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第二章 王立学院中等部一年生
104 依頼達成報告とお祝い②
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Side:アシェル13歳 冬
生徒会室に行くと、一人私服姿のアークエイドを交えて会議中だったため、応接間のソファで自分で淹れた紅茶を飲みながら待つ。
会議が終わり、アルフォードが隣に来たと思ったら、脇の下に手を入れられヒョイッと持ち上げられた。
「アシェ、依頼お疲れ。よくやったぞ!身体は大丈夫か。」
まるで小さい子を高い高いするように持ち上げられ、顔が火照るのを感じる。
「大丈夫、大丈夫ですからっ!アル兄様、恥ずかしいから降ろしてくださいっ!」
「照れるアシェも可愛いなぁ。」
素直に床に降ろしてくれ、そのままギュッと抱きしめられる。
「もぅっ……僕よりアル兄様の方が喜んでませんか?」
「だって、アシェが初依頼をこなしたんだぞ。嬉しくないわけないだろ。」
いつもよりハイテンションのアルフォードにすりすりと頬擦りされる。
「アル兄様、あとでいくらでも充電するので、今は離してください。お父様からの伝言があります。」
「父上から?」
ようやく緩まった腕の中から抜け出して手紙を見せる。
「アビー様とノアも、一緒に見て貰っていいですか?」
遠巻きに兄妹のスキンシップが終わるのを待っていた二人は、何事かと近寄ってくる。
「あら、依頼完了のパーティーをするのね。わたくしは大丈夫よ。でも、わたくしまでお呼ばれしていいのかしら?」
「お父様が誘えって言ってるので大丈夫ですよ。多分ですけどアン兄様も来るだろうし、グレイニール殿下もいらっしゃるんじゃないですかね、この顔ぶれだと。」
「ふふ、それはあり得そうだわ。だったら、一人だけ侍女を連れていくわね。お父様とお母様まで居ないと良いけど。」
アビゲイルは笑っているが、もし国王陛下と女王陛下まで来たら、メイディー邸の警備まで見直さないといけないのではないだろうか。
王家の子供達が三人揃うだけでもかなり豪華な顔ぶれだというのに。
「流石にそれはない……と思いますけど。今回の依頼。お父様もだけど、アンジェラ様も噛んでるんですよね……。ないって言いきれない……。」
それに反応したのはアークエイドだ。
「母上も依頼のことを知ってたのか?」
「うん。お父様とキルル様の契約の立会いしてるはずだよ。」
「まさか……いや、母上のことだから……。」
一人で思考の海に沈むアークエイドを放っておいて、ノアールに確認する。
「ノアは大丈夫?一応トワからは使用人無しで行くって聞いてるけど。」
「あ、もうトワには伝えてくれてるんだね。うん、それでいいよ。」
「あと、帰りに部屋に寄ってって聞いてるよ。」
「分かった。」
アシェルが返事を確認すると、ノアールはアビゲイルに引っ張っていかれる。
どうもエスコートをしてくれと頼まれているようだが、エスコートが要るようなパーティーではない気がする。
というよりも、圧倒的男性過多なので、ペアの作りようがないという方が正解かもしれないが。
「アル兄様の使用人には、ベルがもう連絡してると思います。明日の朝、一緒に帰りますよね?」
事後承諾だが、もてなす側なので準備もある。
「あぁ、それで大丈夫だよ。なぁ、薬のレポートはもう仕上げたか?」
うずうずとした好奇心を隠しきれていない瞳のアルフォードに、先程出来上がったばかりのレポート用紙の束を『ストレージ』から取り出して手渡す。
「出来たてほやほやです。」
「さすがアシェだな、借りるぞ。」
嬉しそうに表情を綻ばせたまま、アシェルの頬にチュッとキスをして、アルフォードはソファに腰掛けてレポートに目を通し始める。
「こういうところを見ると、本当に兄妹だなと思うな。」
アークエイドのどこか呆れを含んだ声に、アシェルは「兄妹なんだから当たり前でしょ。」と返す。
特にアルフォードとは目つきや髪の癖以外そっくりな色味なのだ。
どこからどうみても血の繋がった兄妹である。
不意に肩に何かが乗り、両腕が見え、耳元で声がしたことでそれが誰かにのしかかられたのだということが分かる。
「いいなぁ、アシェル君のお祝いパーティーなんだね。アークエイド君やノアール君が呼ばれるのは幼馴染だからか……。どうしたらこういった時に、僕も呼んで貰えるようになるかな。」
「クリストファー先輩が呼ばれるのは難しくないですか?王族を呼ぶ時点で、警備が厳重になるんです。ホームパーティーなので、あまり大勢呼ぶと大変ですしね。」
「つれないなぁ。そんなアシェル君も良いんだけどね。ところで、我が家でのホームパーティーに呼んだら来てくれるかい?」
「パーティーの趣旨によりますね。」
あまり人の多い場所は好きではないので誘われても恐らく行かないだろうが、濁して答えておく。
「じゃあ、デートに誘ったらデートしてくれるかい?」
「先輩は僕を楽しませてくれるデートが出来るんですか?普通のデートはお断りですよ。」
「へぇ、じゃあどんなデートだったら良いんだい?」
「クスクス、そんなの言ってしまったら面白くないでしょう。」
「ふふ、なかなかの難題のようだけど、断られなかっただけ良しとするかな。」
クリストファーが楽しそうに笑っているのは分かるが、アシェルからはその顔が見えない。
いつになったらどいてくれるのだろうか。
そんなことを考えていると、アークエイドがべりっとクリストファーを剥がした。
「いつまでくっついてる。アシェも少しは嫌がるなり抵抗なりしろ。」
「重たかったから助かったよ。」
「そういう問題じゃないだろ。」
「もー兄様だけズルいです!ねぇ、アシェル様っ。僕もアシェル様とデートしたいなぁ……。あ、でも僕は、アシェル様の考えるデートを一緒に楽しみたいです。」
お説教モードに入ったと思われるアークエイドを無視して、シオンが乱入してくる。
クリストファーはぐいぐい攻めてくるタイプだが、シオンはぐいぐい来るように見えて受け身なタイプだ。
兄弟でここまで正反対なのも面白いと思っている。
「ふふ、シオン君とも機会があればね。」
アシェルの頭よりも低い位置にあるふわふわの薄浅葱色の頭を撫でてやると、可愛い顔立ちがふにゃりと笑みを作った。
「子供扱いしないでくださいよ。でも、アシェル様に撫でられるのは嬉しいです。」
小動物のようなシオンを愛でていると、グイっと後ろから腰を引かれる。
これは顔や声を確認しなくても分かる。アークエイドだ。
「もう用件は済んだだろ。あちこちで愛想を振りまくな。」
「失礼な。あちこちで振りまいてなんかないよ。」
「愛想を振りまいてるのは認めるんだな?」
「さぁね。」
シオンから引き剥がすという目的は達成したはずなのに、アークエイドは腕の中から解放してくれる気配がない。
「アークエイド君、酷くないかい?僕がアシェル君にくっついてると引き剥がして、嫌がったり抵抗しろって言うのに、君はくっついてるなんて。」
クリストファーに指摘され離してくれるかと思いきや、アークエイドは無視を決め込んだようだった。
それならばとシオンが前から抱き着いてきて、サンドイッチにされる。
「じゃあ僕もアシェル様にぎゅってしてもらいたいな。ずっと会えなくて寂しかったんですよ。」
してもらいたいのに自分から来るんだね、と思いつつも、アシェルよりも少し背の低いシオンをギュッと抱きしめてあげる。
「しょうがないなぁ。シオン君は甘え上手だね。」
「えへへ。アシェル様にいっぱい甘やかしてもらいたいなぁ。」
「シオン君は可愛いね。ナニしてあげようかな。」
「ナニしてくれるんですか?アシェル様にしてもえらるなら、きっと僕、何でも喜んじゃうと思います。」
具体例を何も出さずにシオンと言葉を交わすのは楽しい。
クリストファー相手だと、どうしても腹の探り合い感が強くていただけない。
「アシェ……俺が離したらシオンを離すか?」
「分かってるなら離してよ。学院祭の時に、せめて腕引くくらいにしてって言ったでしょ。」
アシェルの言葉を聞いて、アークエイドの腕がするりと離れる。
それを見たシオンも「もう終わりかぁ、残念。」と離れていった。
学院祭の時から思うのだが、シオンもアシェルと一緒にアークエイドの反応を見て楽しんでいるような気がする。
悪戯っ子のような笑みを浮かべたシオンと目が合い、アシェルの気のせいではないことを知る。
「ふふ、残念だったよね。それに、シオン君は悪い子だなぁ。」
「アシェル様もですからね。」
お互い悪戯の秘密を共有して笑っていると、レポートを読み終えたアルフォードに声を掛けられる。
「アシェ、凄い出来だな。この組み合わせの発想はなった。」
「あ、読み終わりました?お父様が前に処方していたやつをベースに、いくつか単品で効果を見てから配合したので。ちなみに、今ならお父様からもらった希少素材を分けれますけど、要りますよね?」
さっとアルフォードの隣に座り、『ストレージ』を開いて返事を貰う前に素材を広げていく。
要らない、という返事が来ることなんて全く想定していないし、アシェルでも二つ返事で頷く。
「おぉ、良いのか?多分これ、今回の依頼に関係ない奴だし、アシェへの報酬代わりだろ。」
「そうだと思うんですけど、他所の国の素材は中々手に入らないから。アル兄様も欲しいでしょ?あぁ……一度でいいから、王宮の医務局に保管されている見たことない素材を、一通り味見したいですよね。」
テキパキと取り出した素材を半分ずつアルフォードに渡して、残りは再度『ストレージ』に仕舞いこむ。
「解る。仕事じゃなくて、プライベートでじっくり時間かけて味見したいよな。」
「ですです。貰った素材だけでも、しばらく楽しめそうなくらいですもん。冬休みは実験室に籠ろうかな。」
それぞれの素材を味見して、新しい薬を作るのも良いかもしれない。
他国で手に入りやすい素材縛りで何か作るのも楽しいかもしれない。
そんなことを考えながら手を動かしていると、譲渡会はあっという間に終わってしまう。
「そういえば、夏休みは寮でずっと実験してたんだな。この前イザベルが嘆いてたぞ。」
「……ベルを泣かせてしまいました。でも、こればっかりは止められないんです。」
「まぁ、止められないのは解るけどな。せめて、イザベルが泣かなくて良いように、イザベルに声かけてからにしろよ。」
ぽんぽんと慰めるように頭を撫でられる。
「今度は気を付けます。でも、そうするとベルにお休みあげれなくなるんですよね……。実験するからって言ってベルに休みだしたら、押しかけてきそうじゃないです?それだとお休みあげる意味ないですよね。」
「イザベルのことだからなぁ。夏もサーニャに休みを出したから休んだだけだろうしな。」
「長期休みの間くらい、家族とゆっくり過ごしたらどうなのかしら?」
少し呆れた声のアビゲイルが話に加わる。
「どうせ貴方達のことだから、同じ家に居てもそれぞれ実験室に籠るんでしょう。新しい素材を全員に渡したら、家族揃って別々に籠るんだろうなって、わたくしでも予測できますわよ。」
「そりゃ、実験室はそれぞれ別にあるしな。結果の共有はするけど、実験を共同でってのは基本的にしないしな。」
「お休みを頂いても、実験以外にしたいことは無いですしね。あぁ、今年は……いや、でも、多分アークに怒られるか。」
「今、絶対一人で討伐に行ったのを思い出しただろ。」
いつの間にかアシェルの向かいに座っているアークエイドに指摘されるが、その通りだ。
「うん。出来たら三の森に冒険しに行きたいけど、一人じゃダメって言うんでしょ。」
「当たり前だろ。」
「ってなると、二の森までなんだよね……。二の森じゃ手応えなさすぎるんだよなぁ。」
三の森にある植物素材も気になるし、虫系の毒持ちが多いので魔物素材的にもアシェルにとって魅力的なエリアだ。
しかも体質的に、とても相性がいい。
逆に言えば、それ以外のメンバーとは相性が悪いエリアだ。
植物からも魔物からも、何を原因に状態異常を貰うか分からない。
「いっそダンジョンに……でも、ダンジョンだときっちり下調べしないと、目当ての素材も手に入らないよね。魔物肉は手に入らないし。」
ダンジョンでは何がどうなってるのか解らないが、討伐した魔物は魔石と、時折素材をドロップする。
遺体処理の手間が無いのは便利なのだが、素材のドロップが無ければあまり収入にもならない。
現地で食料調達をしようと思うと、魔物肉は諦めなければいけない。
これがアシェル達のようにストレージ持ちなら気にしないのだろうが、ダンジョン攻略でネックになりやすい問題でもある。
そしてダンジョンは階層ごとに気候や植生が異なる。
もし欲しい素材が決まっているのなら、目当ての階層まで行って帰ってこなくてはいけない。
上層の地図は売っているだろうが、基本的にはマッピングしながら進まなくてはいけない。
ダンジョン攻略は何かと厄介なのだ。
「ダンジョンはもっと駄目だからな。それなら魔の森の方がマシだ。」
「えー。でも、アークが付いてきたら三の森に入れないじゃない。アークがどこかで倒れてても、僕、気付かない自信あるよ?」
「討伐に行くなら強行軍は止めてくれ。二つ名がいつまで経っても消えないぞ。パーティーで行けばいいだろ。」
そういえばすっかり忘れていたが、アシェルは夏休みの強行軍で二つ名が付いていたのだ。
「……さすがに、もう消えてないかな?9月の話だよ?」
「あのインパクトを忘れろってほうが無理だ。」
討伐の話になったからか、すかさずダリルも会話に入ってくる。
「二人は冒険者登録をしてるんだな。既に三の森までいける実力もだが……俺は二つ名が気になる。聞いても良いか?」
どうする?とアークエイドに視線を投げ掛けられる。
別に隠すようなものでもないのだが、言われるとアシェルが少し恥ずかしいだけだ。
「……【血濡れの殺人人形】だそうです。冒険者活動中は見た目を変えてるので、この姿の時に言わないでくださいね。」
「これまた……凄い二つ名だな。」
「えらく物騒な二つ名が付いてるのね。アークは理由を知ってるのかしら?」
「見たまんまの二つ名だ。魔物の返り血を浴びたまま、魔物の首を切っていく姿を見た冒険者が名付けたんだろ。」
そういえば二つ名はどういう経緯で付くのだろうか。
まだまだアシェルの知らないことが沢山ある。
「へぇ、首狙いか。まぁ、致命傷になるよな。」
うんうん、とダリルが納得したように頷いている。
「首狙いの失血死狙いです。やっぱり首だけの傷だと、綺麗な毛皮が採れるので買取価格が高いんですよね。」
「なぁ、アシェ……いつも思うが、なんでそんなに自分で稼ごうとするんだ?最近、学費すら自分で払うって言い出したって、父上が嘆いていたぞ。」
それはアシェルが、夏休みにアベルに言って断られた内容だ。
アルフォードが知っているということは、アレリオンも間違いなく知っているだろう。
「なんでって、自分で稼ぐ術があるなら稼ぎたいじゃないですか。僕は跡取りじゃないですし、自分の身を立てる術は持っておかないと。あと、お金は溜め込むだけじゃ意味ないですから。しっかり使うべきところでは使わないと。」
「あのなぁ……それだけじゃないだろ。確かにアシェが稼いでるのも解るが、学費は父上に出してもらっとけ。じゃないと、メイディーの名義でやってること、洗いざらい吐かされるぞ。」
アルフォードは一体どれのことを言ってるのか分からないが、アシェルはアシェルに出来ることをしているだけだ。
多分、各地の孤児院への金銭的な寄付や、主に魔物肉を定期的に寄付してもらうように冒険者ギルドに頼んでいることのどちらかだとは思うが。
別に悪いことをしているわけではないので、実家名義だが目を瞑っていてもらいたい。
「僕にはお兄様達よりお金がかかってるんだから、これくらい自分で出すのに。」
アシェルは男装して過ごしているせいで、男としての衣類と女としての衣類が必要になる。
女性用はドレスの値段もだが、それに伴う装飾品にもお金がかかる。
着るか分からないものでも、仕立てられて準備はされているのだ。
アシェルからすると無駄遣いだが、急に用意できるものでもないので、最低限だけは揃えて貰っている。
「全く、そんなの気にしなくて良いんだよ。今日のパーティーだって、アシェに何かしてやりたくて考えたんだと思うぞ。わざわざ身内だけだしな。」
「お父様が……。でも、僕は別にパーティーとか好きじゃ——。」
「多分だけど、希少素材と一緒に各国の食材を集めてると思うぞ。多分って言うか、父上のことだからほぼ確実だな。アシェは色んな料理を食べるの好きだろ?」
「それはすっごく魅力的です。しかも晩餐会形式じゃなくて、パーティー形式なら好きなものを少しずつ色々食べられる……!」
お祝いしてくれるのは嬉しいが、何もパーティーじゃなくてもと思っていたのだが、アルフォードの言葉を聞くと楽しみになってくる。
「アシェは食事が好きなのか?色々作るのは上手いなと思ってたが。」
アークエイドの質問にアシェルは頷く。
「美味しいものを食べるのは好きだよ。地方や国によって食材や味付けも違うから楽しいよね。あんまり複雑な味は再現できないけど、ハーブやスパイスなんかの薬味系は数種類なら言い当てられる自信もあるよ。」
香りづけに使われるハーブなどにも薬効がある。
なので僅かながら魔力は反応するが、それらの普段使われる調味料はそういうものだと認識しているので気にしていない。
体質を応用して感じる風味と魔力の具合とで分析すると、使っているものが大体解るという仕組みだ。
「また兄弟で調味料クイズやりたいですね。」
「明後日、用意してもらうか?兄上の仕事がどうなってるか分からないけど、兄上も誘ったらやってくれるだろ。」
「アル、調味料クイズってなんなのかしら?」
「肉に一種類だけハーブとかスパイスで味付けしてあるのを、誰が一番早く正解を出すかって遊びだな。肉の時は、食事の時間に家族総出で参加。肉じゃなくてクッキーの時は、茶会をしながらって感じで。割と楽しいぞ。」
「割と香りが近いハーブが使われると、少し悩んじゃうんですよね。意見が分かれた時の、料理長の発表までのドキドキが楽しいんですよ。」
特に食事の時は、アベルも参加するので白熱する。
メアリーは苦手なようだが、意外にもメルティーは正答率が良い。鼻と舌だけで正解を当てているのは純粋に凄いと思う。
「普通は解らないわよ。ほんとに不思議な家ね、メイディーって。」
「アビーはそう言うけど、俺らにとっては普通なんだって。」
アシェルもアルフォードも、それが普通の家で育ったので、不思議と言われてもあまり実感が湧かない。
遊びながらついでに勉強している、という感じだ。
「さぁ、そろそろ話に一区切りついたかい?そろそろ生徒会室を施錠したいんだけどね。」
不意にユリウスの声が割って入ってくる。
「あ、長居してすみません。」
「それは良いんだよ。ただ、長くなりそうなら、寮の談話室でお願いしてもいいかい。ここの戸締りは私の責任になるから。」
困ったように苦笑するユリウスの言葉に従い、皆で生徒会室の外に出る。
ワイワイとお喋りしながら寮へと戻る。
生徒会メンバーに囲まれているのも学院祭の準備期間に慣れてしまっていて、アシェルも時々会話に入った。
アークエイドは当たり前の顔をしてアシェルの部屋に入ってきたのだが、流石に今日はイザベルに追い返されたので「また明日。」とだけ言葉を交わした。
イザベル曰く「アシェル様には明日のためのお手入れと、疲れを取るために睡眠が必要です。」だそうだ。
久しぶりにお風呂でしてもらったイザベル渾身のマッサージは、相変わらず心地よかった。
生徒会室に行くと、一人私服姿のアークエイドを交えて会議中だったため、応接間のソファで自分で淹れた紅茶を飲みながら待つ。
会議が終わり、アルフォードが隣に来たと思ったら、脇の下に手を入れられヒョイッと持ち上げられた。
「アシェ、依頼お疲れ。よくやったぞ!身体は大丈夫か。」
まるで小さい子を高い高いするように持ち上げられ、顔が火照るのを感じる。
「大丈夫、大丈夫ですからっ!アル兄様、恥ずかしいから降ろしてくださいっ!」
「照れるアシェも可愛いなぁ。」
素直に床に降ろしてくれ、そのままギュッと抱きしめられる。
「もぅっ……僕よりアル兄様の方が喜んでませんか?」
「だって、アシェが初依頼をこなしたんだぞ。嬉しくないわけないだろ。」
いつもよりハイテンションのアルフォードにすりすりと頬擦りされる。
「アル兄様、あとでいくらでも充電するので、今は離してください。お父様からの伝言があります。」
「父上から?」
ようやく緩まった腕の中から抜け出して手紙を見せる。
「アビー様とノアも、一緒に見て貰っていいですか?」
遠巻きに兄妹のスキンシップが終わるのを待っていた二人は、何事かと近寄ってくる。
「あら、依頼完了のパーティーをするのね。わたくしは大丈夫よ。でも、わたくしまでお呼ばれしていいのかしら?」
「お父様が誘えって言ってるので大丈夫ですよ。多分ですけどアン兄様も来るだろうし、グレイニール殿下もいらっしゃるんじゃないですかね、この顔ぶれだと。」
「ふふ、それはあり得そうだわ。だったら、一人だけ侍女を連れていくわね。お父様とお母様まで居ないと良いけど。」
アビゲイルは笑っているが、もし国王陛下と女王陛下まで来たら、メイディー邸の警備まで見直さないといけないのではないだろうか。
王家の子供達が三人揃うだけでもかなり豪華な顔ぶれだというのに。
「流石にそれはない……と思いますけど。今回の依頼。お父様もだけど、アンジェラ様も噛んでるんですよね……。ないって言いきれない……。」
それに反応したのはアークエイドだ。
「母上も依頼のことを知ってたのか?」
「うん。お父様とキルル様の契約の立会いしてるはずだよ。」
「まさか……いや、母上のことだから……。」
一人で思考の海に沈むアークエイドを放っておいて、ノアールに確認する。
「ノアは大丈夫?一応トワからは使用人無しで行くって聞いてるけど。」
「あ、もうトワには伝えてくれてるんだね。うん、それでいいよ。」
「あと、帰りに部屋に寄ってって聞いてるよ。」
「分かった。」
アシェルが返事を確認すると、ノアールはアビゲイルに引っ張っていかれる。
どうもエスコートをしてくれと頼まれているようだが、エスコートが要るようなパーティーではない気がする。
というよりも、圧倒的男性過多なので、ペアの作りようがないという方が正解かもしれないが。
「アル兄様の使用人には、ベルがもう連絡してると思います。明日の朝、一緒に帰りますよね?」
事後承諾だが、もてなす側なので準備もある。
「あぁ、それで大丈夫だよ。なぁ、薬のレポートはもう仕上げたか?」
うずうずとした好奇心を隠しきれていない瞳のアルフォードに、先程出来上がったばかりのレポート用紙の束を『ストレージ』から取り出して手渡す。
「出来たてほやほやです。」
「さすがアシェだな、借りるぞ。」
嬉しそうに表情を綻ばせたまま、アシェルの頬にチュッとキスをして、アルフォードはソファに腰掛けてレポートに目を通し始める。
「こういうところを見ると、本当に兄妹だなと思うな。」
アークエイドのどこか呆れを含んだ声に、アシェルは「兄妹なんだから当たり前でしょ。」と返す。
特にアルフォードとは目つきや髪の癖以外そっくりな色味なのだ。
どこからどうみても血の繋がった兄妹である。
不意に肩に何かが乗り、両腕が見え、耳元で声がしたことでそれが誰かにのしかかられたのだということが分かる。
「いいなぁ、アシェル君のお祝いパーティーなんだね。アークエイド君やノアール君が呼ばれるのは幼馴染だからか……。どうしたらこういった時に、僕も呼んで貰えるようになるかな。」
「クリストファー先輩が呼ばれるのは難しくないですか?王族を呼ぶ時点で、警備が厳重になるんです。ホームパーティーなので、あまり大勢呼ぶと大変ですしね。」
「つれないなぁ。そんなアシェル君も良いんだけどね。ところで、我が家でのホームパーティーに呼んだら来てくれるかい?」
「パーティーの趣旨によりますね。」
あまり人の多い場所は好きではないので誘われても恐らく行かないだろうが、濁して答えておく。
「じゃあ、デートに誘ったらデートしてくれるかい?」
「先輩は僕を楽しませてくれるデートが出来るんですか?普通のデートはお断りですよ。」
「へぇ、じゃあどんなデートだったら良いんだい?」
「クスクス、そんなの言ってしまったら面白くないでしょう。」
「ふふ、なかなかの難題のようだけど、断られなかっただけ良しとするかな。」
クリストファーが楽しそうに笑っているのは分かるが、アシェルからはその顔が見えない。
いつになったらどいてくれるのだろうか。
そんなことを考えていると、アークエイドがべりっとクリストファーを剥がした。
「いつまでくっついてる。アシェも少しは嫌がるなり抵抗なりしろ。」
「重たかったから助かったよ。」
「そういう問題じゃないだろ。」
「もー兄様だけズルいです!ねぇ、アシェル様っ。僕もアシェル様とデートしたいなぁ……。あ、でも僕は、アシェル様の考えるデートを一緒に楽しみたいです。」
お説教モードに入ったと思われるアークエイドを無視して、シオンが乱入してくる。
クリストファーはぐいぐい攻めてくるタイプだが、シオンはぐいぐい来るように見えて受け身なタイプだ。
兄弟でここまで正反対なのも面白いと思っている。
「ふふ、シオン君とも機会があればね。」
アシェルの頭よりも低い位置にあるふわふわの薄浅葱色の頭を撫でてやると、可愛い顔立ちがふにゃりと笑みを作った。
「子供扱いしないでくださいよ。でも、アシェル様に撫でられるのは嬉しいです。」
小動物のようなシオンを愛でていると、グイっと後ろから腰を引かれる。
これは顔や声を確認しなくても分かる。アークエイドだ。
「もう用件は済んだだろ。あちこちで愛想を振りまくな。」
「失礼な。あちこちで振りまいてなんかないよ。」
「愛想を振りまいてるのは認めるんだな?」
「さぁね。」
シオンから引き剥がすという目的は達成したはずなのに、アークエイドは腕の中から解放してくれる気配がない。
「アークエイド君、酷くないかい?僕がアシェル君にくっついてると引き剥がして、嫌がったり抵抗しろって言うのに、君はくっついてるなんて。」
クリストファーに指摘され離してくれるかと思いきや、アークエイドは無視を決め込んだようだった。
それならばとシオンが前から抱き着いてきて、サンドイッチにされる。
「じゃあ僕もアシェル様にぎゅってしてもらいたいな。ずっと会えなくて寂しかったんですよ。」
してもらいたいのに自分から来るんだね、と思いつつも、アシェルよりも少し背の低いシオンをギュッと抱きしめてあげる。
「しょうがないなぁ。シオン君は甘え上手だね。」
「えへへ。アシェル様にいっぱい甘やかしてもらいたいなぁ。」
「シオン君は可愛いね。ナニしてあげようかな。」
「ナニしてくれるんですか?アシェル様にしてもえらるなら、きっと僕、何でも喜んじゃうと思います。」
具体例を何も出さずにシオンと言葉を交わすのは楽しい。
クリストファー相手だと、どうしても腹の探り合い感が強くていただけない。
「アシェ……俺が離したらシオンを離すか?」
「分かってるなら離してよ。学院祭の時に、せめて腕引くくらいにしてって言ったでしょ。」
アシェルの言葉を聞いて、アークエイドの腕がするりと離れる。
それを見たシオンも「もう終わりかぁ、残念。」と離れていった。
学院祭の時から思うのだが、シオンもアシェルと一緒にアークエイドの反応を見て楽しんでいるような気がする。
悪戯っ子のような笑みを浮かべたシオンと目が合い、アシェルの気のせいではないことを知る。
「ふふ、残念だったよね。それに、シオン君は悪い子だなぁ。」
「アシェル様もですからね。」
お互い悪戯の秘密を共有して笑っていると、レポートを読み終えたアルフォードに声を掛けられる。
「アシェ、凄い出来だな。この組み合わせの発想はなった。」
「あ、読み終わりました?お父様が前に処方していたやつをベースに、いくつか単品で効果を見てから配合したので。ちなみに、今ならお父様からもらった希少素材を分けれますけど、要りますよね?」
さっとアルフォードの隣に座り、『ストレージ』を開いて返事を貰う前に素材を広げていく。
要らない、という返事が来ることなんて全く想定していないし、アシェルでも二つ返事で頷く。
「おぉ、良いのか?多分これ、今回の依頼に関係ない奴だし、アシェへの報酬代わりだろ。」
「そうだと思うんですけど、他所の国の素材は中々手に入らないから。アル兄様も欲しいでしょ?あぁ……一度でいいから、王宮の医務局に保管されている見たことない素材を、一通り味見したいですよね。」
テキパキと取り出した素材を半分ずつアルフォードに渡して、残りは再度『ストレージ』に仕舞いこむ。
「解る。仕事じゃなくて、プライベートでじっくり時間かけて味見したいよな。」
「ですです。貰った素材だけでも、しばらく楽しめそうなくらいですもん。冬休みは実験室に籠ろうかな。」
それぞれの素材を味見して、新しい薬を作るのも良いかもしれない。
他国で手に入りやすい素材縛りで何か作るのも楽しいかもしれない。
そんなことを考えながら手を動かしていると、譲渡会はあっという間に終わってしまう。
「そういえば、夏休みは寮でずっと実験してたんだな。この前イザベルが嘆いてたぞ。」
「……ベルを泣かせてしまいました。でも、こればっかりは止められないんです。」
「まぁ、止められないのは解るけどな。せめて、イザベルが泣かなくて良いように、イザベルに声かけてからにしろよ。」
ぽんぽんと慰めるように頭を撫でられる。
「今度は気を付けます。でも、そうするとベルにお休みあげれなくなるんですよね……。実験するからって言ってベルに休みだしたら、押しかけてきそうじゃないです?それだとお休みあげる意味ないですよね。」
「イザベルのことだからなぁ。夏もサーニャに休みを出したから休んだだけだろうしな。」
「長期休みの間くらい、家族とゆっくり過ごしたらどうなのかしら?」
少し呆れた声のアビゲイルが話に加わる。
「どうせ貴方達のことだから、同じ家に居てもそれぞれ実験室に籠るんでしょう。新しい素材を全員に渡したら、家族揃って別々に籠るんだろうなって、わたくしでも予測できますわよ。」
「そりゃ、実験室はそれぞれ別にあるしな。結果の共有はするけど、実験を共同でってのは基本的にしないしな。」
「お休みを頂いても、実験以外にしたいことは無いですしね。あぁ、今年は……いや、でも、多分アークに怒られるか。」
「今、絶対一人で討伐に行ったのを思い出しただろ。」
いつの間にかアシェルの向かいに座っているアークエイドに指摘されるが、その通りだ。
「うん。出来たら三の森に冒険しに行きたいけど、一人じゃダメって言うんでしょ。」
「当たり前だろ。」
「ってなると、二の森までなんだよね……。二の森じゃ手応えなさすぎるんだよなぁ。」
三の森にある植物素材も気になるし、虫系の毒持ちが多いので魔物素材的にもアシェルにとって魅力的なエリアだ。
しかも体質的に、とても相性がいい。
逆に言えば、それ以外のメンバーとは相性が悪いエリアだ。
植物からも魔物からも、何を原因に状態異常を貰うか分からない。
「いっそダンジョンに……でも、ダンジョンだときっちり下調べしないと、目当ての素材も手に入らないよね。魔物肉は手に入らないし。」
ダンジョンでは何がどうなってるのか解らないが、討伐した魔物は魔石と、時折素材をドロップする。
遺体処理の手間が無いのは便利なのだが、素材のドロップが無ければあまり収入にもならない。
現地で食料調達をしようと思うと、魔物肉は諦めなければいけない。
これがアシェル達のようにストレージ持ちなら気にしないのだろうが、ダンジョン攻略でネックになりやすい問題でもある。
そしてダンジョンは階層ごとに気候や植生が異なる。
もし欲しい素材が決まっているのなら、目当ての階層まで行って帰ってこなくてはいけない。
上層の地図は売っているだろうが、基本的にはマッピングしながら進まなくてはいけない。
ダンジョン攻略は何かと厄介なのだ。
「ダンジョンはもっと駄目だからな。それなら魔の森の方がマシだ。」
「えー。でも、アークが付いてきたら三の森に入れないじゃない。アークがどこかで倒れてても、僕、気付かない自信あるよ?」
「討伐に行くなら強行軍は止めてくれ。二つ名がいつまで経っても消えないぞ。パーティーで行けばいいだろ。」
そういえばすっかり忘れていたが、アシェルは夏休みの強行軍で二つ名が付いていたのだ。
「……さすがに、もう消えてないかな?9月の話だよ?」
「あのインパクトを忘れろってほうが無理だ。」
討伐の話になったからか、すかさずダリルも会話に入ってくる。
「二人は冒険者登録をしてるんだな。既に三の森までいける実力もだが……俺は二つ名が気になる。聞いても良いか?」
どうする?とアークエイドに視線を投げ掛けられる。
別に隠すようなものでもないのだが、言われるとアシェルが少し恥ずかしいだけだ。
「……【血濡れの殺人人形】だそうです。冒険者活動中は見た目を変えてるので、この姿の時に言わないでくださいね。」
「これまた……凄い二つ名だな。」
「えらく物騒な二つ名が付いてるのね。アークは理由を知ってるのかしら?」
「見たまんまの二つ名だ。魔物の返り血を浴びたまま、魔物の首を切っていく姿を見た冒険者が名付けたんだろ。」
そういえば二つ名はどういう経緯で付くのだろうか。
まだまだアシェルの知らないことが沢山ある。
「へぇ、首狙いか。まぁ、致命傷になるよな。」
うんうん、とダリルが納得したように頷いている。
「首狙いの失血死狙いです。やっぱり首だけの傷だと、綺麗な毛皮が採れるので買取価格が高いんですよね。」
「なぁ、アシェ……いつも思うが、なんでそんなに自分で稼ごうとするんだ?最近、学費すら自分で払うって言い出したって、父上が嘆いていたぞ。」
それはアシェルが、夏休みにアベルに言って断られた内容だ。
アルフォードが知っているということは、アレリオンも間違いなく知っているだろう。
「なんでって、自分で稼ぐ術があるなら稼ぎたいじゃないですか。僕は跡取りじゃないですし、自分の身を立てる術は持っておかないと。あと、お金は溜め込むだけじゃ意味ないですから。しっかり使うべきところでは使わないと。」
「あのなぁ……それだけじゃないだろ。確かにアシェが稼いでるのも解るが、学費は父上に出してもらっとけ。じゃないと、メイディーの名義でやってること、洗いざらい吐かされるぞ。」
アルフォードは一体どれのことを言ってるのか分からないが、アシェルはアシェルに出来ることをしているだけだ。
多分、各地の孤児院への金銭的な寄付や、主に魔物肉を定期的に寄付してもらうように冒険者ギルドに頼んでいることのどちらかだとは思うが。
別に悪いことをしているわけではないので、実家名義だが目を瞑っていてもらいたい。
「僕にはお兄様達よりお金がかかってるんだから、これくらい自分で出すのに。」
アシェルは男装して過ごしているせいで、男としての衣類と女としての衣類が必要になる。
女性用はドレスの値段もだが、それに伴う装飾品にもお金がかかる。
着るか分からないものでも、仕立てられて準備はされているのだ。
アシェルからすると無駄遣いだが、急に用意できるものでもないので、最低限だけは揃えて貰っている。
「全く、そんなの気にしなくて良いんだよ。今日のパーティーだって、アシェに何かしてやりたくて考えたんだと思うぞ。わざわざ身内だけだしな。」
「お父様が……。でも、僕は別にパーティーとか好きじゃ——。」
「多分だけど、希少素材と一緒に各国の食材を集めてると思うぞ。多分って言うか、父上のことだからほぼ確実だな。アシェは色んな料理を食べるの好きだろ?」
「それはすっごく魅力的です。しかも晩餐会形式じゃなくて、パーティー形式なら好きなものを少しずつ色々食べられる……!」
お祝いしてくれるのは嬉しいが、何もパーティーじゃなくてもと思っていたのだが、アルフォードの言葉を聞くと楽しみになってくる。
「アシェは食事が好きなのか?色々作るのは上手いなと思ってたが。」
アークエイドの質問にアシェルは頷く。
「美味しいものを食べるのは好きだよ。地方や国によって食材や味付けも違うから楽しいよね。あんまり複雑な味は再現できないけど、ハーブやスパイスなんかの薬味系は数種類なら言い当てられる自信もあるよ。」
香りづけに使われるハーブなどにも薬効がある。
なので僅かながら魔力は反応するが、それらの普段使われる調味料はそういうものだと認識しているので気にしていない。
体質を応用して感じる風味と魔力の具合とで分析すると、使っているものが大体解るという仕組みだ。
「また兄弟で調味料クイズやりたいですね。」
「明後日、用意してもらうか?兄上の仕事がどうなってるか分からないけど、兄上も誘ったらやってくれるだろ。」
「アル、調味料クイズってなんなのかしら?」
「肉に一種類だけハーブとかスパイスで味付けしてあるのを、誰が一番早く正解を出すかって遊びだな。肉の時は、食事の時間に家族総出で参加。肉じゃなくてクッキーの時は、茶会をしながらって感じで。割と楽しいぞ。」
「割と香りが近いハーブが使われると、少し悩んじゃうんですよね。意見が分かれた時の、料理長の発表までのドキドキが楽しいんですよ。」
特に食事の時は、アベルも参加するので白熱する。
メアリーは苦手なようだが、意外にもメルティーは正答率が良い。鼻と舌だけで正解を当てているのは純粋に凄いと思う。
「普通は解らないわよ。ほんとに不思議な家ね、メイディーって。」
「アビーはそう言うけど、俺らにとっては普通なんだって。」
アシェルもアルフォードも、それが普通の家で育ったので、不思議と言われてもあまり実感が湧かない。
遊びながらついでに勉強している、という感じだ。
「さぁ、そろそろ話に一区切りついたかい?そろそろ生徒会室を施錠したいんだけどね。」
不意にユリウスの声が割って入ってくる。
「あ、長居してすみません。」
「それは良いんだよ。ただ、長くなりそうなら、寮の談話室でお願いしてもいいかい。ここの戸締りは私の責任になるから。」
困ったように苦笑するユリウスの言葉に従い、皆で生徒会室の外に出る。
ワイワイとお喋りしながら寮へと戻る。
生徒会メンバーに囲まれているのも学院祭の準備期間に慣れてしまっていて、アシェルも時々会話に入った。
アークエイドは当たり前の顔をしてアシェルの部屋に入ってきたのだが、流石に今日はイザベルに追い返されたので「また明日。」とだけ言葉を交わした。
イザベル曰く「アシェル様には明日のためのお手入れと、疲れを取るために睡眠が必要です。」だそうだ。
久しぶりにお風呂でしてもらったイザベル渾身のマッサージは、相変わらず心地よかった。
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