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第三章 王立学院中等部二年生

159 解毒剤を待ちわびる①

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Side:アシェル13歳 夏



汗ばんで気持ち悪くて目が覚める。

背中の傷のことを考慮してかうつ伏せに寝かされていて、眠る前のことを思い出しながら、アシェルは瞼を持ち上げ、今いる場所を確認した。

そこはアシェルの寮の寝台で、リリアーデはちゃんと約束を守ってくれたのだと分かる。

身体を動かしたいのに、重怠い身体は思うように動かない。

体内魔力は今も働いているが、どう考えてもあの魔素が薄い場所に居た時と変わっていない気がする。

えぐれた肉はアレリオンが治してくれているはずなのに、まだズキズキと痛むし、熱も上がったままだ。

なんとか起き上がろうとして身体を動かしていると、声がかかる。

「アシェ、目が覚めたのか?無理に動くな。何がしたい?」

「アシェル様っ!良かった……まだお加減が悪いのですね。冷たいお水を持ってまいります。」

パタパタと足音がして、イザベルが部屋を出て行ったのだと分かる。

確かに汗もかいていて、熱で喉がカラカラだ。

「喉、乾いた。あと、汗、気持ち悪い。」

張り付く喉で答えれば、アークエイドが『クリーン』をかけてくれ、身体がスッキリとする。

「アシェル様、お水を持ってまいりました。飲めそうですか?」

かなり急いで用意してくれたのだろう。
イザベルが戻ってくるのが早い。

「飲む。けど、身体が重い。」

「起こしてやるからジッとしてろ。痛かったら言えよ?」

ギシリと寝台の軋む音がして、アークエイドが優しく抱き起してくれる。

そしてイザベルが冷たい水の入った吸い飲みを口元に持ってきてくれたので、その冷たくて美味しい水で喉を潤す。

「二人とも、ありがとう。お兄様達は?」

「お二人ともアシェル様の実験室におられます。呼んでまいりましょうか?」

きっと出来上がった解毒剤をすぐにアシェルに飲ませるために、アシェルの実験室を使っているのだろう。

「ううん……大丈夫。お兄様達の邪魔したくないから。ねぇ、ベル。背中見てくれない?アークは見ないか部屋出て欲しい。」

「なんで俺が見たらダメなんだ?」

「きっとアン兄様がヒールをかけた後を見たでしょう?アークの記憶の中は、ソレだけで良い。余計なもの見る必要ないから。」

アシェルの背中には、恐らく上着が汚れないようにガーゼがテープで固定されているはずだ。
先程のクリーンでじめっとした感じは無くなったが、折角治療してもらったのに、また傷が悪化している気がする。

アシェルの言葉にアークエイドは眉を顰める。

「アシェがそう言うってことは、傷の具合も解毒も状態が悪いんだな?今更見て驚いたりしない。」

「嫌。」

「アシェは昨日から嫌ばっかりだな。俺が居ないと起き上がれもしなかったのに。」

「嫌なものは嫌。」

頑ななアシェルにアークエイドは苦笑する。
小さな子供が駄々をこねているようなこれは、アシェルなりの我儘だったりするのだろうか。

そしてアシェルの身体を少し引き寄せて、まだ上手く自分で身体を支えられないアシェルをアークエイドに持たれかけさせた。

「イザベル。見てやってくれ。」

「はい。シャツが汚れるとお着替えが大変ですので、抑えていてくださいませ。」

「分かってる。」

「ちょっと、見ないでってば。」

「動けないんだから黙ってろ。」

アシェルの抗議の声も虚しく、二人の連係プレイであっさりとガーゼが取り外される。

「アシェル様……そのままお待ちくださいませ。お二人を呼んでまいります。」

「そんなに酷い?」

「えぇ。これは診て頂いた方が良いと、私は判断します。」

錬金の邪魔は極力しないイザベルがそう言うということは、アシェルの背中の傷はしっかり再び壊死を起こしているのだろう。
壊死した肉の独特の、臭いもしている。

「やっぱりそうか……。うん、ごめん、呼んできてくれる?」

またイザベルがパタパタと駆けていく音がする。
普段は走ったりしないのに。

「なんで俺に隠そうとする。」

「アークは気にするでしょ。気にしなくて良いのに。」

「当たり前だろ。」

傷に響かないように、アークエイドの胸元にあるアシェルの頭がギュッと抱きしめられる。

「お二人を呼んでまいりました。」

「アシェ、目が覚めたんだね。傷を診せて貰うよ。」

「大丈夫……じゃないよな。まだ魔力の残りは大丈夫か?」

アークエイドに抱きしめられていて二人の兄の姿は確認できないが、近づいてきたのは気配で分かる。

「予想より進行が早いね。今日医療品を取りに行こうかと思ってたけど……リリアーデ嬢は、もうワンセット持ってるかな?」

「昨日のセットだよな。俺が聞いてくるよ。起きてると良いけど。」

「アレリオンお義兄様。ご用意するものはございますか?」

「汚れても良いワゴンを持ってきてくれるかい?」

「かしこまりました。」

二人分の足音がして、部屋を出て行ったようだ。
イザベルはワゴンを持ってすぐに戻ってきた。

「アシェ、体内魔力はどんな感じだい?」

きっとアレリオンは予想済みなのだろう。
同じ体質なのだから、この傷の具合をみれば分かるはずだ。

「アン兄様の予想通り、とだけお伝えしておきます。」

「つまり、殿下に分かるようには伝えたくないってことだね。それは殿下を不安にさせてしまうだけだよ?」

「アン兄様に伝われば十分でしょう。」

「全く……もっと違う我儘ならたっぷり聞いてあげるんだけどな。」

「この我儘を聞いてください。」

仕方ないなぁとアレリオンが肩をすくめたのが分かる。

「アシェ……。」

「ほら、そうやってアークはすぐに心配する。大丈夫だから。そうだ。処置が終わったらNMを出すから、ギルドに持って行ってくれない?っていうか、ギルドへの報告ってどうなってるのかな。」

「なんでその状態で気にするのがそこなんだ。昨日のうちにギルドへトワが報告に行ってくれているらしい。ノアが門番に伝えて、魔の森に行っていた冒険者たちの安否確認も済んでいる。魔の森には、魔法庁と騎士団の連中が行ってるから気にするな。それと、俺はアシェの傍を離れるつもりはない。」

このセリフを聴くに、ずっとアシェルの傍にいたのだと思うが、どこからそんな情報を得たのだろうか。

「というか……今何時?」

「お昼だよ。アシェにしては良く寝た方だね。」

アークエイドの代わりにアレリオンが答えてくれた。

確かにアシェルにしては珍しく、朝に一度目覚めていない。
熱が出ているせいだろうか。

「アン兄、リリアーデ嬢が介助してくれるそうだから連れてきた。俺は実験室に戻るな。」

「こんにちは、お邪魔しますわ。アシェ、おはよう。おでこに触れるわよ。」

リリアーデが一言断りを入れて、額にひんやりとした手が触れた。

「やっぱり熱が出たままね。傷の具合もまた悪くなってるし。イザベル、氷枕ってあるかしら?あと小さい氷嚢も欲しいわね。氷枕は後で良いけど、今すぐ氷嚢が二つ欲しいわ。すぐにでも少しは体温を下げてあげないと、脳がゆだっちゃうわ。」

「持ってまいります。」

またイザベルがパタパタと駆けて出て行く音がする。

「リリィの手、気持ち良い……。」

「そりゃこれだけ熱が出てたらそうでしょうね。アーク、貴方ずっと付いてたなら、ちゃんと氷枕くらい用意してあげなさいよ。看病なんてしたことないんでしょうけど、それくらい常識でしょ?全く。」

「すまない。」

リリアーデがぷりぷりと怒っていると、イザベルが足音をさせながら戻ってきた。

「リリアーデ様、こちらでよろしいですか?」

「えぇ、ありがとう。アーク、少しだけ隙間作ってくれる?一つは足の付け根に置くから。」

アークエイドと身体が離れて、その隙間から鼠径部に冷たい氷嚢が置かれた。

「冷たい。」

「氷だもの、当たり前でしょう。アークもういいわ。もう一つは脇の下よ。こっちも冷たいけど、体温を下げるためだから我慢してね。」

左腕が上げられ脇の下に冷たい氷嚢を挟み込まれる。

「……冷たい……。」

「アシェは良い子だから、我慢できるでしょう。今から傷の処置をするから、冷たいどころじゃなくなるわ。アレリオン様、そこのワゴンは使っても良いものですか?」

まるで小さい子に言い含めるように、優しくリリアーデに言われる。
きっとリリアーデの中では、今のアシェルは治療が嫌で駄々をこねている子供なのだろう。

人生の大先輩なのを知っているので、子供扱いされても不思議と嫌な気分にはならない。

「うん、そのために用意させたからね。今回は麻酔も使いたいんだけど、その介助も出来るかい?」

「シリンジと注射針はあるので問題ないです。何ゲージが良いですか?」

「ごめんね、ゲージっていうのが分からないんだ。基本的に針は一種類しかないからね。」

こっちの世界ではハチの針のように、既に穴の開いている素材を加工して注射針になる。

リリアーデの感覚では一種類だけなんて理解できないのだろうが、ゲージといえば太さを現したはずだ。数字が大きいほど細いものになる。

「そういえばコレ特注だったわ……。分かりました。こちらで用意するので、それを使ってください。麻酔薬はお持ちですか?」

「これだよ。」

「お預かりしますね。」

手際よくアレリオンとリリアーデの手で、処置の準備が行われる。

「アシェ、まずは麻酔を使うから、ちくっとするよ。」

「はい。痛くても何でもいいので、アン兄様が思う必要な処置を行ってください。」

「全く……泣き喚いてもおかしくないくらい、痛いはずなんだけどね。」

アレリオンは苦笑しながらも、アシェルの傷の周囲に何ヶ所も麻酔薬を注入していく。

「泣き喚いて痛みが無くなるなら、いくらでも泣きます。」

「うーん、泣いても痛みは無くならないかな。とても合理的な考えだけど、泣くのは泣こうとして泣くものじゃないんだけどね。まぁ、アシェは小さい時から泣いたりしなかったものね。イザベルが泣いてお知らせしてくれて、本当に良かったよ。」

そうは言われても、アシェルが涙をボロボロ流して泣いたのはパニックを起こした時くらいだ。今のように涙が滲むことはあっても、絶え間なく出てくることは無い。

「アレリオンお義兄様……私が泣き虫みたいに聞こえるので止めてください。赤子は本来泣くものです。」

「ふふ、知ってるよ。でもオムツもミルクも、イザベルに合わせてアシェにもやってあげてたからね。アシェだけだったら、お世話するサーニャの方が大変だったんじゃないかな。」

「サーニャに迷惑かけちゃうのは困るな。」

「アシェとイザベルはどんな子供だったの?興味あるわ。」

「そうだね。アシェは小さい頃から聡明で、動けるようになったら色んな絵本を僕達のところに持ってきていたよ。文字を覚えてからは、一人で書庫に籠るようになっちゃったけどね。でも、喜怒哀楽の表現は乏しかったかな。イザベルは赤ちゃんの時からはっきりと喜怒哀楽を示したし、とてもお転婆だったよ。なんせ、イザベルは使用人の子だからって遠ざけてたサーニャが、わざわざイザベルのベビーベッドを壁際から、アシェのベッドと壁との間にまで持ってきたくらいだからね。イザベルの方が一週間産まれるのが早くて、アシェの身体も一回り小さかったから、しっかりお姉ちゃんをしてたよ。」

アレリオンが懐かしそうに話す。
アシェルはちゃんと覚えているが、イザベルは覚えてないことも多いんじゃないだろうか。

「へぇ、イザベルってお転婆だったのね。今の姿からはちょっと想像つかないわ。」

「アレリオンお義兄様っ。そういう良くないことは、おっしゃらないで下さいませ。」

「なんでだい?元気なのはとても良いことだと思うよ。イザベルが居たから、アシェも楽しそうに庭に出るようになったんだから。メルが来てからは、二人ともメルのお姉ちゃんになってくれてたしね。使用人になんてならずに、あのままアシェの乳兄妹として育てば良かったのに。」

「私はアシェル様にお仕えするために使用人になったんです。乳兄妹ですと、家格の違いからいずれ引き離されかねませんでしたから。ですので、アシェル様の侍女になったことに後悔はありません。」

イザベルがきっぱりと言い切ってくれる。
アシェルの傍に居たいと言ってくれるその言葉が嬉しいし、心がポカポカしてくる。

「別に僕達は引き離したりしないけどね。」

「アレリオンお義兄様達が良くても、お母様が許してくれませんから。」

「まぁ、サーニャはその辺り厳しいからね。うーん、じゃあ今の形が最善ってことか。」

「そういうことです。」

「メイディーは皆仲が良いのね。我が家は弟も妹も立て続けに増えすぎて、全員覚えるのが大変だったわ。“授け子”は要らなかったんじゃないかしらと思うもの。」

リリアーデの言う通り、二人の下に三歳下の妹が。
この妹のシルフィードはグレイニール第一王子の婚約者になった。

その後はほぼ年子で7人兄弟のはずだ。

「一番末っ子が出来てからは、流石に避妊薬の内服をお勧めしたわ。こっちってあまり避妊しないのね。避妊具もないみたいで、ちょっとびっくりしたもの。」

「リリィの言う通り、避妊具はないね。ピルがあるだけだよ。飲む習慣は、ビースノートは基本的に子供を作りたいとき以外は飲んでるんだけど。ヒューナイトはそもそも婚約者や配偶者以外と交わるっていう概念が薄いから、多分避妊薬を飲むって言う発想もないみたいだよ。飲んでても娼婦くらいじゃないかな?」

ビースノートの性交は運動感覚だったり、娯楽や発情期を乗り切るためと割り切られているが、ヒューナイトは貞淑な考えの持ち主が多い。
子供も授かりものという考えだし、基本的に人生のパートナー以外と交わらないので、避妊の必要性を感じていないのだろう。

「まぁ、ソープ嬢みたいな感じだと必須でしょうしね。その習慣がないせいで、薬を取り扱ってくれるところを探すのに苦労したらしいわ。結局、アシェのお父様に口利きをしてもらったらしいから。……わたくしも飲んだ方が良いのかしら?」

悩んでいるのは、デュークと何かしら進展があったのだろうか。それとも単純に、衝動で襲った相手との子供が出来ないようにするためなのか。

どちらにしても、処方する薬は変わらないので確認もしない。

「要るなら、僕が元気になったら調薬してあげるよ。卒業しても必要なら、処方箋もかいてあげるから。それ見せれば、素材さえ揃ってたら調薬してもらえるよ。」

「まぁ、本当?お願いしようかしら。でも、ちゃんと元気になってからよ。病人の間はちゃんとジッとしててね。」

「流石にこのままじゃ動けないしね。」

なんせ今現在も、アシェルはアークエイドにもたれて支えられて、ようやく座っていられるのだ。
リリアーデが置いてくれた氷嚢も、既にだいぶぬるくなっている。

「アシェ、麻酔が効いてるか確認するから、触った感触が強いところだけ教えてくれるかい?」

「分かりました。」

お喋りしている間に十分麻酔は効いたようで、アレリオンが触ってくる場所はどこも痺れている感覚だ。

アシェルを蝕む毒には怠けているのに麻酔薬はしっかり解毒しようと魔力が働いたので、慌てて魔力を絞ったかいがあった。

「大丈夫みたいだね。じゃあ処置を始めようか。リリアーデ嬢、よろしくね。」

「はい。では滅菌物を広げますね。直接渡す以外では、ワゴンの上を清潔野にしておきますので、沢山使うガーゼなんかはここに落としていきます。」

「うん、その方がありがたいね。ふふ、本当に手慣れてるんだね。」

「これでも一応、手術のある外科系の元看護師でしたからね。それに領地では、前世では医師のするような処置もやらないといけませんでしたし。」

「そういえば明確に仕事内容が分かれてるんだったね。アシェ、メスを入れるよ。」

喋りながらも準備は完了したようで、アレリオンに声をかけられて頷く。

違和感も弱い痛みもあるが、昨日の様な激痛ではない。
麻酔がしっかり効いている証拠だ。

「やっぱり表より中の方が広いし酷いね……。少し肉も削いで良いかい?奥の方まで麻酔が効いてるか分からないから、かなり痛むかもしれないけど。」

「どれだけ痛くても構いませんので、アン兄様が良いと思う治療をしてください。僕には見えませんから。」

「分かった。あまりにも痛すぎて、気分が悪くなったら言うんだよ。」

アレリオンはそう声を掛けてくれるが、声の感じからしてアシェルが自己申告するとは思ってなさそうだ。

手際よくアシェルの背中の、壊死した組織が切除されていく。

アレリオンの宣言通り、麻酔をしているにも関わらず処置には激痛も伴った。

何度もガーゼを当てた感触があったので、悪い部分の血液や肉を取ってしまいたかったのだと思う。

「『ヒール』。ガーゼも一応当てておくね。これで今日の処置は……というよりも今の処置は終わりだよ。予想より進行が早いから、夜寝る時間の前にもう一度観察するからね。リリアーデ嬢も助かったよ。一人でやるのは準備も大変だからね。」

熱に浮かされた頭と痛みに耐える身体では、処置にどれくらい時間がかかったのか分からない。
それでもようやくアレリオンの処置が終わり、一時的にでも痛みがマシになる。
熱はまた上がってきたみたいだ。

「いいえ、これくらいお安い御用ですわ。ただ、医療セットはあとワンセットですの。滅菌が済めば、また使えるんですけど……。」

「あぁ、それは大丈夫だよ。数セット病院から取り寄せる手配はしてるんだ。片付けまですまないね。」

「当てがあるのなら良かったですわ。医師が作業しやすいように補助をするのが看護師ですから。もしまた処置をする時は、呼んでいただけたらお手伝いに参りますので。」

「もしかしたらお願いするかもしれない。その時はよろしく頼むね。」

「勿論ですわ。」

リリアーデのひんやりした手が額に触れた。

「うーん、下がりが悪いわね。汗も……熱もだけれど、やっぱりかなり痛かったのでしょう?冷や汗とか脂汗も混じってる気がするわ。『クリーン』。少しはスッキリした?本当に我慢強いというか、弱音を吐かないんだから。イザベル。氷枕と新しい氷嚢を持ってきてくれるかしら?一つと二つでお願いね。こっちはもう要らないから。」

リリアーデの手が伸びてきて、アシェルの脇と鼠径部の生暖かい氷嚢が取り除かれる。

「ねぇ、アシェ。仰向けで寝るのは辛いかしら?もしくは、横向きのどちらかが良いのだけれど。点滴するわ。脱水も怖いし……っていうか、ちゃんとルート取れるかしら。既に脱水気味の様な気がするのよね。解熱鎮痛剤も使った方が良いわね。持ち合わせがあったかしら。こんなことなら叔母さんから色々貰っておくんだったわ。」

「リリアーデ嬢、何をどんなふうに使いたいのか教えてくれたら、薬はこちらで用意するよ。それこそ、こちらの得意分野だからね。」

「あら、ありがとうございます。じゃあ——。」

「アシェ、リリィが言ってたの聞こえたか?」

恐らくリリアーデとアレリオンで、アシェルにどんな薬を使うかの相談をしているのだろう。

ずっと身体を支えてくれているアークエイドに、上手く働かない頭でなんとか答える。

「うん……上向き、なる……。でも、その前にお水……。水足りないと、血管でない。」

本当は飲んですぐ血液量が増えるわけではないので、今飲んでもリリアーデが点滴を刺す難易度は変わらないのだが、そこまで思い至らなかった。
点滴をするためと汗をかいたので水分を摂らなくてはと、アークエイドに要求する。

「アシェル様、どうぞ。」

イザベルが近寄ってきて、吸い飲みから冷たい水を与えられる。

そのひんやりした水分で喉を潤した身体は、アークエイドが優しく横たえてくれた。

「背中は痛くないか?痛いようなら横向きにするが。」

「コレで、良い……。ねぇ、寝ていい?」

「その前に氷を置いてからだ。置いたら寝ていい。ゆっくり休んでくれ。」

氷枕と氷嚢が身体に触れビクッとするが、その冷たさに慣れてくると、火照った体が冷えて気持ちいい。

処置が終わるまでは痛みで眠るどころではなかったが、今の状態ならゆっくり休めそうだ。

お休みを言う間もなく、疲れ切ったアシェルの意識は眠りに落ちた。
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