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第三章 王立学院中等部二年生
194 王立学院祭の来訪者②
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Side:アシェル14歳 冬
「貴方たち。デリケートな話を堂々としてると思ったら、食事の話になって味見の話になって……このまま放っておいたら、充電を始める気でしょう?今から夕食だってこと、覚えているかしら?」
「あれ、アビー?いつ来てたんだ?」
アルフォードを引っ張ったのは、いつのまにやら部屋に到着していたアビゲイルだ。
その片腕はしっかりノアールの腕に絡みついている。
「イザベルが貴方を叱っている時から居たわよ。インターホンを鳴らした時は、アシェルが叱られていたんじゃないかしら?それで、夕食はどうするの?わたくし、何もないのならノア様と二人っきりが良いのだけれど?」
どことなくアビゲイルが不機嫌そうなのは、今日話し合いはしなくてはいけないが、折角堂々と二人きりになれるようになったノアールと、二人だけでゆっくり出来ないのが嫌なのだろう。
いくらノアールが秘密のお話に参加できるようになったと言っても、二人っきりではなく大所帯だ。
慌てて皆食卓に集まり、賑やかな夕食会が開始された。
アビゲイルからも身体の成長にお祝いの言葉と、そして辛いと思うがその時はアークエイドをこき使えと言われる。
それにアシェルは苦笑しながら、ふと気になることを尋ねた。
「そういえば……アビー様は今、毎日お薬を飲まれているんですよね?恐らくホルモン剤だと思いますが。アビー様の主治医って専属ですか?もし処方箋を書いてもらうなら、その処方箋に書かれた素材がアスノームで流通しているか確認しておかないと、すぐには手に入りにくいかもしれませんよ。」
リリアーデも母親に避妊薬を飲ませるために、結局アベルを頼ったと言っていた。
もし主治医がアベルなら、アスノームに引っ越しても使える処方箋を書いてくれるだろうが、他の医師の場合どうか分からない。
「あら……そうなの?お薬って処方箋を書いてもらえば、どこでも同じものをいただけると思っていたのだけれど。」
「大抵の奴はそうだけど、避妊薬みたいなのは手に入りにくいぞ。ヒューナイトはホルモン剤を飲む習慣が無いからな。赤子に影響が出る成分が入ってるような薬草は、最初っから取り扱ってない薬師も多いから、もしかすると、だな。」
「それは困るわ。わたくし、あれが無いと一週間丸まる寝台から出れないわ。」
「お父様なら良いようにしてくれると思うんですが、主治医ってお父様ですか?」
「いいえ。アベル医務官長はお父様やお母様の主治医ね。わたくしの主治医はユンファ医務次官だわ。ねぇ、アルに見せたら、アスノームで流通があるものかの判別や、他の代替品での処方は出来るかしら?」
アビゲイルの言葉に、アルフォードは少し悩んだ末に答えを出す。
「出せなくはない。けど父上やアシェのように、ベストな状態には出来ない。俺に出来るとしたら、その処方の成分をそのままに置き換えるだけだ。一度違う薬師に見せるなら、調整も出来たほうが良いだろ?必要なければそのままで良いんだし。まぁ、頼むならアシェが適任だろうな。」
「アル兄様……お父様はともかく、僕のことは買いかぶりですよ?」
「アシェはリリアーデ嬢にも薬を作ってあげたりで、その辺りはしっかり学習してるだろ?女性のホルモンバランスとかは解るが、俺はその手の薬に携わったことが無い。従軍医師希望だから、どちらかというと外科系の勉強がメインだしな。ってなると、アシェに頼んだ方が確実だ。」
確かに従軍医師になるつもりなら、ヒューナイトで使うことがほとんどない避妊薬やホルモン剤の作り方や、それに使う薬草や成分など。そういった細かいことは勉強範囲に入れていないだろう。
その暇があれば人体の構造を覚え、回復薬や解毒剤の改良をし、魔法ではなく外科的に治療できる手技を磨く方が優先度が高い。
「でも……僕がアビー様のを……。良いんですか?」
アルフォードにとってのアビゲイルは、アシェルにとってのアークエイドや幼馴染達と同じ“大切なモノ”だ。
本来なら、大切だと思っている家族にすら手出しをされたくない、自分だけの“大切なモノ”だ。
「普段なら、絶対に俺がって言うところなんだがな。流石の俺でも、こればっかりは父上かアシェに任せるべきだってことは分かる。逆に二人以外に任せるのは嫌だ。ただ……出来上がったら、レポートだけは絶対読ませてくれないか?流石に何も知りません、って言うのは嫌なんだ。」
少し悔しそうに、それでも優しく微笑んでくれるアルフォードは、やはり苦渋の決断なのだろう。
アシェルはその選択を迫られた時に、同じような決断が出来るだろうか。
今年からマリクの抑制剤はアベルが処方してくれるが、あの新薬開発自体を知っているのに携われなかったとなれば、かなり悔しい思いをしただろう。
「分かってます。必ずレポートも現物もお渡ししますから。アル兄様が納得するまで完成にはしません。アビー様も了承いただけるのであれば、アシェル・メイディーの名にかけて、最良の薬を処方させていただきます。」
「だ、そうだ。アビーもそれでいいか?」
「良いも何も……わたくしはアルがそれで良いのなら構わないわ。ただ、処方箋の受け渡しは冬休みに入るころでも良いかしら?次に次官の診察を受けるのが、その頃なのよ。急ぎなら、誰か使いをやるわ。」
アシェルとしては、開始はいつからでも問題ない。
アルフォードも邸から仕事に通うことが決まっているので、卒業後にレポートを見せるのも問題ない。
「僕はいつでも大丈夫です。でも、そうですね。冬休みの頭に頂けるのなら、新学期には調整しきったものが完成するかなと思います。その辺りは、就職するアル兄様のスケジュール次第かもしれませんけど。」
「婚約はしたけれど、式を挙げてアスノームに移り住むのは、まだまだ先のことだわ。急がなくて良いのだけれど、貴方たちのことだから。話しが上がったならなるべく早く取り掛かりたいし、結果を知りたいのでしょう?」
「春先に完成くらいの見積もりなら待てるけどな。流石にアシェ達が卒業するころまで結果をお預けは、我慢できないな。それに毎日飲むものだから、どうせ見せるなら早く見せて改良してもらった方が良い。」
「アルの中で改良は確定事項なのかしら?一応、アベル医務官長の次に偉い人が、わたくしの主治医なはずなのだけれど?」
「立場なんて関係ないって、いっつも言ってるだろ。父上が忙しくて無理だとしても、兄上が就職したから、本当は兄上を主治医にして欲しかったんだ。それなのにっ……。」
何かひと悶着あったのか、アルフォードがぐっと奥歯を噛みしめた。
アルフォードがこんな表情をするのは珍しい。
「アル。それは言っても仕方のないことだわ。その薬以外は、学院内ではアルの出した薬しか飲んでないわ。それで良いでしょう?もしアルが気になるのなら、アルが卒業した後はアシェルにお願いするわ。ノア様が卒業してしまえば、わたくしはアスノームに行くのだから。次官とは最低限の関りであれば問題ないでしょう?」
「……あぁ、そうだな。悪かったな。出来れば俺のためにも、俺が卒業した後はアシェにお願いしてくれ。あいつだけは絶対に嫌だ。アスノームで頼む薬師は前にも言ったように、冒険者ギルドに採取方法や時期の指定が厳しくて、金額もキッチリ払っていて、出来れば指名依頼している薬師だ。」
「もうっ。何度も言わなくても分かってるわよ。そういう拘りがある程、良い薬師だって言うんでしょう?」
「調薬の腕は置いておいて、少なくとも素材の見極めのできる薬師だ。そういう薬師は信用が置けるし、薬も効果が確かなものしか並ばないからな。」
アビゲイルから離れることになるアルフォードの、見知らぬ誰かにお願いするにあたっての落としどころなのだろう。
仮にアシェルがアークエイドの傍を離れるのだとしたら、アシェルだって同じような条件をかかりつけ薬師に求める。
そんな三人——今は二人以外を蚊帳の外に行われる会話を見ながら、ノアールは改めてメイディーの薬への熱意や“大切なモノ”への過保護さと、守り守られる関係な二人の絆の強さを思い知る。
話を聞きながら口を挟むどころか、どれもノアールにはできない、分からないことばかりだ。
どこか悔しい気持ちと、自分の無力さに気持ちが落ち込んでしまう。
「ノア、気にするだけ無駄だぞ。ノアが浮かない顔をしていたら、姉上が心配する。」
「それは分かってるんだけど……やっぱり、アビー様を領に連れて行っちゃって良いのかなって、思っちゃうよね。」
「良いに決まってるだろ。王都と領地とで分かれて暮らす夫婦もいるが、それは跡継ぎが出来た後だ。仮にそうしようと言われても、姉上は頷かないぞ。俺なら絶対にアシェの傍を離れたくない。」
アークエイドが言い切るのだから、本当にそうなのだろう。
実際プロポーズでは唇を奪われ、舌まで侵入して来ようとしたのを、辛うじて主導権を奪って。半ば押し倒されていたのをどうにか体勢を入れ替えてと、凄まじい勢いで押してきたのだ。今までのアプローチが控えめだったと思えるくらいに。
流石に婚約式までは控えめだったが、正式に婚約が済んだ今。
時間さえあれば、アビゲイルはノアールの元へとやってくる。
昼食時にはアルフォードが居ることも多いが、アシェルのように味見はしていないものの、味見はしなくても同席するのが学食で食べる条件だと言われれば仕方ない。
アシェルが必ずアークエイドの、そして今はメルティーの味見をしようとすることも知っているので、逆に味見をしていないのが不思議なくらいだ。
それに、元々は二人で食べているところにノアールがお邪魔した形だ。
「アシェに言われるまで、お薬を飲んでるならソレをどうするかとか、そういうの考えないといけないことに気付かなかったよ。まだ時間があるとはいえ、大事だよね。その……話しの内容的に、物凄くどこかが悪いとかじゃないんだよね?」
「医師家系だから余計に気になるだけだろ。今日はそういう話題だったしな。俺だってアシェが言うまで気付きもしなかった。そこは気にしなくて良い。ただ、母上も姉上も薬がないと、アシェの体調不良が可愛く見えるくらいには症状が酷いんだ。とにかく腹痛が酷くて、貧血も酷いらしい。機嫌が悪いことも多いし、食事に手を付けられないこともあるとか言っていた。出来れば月の物の期間は外への視察やデートはせずに、邸でゆっくりさせてやってほしい。あとは……身体を冷やすのも良くないと言っていた。時期によっては潮風は冷たいだろうから、その辺りも気にしてやって欲しい。」
「女性って大変なんだね。うん、それくらいなら、僕だって出来るから。ありがとう、アーク。デリケートな問題なのに教えてくれて。」
「気にするな。それに、これは俺が散々母上と姉上から言われたことだ。人によって違いはあるものの、どうしてもどこかに不調は出やすいらしい。それにノアに出来ることなら他にもあるだろ。」
「他に?」
首を傾げるノアールに、アークエイドは頷く。
「さっきアルフォードが言っていた、薬師に求めるものを聞いていただろ。夏と冬には帰省するんだ。その時に、事前に良い薬師がいないか調べておくと良い。調べた条件に不安があるなら、アシェに聞けば教えてくれるだろ。恐らくあれがアシェだとしても、アルフォードと同じことを言うはずだ。」
「そうだね。それなら僕にも出来るし、該当しそうな薬師を調べて、アシェに確認取って、薬師のことも調べて……うん。それなら僕もアビー様の力になれるよ。」
ようやく笑顔を浮かべたノアールに、アークエイドはホッとする。
この優しい幼馴染は、アビゲイルの為に気を病んでしまいそうだ。それぞれ適材適所があるのだから、出来ることをしてあげるだけでもアビゲイルは喜ぶというのに。
「あぁ、それが良い。なんなら、いくつか同じ種類の薬を買ってくれば、アシェが品定めもしてくれるだろ。薬に関しては、メイディーの右に出る者はいないからな。」
「うん。そうする。ありがとう、アーク。」
「いい、気にするな。」
楽しかった夕食会は終わりを告げ、メルティーや使用人達はそれぞれの部屋へと帰っていく。
「あ、アシェ義兄様。わたくし明日の午前中だけは、救護室に勤められることになりましたの。ご来賓の方との顔合わせは、一度に済まされた方が良いでしょう?」
「ありがとう、メル。もし手に負えないようなら、誰か使いを出してね。」
「それでしたら、私も明日は救護室に控えておきます。メルティー様で対処できないことですと、急ぎの方がよろしいでしょうから。明日からは、探査魔法を使っておられるでしょう?」
「ごめんね、ベル。お願いできる?僕かアル兄様のどちらかは、必ず使ってるから。」
「承りました。それでは失礼いたします。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
廊下で待ってくれていたマルローネ達と帰る姿を見送り、アシェル達は実験部屋へと移動する。
やはり密談をするのなら廊下に近いリビングよりも、角部屋で程よい広さの実験部屋の方がうってつけだ。
「揃ったな。じゃあ、防音するぞ。空気を震わす音よ。風の囁きよ。我が言の葉を守り給え『防音』。」
「もう、だから無詠唱でも良いって言ってるでしょ?」
「別に魔力消費量が大きく変わるわけでも無いし、良いだろ?こうする決まりなんだよ。」
「あの、椅子はどうしましょうか?キャンプ椅子を、アビー様の隣に出せば良いですかね?」
この前のようなやり取りを始める二人に、必要なことを聞きに行く。
大事な話なら遮るつもりはないが、話し合ったところでどうにもならない話だ。
この実験室にはいつもアシェルが使っているリクライニング椅子と、アークエイドが居座るために座る椅子が一脚あるだけだ。
今日は話し合いの為に事前に一番手前のテーブルは片付けておいたので、三人でテーブルに腰掛けても良いのだが、恐らくアビゲイルならノアールの隣に居たいだろうと思い提案する。
「あら、椅子は要らないわ。ねぇ、ノア様。わたくしを抱いて座ってくださる?」
要らないと言いつつ事後承諾を取ろうとするアビゲイルに、ノアールは顔を真っ赤にして首を横に振る。
「アビー様っ、さすがに皆の前でそれはっ。僕、別に立ったままでも良いですからっ。」
「それはわたくしが嫌だわ。どうしても駄目かしら?わたくしを膝に乗せるのは嫌?」
「嫌とかじゃなくてですねっ!」
助けを求めるようにアシェルとアークエイドに視線が飛んでくるが、恐らくアビゲイルは引かないだろう。
椅子を出してあげても、アビゲイルのストレージに仕舞われてしまう気がする。
「えっと……僕らだけだし良いんじゃないかな?僕だって……ほら。」
お手本とまではいかないが、アシェルがテーブルに腰掛けると、やっぱりアークエイドがぴったりと寄り添うように座ってくる。
アークエイドはアルフォードやアビゲイルの前だろうと、いつも通りだ。
それにもう一脚の椅子にアルフォードは腰掛けてしまっているし、傍観者を決め込んでいる。
反対する言葉が上がっていないので、アビゲイルの望む通りの形で良いということだ。
「アシェは不服か?なんなら姉上のように、アシェを膝の上に抱えても良いんだが?」
「寝言は寝て言ってよね。なんで僕が上に乗らなきゃいけないのさ。いつも言ってるでしょ。膝の上に乗りたいなら乗せてやるけど、僕が乗るのはお兄様達だけだって。」
「アーク……僕らと一緒の時は良いと思うけど、さすがにお兄さんの前でソレは……。それに二人ともまだ婚約してないって言うか、付き合ってなかったよね?せめて婚約してから——。」
「ノア様!でしたらわたくし達は、婚約しているので何の問題もありませんわね。弟の前でも関係ありませんわ。」
地味に墓穴を掘ったノアールは、結局アビゲイルに負けてアビゲイルを横抱きにして座る。
その首に抱き着くアビゲイルの表情は、とても幸せそうだ。
「まぁ、殿下がアシェにぴったり寄り添って座るのは、警護的にも問題ないけど……。アシェが嫌がることしたら、いくら殿下と言えど張っ倒すからな?」
「大丈夫です、アル兄様。その前に僕がやります。」
物騒な言葉をそっくりな笑顔で言う兄妹に、アークエイドは肩をすくめて見せる。
元よりこの状況では、実際にアシェルを膝の上に乗せられるなんて思っていない。
「冗談だ。二人とも本気で怒らせたら、なんて考えたくもない。」
「じゃあ、明日の打ち合わせに入ろうかしら。資料を配るから目を通して頂戴。それは後で回収して破棄するから、大事なところは覚えてちょうだいね。」
それぞれアビゲイルから周ってきたいくつかの用紙に、静かに目を通していく。
ちなみに最初からノアールの分は用意されていなかったので、最初からこの状態に持って行くつもりだったのだろう。
そこには対外的に出されている、アスラモリオン第一皇女と第二皇子のプロフィール。
そして警備として連れてくる人数と、魔法と武術どちらが得意かだけは書かれている。
ページ数が飛び飛びなのは、学院祭には必要のない書類は抜いてあるのだろう。
「モーリス皇子とムーラン皇女は王宮に宿泊されるわ。日中学院に居るのは、一日目、二日目は10時から15時までの5時間。皇女の方が後夜祭のダンスパーティーに出ると言って聞かないのだけれど、それは警備上止めて欲しいと伝えているわ。ただ……どうも、皇女はとても我儘らしいの。既にわたくし達は二人にお会いしたけれど、皇女の侍女がそっと教えてくれたわ。もしかしたら、後夜祭に押しかけてくるかもって。第二皇子の方は、表面的には人柄が良いのだけれど、皇女の方は気が強そうね。」
「外交中であることが分かっているのか……という感じだったからな。正直なところ。今日アシェのところで夕食を摂るのも、何故か皇女に行かないでくれって止められたんだ。皇女たちを迎え入れるための準備だと言って、振り切ってきたがな。」
「じゃあ連れて行ってくれとか、準備だけなら帰ってきて一緒に晩餐にしましょうとか……。なんていうか、本当に癖の強い方よ。」
外交目的で他国に来ているはずなのに、既に我儘放題だったようだ。
確か今日の昼に到着したと聞いていたはずなのに、何故見知らぬ相手にそこまで主張できるのだろうか。
「僕もご挨拶だけさせて貰ったけど、あまり周囲には居ないタイプの方だったよ。アシェの苦手なタイプのご令嬢かもしれない。」
優しいノアールが苦笑しながら言うくらい、そのムーラン皇女は非常識なんだろうか。
ノアールの言葉は軽めに言ってあるはずなので、額面通りよりも一、二割悪いほうに想像するくらいで丁度いいだろう。
先入観を持って関わるのは良くないと思うのだが、あまりにも散々な評価と話に、既に苦手意識が湧いてしまいそうだ。
「アシェ。モーリス皇子は問題ないと思うが、ムーラン皇女は初対面の相手は頭の先から足先まで何度かじろじろと見てくる。それも隠さずにだ。あまりにも居心地が悪かったり、嫌だと思ったら、アルフォードと交代して警護には付かなくて良い。」
「流石に僕個人の意見だけで、そういう訳にはいかないよ。明日の午前中はメルのお陰で一緒だけど、本当は僕もアル兄様も任せっきりにせずに手の届く範囲に居て、自分で観ていたいんだから。もしムーラン皇女が嫌な色の持ち主だとしても、僕はアル兄様に任せっぱなしになんてしないからね。お忍びだから目立たないようにしてるのは分かるけど、共は連れずに、生徒に紛れさせて二名と……見えない護衛をこんなに連れてくるんだよ?あっちがどう考えてるか分からないけど、嫌味なくらい沢山いるからね?」
正直なところ、これはヒューナイト王国とアスラモリオン帝国の護衛全てを記載していると言われてもおかしくないくらいの人数だ。
なんなら、半分だったとしても戦力過多ではないだろうか。
もしかしたら国での立場的に、そこまで練度の高くない兵士たちなのかもしれない。
それでも一体、何十人の襲撃者から守るつもりでいるんだろうか。
「嫌味なくらいってな……。皇族が他国に来ているんだ。確かに少しばかり多いと思わないでもないが、普段の俺達の護衛が少なすぎるんだ。」
「アークは普段から護衛代わりの幼馴染達に囲まれているから、学院にも連れてきていないものね。」
特別護衛らしいことはしていないのだが、恐らく全員——特に王都組は、アークエイドに手が出されそうになったら、例え自分の命を天秤にかけたとしても全力で守るだろう。
授業だって幼馴染はたっぷりと居るため、アークエイドが一人きりになるようなことは起きない。
そう考えると、護衛代わりと言われるのも納得だ。
「アビー様には付いてるんですか?」
「えぇ。アルが居る間は居ないけれどね。変に控えさせておいて、また攻撃されたらたまったものじゃないわ。」
「だから、アビーに確認せずに敵対行動を取って悪かったって言ってるだろ。学院祭の間はずっとくっついてきてるし、流石に覚えたって。」
「本人たちがもうあんな目に合いたくないって言って、拒否するのよ。命令すれば控えてくれるでしょうけど、アルに怯えたままじゃ役に立たないわ。それならアルが動きやすいように、余計なものは無くした方がマシよ。」
「怯えてるは流石に言いすぎだろ?」
「そんなことないわよ。折角信用できる人間を連れて来たのに、護衛を辞めるとまで言われたのよ?アルが過保護すぎるのよ。」
膝の上でアルフォードと言い合うアビゲイルに苦笑しながら、ノアールがぼそりと「何があったんだろうね。」と口にし、こちらを見てくる。
「僕は知らないよ。というか、アークに変なのがくっついてなくて良かったって、今更思ってる。」
「変なのってな……。兄上や姉上の話を聞いていたから、学院内で護衛は付けないことにしたんだ。基本的に皆から離れることは無いし、そのつもりも無いしな。父上たちからも、その方が良いだろうと言われた。冒険者活動中も、特別護衛はつけていなかったしな。」
「兄上ってことは、グレイニール殿下の時にもアビー様と同じことがあったんだよね。」
「あぁ。アシェの兄達の感知範囲に入ったうえで、それ以上近づこうとした瞬間だったと聞いている。メイディーの反応が無いから許可を得たものだと思って、もう少し兄上達に近づいて護衛しようとしたところを、だ。」
「それは……アシェだったら反応するだろうなって思うと、なんだか納得しちゃうね。アークは詳しく聞いてるの?」
「あぁ。でも、正直聞かない方が良いと思うぞ。お茶会の一件が可愛く思えるレベルだ。」
「えっ、あれが?あれでも十分凄かったのに……。逆に気になるよ。」
お茶会の一件が分からずに首を傾げているアシェルを置いてけぼりに、二人の会話は進んでいく。
「様子を見ながら進んだから大事には至らなかったらしいが、感じたのは冷気だけらしい。数人は実際に皮膚が裂けて出血している。アシェの兄達に確認を取ったところ、兄上達に急接近しようとしたら、その移動で喉を貫くようにアイスランスが配置されていた。それもご丁寧に認識阻害をかけてな。出血した奴は、本人の認識阻害と気配遮断もキャンセルされて、拘束までかけられたらしい。その上、魔力回路にまで干渉を受けている。」
「それは……確かに怯えるのも分かっちゃうかも。」
話を聞いただけのノアールにも、その全ての魔法が瞬く一瞬の間に行使されたであろうことが分かる。
アシェルはほんの一瞬で、少し離れて隠れていたはずのご令嬢の喉元にダガーを当てていたのだから。
「まぁ、わたくしの護衛は三人、学院祭の間は連れ歩くことになるわ。アシェルもソレだけは覚えていてちょうだいね。」
「三人ですね、了承しました。」
「アシェにはどれがアビーの護衛か教えてやるからな。」
「ありがとうございます、アル兄様。」
「流石に5時間居ても、時間が余ると思うのだけれど。名目上は論文を見に来るだけだけれど、武術大会も見に行くと言いかねないわ。その時は救護室をお借りするわね。」
アビゲイルの言葉に、二人は頷く。
変な場所で鑑賞されるより、対応しやすい場所で観戦してもらった方がマシだ。
「アル兄様。折角打ち合わせの時間もあるので、探査魔法の打ち合わせもしておきますか?」
「そうだな。その方がスムーズだろ。まずは一緒に居る時だな。」
二人同時に『探査魔法』を使用し、二人で魔力の波の譲り合いなどをしながら、丁度いい具合を確かめていく。
「やっぱり、これくらい近いと少し使いにくいですね。」
「だな。でも、これでどうだ?」
「これなら大丈夫です。アン兄様も一緒とかじゃなくて良かったです。救護室に居る間は、これくらい欲しいんですけど。良いですか?」
「あぁ。俺も救護室に居る間はそれくらい貰うな。」
「えぇ。もしもの時はお願いします。」
「それはこっちのセリフだよ。」
二人で配分をしっかり確認して、二人とも探査魔法の使用を止める。
「確認は終わったかしら?打ち合わせはこれだけよ。」
打ち合わせというよりも、アシェルとアルフォードに警備状況を知らせて、探査魔法の打ち合わせをさせたかったようだと感じる。
でも当日ぶっつけ本番よりも、こうやって事前に擦り合わせを出来たのはありがたい。
「さぁ、解散にしましょう。ノア様。泊って行っても良いかしら?と言っても、明日の朝には王宮に一旦帰らなくてはいけないのだけれど。」
「えっ……僕は構いませんよ。」
頬を染めたノアールが了承し、その言葉に頬を染めたアビゲイルが微笑んだ。
「アシェ。俺も——。」
「殿下はダメだ。そういうのはアシェの返事を貰ってからにしてくれ。」
「仕方ない。今日は王宮に帰る。」
アルフォードに食い気味に反対され、肩を竦めたアークエイドはチュッとアシェルの頬にキスをする。
そしてそのまま抱きしめようと伸びてくる手を、アシェルはペチンと叩き落した。
「この前も言ったでしょ。」
「くくっ、やっぱり兄の前でこれは駄目なんだな。」
「分かってるならしないでってば。」
「泊まれないんだ。これくらい良いだろ?」
「良くない。」
やり取りが恋人同士のそれに、ノアールはやっぱり二人は付き合っているのでは?と思ってしまう。
でも付き合っていないと本人たちが言うのだから、本当に付き合ってはいないのだろう。
マリクの抑制剤の件もあるし、キスの件も含め、どうやらアシェルの感覚は獣人寄りなようだ。
「さぁ、お暇しましょう。アシェル、遅くまでごめんなさいね。」
「いいえ。皆さん、おやすみなさい。」
打ち合わせはお開きになり、皆を見送ったアシェルはゆっくりと眠った。
明日から短い王立学院祭だ。
「貴方たち。デリケートな話を堂々としてると思ったら、食事の話になって味見の話になって……このまま放っておいたら、充電を始める気でしょう?今から夕食だってこと、覚えているかしら?」
「あれ、アビー?いつ来てたんだ?」
アルフォードを引っ張ったのは、いつのまにやら部屋に到着していたアビゲイルだ。
その片腕はしっかりノアールの腕に絡みついている。
「イザベルが貴方を叱っている時から居たわよ。インターホンを鳴らした時は、アシェルが叱られていたんじゃないかしら?それで、夕食はどうするの?わたくし、何もないのならノア様と二人っきりが良いのだけれど?」
どことなくアビゲイルが不機嫌そうなのは、今日話し合いはしなくてはいけないが、折角堂々と二人きりになれるようになったノアールと、二人だけでゆっくり出来ないのが嫌なのだろう。
いくらノアールが秘密のお話に参加できるようになったと言っても、二人っきりではなく大所帯だ。
慌てて皆食卓に集まり、賑やかな夕食会が開始された。
アビゲイルからも身体の成長にお祝いの言葉と、そして辛いと思うがその時はアークエイドをこき使えと言われる。
それにアシェルは苦笑しながら、ふと気になることを尋ねた。
「そういえば……アビー様は今、毎日お薬を飲まれているんですよね?恐らくホルモン剤だと思いますが。アビー様の主治医って専属ですか?もし処方箋を書いてもらうなら、その処方箋に書かれた素材がアスノームで流通しているか確認しておかないと、すぐには手に入りにくいかもしれませんよ。」
リリアーデも母親に避妊薬を飲ませるために、結局アベルを頼ったと言っていた。
もし主治医がアベルなら、アスノームに引っ越しても使える処方箋を書いてくれるだろうが、他の医師の場合どうか分からない。
「あら……そうなの?お薬って処方箋を書いてもらえば、どこでも同じものをいただけると思っていたのだけれど。」
「大抵の奴はそうだけど、避妊薬みたいなのは手に入りにくいぞ。ヒューナイトはホルモン剤を飲む習慣が無いからな。赤子に影響が出る成分が入ってるような薬草は、最初っから取り扱ってない薬師も多いから、もしかすると、だな。」
「それは困るわ。わたくし、あれが無いと一週間丸まる寝台から出れないわ。」
「お父様なら良いようにしてくれると思うんですが、主治医ってお父様ですか?」
「いいえ。アベル医務官長はお父様やお母様の主治医ね。わたくしの主治医はユンファ医務次官だわ。ねぇ、アルに見せたら、アスノームで流通があるものかの判別や、他の代替品での処方は出来るかしら?」
アビゲイルの言葉に、アルフォードは少し悩んだ末に答えを出す。
「出せなくはない。けど父上やアシェのように、ベストな状態には出来ない。俺に出来るとしたら、その処方の成分をそのままに置き換えるだけだ。一度違う薬師に見せるなら、調整も出来たほうが良いだろ?必要なければそのままで良いんだし。まぁ、頼むならアシェが適任だろうな。」
「アル兄様……お父様はともかく、僕のことは買いかぶりですよ?」
「アシェはリリアーデ嬢にも薬を作ってあげたりで、その辺りはしっかり学習してるだろ?女性のホルモンバランスとかは解るが、俺はその手の薬に携わったことが無い。従軍医師希望だから、どちらかというと外科系の勉強がメインだしな。ってなると、アシェに頼んだ方が確実だ。」
確かに従軍医師になるつもりなら、ヒューナイトで使うことがほとんどない避妊薬やホルモン剤の作り方や、それに使う薬草や成分など。そういった細かいことは勉強範囲に入れていないだろう。
その暇があれば人体の構造を覚え、回復薬や解毒剤の改良をし、魔法ではなく外科的に治療できる手技を磨く方が優先度が高い。
「でも……僕がアビー様のを……。良いんですか?」
アルフォードにとってのアビゲイルは、アシェルにとってのアークエイドや幼馴染達と同じ“大切なモノ”だ。
本来なら、大切だと思っている家族にすら手出しをされたくない、自分だけの“大切なモノ”だ。
「普段なら、絶対に俺がって言うところなんだがな。流石の俺でも、こればっかりは父上かアシェに任せるべきだってことは分かる。逆に二人以外に任せるのは嫌だ。ただ……出来上がったら、レポートだけは絶対読ませてくれないか?流石に何も知りません、って言うのは嫌なんだ。」
少し悔しそうに、それでも優しく微笑んでくれるアルフォードは、やはり苦渋の決断なのだろう。
アシェルはその選択を迫られた時に、同じような決断が出来るだろうか。
今年からマリクの抑制剤はアベルが処方してくれるが、あの新薬開発自体を知っているのに携われなかったとなれば、かなり悔しい思いをしただろう。
「分かってます。必ずレポートも現物もお渡ししますから。アル兄様が納得するまで完成にはしません。アビー様も了承いただけるのであれば、アシェル・メイディーの名にかけて、最良の薬を処方させていただきます。」
「だ、そうだ。アビーもそれでいいか?」
「良いも何も……わたくしはアルがそれで良いのなら構わないわ。ただ、処方箋の受け渡しは冬休みに入るころでも良いかしら?次に次官の診察を受けるのが、その頃なのよ。急ぎなら、誰か使いをやるわ。」
アシェルとしては、開始はいつからでも問題ない。
アルフォードも邸から仕事に通うことが決まっているので、卒業後にレポートを見せるのも問題ない。
「僕はいつでも大丈夫です。でも、そうですね。冬休みの頭に頂けるのなら、新学期には調整しきったものが完成するかなと思います。その辺りは、就職するアル兄様のスケジュール次第かもしれませんけど。」
「婚約はしたけれど、式を挙げてアスノームに移り住むのは、まだまだ先のことだわ。急がなくて良いのだけれど、貴方たちのことだから。話しが上がったならなるべく早く取り掛かりたいし、結果を知りたいのでしょう?」
「春先に完成くらいの見積もりなら待てるけどな。流石にアシェ達が卒業するころまで結果をお預けは、我慢できないな。それに毎日飲むものだから、どうせ見せるなら早く見せて改良してもらった方が良い。」
「アルの中で改良は確定事項なのかしら?一応、アベル医務官長の次に偉い人が、わたくしの主治医なはずなのだけれど?」
「立場なんて関係ないって、いっつも言ってるだろ。父上が忙しくて無理だとしても、兄上が就職したから、本当は兄上を主治医にして欲しかったんだ。それなのにっ……。」
何かひと悶着あったのか、アルフォードがぐっと奥歯を噛みしめた。
アルフォードがこんな表情をするのは珍しい。
「アル。それは言っても仕方のないことだわ。その薬以外は、学院内ではアルの出した薬しか飲んでないわ。それで良いでしょう?もしアルが気になるのなら、アルが卒業した後はアシェルにお願いするわ。ノア様が卒業してしまえば、わたくしはアスノームに行くのだから。次官とは最低限の関りであれば問題ないでしょう?」
「……あぁ、そうだな。悪かったな。出来れば俺のためにも、俺が卒業した後はアシェにお願いしてくれ。あいつだけは絶対に嫌だ。アスノームで頼む薬師は前にも言ったように、冒険者ギルドに採取方法や時期の指定が厳しくて、金額もキッチリ払っていて、出来れば指名依頼している薬師だ。」
「もうっ。何度も言わなくても分かってるわよ。そういう拘りがある程、良い薬師だって言うんでしょう?」
「調薬の腕は置いておいて、少なくとも素材の見極めのできる薬師だ。そういう薬師は信用が置けるし、薬も効果が確かなものしか並ばないからな。」
アビゲイルから離れることになるアルフォードの、見知らぬ誰かにお願いするにあたっての落としどころなのだろう。
仮にアシェルがアークエイドの傍を離れるのだとしたら、アシェルだって同じような条件をかかりつけ薬師に求める。
そんな三人——今は二人以外を蚊帳の外に行われる会話を見ながら、ノアールは改めてメイディーの薬への熱意や“大切なモノ”への過保護さと、守り守られる関係な二人の絆の強さを思い知る。
話を聞きながら口を挟むどころか、どれもノアールにはできない、分からないことばかりだ。
どこか悔しい気持ちと、自分の無力さに気持ちが落ち込んでしまう。
「ノア、気にするだけ無駄だぞ。ノアが浮かない顔をしていたら、姉上が心配する。」
「それは分かってるんだけど……やっぱり、アビー様を領に連れて行っちゃって良いのかなって、思っちゃうよね。」
「良いに決まってるだろ。王都と領地とで分かれて暮らす夫婦もいるが、それは跡継ぎが出来た後だ。仮にそうしようと言われても、姉上は頷かないぞ。俺なら絶対にアシェの傍を離れたくない。」
アークエイドが言い切るのだから、本当にそうなのだろう。
実際プロポーズでは唇を奪われ、舌まで侵入して来ようとしたのを、辛うじて主導権を奪って。半ば押し倒されていたのをどうにか体勢を入れ替えてと、凄まじい勢いで押してきたのだ。今までのアプローチが控えめだったと思えるくらいに。
流石に婚約式までは控えめだったが、正式に婚約が済んだ今。
時間さえあれば、アビゲイルはノアールの元へとやってくる。
昼食時にはアルフォードが居ることも多いが、アシェルのように味見はしていないものの、味見はしなくても同席するのが学食で食べる条件だと言われれば仕方ない。
アシェルが必ずアークエイドの、そして今はメルティーの味見をしようとすることも知っているので、逆に味見をしていないのが不思議なくらいだ。
それに、元々は二人で食べているところにノアールがお邪魔した形だ。
「アシェに言われるまで、お薬を飲んでるならソレをどうするかとか、そういうの考えないといけないことに気付かなかったよ。まだ時間があるとはいえ、大事だよね。その……話しの内容的に、物凄くどこかが悪いとかじゃないんだよね?」
「医師家系だから余計に気になるだけだろ。今日はそういう話題だったしな。俺だってアシェが言うまで気付きもしなかった。そこは気にしなくて良い。ただ、母上も姉上も薬がないと、アシェの体調不良が可愛く見えるくらいには症状が酷いんだ。とにかく腹痛が酷くて、貧血も酷いらしい。機嫌が悪いことも多いし、食事に手を付けられないこともあるとか言っていた。出来れば月の物の期間は外への視察やデートはせずに、邸でゆっくりさせてやってほしい。あとは……身体を冷やすのも良くないと言っていた。時期によっては潮風は冷たいだろうから、その辺りも気にしてやって欲しい。」
「女性って大変なんだね。うん、それくらいなら、僕だって出来るから。ありがとう、アーク。デリケートな問題なのに教えてくれて。」
「気にするな。それに、これは俺が散々母上と姉上から言われたことだ。人によって違いはあるものの、どうしてもどこかに不調は出やすいらしい。それにノアに出来ることなら他にもあるだろ。」
「他に?」
首を傾げるノアールに、アークエイドは頷く。
「さっきアルフォードが言っていた、薬師に求めるものを聞いていただろ。夏と冬には帰省するんだ。その時に、事前に良い薬師がいないか調べておくと良い。調べた条件に不安があるなら、アシェに聞けば教えてくれるだろ。恐らくあれがアシェだとしても、アルフォードと同じことを言うはずだ。」
「そうだね。それなら僕にも出来るし、該当しそうな薬師を調べて、アシェに確認取って、薬師のことも調べて……うん。それなら僕もアビー様の力になれるよ。」
ようやく笑顔を浮かべたノアールに、アークエイドはホッとする。
この優しい幼馴染は、アビゲイルの為に気を病んでしまいそうだ。それぞれ適材適所があるのだから、出来ることをしてあげるだけでもアビゲイルは喜ぶというのに。
「あぁ、それが良い。なんなら、いくつか同じ種類の薬を買ってくれば、アシェが品定めもしてくれるだろ。薬に関しては、メイディーの右に出る者はいないからな。」
「うん。そうする。ありがとう、アーク。」
「いい、気にするな。」
楽しかった夕食会は終わりを告げ、メルティーや使用人達はそれぞれの部屋へと帰っていく。
「あ、アシェ義兄様。わたくし明日の午前中だけは、救護室に勤められることになりましたの。ご来賓の方との顔合わせは、一度に済まされた方が良いでしょう?」
「ありがとう、メル。もし手に負えないようなら、誰か使いを出してね。」
「それでしたら、私も明日は救護室に控えておきます。メルティー様で対処できないことですと、急ぎの方がよろしいでしょうから。明日からは、探査魔法を使っておられるでしょう?」
「ごめんね、ベル。お願いできる?僕かアル兄様のどちらかは、必ず使ってるから。」
「承りました。それでは失礼いたします。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
廊下で待ってくれていたマルローネ達と帰る姿を見送り、アシェル達は実験部屋へと移動する。
やはり密談をするのなら廊下に近いリビングよりも、角部屋で程よい広さの実験部屋の方がうってつけだ。
「揃ったな。じゃあ、防音するぞ。空気を震わす音よ。風の囁きよ。我が言の葉を守り給え『防音』。」
「もう、だから無詠唱でも良いって言ってるでしょ?」
「別に魔力消費量が大きく変わるわけでも無いし、良いだろ?こうする決まりなんだよ。」
「あの、椅子はどうしましょうか?キャンプ椅子を、アビー様の隣に出せば良いですかね?」
この前のようなやり取りを始める二人に、必要なことを聞きに行く。
大事な話なら遮るつもりはないが、話し合ったところでどうにもならない話だ。
この実験室にはいつもアシェルが使っているリクライニング椅子と、アークエイドが居座るために座る椅子が一脚あるだけだ。
今日は話し合いの為に事前に一番手前のテーブルは片付けておいたので、三人でテーブルに腰掛けても良いのだが、恐らくアビゲイルならノアールの隣に居たいだろうと思い提案する。
「あら、椅子は要らないわ。ねぇ、ノア様。わたくしを抱いて座ってくださる?」
要らないと言いつつ事後承諾を取ろうとするアビゲイルに、ノアールは顔を真っ赤にして首を横に振る。
「アビー様っ、さすがに皆の前でそれはっ。僕、別に立ったままでも良いですからっ。」
「それはわたくしが嫌だわ。どうしても駄目かしら?わたくしを膝に乗せるのは嫌?」
「嫌とかじゃなくてですねっ!」
助けを求めるようにアシェルとアークエイドに視線が飛んでくるが、恐らくアビゲイルは引かないだろう。
椅子を出してあげても、アビゲイルのストレージに仕舞われてしまう気がする。
「えっと……僕らだけだし良いんじゃないかな?僕だって……ほら。」
お手本とまではいかないが、アシェルがテーブルに腰掛けると、やっぱりアークエイドがぴったりと寄り添うように座ってくる。
アークエイドはアルフォードやアビゲイルの前だろうと、いつも通りだ。
それにもう一脚の椅子にアルフォードは腰掛けてしまっているし、傍観者を決め込んでいる。
反対する言葉が上がっていないので、アビゲイルの望む通りの形で良いということだ。
「アシェは不服か?なんなら姉上のように、アシェを膝の上に抱えても良いんだが?」
「寝言は寝て言ってよね。なんで僕が上に乗らなきゃいけないのさ。いつも言ってるでしょ。膝の上に乗りたいなら乗せてやるけど、僕が乗るのはお兄様達だけだって。」
「アーク……僕らと一緒の時は良いと思うけど、さすがにお兄さんの前でソレは……。それに二人ともまだ婚約してないって言うか、付き合ってなかったよね?せめて婚約してから——。」
「ノア様!でしたらわたくし達は、婚約しているので何の問題もありませんわね。弟の前でも関係ありませんわ。」
地味に墓穴を掘ったノアールは、結局アビゲイルに負けてアビゲイルを横抱きにして座る。
その首に抱き着くアビゲイルの表情は、とても幸せそうだ。
「まぁ、殿下がアシェにぴったり寄り添って座るのは、警護的にも問題ないけど……。アシェが嫌がることしたら、いくら殿下と言えど張っ倒すからな?」
「大丈夫です、アル兄様。その前に僕がやります。」
物騒な言葉をそっくりな笑顔で言う兄妹に、アークエイドは肩をすくめて見せる。
元よりこの状況では、実際にアシェルを膝の上に乗せられるなんて思っていない。
「冗談だ。二人とも本気で怒らせたら、なんて考えたくもない。」
「じゃあ、明日の打ち合わせに入ろうかしら。資料を配るから目を通して頂戴。それは後で回収して破棄するから、大事なところは覚えてちょうだいね。」
それぞれアビゲイルから周ってきたいくつかの用紙に、静かに目を通していく。
ちなみに最初からノアールの分は用意されていなかったので、最初からこの状態に持って行くつもりだったのだろう。
そこには対外的に出されている、アスラモリオン第一皇女と第二皇子のプロフィール。
そして警備として連れてくる人数と、魔法と武術どちらが得意かだけは書かれている。
ページ数が飛び飛びなのは、学院祭には必要のない書類は抜いてあるのだろう。
「モーリス皇子とムーラン皇女は王宮に宿泊されるわ。日中学院に居るのは、一日目、二日目は10時から15時までの5時間。皇女の方が後夜祭のダンスパーティーに出ると言って聞かないのだけれど、それは警備上止めて欲しいと伝えているわ。ただ……どうも、皇女はとても我儘らしいの。既にわたくし達は二人にお会いしたけれど、皇女の侍女がそっと教えてくれたわ。もしかしたら、後夜祭に押しかけてくるかもって。第二皇子の方は、表面的には人柄が良いのだけれど、皇女の方は気が強そうね。」
「外交中であることが分かっているのか……という感じだったからな。正直なところ。今日アシェのところで夕食を摂るのも、何故か皇女に行かないでくれって止められたんだ。皇女たちを迎え入れるための準備だと言って、振り切ってきたがな。」
「じゃあ連れて行ってくれとか、準備だけなら帰ってきて一緒に晩餐にしましょうとか……。なんていうか、本当に癖の強い方よ。」
外交目的で他国に来ているはずなのに、既に我儘放題だったようだ。
確か今日の昼に到着したと聞いていたはずなのに、何故見知らぬ相手にそこまで主張できるのだろうか。
「僕もご挨拶だけさせて貰ったけど、あまり周囲には居ないタイプの方だったよ。アシェの苦手なタイプのご令嬢かもしれない。」
優しいノアールが苦笑しながら言うくらい、そのムーラン皇女は非常識なんだろうか。
ノアールの言葉は軽めに言ってあるはずなので、額面通りよりも一、二割悪いほうに想像するくらいで丁度いいだろう。
先入観を持って関わるのは良くないと思うのだが、あまりにも散々な評価と話に、既に苦手意識が湧いてしまいそうだ。
「アシェ。モーリス皇子は問題ないと思うが、ムーラン皇女は初対面の相手は頭の先から足先まで何度かじろじろと見てくる。それも隠さずにだ。あまりにも居心地が悪かったり、嫌だと思ったら、アルフォードと交代して警護には付かなくて良い。」
「流石に僕個人の意見だけで、そういう訳にはいかないよ。明日の午前中はメルのお陰で一緒だけど、本当は僕もアル兄様も任せっきりにせずに手の届く範囲に居て、自分で観ていたいんだから。もしムーラン皇女が嫌な色の持ち主だとしても、僕はアル兄様に任せっぱなしになんてしないからね。お忍びだから目立たないようにしてるのは分かるけど、共は連れずに、生徒に紛れさせて二名と……見えない護衛をこんなに連れてくるんだよ?あっちがどう考えてるか分からないけど、嫌味なくらい沢山いるからね?」
正直なところ、これはヒューナイト王国とアスラモリオン帝国の護衛全てを記載していると言われてもおかしくないくらいの人数だ。
なんなら、半分だったとしても戦力過多ではないだろうか。
もしかしたら国での立場的に、そこまで練度の高くない兵士たちなのかもしれない。
それでも一体、何十人の襲撃者から守るつもりでいるんだろうか。
「嫌味なくらいってな……。皇族が他国に来ているんだ。確かに少しばかり多いと思わないでもないが、普段の俺達の護衛が少なすぎるんだ。」
「アークは普段から護衛代わりの幼馴染達に囲まれているから、学院にも連れてきていないものね。」
特別護衛らしいことはしていないのだが、恐らく全員——特に王都組は、アークエイドに手が出されそうになったら、例え自分の命を天秤にかけたとしても全力で守るだろう。
授業だって幼馴染はたっぷりと居るため、アークエイドが一人きりになるようなことは起きない。
そう考えると、護衛代わりと言われるのも納得だ。
「アビー様には付いてるんですか?」
「えぇ。アルが居る間は居ないけれどね。変に控えさせておいて、また攻撃されたらたまったものじゃないわ。」
「だから、アビーに確認せずに敵対行動を取って悪かったって言ってるだろ。学院祭の間はずっとくっついてきてるし、流石に覚えたって。」
「本人たちがもうあんな目に合いたくないって言って、拒否するのよ。命令すれば控えてくれるでしょうけど、アルに怯えたままじゃ役に立たないわ。それならアルが動きやすいように、余計なものは無くした方がマシよ。」
「怯えてるは流石に言いすぎだろ?」
「そんなことないわよ。折角信用できる人間を連れて来たのに、護衛を辞めるとまで言われたのよ?アルが過保護すぎるのよ。」
膝の上でアルフォードと言い合うアビゲイルに苦笑しながら、ノアールがぼそりと「何があったんだろうね。」と口にし、こちらを見てくる。
「僕は知らないよ。というか、アークに変なのがくっついてなくて良かったって、今更思ってる。」
「変なのってな……。兄上や姉上の話を聞いていたから、学院内で護衛は付けないことにしたんだ。基本的に皆から離れることは無いし、そのつもりも無いしな。父上たちからも、その方が良いだろうと言われた。冒険者活動中も、特別護衛はつけていなかったしな。」
「兄上ってことは、グレイニール殿下の時にもアビー様と同じことがあったんだよね。」
「あぁ。アシェの兄達の感知範囲に入ったうえで、それ以上近づこうとした瞬間だったと聞いている。メイディーの反応が無いから許可を得たものだと思って、もう少し兄上達に近づいて護衛しようとしたところを、だ。」
「それは……アシェだったら反応するだろうなって思うと、なんだか納得しちゃうね。アークは詳しく聞いてるの?」
「あぁ。でも、正直聞かない方が良いと思うぞ。お茶会の一件が可愛く思えるレベルだ。」
「えっ、あれが?あれでも十分凄かったのに……。逆に気になるよ。」
お茶会の一件が分からずに首を傾げているアシェルを置いてけぼりに、二人の会話は進んでいく。
「様子を見ながら進んだから大事には至らなかったらしいが、感じたのは冷気だけらしい。数人は実際に皮膚が裂けて出血している。アシェの兄達に確認を取ったところ、兄上達に急接近しようとしたら、その移動で喉を貫くようにアイスランスが配置されていた。それもご丁寧に認識阻害をかけてな。出血した奴は、本人の認識阻害と気配遮断もキャンセルされて、拘束までかけられたらしい。その上、魔力回路にまで干渉を受けている。」
「それは……確かに怯えるのも分かっちゃうかも。」
話を聞いただけのノアールにも、その全ての魔法が瞬く一瞬の間に行使されたであろうことが分かる。
アシェルはほんの一瞬で、少し離れて隠れていたはずのご令嬢の喉元にダガーを当てていたのだから。
「まぁ、わたくしの護衛は三人、学院祭の間は連れ歩くことになるわ。アシェルもソレだけは覚えていてちょうだいね。」
「三人ですね、了承しました。」
「アシェにはどれがアビーの護衛か教えてやるからな。」
「ありがとうございます、アル兄様。」
「流石に5時間居ても、時間が余ると思うのだけれど。名目上は論文を見に来るだけだけれど、武術大会も見に行くと言いかねないわ。その時は救護室をお借りするわね。」
アビゲイルの言葉に、二人は頷く。
変な場所で鑑賞されるより、対応しやすい場所で観戦してもらった方がマシだ。
「アル兄様。折角打ち合わせの時間もあるので、探査魔法の打ち合わせもしておきますか?」
「そうだな。その方がスムーズだろ。まずは一緒に居る時だな。」
二人同時に『探査魔法』を使用し、二人で魔力の波の譲り合いなどをしながら、丁度いい具合を確かめていく。
「やっぱり、これくらい近いと少し使いにくいですね。」
「だな。でも、これでどうだ?」
「これなら大丈夫です。アン兄様も一緒とかじゃなくて良かったです。救護室に居る間は、これくらい欲しいんですけど。良いですか?」
「あぁ。俺も救護室に居る間はそれくらい貰うな。」
「えぇ。もしもの時はお願いします。」
「それはこっちのセリフだよ。」
二人で配分をしっかり確認して、二人とも探査魔法の使用を止める。
「確認は終わったかしら?打ち合わせはこれだけよ。」
打ち合わせというよりも、アシェルとアルフォードに警備状況を知らせて、探査魔法の打ち合わせをさせたかったようだと感じる。
でも当日ぶっつけ本番よりも、こうやって事前に擦り合わせを出来たのはありがたい。
「さぁ、解散にしましょう。ノア様。泊って行っても良いかしら?と言っても、明日の朝には王宮に一旦帰らなくてはいけないのだけれど。」
「えっ……僕は構いませんよ。」
頬を染めたノアールが了承し、その言葉に頬を染めたアビゲイルが微笑んだ。
「アシェ。俺も——。」
「殿下はダメだ。そういうのはアシェの返事を貰ってからにしてくれ。」
「仕方ない。今日は王宮に帰る。」
アルフォードに食い気味に反対され、肩を竦めたアークエイドはチュッとアシェルの頬にキスをする。
そしてそのまま抱きしめようと伸びてくる手を、アシェルはペチンと叩き落した。
「この前も言ったでしょ。」
「くくっ、やっぱり兄の前でこれは駄目なんだな。」
「分かってるならしないでってば。」
「泊まれないんだ。これくらい良いだろ?」
「良くない。」
やり取りが恋人同士のそれに、ノアールはやっぱり二人は付き合っているのでは?と思ってしまう。
でも付き合っていないと本人たちが言うのだから、本当に付き合ってはいないのだろう。
マリクの抑制剤の件もあるし、キスの件も含め、どうやらアシェルの感覚は獣人寄りなようだ。
「さぁ、お暇しましょう。アシェル、遅くまでごめんなさいね。」
「いいえ。皆さん、おやすみなさい。」
打ち合わせはお開きになり、皆を見送ったアシェルはゆっくりと眠った。
明日から短い王立学院祭だ。
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