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第三章 王立学院中等部二年生
174 スタンピードに備える②
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Side:アシェル13歳 秋
「とても興味深い話をしているね。今度のアシェの新しい作品は結界かい?」
「アン兄様。と、グレイニール殿下。こんな格好ですみません。」
いつから聞いていたのか、アレリオンとグレイニールが近くのテーブルに座っていた。
きっとお忍びで来ていたのだろうが、気配遮断と認識阻害を解いてしまって良かったのだろうか。
少なくともアシェル達に声をかけたことで、アシェル達には認識阻害が効かなくなってしまっている。それはガルド達にもだ。
誰も気付いていなかったということは、先程までその二つはかかっていたはずなのだ。
「あぁ、私のことは気にしないでくれ。席も立たなくて良いよ。ただの打ち合わせに来ただけだからね。それと、アシェル殿。私のことはグレイで良いよって、言ったと思うんだけどな。」
確かにアシェルは、以前グレイニールから愛称呼びを許された。
しかしそれはアルフォードとお出かけした時の、女装姿だった時の話だ。
だからアシェルは今までグレイニールを愛称呼びをしていないのだが、しっかりアシェルだと気付いていたようだ。
妹だと言っていたし、アークエイドもアシェルのことを女だと知っていた。隠せていると思っていたのは、きっとアシェルだけだったのだろう。
「……失礼しました、グレイ殿下。いつぞやに聞いたのを、すっかり忘れてしまっていたようです。」
「やっぱりそこで使い分けていたんだね。アシェル殿らしいと言えば、アシェル殿らしいか。」
「兄上……打ち合わせは終わったんですか?」
少しだけ親し気に話すグレイニールに、アークエイドが声を掛ける。
「おや。エイディは私を兄だと呼んでくれるんだね。ということは、ここに居る人達は、アークのことを知っているってことで良いのかな。」
アークエイドが無言で頷けば、グレイニールは微笑んだ。
「へぇ、アークがね。皆との仲については、今度ゆっくり話を聞こうかな。それより、アンも言っているけど、私もアシェル殿が作る結界に興味があるんだよね。」
「グレイ……私が先にアシェに話しかけたのに、横取りしないでくれるかな。」
アレリオンがにっこりと放った言葉に、グレイニールは肩をすくめる。
普段は温和な親友だが、兄妹のこととなると少しばかり心が狭くなるのはどうにかならないものかと思う。
「あぁ、悪かった。ただ、お互いの紹介くらいはしてもらっても良いよな?」
「アシェ、グレイが友人を紹介してほしいみたいだ。その後に、ゆっくりアシェの書いた術式を見せてね。」
「えっと、紹介するのは良いんですが、僕こんな状態なんですが。」
粘土をこねて成形までしたものの、飲食もするテーブルに置くのは憚られる。
手にした粘土を抱えたまま、皆の紹介をするのはおかしいのではないだろうか。
「あー、黙ってるつもりだったが、冒険者の方は俺が紹介してやる。」
またしても聞き慣れた声が聞こえ、アレリオン達のテーブルにもう一人座っていた事が分かる。
「おやっさんが、アン兄様達の打ち合わせ相手なの?」
いつも解体場に居る筋骨隆々なおやっさんだが、冒険者たちは待機命令が出ているので、解体の仕事もなくて暇なのだろう。
ギルド職員としては上の方ぽかったので、王太子殿下と打ち合わせをしていると言われても違和感はない。
「あのなぁ、アシェル。お前さん絶対俺のことを、ただの解体場の親父だと思ってるだろ。まぁ、今までそれに何か言ったこともないけどな。」
おやっさんの言葉に、王都組も、少しだけお世話になった双子も首を傾げる。
そうは言われても、おやっさんは解体場のおやっさんだ。そこ以外で見かけたのは今日が初めてだ。
「あー……そうだな。お前達全員だな。俺の紹介は後だ。とりあえず、【朱の渡り鳥】の五人から紹介していくぞ。名前呼ばれたら頭下げろよ。朱色頭がガルド、灰色頭がジン、モスグレーの嬢ちゃんがユウナ、焦げ茶の嬢ちゃんがアーニャ、栗色頭がトーマだ。貴族の【宵闇のアルカナ】と【エアリアル】の紹介は無くて良いんだよな?」
【朱の渡り鳥】の面々がぺこりと頭を下げていく。
「【エアリアル】は私とデュークのパーティー名よ。」
王都組が尋ねる前に、リリアーデが教えてくれる。
二人はしっかりパーティー名を持っていたようだ。
「【朱の渡り鳥】の皆さん、弟やその友人が世話になっているね。私はグレイニール・ナイトレイだよ。今日の従者をしてくれているのが。」
「アレリオン・メイディーです。アシェの兄だよ。」
グレイニールの紹介に合わせて名乗ったアレリオンは、にっこりと微笑んでくれる。
アシェルと同じで、吊り目なのにいつもニコニコしているので柔らかい雰囲気だ。
「いえ、こちらの方が世話になってるんで……あの、すいません。敬語とかそういうの、からっきしで……。」
リーダーであるガルドが一生懸命答えようとしているが、しどろもどろだ。
貴族相手、それも王族相手なので、どうしていいのか分からないのだろう。
それにグレイニールもアレリオンも、優しい微笑みを湛えたまま「気にしないで。」と声を掛ける。
「冒険者ギルドの中で礼儀なんて気にすんな。それより、坊ちゃん共に俺の紹介だ。お前ら、そもそも俺の名前すら知らないだろ?」
おやっさんの言葉に、アシェルも幼馴染達も頷く。
おやっさんはおやっさんだし、それ以外の名前で呼ばれているところも見たことが無い。
【朱の渡り鳥】の面々が——トーマは相変わらずにこにこしている——驚いた表情をしたが、おやっさんの名前は有名なのだろうか。
「俺の名前はバンだ。バン・アルバート。これでも一応、冒険者ギルドのギルドマスターをさせて貰ってる。」
「……アルバート……。たしか、フレイム地方の侯爵家。でも……写真は無かった。」
おやっさん改め、バンの自己紹介で家名持ちだと判明し、記憶の中の貴族名鑑を探ってみる。家名があるのは貴族だけだ。
のだが、確かにバンという名前はあるのに、記憶にある限り写真が付いていたことは無い。
写真があればきっともっと早くにおやっさんの名前を知れたかもしれないが、さすがに写真も手掛かりもないのであれば、気付くのは不可能じゃないだろうか。
「そりゃそうだろうな。あれは、当主が居るところに来て写真を撮るからな。というより、名前だけ聞いて、なんでそこまで分かるんだよ。」
「だって、貴族名鑑を読んだことがあるから。おやっさんって貴族だったんだ……名前か家名で呼んだ方が良いの?それともギルマス??」
いつアークエイドの公務に付き添っても良いように、きちんと毎年貴族名鑑は熟読している。一応紹介はされるだろうが顔と名前が一致しないのは失礼にあたるので、覚えておかないわけにはいかない。
「それが嫌で、おやっさんって呼ばせてんだよ。」
「僕に物騒な二つ名付けたんだし、より嫌な方で呼んであげるよ?」
「地味に嫌がらせしてこようとすんなっ。」
気軽に言い合いをするアシェルとバンを見て、アレリオンはクスクスと笑う。
「アシェは、ギルマスとえらく仲が良いんだね。」
「解体のやり方とか教えて貰ったんです。僕らが解体場に行くと、いつもおやっさんが対応してくれるんですよ。」
初めて会った時から、バンは王都組専属なんじゃないかと思うくらい、ずっとアシェル達の対応をしてくれている。
持ち込む魔物の状態が良いので、バンが手伝いに呼んでくれる解体職員もベテランが多い。
「そりゃあお前達に指導した冒険者たちに、気にかけてやってくれって言われたからな。エラートもマリクも、素性を隠してないだろ。貴族を知ってるやつには、組み合わせはバレバレだぞ。」
「っていうか、僕らってギルマスをこきつかってたわけ?」
「でも、おやっさんの解体は早くて綺麗なんだよねー。」
「正直、ギルマスと言われても信じられない。」
「だよな。熟練の解体専門のギルド職員って感じだもんな。」
「まぁ、長いこと解体ばっかりしてるからな。俺はフレイム公爵家の坊ちゃんが卒業するまでの繋ぎだよ。丁度いい年齢の奴が居なかったから、冒険者やってる俺にお鉢が回ってきたんだ。ま、引き継いだ後も解体場に居ると思うけどな。」
バンが元冒険者ということにも、ユリウスが次期冒険者ギルド長ということにも驚く。
卒業するまでというと、来年には交代するのだろうか。
交代したところで表立って冒険者ギルドマスターが出てくることは無いので、アシェル達にはあまり関係なさそうな気はする。
「へぇ、おやっさんって冒険者してたんだ。」
「一回手合わせしてみてぇな。」
「分かるー。まほーも使えるんだよね?」
「現役には敵わねぇよ。冒険者引退して、何年経ってると思ってやがる。魔法も使えるが、お前さんらの方が上手く使えるだろ。」
バンはそう言うが、エラートもマリクも手合わせしたくてうずうずしているようだ。
これは近いうちに、ギルドの演習場で手合わせが行われるかもしれない。
「ギルマスとの手合わせは今度誘ってみたらどうかな。それよりも、アシェ。その結界スクロールは簡単に作れるのかい?」
アレリオンがようやく本題とばかりに、アシェルに話しかけてくる。
「これですか?あとは術式を刻んで、焼き上げれば出来上がりますよ。術式を刻むときには、魔力を流した釉薬入りのペンで刻んでます。」
「認識阻害と幻惑がかかっているのに、アシェには分かるって言うのは?」
「えっと、術式の……お見せするので、先にその部分だけ術式を書いても良いですか?」
アレリオンが頷いたのを見て、アシェルは片手に乗せた粘土板に釉薬入りのペンで術式を刻んでいく。
その間に一つ飛んで向こう側のテーブルに居た三人は、アシェル達のテーブルの方へとやってきた。それぞれ椅子を持参して、アシェルの手元を覗き込んでいる。
そして刻まれる術式を見ながら、アレリオンは「なるほど。」と頷いた。
メイディーでは超音波を術式に組み込むことで、自身の作った術式なのか、他人が作ったそっくりなものかを識別していた祖先が居たらしいと聞いた事がある。
アシェルもそれを真似して、自分のモノだと識別するための周波数を出すようにしたものだ。
探査魔法をかなり細かく上手に使えなければ、この超音波が出ていることにすら気付かないだろう。
幼少期から魔力操作精度の訓練をする、メイディーならではの発想だと思う。
「ご理解いただけましたか?」
「うん。アシェはよく考えて術式を組んでいるんだね。そして相談なんだけれど……それをいくつか作ってもらうことは出来るかい?」
「出来ますけど……利用場所は?場合によっては、使い切りスクロールでお渡しします。消える前に魔力を注ぎ直せば、延長だけは可能な形で。きっとスタンピードで使うんでしょうけど、その時だけ使えたら十分ですよね?」
あくまでも、これは信用できるリリアーデ達の実家で使うことを前提で作っているのだ。
見ず知らずの人間の為に、機能を盛り込んでいて悪用されてもおかしくない代物を渡したくない。
これがアスノーム領の為にだったら、こちらもノアール達の実家の為に喜んで作るのだが。
アシェルが警戒したのを見て、アレリオンは苦笑する。
機能を落としたものなら作ってもらえるかと思って声をかけてみたが、アシェルはもっと用心深かったようだ。
「って、うちのアシェは言ってるけど、どうかな。」
「仮に……我々に4つ作ってもらって、使用後は一つは騎士団、残りの三つはシルコット以外の辺境伯に渡すとしたら?」
グレイニールの提案に、アシェルは首を横に振る。
「アスノームへ渡すのなら、私が直接ノア達に渡します。いくら辺境伯爵家が国境を大魔素溜まりから守っているとはいえ、これを知らない家や人に渡す気はありません。騎士団へも。欲しいのなら付けた機能の一覧をメモしてお渡ししますので、ご自分達で術式を組んでいただいてください。あったら便利だとは思いますが、今まで開発していないってことは無くても問題ないってことですよね。」
術式の選び方や組み合わせ方などで、魔力消費量や上手く発動するかも変わってくる。
同じ効果を付けるためでも、組み上がる術式は人によって個性が出るのだ。
だからこそ、魔術の術式を研究する人がいるし、論文だって毎年新しいものが発表される。
どうすれば効率よく効果を高めて、望む結果を得られるかを追求する学問だ。
コレはアシェルの術式だし、そのアシェルが組み上げた術式を知らない人たちが使うのは嫌だ。
魔道コンロのように生活の役に立って、市民たちの生活が潤うようなものとは違うのだ。
にっこりと余所行きの微笑みを浮かべたアシェルに、アレリオンとグレイニールは肩をすくめる。
「あまり粘ると、アシェは使い捨てスクロールすら作ってくれないと思うよ?」
「是非スタンピードで使わせてもらいたい内容だったし、その辺りが落としどころのようだな。」
「ちなみに……複製しようとは思わないで下さいね。お渡しする分は、私が普段使ってるものや今から作るものより、たっぷりとダミーを含めて複雑に仕上げておきます。商業ギルドに商用登録したわけでもないのに、私の組んだ術式を複製されたくありませんので。」
自分が組んだ術式を悪用されないためには、ダミーの術式を混ぜ込んで、そのものの術式を隠してしまうのは常套手段だ。
論文発表などでは発表後は誰でも使えるように綺麗な術式だけだが、市販の結界スクロールですら複製防止の為にダミーの術式も絡めて複雑にしてある。
じっくり読み解くとしても、基礎知識がないとまず理解できないだろう。
「そんなことはしないと約束する。契約魔法を使っても構わない。」
「兄上っ。」
契約魔法と口にしたグレイニールを咎めるように、アークエイドが声を出した。
「なんだい、アーク。お前だってこれからの備えとして、アシェル殿の術式にそれくらいの価値があることも、信用してもらう為に必要なことも分かるだろう?」
グレイニールがアークエイドを窘めているが、アシェルは別に契約魔法なんて要らない。
というよりも、こういうものは誰かの手に渡って使われるものなので、グレイニールと契約魔法を行ったところで意味は無いのだ。
グレイニールもそれは分かっていると思うし、それだけの気持ちがあるという意思表示だろう。
「無駄なことは要らないです。」
グレイニールもアレリオンも苦笑したので、やはり無駄なことだと理解していたようだ。
「おやっさん。王都から魔の森までの範囲で良いので、縮尺率の正確な地図はありますか?」
「地図だな?待ってろ。」
バンが席を立って、ギルドのカウンター奥へと消えていく。
アシェルは作りかけの粘土板を『ストレージ』に仕舞いこんでおく。
あまり時間をかけると、粘土が乾いて作り直しになってしまう。
「アン兄様やグレイ殿下が、わざわざ打ち合わせにいらっしゃってるんです。それに冒険者たちも参加者はほぼ申請が必須ですし、来るように仕向けられてます。となると、申請時にある程度の配置なども、指示されているんですよね?」
これは元々アシェルが予想していたことだ。
あくまでも予想の一つだったが、こうしてグレイニールとアレリオンが冒険者ギルドのトップであるバンと打ち合わせをしていたことで確信に近くなる。
スタンピードに慣れていない冒険者たちが長時間連携して戦う為には、ある程度補給や交代などがスムーズに行えなければならない。
誰もがトーマのようなサポーター持ちではないし、前線に付添ってくれるサポーターは少ないだろう。
事前申請で参加する戦力の把握を行い、戦力を見て適切な場所へと配置する。
さらに騎士団などの状況把握に優れた人材と情報伝達が出来る人材を用意して、戦況を見ながら人員の移動や交代などの指示を行えば、冒険者たちが勝手にバラバラに戦うよりも上手く戦闘が出来るだろう。
事前申請に来れば、例えソロでも他パーティーと連携予定が無くても、今まで魔の森では起きたことのないスタンピードについての詳しい説明が聞ける。
さらには各種ポーション類も一人当たり決まった数の配給が行われる。これは戦闘員だけじゃなく、サポーターへもだ。
メインが冒険者業なら、必ず申請に来ているだろう。
「これは……参ったね。まだ君達は申請してないんだろう?」
「俺達は顔合わせの後に、合同パーティーとして申請予定だった。俺からは何も話してませんよ。」
アークエイドは、一応システムとしては知っていたのだろう。
王族なので必要なこととして連絡が来ていたのかもしれないが、それは一般市民であるアシェル達は知らなくて良いことだし、アークエイドも言わないのが正解だ。
身内びいきで情報漏洩は良くない。
「ってことは、やっぱり状況証拠だけで、そこまで予測したってことだよね。アン、君の兄妹はとても優秀だな。」
「我が家のアシェだから、グレイが欲しいって言ってもあげないからね。」
「そんなことを冗談でも口にしたら、メイディーの人間とアークに刺されそうだな。」
グレイニールが苦笑しているところへ、バンが地図を持って戻ってくる。
「待たせたな。これで良いか?」
広げられた地図は、ヒューナイト王国のナイトレイ地方だけの地図だ。
それぞれの地方は四角形で綺麗に区切られていて、王都の造りと言い、相変わらず神の御業としか思えない。
「縮尺も良さそうですね。おやっさん、わざわざごめんね。……どこに人員配置をしますか?出来れば、僕らの配置場所も教えてください。」
「……一応、軍事機密なんだけれどね?」
「でしたらスクロールは諦めてください。補給地分しか作る予定はありませんので。」
「こちらで必要個数を伝えるのは?」
「却下です。配置を見て、必要数だけ作りますし、どの辺りに置いて欲しいかも伝えます。」
頑ななアシェルの袖がくいくいと引かれた。隣に座るガルドが引っ張ったらしい。
「どうしたの?」
「なぁ、アシェル。相手は王太子なんだろ?良いのか??」
「態度のこと?これでも、一応譲歩してるんだけどね。こういう術式とかって個人の財産だから、他者が脅かしてはいけないってなってるんだよ。相手が王様だろうが親兄弟だろうが、悪用したわけでもない財産を理由もなく奪えないし、提供を強要も出来ないってなってるんだよね。ですよね、グレイ殿下。」
「あぁ、その通りだよ。その知識の提供を望むこちら側が立場的に弱いし、最初の時点で断られていても文句は言えないからね。」
「はぁ……スタンピードみたいな、イレギュラーな時でもなんですか?」
「もちろん。冒険者だってスタンピードは緊急クエストになるけれど、参加は強制じゃないだろう。君達の戦力は、あくまでも君達が提供しても良いと思った場合だけなのと一緒なように、アシェル殿の術式も彼が良いと思わなければダメなものなんだ。」
ガルドにも分かりやすく説明してくれたようだが、ガルドは「なるほど。」と言いつつも、まだ少し首を傾げている。
トーマがそっと耳打ちをしているので、ガルドにも分かりやすく説明しているのだろう。
「なぁ、殿下。アシェルの条件を呑んだ方が良いと思うぜ?Bランクの【朱の渡り鳥】はどちらにしても参加してくれるだろうが、【宵闇のアルカナ】と【エアリアル】は実力の割にパーティーランク自体は低い。別に交渉が悪いとは言わねぇが、機嫌を損ねて本人たちが緊急クエストに参加したくないと言ったら、強制招集は出来ねえぞ。」
本人のランク以外にパーティーランクなんて物もあるのかと思うが、何が基準なんだろうか。
あとでトーマに聞いておこうと、頭の片隅に留めておく。
結局アシェルだけがその情報を聞く、という形で落ち着き、ギルドの個室を借りてグレイニールから配置の説明を受けることになった。
「とても興味深い話をしているね。今度のアシェの新しい作品は結界かい?」
「アン兄様。と、グレイニール殿下。こんな格好ですみません。」
いつから聞いていたのか、アレリオンとグレイニールが近くのテーブルに座っていた。
きっとお忍びで来ていたのだろうが、気配遮断と認識阻害を解いてしまって良かったのだろうか。
少なくともアシェル達に声をかけたことで、アシェル達には認識阻害が効かなくなってしまっている。それはガルド達にもだ。
誰も気付いていなかったということは、先程までその二つはかかっていたはずなのだ。
「あぁ、私のことは気にしないでくれ。席も立たなくて良いよ。ただの打ち合わせに来ただけだからね。それと、アシェル殿。私のことはグレイで良いよって、言ったと思うんだけどな。」
確かにアシェルは、以前グレイニールから愛称呼びを許された。
しかしそれはアルフォードとお出かけした時の、女装姿だった時の話だ。
だからアシェルは今までグレイニールを愛称呼びをしていないのだが、しっかりアシェルだと気付いていたようだ。
妹だと言っていたし、アークエイドもアシェルのことを女だと知っていた。隠せていると思っていたのは、きっとアシェルだけだったのだろう。
「……失礼しました、グレイ殿下。いつぞやに聞いたのを、すっかり忘れてしまっていたようです。」
「やっぱりそこで使い分けていたんだね。アシェル殿らしいと言えば、アシェル殿らしいか。」
「兄上……打ち合わせは終わったんですか?」
少しだけ親し気に話すグレイニールに、アークエイドが声を掛ける。
「おや。エイディは私を兄だと呼んでくれるんだね。ということは、ここに居る人達は、アークのことを知っているってことで良いのかな。」
アークエイドが無言で頷けば、グレイニールは微笑んだ。
「へぇ、アークがね。皆との仲については、今度ゆっくり話を聞こうかな。それより、アンも言っているけど、私もアシェル殿が作る結界に興味があるんだよね。」
「グレイ……私が先にアシェに話しかけたのに、横取りしないでくれるかな。」
アレリオンがにっこりと放った言葉に、グレイニールは肩をすくめる。
普段は温和な親友だが、兄妹のこととなると少しばかり心が狭くなるのはどうにかならないものかと思う。
「あぁ、悪かった。ただ、お互いの紹介くらいはしてもらっても良いよな?」
「アシェ、グレイが友人を紹介してほしいみたいだ。その後に、ゆっくりアシェの書いた術式を見せてね。」
「えっと、紹介するのは良いんですが、僕こんな状態なんですが。」
粘土をこねて成形までしたものの、飲食もするテーブルに置くのは憚られる。
手にした粘土を抱えたまま、皆の紹介をするのはおかしいのではないだろうか。
「あー、黙ってるつもりだったが、冒険者の方は俺が紹介してやる。」
またしても聞き慣れた声が聞こえ、アレリオン達のテーブルにもう一人座っていた事が分かる。
「おやっさんが、アン兄様達の打ち合わせ相手なの?」
いつも解体場に居る筋骨隆々なおやっさんだが、冒険者たちは待機命令が出ているので、解体の仕事もなくて暇なのだろう。
ギルド職員としては上の方ぽかったので、王太子殿下と打ち合わせをしていると言われても違和感はない。
「あのなぁ、アシェル。お前さん絶対俺のことを、ただの解体場の親父だと思ってるだろ。まぁ、今までそれに何か言ったこともないけどな。」
おやっさんの言葉に、王都組も、少しだけお世話になった双子も首を傾げる。
そうは言われても、おやっさんは解体場のおやっさんだ。そこ以外で見かけたのは今日が初めてだ。
「あー……そうだな。お前達全員だな。俺の紹介は後だ。とりあえず、【朱の渡り鳥】の五人から紹介していくぞ。名前呼ばれたら頭下げろよ。朱色頭がガルド、灰色頭がジン、モスグレーの嬢ちゃんがユウナ、焦げ茶の嬢ちゃんがアーニャ、栗色頭がトーマだ。貴族の【宵闇のアルカナ】と【エアリアル】の紹介は無くて良いんだよな?」
【朱の渡り鳥】の面々がぺこりと頭を下げていく。
「【エアリアル】は私とデュークのパーティー名よ。」
王都組が尋ねる前に、リリアーデが教えてくれる。
二人はしっかりパーティー名を持っていたようだ。
「【朱の渡り鳥】の皆さん、弟やその友人が世話になっているね。私はグレイニール・ナイトレイだよ。今日の従者をしてくれているのが。」
「アレリオン・メイディーです。アシェの兄だよ。」
グレイニールの紹介に合わせて名乗ったアレリオンは、にっこりと微笑んでくれる。
アシェルと同じで、吊り目なのにいつもニコニコしているので柔らかい雰囲気だ。
「いえ、こちらの方が世話になってるんで……あの、すいません。敬語とかそういうの、からっきしで……。」
リーダーであるガルドが一生懸命答えようとしているが、しどろもどろだ。
貴族相手、それも王族相手なので、どうしていいのか分からないのだろう。
それにグレイニールもアレリオンも、優しい微笑みを湛えたまま「気にしないで。」と声を掛ける。
「冒険者ギルドの中で礼儀なんて気にすんな。それより、坊ちゃん共に俺の紹介だ。お前ら、そもそも俺の名前すら知らないだろ?」
おやっさんの言葉に、アシェルも幼馴染達も頷く。
おやっさんはおやっさんだし、それ以外の名前で呼ばれているところも見たことが無い。
【朱の渡り鳥】の面々が——トーマは相変わらずにこにこしている——驚いた表情をしたが、おやっさんの名前は有名なのだろうか。
「俺の名前はバンだ。バン・アルバート。これでも一応、冒険者ギルドのギルドマスターをさせて貰ってる。」
「……アルバート……。たしか、フレイム地方の侯爵家。でも……写真は無かった。」
おやっさん改め、バンの自己紹介で家名持ちだと判明し、記憶の中の貴族名鑑を探ってみる。家名があるのは貴族だけだ。
のだが、確かにバンという名前はあるのに、記憶にある限り写真が付いていたことは無い。
写真があればきっともっと早くにおやっさんの名前を知れたかもしれないが、さすがに写真も手掛かりもないのであれば、気付くのは不可能じゃないだろうか。
「そりゃそうだろうな。あれは、当主が居るところに来て写真を撮るからな。というより、名前だけ聞いて、なんでそこまで分かるんだよ。」
「だって、貴族名鑑を読んだことがあるから。おやっさんって貴族だったんだ……名前か家名で呼んだ方が良いの?それともギルマス??」
いつアークエイドの公務に付き添っても良いように、きちんと毎年貴族名鑑は熟読している。一応紹介はされるだろうが顔と名前が一致しないのは失礼にあたるので、覚えておかないわけにはいかない。
「それが嫌で、おやっさんって呼ばせてんだよ。」
「僕に物騒な二つ名付けたんだし、より嫌な方で呼んであげるよ?」
「地味に嫌がらせしてこようとすんなっ。」
気軽に言い合いをするアシェルとバンを見て、アレリオンはクスクスと笑う。
「アシェは、ギルマスとえらく仲が良いんだね。」
「解体のやり方とか教えて貰ったんです。僕らが解体場に行くと、いつもおやっさんが対応してくれるんですよ。」
初めて会った時から、バンは王都組専属なんじゃないかと思うくらい、ずっとアシェル達の対応をしてくれている。
持ち込む魔物の状態が良いので、バンが手伝いに呼んでくれる解体職員もベテランが多い。
「そりゃあお前達に指導した冒険者たちに、気にかけてやってくれって言われたからな。エラートもマリクも、素性を隠してないだろ。貴族を知ってるやつには、組み合わせはバレバレだぞ。」
「っていうか、僕らってギルマスをこきつかってたわけ?」
「でも、おやっさんの解体は早くて綺麗なんだよねー。」
「正直、ギルマスと言われても信じられない。」
「だよな。熟練の解体専門のギルド職員って感じだもんな。」
「まぁ、長いこと解体ばっかりしてるからな。俺はフレイム公爵家の坊ちゃんが卒業するまでの繋ぎだよ。丁度いい年齢の奴が居なかったから、冒険者やってる俺にお鉢が回ってきたんだ。ま、引き継いだ後も解体場に居ると思うけどな。」
バンが元冒険者ということにも、ユリウスが次期冒険者ギルド長ということにも驚く。
卒業するまでというと、来年には交代するのだろうか。
交代したところで表立って冒険者ギルドマスターが出てくることは無いので、アシェル達にはあまり関係なさそうな気はする。
「へぇ、おやっさんって冒険者してたんだ。」
「一回手合わせしてみてぇな。」
「分かるー。まほーも使えるんだよね?」
「現役には敵わねぇよ。冒険者引退して、何年経ってると思ってやがる。魔法も使えるが、お前さんらの方が上手く使えるだろ。」
バンはそう言うが、エラートもマリクも手合わせしたくてうずうずしているようだ。
これは近いうちに、ギルドの演習場で手合わせが行われるかもしれない。
「ギルマスとの手合わせは今度誘ってみたらどうかな。それよりも、アシェ。その結界スクロールは簡単に作れるのかい?」
アレリオンがようやく本題とばかりに、アシェルに話しかけてくる。
「これですか?あとは術式を刻んで、焼き上げれば出来上がりますよ。術式を刻むときには、魔力を流した釉薬入りのペンで刻んでます。」
「認識阻害と幻惑がかかっているのに、アシェには分かるって言うのは?」
「えっと、術式の……お見せするので、先にその部分だけ術式を書いても良いですか?」
アレリオンが頷いたのを見て、アシェルは片手に乗せた粘土板に釉薬入りのペンで術式を刻んでいく。
その間に一つ飛んで向こう側のテーブルに居た三人は、アシェル達のテーブルの方へとやってきた。それぞれ椅子を持参して、アシェルの手元を覗き込んでいる。
そして刻まれる術式を見ながら、アレリオンは「なるほど。」と頷いた。
メイディーでは超音波を術式に組み込むことで、自身の作った術式なのか、他人が作ったそっくりなものかを識別していた祖先が居たらしいと聞いた事がある。
アシェルもそれを真似して、自分のモノだと識別するための周波数を出すようにしたものだ。
探査魔法をかなり細かく上手に使えなければ、この超音波が出ていることにすら気付かないだろう。
幼少期から魔力操作精度の訓練をする、メイディーならではの発想だと思う。
「ご理解いただけましたか?」
「うん。アシェはよく考えて術式を組んでいるんだね。そして相談なんだけれど……それをいくつか作ってもらうことは出来るかい?」
「出来ますけど……利用場所は?場合によっては、使い切りスクロールでお渡しします。消える前に魔力を注ぎ直せば、延長だけは可能な形で。きっとスタンピードで使うんでしょうけど、その時だけ使えたら十分ですよね?」
あくまでも、これは信用できるリリアーデ達の実家で使うことを前提で作っているのだ。
見ず知らずの人間の為に、機能を盛り込んでいて悪用されてもおかしくない代物を渡したくない。
これがアスノーム領の為にだったら、こちらもノアール達の実家の為に喜んで作るのだが。
アシェルが警戒したのを見て、アレリオンは苦笑する。
機能を落としたものなら作ってもらえるかと思って声をかけてみたが、アシェルはもっと用心深かったようだ。
「って、うちのアシェは言ってるけど、どうかな。」
「仮に……我々に4つ作ってもらって、使用後は一つは騎士団、残りの三つはシルコット以外の辺境伯に渡すとしたら?」
グレイニールの提案に、アシェルは首を横に振る。
「アスノームへ渡すのなら、私が直接ノア達に渡します。いくら辺境伯爵家が国境を大魔素溜まりから守っているとはいえ、これを知らない家や人に渡す気はありません。騎士団へも。欲しいのなら付けた機能の一覧をメモしてお渡ししますので、ご自分達で術式を組んでいただいてください。あったら便利だとは思いますが、今まで開発していないってことは無くても問題ないってことですよね。」
術式の選び方や組み合わせ方などで、魔力消費量や上手く発動するかも変わってくる。
同じ効果を付けるためでも、組み上がる術式は人によって個性が出るのだ。
だからこそ、魔術の術式を研究する人がいるし、論文だって毎年新しいものが発表される。
どうすれば効率よく効果を高めて、望む結果を得られるかを追求する学問だ。
コレはアシェルの術式だし、そのアシェルが組み上げた術式を知らない人たちが使うのは嫌だ。
魔道コンロのように生活の役に立って、市民たちの生活が潤うようなものとは違うのだ。
にっこりと余所行きの微笑みを浮かべたアシェルに、アレリオンとグレイニールは肩をすくめる。
「あまり粘ると、アシェは使い捨てスクロールすら作ってくれないと思うよ?」
「是非スタンピードで使わせてもらいたい内容だったし、その辺りが落としどころのようだな。」
「ちなみに……複製しようとは思わないで下さいね。お渡しする分は、私が普段使ってるものや今から作るものより、たっぷりとダミーを含めて複雑に仕上げておきます。商業ギルドに商用登録したわけでもないのに、私の組んだ術式を複製されたくありませんので。」
自分が組んだ術式を悪用されないためには、ダミーの術式を混ぜ込んで、そのものの術式を隠してしまうのは常套手段だ。
論文発表などでは発表後は誰でも使えるように綺麗な術式だけだが、市販の結界スクロールですら複製防止の為にダミーの術式も絡めて複雑にしてある。
じっくり読み解くとしても、基礎知識がないとまず理解できないだろう。
「そんなことはしないと約束する。契約魔法を使っても構わない。」
「兄上っ。」
契約魔法と口にしたグレイニールを咎めるように、アークエイドが声を出した。
「なんだい、アーク。お前だってこれからの備えとして、アシェル殿の術式にそれくらいの価値があることも、信用してもらう為に必要なことも分かるだろう?」
グレイニールがアークエイドを窘めているが、アシェルは別に契約魔法なんて要らない。
というよりも、こういうものは誰かの手に渡って使われるものなので、グレイニールと契約魔法を行ったところで意味は無いのだ。
グレイニールもそれは分かっていると思うし、それだけの気持ちがあるという意思表示だろう。
「無駄なことは要らないです。」
グレイニールもアレリオンも苦笑したので、やはり無駄なことだと理解していたようだ。
「おやっさん。王都から魔の森までの範囲で良いので、縮尺率の正確な地図はありますか?」
「地図だな?待ってろ。」
バンが席を立って、ギルドのカウンター奥へと消えていく。
アシェルは作りかけの粘土板を『ストレージ』に仕舞いこんでおく。
あまり時間をかけると、粘土が乾いて作り直しになってしまう。
「アン兄様やグレイ殿下が、わざわざ打ち合わせにいらっしゃってるんです。それに冒険者たちも参加者はほぼ申請が必須ですし、来るように仕向けられてます。となると、申請時にある程度の配置なども、指示されているんですよね?」
これは元々アシェルが予想していたことだ。
あくまでも予想の一つだったが、こうしてグレイニールとアレリオンが冒険者ギルドのトップであるバンと打ち合わせをしていたことで確信に近くなる。
スタンピードに慣れていない冒険者たちが長時間連携して戦う為には、ある程度補給や交代などがスムーズに行えなければならない。
誰もがトーマのようなサポーター持ちではないし、前線に付添ってくれるサポーターは少ないだろう。
事前申請で参加する戦力の把握を行い、戦力を見て適切な場所へと配置する。
さらに騎士団などの状況把握に優れた人材と情報伝達が出来る人材を用意して、戦況を見ながら人員の移動や交代などの指示を行えば、冒険者たちが勝手にバラバラに戦うよりも上手く戦闘が出来るだろう。
事前申請に来れば、例えソロでも他パーティーと連携予定が無くても、今まで魔の森では起きたことのないスタンピードについての詳しい説明が聞ける。
さらには各種ポーション類も一人当たり決まった数の配給が行われる。これは戦闘員だけじゃなく、サポーターへもだ。
メインが冒険者業なら、必ず申請に来ているだろう。
「これは……参ったね。まだ君達は申請してないんだろう?」
「俺達は顔合わせの後に、合同パーティーとして申請予定だった。俺からは何も話してませんよ。」
アークエイドは、一応システムとしては知っていたのだろう。
王族なので必要なこととして連絡が来ていたのかもしれないが、それは一般市民であるアシェル達は知らなくて良いことだし、アークエイドも言わないのが正解だ。
身内びいきで情報漏洩は良くない。
「ってことは、やっぱり状況証拠だけで、そこまで予測したってことだよね。アン、君の兄妹はとても優秀だな。」
「我が家のアシェだから、グレイが欲しいって言ってもあげないからね。」
「そんなことを冗談でも口にしたら、メイディーの人間とアークに刺されそうだな。」
グレイニールが苦笑しているところへ、バンが地図を持って戻ってくる。
「待たせたな。これで良いか?」
広げられた地図は、ヒューナイト王国のナイトレイ地方だけの地図だ。
それぞれの地方は四角形で綺麗に区切られていて、王都の造りと言い、相変わらず神の御業としか思えない。
「縮尺も良さそうですね。おやっさん、わざわざごめんね。……どこに人員配置をしますか?出来れば、僕らの配置場所も教えてください。」
「……一応、軍事機密なんだけれどね?」
「でしたらスクロールは諦めてください。補給地分しか作る予定はありませんので。」
「こちらで必要個数を伝えるのは?」
「却下です。配置を見て、必要数だけ作りますし、どの辺りに置いて欲しいかも伝えます。」
頑ななアシェルの袖がくいくいと引かれた。隣に座るガルドが引っ張ったらしい。
「どうしたの?」
「なぁ、アシェル。相手は王太子なんだろ?良いのか??」
「態度のこと?これでも、一応譲歩してるんだけどね。こういう術式とかって個人の財産だから、他者が脅かしてはいけないってなってるんだよ。相手が王様だろうが親兄弟だろうが、悪用したわけでもない財産を理由もなく奪えないし、提供を強要も出来ないってなってるんだよね。ですよね、グレイ殿下。」
「あぁ、その通りだよ。その知識の提供を望むこちら側が立場的に弱いし、最初の時点で断られていても文句は言えないからね。」
「はぁ……スタンピードみたいな、イレギュラーな時でもなんですか?」
「もちろん。冒険者だってスタンピードは緊急クエストになるけれど、参加は強制じゃないだろう。君達の戦力は、あくまでも君達が提供しても良いと思った場合だけなのと一緒なように、アシェル殿の術式も彼が良いと思わなければダメなものなんだ。」
ガルドにも分かりやすく説明してくれたようだが、ガルドは「なるほど。」と言いつつも、まだ少し首を傾げている。
トーマがそっと耳打ちをしているので、ガルドにも分かりやすく説明しているのだろう。
「なぁ、殿下。アシェルの条件を呑んだ方が良いと思うぜ?Bランクの【朱の渡り鳥】はどちらにしても参加してくれるだろうが、【宵闇のアルカナ】と【エアリアル】は実力の割にパーティーランク自体は低い。別に交渉が悪いとは言わねぇが、機嫌を損ねて本人たちが緊急クエストに参加したくないと言ったら、強制招集は出来ねえぞ。」
本人のランク以外にパーティーランクなんて物もあるのかと思うが、何が基準なんだろうか。
あとでトーマに聞いておこうと、頭の片隅に留めておく。
結局アシェルだけがその情報を聞く、という形で落ち着き、ギルドの個室を借りてグレイニールから配置の説明を受けることになった。
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