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第一章 非公式お茶会

40 レストラン【ウォルナット】② ※

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※一線は超えませんが、キスより先の行為をしようとするアークエイドの描写があります。

苦手な方や18歳未満の方はこの話を飛ばしてお読みください。

次話の冒頭で簡単なあらすじだけは載せます。

********



Side:アシェル12歳 冬



「……っ、くる、なっ……。」

いつもとは全く違う赤く上気した表情は。苦しそうに眉根は寄せられ、瞳には熱い劣情が宿っている。

そんな拒絶の言葉を無視して。
体操座りのようにして身体を抱き締めているアークエイドの目の前に、足を延ばし脚でアークエイドの身体を挟むように座った。
動けないだろうが、逃げられてしまっては困る。

アークエイドの付近は暑く、アークエイドはベストまで脱いでシャツ姿だ。
アシェルも上着を脱ぎ、シャツの上の方のボタンを開けて熱が籠らないようにする。

「それはできない相談ですね。今から解毒作業を開始します。手を失礼しますね。」

熱をもつ両手をそれぞれ手に取るが、何の抵抗もなく握り返された。

「今から殿下の体内に魔力を流すので、抵抗せずに受け入れてください。」

こくんと頷いたのを見て、アシェルは目を閉じ手の平に集中する。

ゆっくりと自身の体内を巡る魔力を、右の手の平を通してアークエイドに渡し、相手の体内を巡らせたあとは左手の手の平からまたアシェルの身体に戻す。

5分か10分ほど経ったのだろうか。

瞳を閉じて解毒に集中していたアシェルの身体が、ぐらっと後ろに倒れた。

(アーク!?)

押し倒される形で身体は倒れ、、ごつっと鈍い音がして頭を打つ。
慌てて開いた視界には、押し倒されたアシェルの首筋に真っ黒な塊が見えた。

と思ったら、柔らかい感触が首筋に押し付けられ、ぬるっと首筋から耳にかけて舐められた。

「ひゃあっ!?あ、アーク?……んっ……。」

繋いだ両手は床に押しつけられる形で上に乗られ、耳朶をちゅくちゅく、ぴちゃぴちゃと舐められる。
そのイヤらしい音と刺激に背中をぞくぞくしたものがかけあがり、下腹部が熱を持つ。

「……ぁ、だめっ。……アーク、んぅ……。」

「アシェ……駄目だなんて、言わないでくれ……。」

耳元で低く囁くような声がして、舌がまた首筋に戻る。
そしてちゅぅっと首筋に吸い付かれた。

「んんっ!?」

媚薬の回ってきているアシェルの身体は、その少し痛くも感じる刺激すら気持ちいいらしい。

アークエイドの舌は鎖骨を舐め、開いたシャツの隙間からいくつも所有印キスマークをつけてくる。
目につく場所に付け終えたのだろう。今度はその印を愛おしそうに舐めている。

(解毒が全然間に合ってないんだ。このままだと男とか女とか関係なく襲われる。アークの意思に反してなんて、絶対ダメ。)

ゾクゾクと力の抜ける身体に鞭をうち、『身体強化』をかけて身体の位置を反転させた。

反対にアシェルがアークエイドを押し倒した形になり、その蕩けた切れ長の瞳を見つめる。

「アークエイド殿下……解毒が間に合っていないようですので、最終手段を取らせていただきます。……接吻の唾液を介して直接体内に魔力を送り込みます。男同士の口付けなど不快でしかないでしょうが、治療行為です。御身のためと思って我慢してください。……相手の思惑通りに、望まぬ女をあてがわれぬようにするためにも。」

説明するようにゆっくりと言って、アークエイドから両手を離して少し身を起こし、取り出したマナポーションを飲み干した。

そのままアークエイドの頬を両手で包み込むようにして顔を近づけ、閉じられた形の良い唇にチュ、チュッと啄むようなキスを落とす。

角度を変えながら数度口付けたところで、腰と頭がぐっと引かれた。

それを合図にアークエイドの唇の間にぬるりと舌を滑り込ませれば、何の抵抗もなくすんなりと受け入れられる。

(こんなに媚薬がまわってるなんて。)

アークエイドはファーストキスだっただろうか。
初めての相手が僕でごめん、でも治療だからと心の中で謝りながら、唾液に魔力を乗せて舌を絡める。

ぎこちなく絡め返される舌に、アシェル自身が興奮しているのを感じる。
舌から伝わるアークエイドの熱で頭の中が蕩けてしまいそうだ。

「っ、ん……ふぅ。……ぁ……ん……。」

たどたどしい舌をなぞり、吸い上げ、その口腔内を犯すように舌を差し入れれば、乱れたアークエイドの息継ぎが聞こえる。
そのまま快楽に身を委ねたくなる気持ちを制して魔力を流し込んでいく。

次第にアシェルが貪っていた舌は、逆にアークエイドがアシェルの口腔内を犯してくるようになった。
同時に腰に回された手がゆっくりと腰からお尻を撫で上げ、硬く熱を持ったアークエイド自身を下腹部に押し付けられる。

一瞬、媚薬の効果を薄めるためだけならば吐精させてしまおうかなどと考えてしまい、慌ててその考えを振り払う。
同性から下半身を見られるのはキスよりも嫌だろう。

「……ンぅ……あっ…はぁ……。っ………あーくぅ……。」

酸素が薄くなりぼんやりしてきた頭がアークエイドを求めている。
解毒を促す治療行為のはずなのに、もっと気持ちよくなりたいという欲求が溢れ出てくる。
甘えるようなアシェルの声に、下腹部に押し付けられた熱がぐっとさらに大きくなったのを感じた。

火魔法は維持することが出来なくなり室温は元に戻っていた。
媚薬の与える強い快楽に流されそうになりながら、辛うじて探査魔法サーチだけはこの4階フロア全域に行き渡らせ続けている。

ちゅくぴちゃ、ぴちゃ。

二人の荒い息遣いと唾液の水音だけが室内に響いた。

唇がふやけそうなほどたっぷりとディープキスをし、ゆっくりとアークエイドの手がアシェルの頭から外される。

「……んっ、はぁ……はぁ……。少しは……落ち着きましたか……?」

名残惜しさを隠しながら唇を離し、真下にある顔を見れば。
そこには普段見る事の出来ない煽情的な表情をした整った顔立ち。

「あぁ……かなり、魔力を流してくれただろ。……すまない。」

そう言いながらもう一度アシェルに口付けたアークエイドは、腰に回していた腕も外した。

離れたくない衝動を我慢して跨ったアークエイドの上から避ければ、アークエイドも身体を起こす。

探査魔法サーチに反応があったことを感じる。

「……丁度良かったです。今からお迎えが来るみたいですよ。先程の場所に腰掛けて、コレを飲んでください。」

そういってマナポーションを差し出す。

「今殿下の体内の魔力回路は、私の魔力のせいで乱れてる状態です。ですが恐らく移動先に着くころには、魔法を行使するには問題ない程度まで回復するはずですので、相手の隙を見て逃げ出してください。娘を襲わせることが目的なら、殿下の身に危険は及ばないと思うので。」

空いた薬瓶を受け取り、アシェルは一番右端の窓際に座る。

「アシェは?」

「こちらは気にしないでください。なんとでもなりますから。」

安心させるように笑いかけて身だしなみを整える。
シャツのボタンを全部閉めたベスト姿であれば、乱れた姿とは思われないだろう。

「もうすぐお客さんが来ますよ。——ご無事で。」

「互いにな。」

そういい、二人は扉の方を見据える。

霧がかった景色の中の扉は、ノックをされることもなくバンッと開かれた。

廊下の綺麗な空気が入ってきて、部屋の空気が段々透き通っていく。
だが、香はまだ焚かれ続けているのだろう。新しい霧が部屋の随所から出てきているようだった。

二人の燕尾服を着た男がアークエイドの方へ近づき、両側から抱えるようにして連れて部屋から出ていく。

後に残った三人組の、いかにも貴族ですと言った装いの男達は閉まった扉に背を向け、にやにやとアシェルを眺めている。

「くくく、誘いがあった時はまさかと思ったが。本当にメイディー家の三男がいるではないか。」

「本当だな。ウォレン侯爵からの誘いを教えてくれてありがとうございます、ユグドラ侯爵。」

「さすがメイディー直系。上物ですなぁ。初物でしょうし、是非最初は侯爵様に。」

男たちは下卑た笑みを浮かべ、アシェルの値踏みをしている。

ほとんど自身の解毒に魔力を割けなかったアシェルは、その華奢な身体を抱き込むように地面にぺたんと座っており、顔だけでなく全身の素肌を赤く染めていた。
先程までのキスの名残もあり、荒い息で肩を上下させ。薄っすらと開いた唇からは時折「んぅ。」という小さな呟きが漏れている。

三人の男達を見る長いまつ毛に縁どられた瞳は潤んでいて、情けなく下げられた眦は男達の嗜虐心を煽る。
その赤くした整った顔と綺麗な銀髪、メイディーらしい中性的な身体の線の細さに、ごくりと男たちの喉が鳴った。

(クソ野郎どもが。ユグドラ侯爵に、ノートン伯爵、ティザー伯爵か。)

その無防備で煽情的な表情の下で悪態を吐かれているなど思いもしないユグドラ侯爵が、ゆったりとアシェルに近づいてしゃがみ込む。

二人の伯爵は少し離れた位置に揃って立っており、まずは観戦に徹するようだ。
とことん悪趣味である。

ぐいっと顎を上げられ、強制的にユグドラ侯爵と視線が交わる。

「くくくっ、物欲しそうな顔をしているな?どれ、私がお前の欲を沈めてやろう。」

「ぼ、くの……?」

甘えたように声をだせば、更に機嫌を良くしたユグドラ侯爵が「あぁ、お前のだ。」といい、ゆっくりと顔を近付けてきた。

キスをしようとしてくる死角で身体を抱いていた腕を動かし、ホルスターから抜いたを侯爵の太腿に突き刺した。すかさず一つ分の突起を押し込む。

小さな痛みと圧迫を感じ「何を!?」 と驚愕の表情を浮かべたユグドラ侯爵を無視して。
反対の手で取り出した薬瓶の蓋を開け『ウォーターボール』を唱え、二人の伯爵に飛ばす。

それは一瞬の出来事で。
驚いたままの男達はそのまま床に倒れ込んだ。

「な、にを。」

意識が朦朧とし始めたのだろう。
再度投げかけられたユグドラ侯爵の質問に、ずりずりと侯爵から少し距離を取ったアシェルは答える。

「メイディーを甘く見すぎじゃないかな。侯爵様に使ったのは筋弛緩剤。伯爵様たちには麻痺毒をぶつけさせてもらったよ。僕お手製だから……せいぜい息が止まらないように祈るんだね。」

ユグドラ侯爵は話している途中で意識が落ちたようなので、どこまで聞いていたかは分からない。

ノートン伯爵とティザー伯爵は顔から倒れ込んだようで、麻痺毒入りの水でびしょ濡れのまま呻き声が聞こえるが、その身体を動かすことはできないようだ。

探査魔法サーチ』で周辺の気配を探り、これ以上他の人が入ってこなさそうなのを感じ、身体の緊張を解いた。

部屋の中にはまた香が立ち込めていて、何としてでもアークエイドの連れという目撃者を、心が壊れるくらいめちゃくちゃにしてしまいたかったのかなどと思ってしまう。
かなり強烈な媚薬なので、媚薬と快楽漬けにでもするつもりだったのだろうか。

アシェルは最後のマナポーションを取り出して、その中身をあおった。
余分に魔力を割くことは出来ないが、少しは解毒の役に立ってくれるはずだ。

(アークは無事……かな?)

媚薬の衝動に耐えるべくぎゅっと身体を抱き締め、アシェルは情欲に抗うことに集中するべく瞳を閉じた。



========



Side:アークエイド12歳 冬



アシェルと来たレストラン【ウォルナット】での食事は、二人きりの空間故に人目やマナーを気にせず、のんびり出来ているはずだった。

最初は少し部屋の温度が高いのだと思ったが段々とその熱量が増えていく。
アシェルと喋りながら違和感を感じていたが、やがてその答えに行きついた。

(やられた……媚薬を盛られたか。)

「熱っぽい?風邪でも引いた??」

そう聞かれるくらいには顔が赤くなっているのだろう。

「いや、違う。多分これは……。なぁ、アシェ、スープとジュース。少しだけ舐めてくれないか?」

媚薬入りだと気付けば、その二つの味の中に混じっていると感じ、アシェルに確認をお願いした。

慌てたように確認をしたアシェルの眼が愕然と見開かれる。

「なん……で?ごめん、アーク!どっちも何か入ってる、私の落ち度だ。しかも、これが何かわからない。本当にごめん。」

「いや、恐らく器に付着させていたか何かで、時間で溶けるようになってたんだろう。」

そう言って深呼吸して息を整えながら、アークエイドは続けた。

「コレには心当たりがある。命に危険があるようなものではないから気にするな。だが、もう店は出たほうがいい。」

流石に媚薬が混じっているとも言えず、この空間を出れば問題なくなるはずだと判断する。
好きな人を目の前に媚薬を盛られるなど拷問に近かった。

「当たり前だよ。会計済ませて帰ろう。」

アシェルがチリンチリンと数度ベルを鳴らすが反応はない。
そのまま扉まで駆け寄って、ガチャガチャとしているが扉は開かない。

「閉じ込められたか。」

「クソっ。」

珍しくアシェルは悪態を吐いて、部屋の中を見て回る。

そんな様子をどんどん熱を持ってくる身体で眺めていると、部屋の中に声が響いた。

『我がレストランでのお食事はお楽しみいただけておりますかな。そろそろお気づきのころかと思いますが、その部屋から出ることは敵いませんよ。一時間の後にお迎えにあがりますので、せいぜいその間楽しんでくださいね。あぁそうそう、その部屋は魔法が使のではなくて、魔法に対するを壁や床に張り巡らせておりますので、力技でどうにかするのは無駄ですよ。それでは。』

ウォレン侯爵の声が一方的に言いたいことを述べて途絶えた。
声を届ける魔道具が部屋のどこかにあるのだろう。

そして声が消えると同時に部屋の中に濃い靄がかかったようになり、部屋に入った時に感じた甘い香りが濃厚に漂ってくる。

その香りでさらに身体が熱を持つのが解る。

「……ぅ……。はぁ……はぁ……。」

シーンと静まり返った室内に、俺の荒い息遣いだけが響く。

「アーク、盛られた薬はなんなの?この部屋、見た目と構造が違うみたいなんだ。窓からの脱出も期待できそうにない。」

そう言いながら、部屋の中をアシェルは歩いている。
どう答えようかと悩んでいる間に、一通り見て回ったアシェルがテーブルの方へ歩いてきた。

「待て……この、テーブル以上は。近づくな……っ、はぁ……。」

「そうは言っても……解毒するなら身体に触れないと無理だよ。」

アシェルはテーブルに座り水を飲んだ。
そのこくりと嚥下する喉にさえ劣情を掻き立てられる。

「……だめだ……。多分、食事に混ざっていたのも。……はぁはぁ……この香も、媚薬だ。」

「媚薬……。娘と既成事実を作りたい……の?」

「あぁ、恐らく、な……。」

アシェルもアークエイドと同じ結論に至ったのであろう。
媚薬を盛るときは、大抵縁続きにしたい女をあてがおうとする時だ。

「アークエイド殿下、一番左の窓。あの上には通気口があります。あの窓の辺りで、床に座っていただくことはできますか?あそこが一番空気の流れがあって、香の影響が少なくなると思います。」

キリっと表情を引き締めたアシェルが、友人としてではなくメイディー公爵家の一員として話しかけてくる。

それに「……あぁ。」と答え、アシェルに襲い掛かりたくなる衝動を抑えながら、壁際に移動してその身体を抱えこんだ。
こうでもしないとアシェルを襲ってしまいそうだった。

言われた通りに腰を降ろすとアシェルが水差しとワインクーラーを持ってきて、アークエイドの手の届く位置に置く。

「殿下。お辛いでしょうが聞いてください。あとで解毒に来ますが、私は香炉がどこかにないか、一度室内を探してまいります。そのあいだ毒素を可能な限り、汗として出してください。水を用意してますので、無理のない範囲で飲んでください。殿下の周囲の温度を上げさせていただきますね。解毒については、戻ってからまた説明します。」

そういったアシェルは魔法を唱えたのだろう。周囲の温度が上昇したのが解った。

水差しからごくごくと水を飲み、暑さに上着とベストを脱ぎ捨て、シャツもボタンをいくつか開ける。

(だめだ……甘い香りに……思考が奪われる。)

襲いたい。

あの柔らかな肢体を組み敷いて、どろどろに蕩けるまで乱れさせたい。

そんな欲求が内から内から溢れてくる。
下半身は熱を持ち、その吐き出し口を求めてしまっている。

アシェルの姿を目で追いながら欲求に抗っていると、アシェルがこちらに向かって歩いてくる。

「……っ、くる、なっ……。」

何とかそう口にしたものの、アシェルは躊躇うことなくアークエイドの前に座った。
それも脚を延ばし、その脚でアークエイドの身体を挟むように座ったため、かなり距離が近い。

それだけでも抗いがたいほどの欲を感じるのに、アークエイドの目の前でアシェルは上着を脱ぎ、シャツのボタンを外しだす。
そのはだけた場所から、滑らかな白い肌と鎖骨がのぞいていた。

思わずその鎖骨に伸ばした手を取られる。

「それはできない相談ですね。今から解毒作業を開始します。手を失礼しますね。今から殿下の体内に魔力を流すので、抵抗せずに受け入れてください。」

その言葉に辛うじて頷けば、アシェルは瞳を閉じ、手から入ってくるアシェルの魔力がじんわりと体内を巡るのがわかる。

きっとアシェルは一生懸命、媚薬の成分を解毒してくれているのだろう。
だが、1分、2分と時間が経つにつれ、自分の中の情欲が肥大していくのが解る。
解毒のスピードより香の与える効果の方が強いようだ。

理性を総動員して情欲に耐えていたが。

(もう……だめだ。)

そう思った瞬間、アシェルを床に押し倒してしまっていた。

驚きで見開かれたアシェルの瞳を通り越し、そのはだけた柔肌を覗かせる首筋に顔を埋める。

(アシェの匂いがする。)

甘い香の香りに混じる爽やかなアシェル自身の香りを味わいたくて、その首筋へ舌を這わせる。

「ひゃあっ!?あ、アーク?……んっ……。」

アシェルにも媚薬が効いてきているのだろうか。
艶めかしい声に、もう情欲をぶつけるのを止められそうになかった。

(アシェ……可愛い、俺だけのアシェ……。)

ちゅくちゅく、ぴちゃぴちゃとイヤらしい音をたて耳朶を舐めれば、びくびくとアシェルの身体が震える。

「……ぁ、だめっ。……アーク、んぅ……。」

拒絶とも、もっとして欲しいとも取れる声と台詞に、懇願するように耳元で囁いた。

「アシェ……駄目だなんて、言わないでくれ……。」

強く抵抗されないのを良いことに、耳から首筋へと舌を這わせて降りていく。

そして、ちゅぅっと強く首筋に吸い付いた。

「んんっ!?」

やはり媚薬が回ってきているのだろう。
所有印をつけるため強めに吸ったので少し痛く感じるはずなのに、アシェルは嬌声をあげた。

その声がさらにアークエイドの欲を高め、開いたシャツの隙間から鎖骨を舐め、いくつも所有印をつけた。
白い肌に花びらが散ったようなその姿が愛おしく、つけた所有印をペロリと舐めあげる。

このままベストの下やズボンの下も暴いてしまおうか。

そう思った瞬間に強い力がかかり、アシェルに押し倒される形になった。

アシェルも我慢が効かなくなったのか。などと都合のいいことを考えたが、紡がれたアシェルの言葉でそうでないことを知る。

「アークエイド殿下……解毒が間に合っていないようですので、最終手段を取らせていただきます。……接吻の唾液を介して直接体内に魔力を送り込みます。男同士の口付けなど不快でしかないでしょうが、治療行為です。御身のためと思って我慢してください。……相手の思惑通りに、望まぬ女をあてがわれぬようにするためにも。」

そう言ったアシェルは両手を離して身を起こし、取り出したマナポーションを飲み干した。

(嫌なもんか。俺はアシェが女だと知っている。)

そんな一言が口から出ることはない。

そのままアシェルの両手に頬を包み込まれ、チュ、チュッと啄むようなキスを落とされた。

唾液を介すと言われたのですぐに舌が侵入してくるのだと思っていたが。様子を伺うような、愛おしい者に口付けるような柔らかい感触に、身体の中の熱が高まる。
治療行為だと釘は刺されたが、それでも今この時だけは、アシェルの唇はアークエイドのものだった。

角度を変えながら口付けてくる頭と、その細い腰に手を回しぐっと抱き寄せた。
華奢な身体はその体重も軽く、べったりと密着する身体に喜びを覚える。

アシェルの舌がぬるりと口腔内に侵入してきて、アークエイドは躊躇いなくその舌を受け入れた。

唾液に魔力を混ぜているのだろう。

舌を絡めその唾液を受け入れる度に、身体の中をアシェルの魔力が巡っていくのを感じる。

「っ、ん……ふぅ。……ぁ……ん……。」

アシェルの巧みな舌使いに脳が蕩ける。
上手く息継ぎもできず、微かに喘ぐような自分の声を止めたいと願うが、経験の差なのかそれも敵わない。

次第にアシェルの舌の動きについていけるようになり、逆にアシェルの口腔内を犯した。

細い腰と形のいいお尻を撫で上げれば、アシェルの身体がびくびくと反応するのが伝わってくる。

その様子でさらに興奮する硬く熱を持ったアークエイド自身を、その張りのある下腹部に押し付け刺激を求めてしまう。
布越しだというのに、アシェルに押し付けているという事実は一際感度を良くするらしい。

愚息をアシェルの秘めた場所に穿ちたい。

それが無理でも、このまま擦り付けていたら達してしまいそうだ。

「……ンぅ……あっ……はぁ。……っ………あーくぅ……。」

息の乱れはじめたアシェルが喘ぎ声をあげたと思ったら、甘えたような艶のある声で名前を呼ばれた。
男を誘うような声に、アークエイド自身がさらに熱を持ち大きくなる。

(最後まで襲われても、文句言えないぞ。)

そんな最後の一線を越えてしまいたい衝動を抑えながら、アシェルと舌を絡め、淫靡な快感に身を委ねる。

ちゅくぴちゃ、ぴちゃ。

二人の荒い息遣いと唾液の水音だけが室内に響いた。

唇がふやけそうなほどたっぷりとディープキスをしながら流されたアシェルの魔力で体内の解毒が進み、ようやく理性が働くようになってく。

名残惜しさに蓋をして、ゆっくりとアシェルの頭から手を外せば、蕩けた表情のアシェルが目に入った。

(キスだけで、こんなにイヤらしい表情をするのか。)

いつもの微笑みでも、キリっとした表情でもなく。
目の前にあるのは明らかに欲情し、更なる快楽を求める女の表情だった。
潤んだ瞳と赤く染まった頬を見ていると、またアシェルを押し倒したくなってしまう。

「……んっ、はぁ……はぁ……。少しは……落ち着きましたか……?」

見た目とは裏腹に、アシェルは息を乱しながらもしっかりと問いかけてきた。
アシェルが物欲しそうにしているように見えてしまうのは、アークエイドの願望がそう見せているだけなのだろう。

「あぁ……かなり、魔力を流してくれただろ。……すまない。」

そう言いながらもう一度アシェルに口付けてしまったが、何も言われなかった。
これは治療ではなく、ファーストキスだと思ってもいいだろうか。

腰に回した腕も外せばアシェルの身体が離れていく。
心地良い重みと温かさが離れたことに寂しさを覚えながら、アークエイドも身体を起こした。

「……丁度良かったです。今からお迎えがくるみたいですよ。先程の場所に腰掛けて、コレを飲んでください。」

今の今まで解毒をしながら探査魔法サーチもしていたのかと驚きながら、渡されたマナポーションを受け取り飲み干した。

「今殿下の体内の魔力回路は、私の魔力のせいで乱れてる状態です。ですが恐らく移動先に着くころには、魔法を行使するには問題ない程度まで回復するはずですので、相手の隙を見て逃げ出してください。娘を襲わせることが目的なら、殿下の身に危険は及ばないと思うので。」

空いた薬瓶を手渡せば、アシェルは距離をとり一番右端の窓際に座る。

「アシェは?」

「こちらは気にしないでください。なんとでもなりますから。」

そう笑いかけたアシェルは身だしなみを整え始めた。

それを見てアークエイドもシャツのボタンを閉め、脱ぎ捨てていたベストを羽織る。
そしてベストの内ポケットに入っている、懐剣の存在を確かめた。

「もうすぐお客さんが来ますよ。——ご無事で。」

「互いにな。」

そう言い、二人で扉の方を見据える。

霧がかった景色の中の扉はノックをされることもなくバンッと開かれる。

廊下の綺麗な空気が入ってきて、部屋の空気が段々透き通っていく。
しかし香はまだ焚かれ続けているのだろう。新しい霧が部屋の随所から出てきているようだった。

二人の燕尾服を着た男が近づいてきて、丁寧とは言い難い力強さでアークエイドの身体を引きずっていく。

そして部屋に残る三人の貴族の姿に、嫌な予感が脳裏を掠める。
媚薬を焚いた部屋なのだ。
どう考えてもアシェルを襲うのが目的だろう。

アシェルは大人数が来ることを分かっていて何とかなると言っていたが、本当に大丈夫だろうか。

部屋から出る寸前。
アシェルの顔を見ると、その瞳は強い意志を持って輝いていた。
そのことに少し安心し、大人しく二人の男に連れられて歩いた。
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私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

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