……。
そしてなぜか今、妹の口から、フリーだから誰とキスや閨事をしても問題ないはずだという、爆弾発言が投下された。
それに当たり前のように言い返すアークエイドの言葉も態度も、もう付き合っている恋人同士のそれだ。
それなのに婚約していない上にアシェルがあの思考なのであれば、あれだけハッキリとアシェルに好きだとか求婚していると口にするアークエイドが不憫に思えてくる。
「なぁ、ベル……もしかして、普段からこんな感じなのか?」
どう見ても、何度も押し問答しているようだった。
そして妹が羞恥に頬を染めていて、アークエイドの手の動きに反応しながら、男が聞くには辛いセリフを並べ立てている。
確実に兄が見るべきでは無い状況に、せめて視線だけでも反らすべく隣に座るイザベルに問いかける。
「あんな風に可愛らしいアシェル様を見るのは初めてですけれど、同じような押し問答もされているようですし、普段からお付き合いされているかのような関係ですわよ。あれで婚約してないのが不思議なくらいには。」
「だよな……。」
「それよりも普段聞いているお話だけだと、今のように、アシェル様がアークエイド様を揶揄っているほうがしっくりきますわね。延長しないとダメね、これは。」
気付けばあんなに恥ずかしそうにしていたアシェルが、いつの間にか重ねていた唇を離すところだった。
その台詞からも瞳の輝きからも、アシェルがアークエイドの反応を楽しんでいると知る事が出来る。生徒会室で揶揄っている時のように。
確かに先程までの姿より、今の姿の方がしっくりくる気がする。
そして、自然にアークエイドの股間に手が伸ばされるのも、バッチリ目撃してしまった。
紅茶を口に含んでいたら、間違いなく噴き出していただろう。
コンコンと扉が叩かれ、イザベルが少しだけ開けた扉から外へと踏み出した。
「アルお義兄様。アシェル様達がナニをしても止めてはダメですし、目も逸らさないでくださいませね。」
と笑顔で言った上で。
アシェル達は声を押さえているわけではないので、全てが筒抜けだ。
目を閉じて耳を塞ぎたくなるような仕草と言葉の応酬を、イザベルの言いつけを守らないと何をされるか分からない恐怖に、言いつけを守ることしか出来ない。
怒ったイザベルは手が付けられなくなるので、出来るだけ怒らせたくないのだ。
辛うじて、二人とも魔道具で普段の見た目とは違うことだけが、このよく分からない状況下でのせめてもの救いだった。
アークエイドから助けてくれと視線が飛んできた辺りで、少し外に出ていたイザベルが戻ってきた。
そして救助を諦めたかのように、アークエイドの視線がアシェルへと戻る。
「なぁ、殿下を助けなくて良いのか?」
「構いませんわ。たった今、このお部屋は閉店まで貸し切りましたから。」
「閉店までって……。」
一体アシェルとアークエイドに、ナニをどこまでさせるつもりなのだろうか。
そして、もしかしてアルフォードは荒療治と言う名目の元、それをこの目に納めなくてはいけないのだろうか。
イザベルの真意が分からず、どうするべきなのか分からない。
いや、イザベルが咎めてこないのなら、間違いなく今すぐイザベルを連れて外に出るべきなのだと思う。
「ベル、俺と他のとこに——。」
「嫌ですわ。アル義兄様は、殿下たちを見てドキドキしませんの?」
嫌だという言葉と共に、イザベルが上目遣いにしなだれかかってくる。
そしてそのままイザベルの手が、添えられたアルフォードの胸からゆっくりと下半身へ向かって降りてくる。
その手を慌てて掴んだ。ただでさえ誤魔化せない状態なのに、触られてしまうのは不味い。
「え、あっ、ベル。ちょっと待ってくれ。そりゃドキドキするけど、それとこれとはっ……。」
「もうっ、これだけお膳立てしても駄目ですの?わたくしはアル義兄様がどんな答えを出そうと、お返事がいつになろうと、今日はそのつもりで来たのよ。それともこれだけムラムラする状況でも、抱く気が起きないほどわたくしには魅力がないかしら?」
見上げて来ていたイザベルの瞳が、そっと伏せられた。
昔は小さかったイザベルもちゃんと成長していて、身体つきだって十分魅力的な女性だ。
別に女性としての魅力を感じていないわけではない。
「違うっ、魅力が無いとかそういうのじゃなくって……。ちゃんとするまで、そういうのはするもんじゃないだろ……。ベルは女の子なんだから、身体は大事にするべきだ。」
羞恥で頬が熱を持つのを感じながら、アルフォードは一生懸命に答える。
椅子のスペースが狭いので辛うじて押し倒されてはいないが、ほとんど変わらない状況だろう。
アルフォードにかかるイザベルの体重と体温、そして押し付けられている膨らみの柔らかさと鼻腔をくすぐる甘い香りが、寮で夜這いしてきたイザベルの姿を思い出させる。
——薄明りの下でも身体のラインが見えてしまいそうなほど薄い布を纏った、アルフォードに跨って頬を染めていたイザベルの姿が。
ただでさえ下半身が誤魔化せない状態になっているのに、余計なことを思い出してしまったせいで余計に熱が集まるのを感じる。
「ちゃんとって、ソレはいつまで待てばいいのかしら?……わたくし、これでも勇気を出してアル義兄様に想いを伝えたのよっ。それなのにっ、お返事を頂けないどころか、指一本触れていただけなかったなんて……お慕いした殿方に受け取っていただけないのに、大事に取っておく意味なんてないわっ。今日だって、アル義兄様にその気になっていただきたくて頑張ったのに……変な期待を抱かせるくらいなら、いっそキッパリ振っていただいた方がマシよっ。」
泣きそうな顔でぽかぽかとアルフォードの胸を叩きながら、イザベルが感情を顕わにする。
使用人として屋敷に勤め始めてからは見たことが無かったが、昔はこうやって感情のままに喋るのはよくあることだった。
昔そうしていたみたいに、イザベルの身体をギュッと抱きしめる。
こんな状態でも引き切ってくれない下半身の熱がバレるかもしれないが、今はそれどころではないのだ。
「返事はちゃんと考えて来たし、本当は今日言うつもりだったんだ。殿下たちと別行動するならその時に。しないならディナーに誘うか、ディナーのあとにアシェだけ先に帰らせてって……。」
今日のデートコースは分からなかったが、ダブルデートでも二人きりになる時間があるだろうと思っていたし、夕食の有無で拘束時間も変わってくる。
ディナーは王族専用の部屋と言っていたのでアークエイドにお願いして、少しだけアシェルと一緒に使用人の控室辺りに席を外してもらえば良いと思っていた。
それがまさかのアシェルが夜這いについてまで知っていたので、それならまどろっこしいことをせずに、アシェル達の前でも良いかと思っていたくらいなのだ。
こんな風になし崩し的に言うつもりは無かったのに、イザベルを泣かせたい訳でも返事を先延ばしにして不安にさせたい訳でもない。
あーくそっと心の中で悪態を吐きながら、情けない顔を見せたくなくてイザベルの身体を抱きしめたまま引き寄せる。
——なんで俺はこういう時に、スマートに物事を進められないのだろうか。
「本当はちゃんと、雰囲気とか考えて言うつもりだったんだからなっ。……イザベル・トラスト伯爵令嬢。ちゃんと考えて、一番大切なモノだって気付いたんだ。周囲が反対したとしても、俺は大切なベルを諦めるつもりはない。必ず幸せにしてみせる。だから、俺と結婚していただけませんか?」
「~~~っ、はい、喜んでっ!アルフォード様……ずっと、ずっとお慕いしておりました。本当に、夢ではないのよね……?」
ばっと上げられたイザベルの瞳に、涙が光る。
その涙をチュッと口付けて吸い取れば、一瞬でイザベルの顔が真っ赤に染まった。
その真っ赤に熟れた唇に口付けたい衝動を、悟られてしまわないように押さえる。
流石にプロポーズ直後に唇を奪ってしまうと、ガッツきすぎだと思われそうだ。
夜這いで起こされた時に唇は奪われたのでイザベルのファーストキスではないとしても、少しはムードも大切にしてあげたい。
こんなムードの欠片もないプロポーズをしたので、余計にだ。
「泣くほど思いつめさせてごめんな。でもベルには泣かずに笑っててほしい。それと……プロポーズがこんな状況ですまない……。もっとカッコよく、ちゃんと求婚したかったんだが……。」
「別にそんなこと……御返事が頂けたことに比べたら、些細な事ですわ。……でもお父様はきっと大丈夫だけれど、お母様は許して下さるかしら。……物凄く反対されそうな気がするわ。」
「ベルは心配するな。さっきも言っただろ、例え父上が反対しても、俺はベルを諦めるつもりは無いからな。時間はかかっちまったけど、大切なモノの中でベルが一番大事だって気付いたんだ。気付いてしまったのに手放すことが出来ないのは、ベルもよく知ってるだろ?例え周囲に反対されたとしても、幸い、俺は次男で家を出る身だしな。逆に、公爵家の息子と言っても跡継ぎじゃないから、金銭面で迷惑をかける事があるかもしれない。それでも俺と結婚してくれるか?」
「えぇ、勿論ですわ。でも、結婚したとしてもアシェル様の侍女は続けても良いかしら……?アシェル様を他の人にお任せしたくないの。お金はもし必要なら、アシェル様からたっぷりお給金を頂きますわ。と、いうよりも。既に生活費の残りとお小遣いを頂いているので、メイディーとアシェル様からお給金を貰っている状態だから、ある程度蓄えはありますわ。」
学院での生活費に限らず、イザベルにお小遣いまで渡してるのかと思ってしまうが、それもアシェルらしいと思ってしまう。
そして必要ならアシェルから給与としてたっぷりお金を貰おうというイザベルは、冗談ではなく本気で言っているだろう。それもイザベルらしいと思ってしまう。
「当たり前だろ。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ。でも……王宮に住み込みは止めてくれよ?せめて通いにしてくれ。」
「あらアル義兄様は、アシェル様がアークエイド様に嫁ぐと思っていらっしゃるの?……名前はなんてお呼びしたらいいかしら?まだ旦那様と呼ぶには早いし、お義兄様は変な感じだわ。」
「アシェの一番大切なモノは、間違いなく殿下だろうからな。俺自身悩んで出した答えってのもあるが、答えを出した後に、アン兄や父上にもどうやって相手を決めたんだって聞いてみたんだ。そしたら、見事に決め方が一緒だった。笑える話だろ?名前は好きに呼んだらいいけど、二人っきりの時はアルが良いな。お義兄様抜きの。どっちにしろ、婚約式をするまでは周りにバレないようにしないと、他の奴らがなんか言ってたら許せる気がしないからな。」
一生懸命イザベルの返事を考えたアルフォードは、ただ社交界で交流のあるだけの女性から、アビゲイルのような大切なモノの中にいる女性まで。
片っ端からパートナーとして、一生を添い遂げることが出来るかどうかを考えることにした。
すると不思議なことに、イザベル以外の女性からは告白された時点ですぐにお断りしただろうという結論に至ったのだ。
逆に言うと、イザベルとなら将来を思い描くことが出来ると。そして、大切なモノの中でも一番なのだと気付いた。
つまり、返事に迷った時点で、もう答えは出ていたのである。
ただ、こんな理由で好きと言ってしまっていいのか不安になって、アレリオンとアベルにどうやってパートナーを決めたのか聞きに行ってしまった。
別々に聞きに行ったのに、返ってきた答えはアルフォードと同じ、ふるいにかける作業だった。
アレリオンからは思ったより答えに辿り着くのが早かったねと笑われてしまったが、自分で答えに辿り着けるように黙っていてくれたのだ。
確かにこれは、自分で辿り着くべき答えだ。
いくら前世の記憶があると言っても、アシェルはアルフォードよりもメイディーらしい。
それにあれだけ素でアークエイドと接することが出来ている。
間違いなくアシェルの一番大切なモノはアークエイドだと、自分自身の一番を見つけた今なら確信を持って言えた。
「どうやって決めたかは、いつか聞かせて頂きますわ。ぽろっとアシェル様に言ってしまわないように。その方が良いのでしょう?アル様。……思ったよりも恥ずかしいわ。今まで通りバレないように振舞いますから、お願いですから使用人仲間に手を出さないで下さいね?暴力的な意味で。基本的に使用人仲間の恋愛話は、面白おかしく娯楽としてお喋りしているだけですから。一部主人の反応を楽しむ者も居るので、真に受けない方が良いですわ。」
「あぁ。自分で辿り着かないと意味が無い決め方だからな。殿下がしつこくって、ある意味良かったよ。まぁ、ベルに教えるとしたら、アシェが答えを出した後か、タイムリミット間際だな。面白おかしくって……なんだそれ、そう聞くとちょっと怖いな。あぁ、使用人達に手を出したりしないって約束する。暴力的にも恋愛的にもな。そもそも、ベル以外に手を出すつもりもないしな。」
「手を出すと言えば……わたくしを抱いてくださいませんの?」
今身体が密着していることを、なるべく意識しないようにマルベリー色の髪の毛を撫でながら会話をしていたのに、イザベルの言葉に噴き出しそうになる。
「抱くってっ。」
「ふふっ、アル様。顔が真っ赤ですわ。ちゃんと照れてくださるのね、嬉しいわ。もうプロポーズはお受けしましたわ。婚約式はまだだけれど、相思相愛なんだもの。身体を繋げてしまっても問題ないはずだわ。」
「問題なくないだろっ。こんな場所で……アシェも殿下もいるし、寝台すら無いんだぞ?それにベルは初めてだろ。流石に準備が……。」
女性の初体験を、いくらその目的利用の可能性がある店だとはいえ、こんな外で貰っていい訳がない。それも目撃者を作ってしまうような状態で。
それに、初体験は痛みや出血を伴うことが多い。
出血はクリーンやヒールでどうにかできるだろうが、せめて香油の準備は必要だ。
今日はそんなつもりはなかったので、用意していない。
いくら迫られても、イザベルに苦痛は与えたくなかった。
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