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第一章 非公式お茶会

34 非公式お茶会と加護判別①

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Side:アシェル11歳 秋



今年も年に一度の、非公式お茶会の季節がやってきた。

5歳の時から続いたこのお茶会も、今年で七年目。
来年からは王立学院中等部に入学することになるので、フルメンバーで行う非公式お茶会はこれが最後となる。

王都組だけのお茶会は1月までの予定だ。

いつもの離宮に続々と幼馴染とその母親達が集まり、恒例の差し入れ選別が行われる。

以前はウォレン侯爵令嬢が取りまとめをしてくれていたが、彼女が王立学院に入ってからは2歳下のスイート伯爵令嬢が取りまとめを行ってくれていた。
いつもプレゼントをくれるご令嬢達にも、非公式お茶会は1月までであることを伝えてある。

仕分けが終わって、さぁ毒見して並べようかというタイミングで、アンジェラがパンパンと両手を叩いた。

「皆さん、全員で集まるお茶会は今日で最後になるわね。来年からは王立学院で、お互い学友として仲良くしていってほしいわ。それと、お互い誰がどこの家門の者かは分かっているわよね。」

アンジェラのよく通る声が響き、子供テーブルの全員が頷いた。
貴族の嗜みとして、貴族名鑑は大体暗記させられるものだ。
何より特徴的な直系色を持つ者が多すぎるので、隠し通すほうが無理なのである。

「本来であれば明日の夜会が終わった後に日にちを設けて、入学前の加護持ちの判別を行うのよ。ただ、今年の対象者は今ここにいる子供達だけ。というわけで、今日は午後から加護の判別を行うから覚悟しておいてね。あ、フィアフィーの双子ちゃんは、もう領地で済ませてるって聞いてるから大丈夫よ。」

さぁ、お茶会に戻って頂戴、とにっこりと微笑まれて告げられるそれは。デュークだけがげんなりとした表情をしているものの、それ以外は何を言われているのかさっぱりだ。

お茶会に戻るように言われたので、アシェルはメルティーを膝の上に乗せ、いつも通りの毒見を行っていく。
そろそろノアールと夜会の為に学院から帰省したアビゲイルも、着替えてやってくるだろう。

「加護の判別って何をするの?」

アビゲイルが来るとなかなか幼馴染と話できないノアールが、今の内とばかりに聞いてくる。

「うちの家では、なんかでっかい氷の柱ができたわ。」

リリアーデが説明してくれるが全く意味が解らない。

「馬鹿か、そんな説明で分かるわけないだろ?シルコット家にあったのは、強制的に魔力を全放出させる魔道具だった。その魔力の放出した形が氷柱になって、そのでかさで大体の魔力総量も分かるらしい。」

デュークが実際の体験談として説明してくれる。

「え、それって……。」

長男ではないので恐らく加護が出現することのないであろうエトワールが、怯えたように口にした言葉をデュークが引き継ぐ。

「加護がなければ、魔力枯渇で死ぬほど辛い目にあう。」

「あぁ、やっぱりーー!!俺やだよぉ。どうせうちの加護はノアだろー。」

「僕だとは限らないよ?トワかもしれないし、どっちにも出るかもしれないじゃない。」

ノアールが宥めるように言うが、エトワールの絶望的な表情は変わらなかった。

毒見を次々行いながら話半分に聞いていたアシェルは「そういうことか。」とぽつりと呟いた。
それを膝の上にいるメルティーは拾う。

「アシェお義兄様、どうしましたの?」

「ん?あぁ、今日のお茶会の招待状に。マナポーションを作って持ってきてって書いてあったんだよ。最低一人頭2本ずつ。だから、今日は20本マナポーションを持っているっていう。こんなに何に必要なんだろうって思ったけど、魔力枯渇が起きるなら必要かーって思っただけ。」

説明しながらいっぱいいっぱいの腰のホルスターを見せれば、なるほどと納得してもらえた。

「いいな、皆は。魔力枯渇を起こしても、メイディーのマナポーションがもらえるのか……。」

よほど辛い思いをしたのだろう。
デュークが一人遠い目をしている。

「俺、四大公爵家と四大辺境伯爵家出身じゃなくて、本当に良かったと思うわ。」

しみじみとエラートが言えばアークエイドが。

「ついでに体験していったらどうだ?」

と軽口をたたく。

「俺やる意味なくねぇ!?」

その様子に子供テーブルで笑いが起こる。

「ところでさー。加護無しは魔力枯渇でしょー。加護持ちだとどーなるの?結構衝動きつかったりするー?」

マリクはテイル公爵家の一人っ子だ。
ほぼ確実に加護持ちであることから、不安そうにリリアーデに尋ねた。
その膝の上には久しぶりにお茶会に参加している、首輪を着けたホーンラビットのラビちゃんが座っている。
ラビちゃんはマリクがテイムした魔物で、愛玩動物扱いされている皆のマスコットだ。

「そんなことないわよ。あくまでも潜在消費直前って感じかしら?わたくしの場合はいい匂いは感じるし、衝動もほんのちょっぴり感じるけど我慢できたし。それ以上魔力を使わなければ回復するんじゃないかなって感じだったわ。」

「リリィは魔道具使った後もぴんぴんしてた。その上で邸中の人間集めて相性がいい相手探してとかって、割と大変だったんだけど……皆の衝動と回復方法ってなんなの?」

シルコット辺境伯爵家の加護と衝動はその特異さと、度々血族によって起こされる王立学院在学中の騒ぎによって広く知られている。

だが、加護とは強みであり、逆に弱みにもなる。
そのためあまり大々的に、衝動や回復方法は知られていなかった。

アシェルは一応知識として習っているが、これに関してはメイディー家が担う役割の為で特殊と言える。

「うちの回復にはラビちゃんが必要だよー。テイル家は自分でテイムした子から魔力を分けてもらうんだって。衝動は“野生の本能”だって言われたかなー。酷いと獣化して理性飛んで、すんごい大変なんだって。だからエトは、そーなった時の俺を頑張ってねー。」

「え、ストッパー俺なわけ?」

「うん、だいじょーぶ。エトならできるー。」

にこっとどこにも説得力のないマリクの発言に、エラートが心底嫌そうな顔をしている。
アシェルも本能むき出しの獣人とやりあうのは嫌なので、気持ちが痛いほど分かった。

「アスノーム家の衝動は“耐えがたい飢餓感”らしいぜ。お腹が空いて空いて死にそーってなるんだって。」

「回復方法は魔素の豊富な食べ物を摂取すること。僕らの領地はマーモン大海の大魔素溜まりが近いから、海の幸とか、領地で育てた野菜がそれにあたるね。大体僕らのストレージには、地元で採れた新鮮な野菜が沢山入ってるよ。」

アスノーム辺境伯爵家の衝動は、メイディー公爵家のように人畜無害なタイプらしい。

「メイディー家の衝動は“満たされない喉の渇き”で回復方法は、メイディー家の加護持ちが作ったマナポーションを服用することだよ。って、これは皆知ってるよね。」

シルコット家の加護並みに有名な話に、その場の全員が頷いた。

「王家は……。他人には迷惑をかけないものだが、言わないとダメか?」

言い淀んだアークエイドは渋い表情をしている。

「あら、そんな風に言われたら余計に気になっちゃうじゃないの。我が家の加護より恥ずかしい衝動なんて、そうそうないでしょう?さぁ、吐きなさいっ!」

リリアーデのキラキラした瞳に気圧され、渋々アークエイドは口を開いた。

「……衝動は“ネガティブになって他人の存在が恐怖の対象となる”らしい。回復には魔素で満たされた真っ暗闇が必要だそうだ。王族は大体夜目が利く方なんだが、それでもほとんど何もわからないくらいの真っ暗闇だと、兄上から聞いたことがある。」

「王族って人に囲まれてるのが当たり前だから、ペナルティがそんな衝動なのかしら……。っていうか、一人だけすっごく回復難しくない?」

「確かに。俺達は食えばいいけど、魔素の満ちた部屋っていうのがそもそも難しくないか?」

「回復専用の部屋には術式が張り巡らされていて、部屋の外から魔力を注ぐことで、室内に魔素を満たすことができるらしい。デイライトの家系も似たようなものだぞ。」

アークエイドが補足するように言えば、へぇーという声がそこかしこでする。

普通であれば潜在消費するに至った加護持ちと出会うことなんてまずないため、大体は各血族に伝わっているという感じなのだろうと思う。
領地以外でもしょっちゅう潜在消費に至るシルコット家の血族が異常なのだ。

「わたくしにも関係のない話で良かったと思ってしまいますわ。」

加護の話は、メルティーのしみじみとした呟きでしめられた。
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