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第一章 非公式お茶会

24 非公式お茶会フルメンバー②

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Side:アシェル10歳 秋



昼食を終えた自由時間。

皆が思い思いにばらけて遊ぶ中、アシェルは一人で道中の花々を愛でながら、森林エリアまで来ていた。
植物や木々に囲まれていると、不思議と心が落ち着くのだ。

メイディー家には遠い昔、エルフェナーレ王国のエルフの血が混じったことがあるらしいので、その名残なのかもしれない。
勝手なイメージではあるが、エルフというと自然と親和性が高い気がするのだ。

のんびり木漏れ日の中を小道に沿って歩きながら、少し開けた花畑にでる。

この森林エリアの中央にぽっかり空いた陽の射すそこは、色とりどりの花が一生懸命光を浴びようと咲き誇っていた。
アシェルのお気に入りエリアだが、ついつい愛でながらコレの薬効は、なんて考えてしまうのは内緒だ。

手ごろな木の幹に背中を預け、ストレージの中から最後のラッピングに入ってた焼き菓子を一つ取り出す。
破棄で回収される前に、一つくすねていたものだ。

小さめに一欠片口に含んでみるが、やはり体内魔力が反応しているものの、何に反応しているのかは分からなかった。

甘い匂いは焼き菓子のバターの香りと、香ばしいナッツの香りに阻まれていて明確には分からない。

(んー悔しいな。結構色々勉強してきたつもりなんだけど。)

小さく千切り、何か記憶の中のものと一致しないかとゆっくり味わって食べているうちに、そのお菓子は無くなってしまった。

(全体的に魔力反応が変わらなかったってことは、ナッツみたいに具としていれてるより、生地の方に満遍なくか。粉状か液状にしていれてるんだろうな。)

悩んでも答えは出ないであろうことは分かり切っているのに、それでも気になってしまう。

健康促進のためのものでも、薬効があればアシェルの体内魔力は分解しようとしてしまうのだ。
せめて身体に良い物か悪い物かだけの判別はつけたかったが、それができなくて少し落ち込んでしまう。

(もっと勉強しないとな……。誰だろ。)

ふと森の中に人の気配を感じて顔を上げた。
アシェルが来た方向から、誰かが来る気配がする。

エルフの血のお陰か、少しだけ森の中では気配に敏感だ。
自然の中で生き物の気配は明らかに異質だと感じるのだ。
冒険の時はこの気配への気づきやすさと、探査魔法サーチを利用して索敵している。

小道から姿を現したのはリリアーデだった。
心なしか顔が赤く、息が上がっているように見える。走っていたのだろうか。

「リリィ、どうしたの。鬼ごっこでもしてる?」

先に声をかけると、やっとその姿に気づいたとばかりに、リリアーデの眼がアシェルを捕らえた。
その眼が大きく丸く見開かれる。

「いいえ、今はデュークを探してますの。こちらにいません?」

切羽詰まったように早口に捲し立てるリリアーデに違和感を覚えるが、この場所にはアシェル一人。いや、今はアシェルとリリアーデだけだ。

「いや、僕一人だよ。デュークを探してるの?手伝おうか?」

そんな、とリリアーデがぺたんと尻もちをついた。

慌てて手を貸して起こしてあげる。

「やっぱり……アシェから匂いがしますわ……。」

「匂い?」

なんの脈絡もない会話に、どうしたのかと首を捻る。

「わたくしの加護と、匂い、衝動……分かりますわよね?」

申し訳なさそうな表情で、ぎゅっと自身の身体を抱き締めるリリアーデの姿に、今衝動に抗っている最中なのだと察した。

シルコット辺境伯爵家の加護の衝動は性欲だ。そしてその回復行動の対象となる相手からは、フェロモンのように独特のいい匂いがするらしい。
そしてアシェルから匂いがするということは、回復行動の相手になり得るということだ。

「分かった。とりあえず、少し小道は外れよう。」

どのような行為をするのかによるが、人目に付きやすい小道沿いでする行為ではないだろう。
リリアーデの手を引くと素直についてきてくれる。

少しだけ小道から入った大き目の木の幹にリリアーデの背中を預けるようにし、その前に立ったアシェルで小道からは姿が見えにくいようにしてあげる。

「ごめんなさい、アシェ。匂いが強いほうに来たら。いつもならデュークに辿り着くんだけど。」

「それは構わないよ。で、何をしたらいい?衝動は辛いだろうし、我慢しすぎて暴発する方が良くないから。」

良く知ってるわね、と苦笑するリリアーデの顔は、苦笑してても目は潤んで小さく荒い息を吐いている。

「相手の……体液を頂かないといけないわ。」

「普段は?」

「キスを。」

なるほど。体液を頂くということは触れあうだけのキスではなく、ディープキスで唾液を飲ませるということかと思案する。
ディープキスは前世の記憶にあるので、アシェルが下手ということは無い、と思う。

(体液で魔力を回復させるということは、唾液に魔力を混ぜるようにして渡せば、少しは早く回復するかな。)

少し逡巡したのを拒否されたと思ったのか、慌てたようにリリアーデが口を開く。

「……いくら回復のためとはいえ、好きでもない女性とキスをするなんて嫌よね?セックスできてもキスはできない人もいるものね。もしその……男の子として成長しているのなら、ご奉仕でもいいのだけれど。こっちではシたことないけど、前世の記憶があるから、下手ということは無いと思うわ!」

一瞬、目の前の少女は何を言っているのだろうかと思ってしまった。

キスができないなら口淫するといっているのだ。
少し頭を抱えてしまう。これはデュークが過保護になるのも分かる気がする。

「リリィ、もう少し自分の身体を大事にした方がいいよ。口でするくらいなら、相手が嫌がっててもキスをねだったほうがいい。こういうことで傷つくのは男じゃなくて女の方だから。……あとこれは、誰にも言わないでほしいのだけれど……。」

そう言って、逃げられないように木の幹に右肘をついて二人の距離を縮めた。
左手はリリアーデの右手の手首を掴む。

「えっと、アシェ?」

顔を上気させたまま戸惑うリリアーデは無視して、アシェルは掴んだ右手をそっと自身の股間にあてた。
——何もついていない股間に。

「え、ちょっ、心の準備がっ!……へ?」

自分から口淫すると言っておきながら、心の準備はできていなかったらしい。
そんな様子にくすくす笑いながら、手首を開放した左腕でリリアーデの腰を引き寄せた。

「そういうこと。だからキスしか選択肢はないね。でもって、デュークを探しに行かずに、あんな馬鹿なこと言ったってことは、もう結構限界なんじゃないの。衝動に抗うのが。」

元々突飛な行動をするリリアーデだが、過保護すぎるデュークの元、領地である程度は加護と折り合いをつけてきたはずだ。
デュークを探しに行くのではなく、どうにかしてアシェルを相手にしようとしているところに、切羽詰まったものを感じた。

「そうよ……それにアシェの匂いが思いの他強いから、デュークまで辿り着ける気がしないわ。今でもギリギリだもの、これ以上は見境なくなっちゃうかも。」

「じゃあ僕とキスしよう?あぁ、ついでにマナポーションもサービスしてあげる。」

ホルスターからマナポーションを一本取り出し蓋を開けた。
そのまま口に含み、半分だけ嚥下した後。右手でリリアーデの頭を保護するように腕を回し、木の幹にリリアーデの身体を押し付けるようにして口付けた。

「っ!?」

驚くリリアーデを無視して、2度、3度と啄むようなキスを柔らかな唇に落とす。

そして少し唇が緩んだ隙に、舌を滑り込ませた。
嫌がられるかと思いきや、衝動のせいか思いのほかすんなりと舌は受け入れられる。

アシェルの口に残っていたマナポーションを口移しで与えてやれば、こくっこくっと喉を鳴らしながら飲むリリアーデの姿。

唇を離し、口角に垂れたポーションをぺろりと舐めてあげる。
眼と鼻の先にあるリリアーデ顔は、恥ずかしさの混じった恍惚とした表情を浮かべているので、まだ理性が飛びきってはいないのだろう。

「どう?一応ポーションに混じった唾液に魔力を乗せてみたけど。」

「すっごく……美味しい。あと壁ドン、抱きしめからの口移しなんて……遊び慣れてる?」

真っ赤にした顔は目が潤んでいて、僅かに開いた唇は更なる口付けを誘っているようにも見える。

「まさか。僕はファーストキスだから、ムードも大事かなって。……そんな表情してたら、狼に襲われちゃうよ?」

「それ恥ずかしいだけだわ……ねぇ。狼さん、もっと頂戴。今ご馳走を前に、待てされてる状態なの。味を知っちゃったから、もう止まらないと思うけど。」

言うが早いか、リリアーデの腕がアシェルの身体にまわされ、頭を引き寄せられた。

そのまま唇が重なり、リリアーデの舌が侵入してくる。

ぴちゃ、くちゃ、と舌を絡め合いながら荒い息が漏れる。

「……っふ。……ぁ……もっと……。」

とろんと蕩けた瞳は快楽だけを求めていて、アシェルの姿は目に入っていないように見える。

力が抜けかけているリリアーデの股下に足を一本入れ、身体を支えてやる。
——太ももに身体を擦りつけられているような気がするが、気にしないことにした。

リリアーデの希望に応えるように舌を絡めながら、唾液に魔力を乗せるように意識する。

先程からすごい勢いで魔力が吸われているのだ。

くちゅくちゅという水音と二人の荒い息だけが静かな森の中に満ちた。

(これは……デュークが過保護になるのも分かるかも。)

蕩けた顔で唇を貪るリリアーデの姿は、女性のアシェルから見ても煽情的だ。
深いキスで少し酸素の薄くなった頭でぼんやり思う。リリアーデのキスは上手だ。アシェルが男だったら力任せに襲われているぞ、とも。

どれくらい経っただろうか。激しかった舌の動きが徐々に落ち着いてくる。

「んぅ……はぁ……。アシェ、ありがと……。」

「……んっ……ふふ、落ち着いたなら良かったよ。」

離れた唇からこぼれている唾液をペロリと舐めあげ、リリアーデの頭を自分の胸にもたれかからせた後。空いた右手の親指で自身の口角もぬぐった。

まだ身体に力が入らないのだろう。

余韻もあってか艶めかしい息を吐くリリアーデを支えながら、どうしたものかと考える。

身体強化を使ってお姫様抱っこして戻ろうか。それとも、少し時間をおけば歩けるようになるだろうか。
いや、さすがにこんな顔をしたリリアーデを男しかいない場所に連れて帰るのは、問題しかないだろう。
成長の早い子だともうお年頃だ。

そんなことを考えながらリリアーデの頭を無意識に撫でていると、不意に背後から声がかかった。
考え事をしていて気配に気付かなかった。

「ねぇさん、こんなところで何してるのかな?」

途端、腕の中で力を抜いていたリリアーデの身体がビクンと跳ねる。

冷ややかなデュークの声と視線が、アシェルの背中にも突き刺さった。

「え、えと。これはその……。」

「アシェ。いつまで僕のリリィにくっついてるつもりなの?」

「ごめんね。リリィ、自分で立てる?」

こくこくと縦に頷くリリアーデをみて、ゆっくり身体の支えを解いてやる。
問題なさそうだ。

リリアーデの姿を確認したアシェルは背後を振り返る。

明らかに怒っているデュークの顔はものすごく怖かった。

「で、何してるの?こんな場所で二人でくっついて。」

「その……アシェに回復のお手伝いを……。」

「なんで男に頼んでるの?匂いが薄くてもいいから、緊急時はせめて女にしろって言ったよね。食い繋ぎながらでもいいから、僕を探せって。」

二人の間で何か取り決めでもあったのだろう。
確かにあの状態のリリアーデに頼まれた男が、そのままリリアーデを襲わない保証はないなと思うと、デュークの言うことはもっともだった。

「アシェの匂いが強すぎて、デュークの居場所が解らなかったのよ!それに、アシェは女の子だったわ!」

「は?アシェの匂いが強かったかどうかは、リリィじゃないから判らないけど。アシェが女の子?寝言は寝てから言おうか。」

張り詰めた空気の温度が一気に下がる。

その空気に慌てて正座するリリアーデが見えて、アシェルもその隣に正座した。
正座して話を聞かないといけないくらい、デュークが怒っているということだろう。

ぴくっとデュークの眉が動いたが、リリアーデに近かっただろうか。

現状は、リリアーデ(まだ婚約者だけど)の浮気現場を目撃したデューク間男アシェルだ。
いくら加護のせいとはいえ浮気現場を目撃された現状は、問答無用で切り刻まれても文句を言えない状態だ。

「寝言じゃないってば!ちゃんと確認させてもらったんだからっ。」

リリアーデは嘘をついてないと言い張る。それはそうだ、嘘ではない。
嘘ではないが、そもそもアシェルを男と思ったまま誘いをかけてきたことは、この際なかったことにするらしい。

男装をしてはいるが、幼馴染達相手なら女であることをカミングアウトしてもいいとは思っている。故にリリアーデにも告白したわけで。

ただアシェルとしては一応、男性に裸体をみせたり、股間を触らせるわけにはいかない。
それは淑女として流石にアウトな気がする。

「僕は本当に女だけれど、デュークに確認してもらう術がないね。」

「……リリィはどうやって確認したんだ?」

「リリィに股を触ってもらった。同性だったら一瞬触っても問題ないでしょ?」

デュークは考え込むように押し黙ってしまった。
男同士なら問題ない行動でも、相手が女となれば慎重になるのも仕方がないだろう。

「そうだわ!ねぇアシェ、女の子座りはできるかしら?たしか骨格の違いで、女は無理なくできる座り方なのよ。男は無理か、維持するのが難しいって聞いたわ。」

突如明るい声が名案だとばかりに響き渡った。

「あぁ、確かにそんな話聞いたことあるね。こうだっけ……。」

アシェルは記憶を探りながら、足を揃えて崩してみる。

(これはお姉さん座りか。)

更に組み替えて、一度正座に戻り。膝から先を外に崩すように座った。

(女の子座り、より、ぺたんこ座りの方が耳に馴染みあるかも。)

「これで合ってる?」

「うんうん、合ってるわ!さぁどう、デューク!アシェが女の子だって証明したわよ!」

記憶違いではいけないと念のために確認したら、リリアーデからお墨付きを貰えた。

デュークは難しい顔のまま、アシェルを見下ろしている。

(デュークはリリィ大好きだもんなぁ。そりゃなかなか怒りは静まらないよね。)

双子だからかデュークは、物凄くリリアーデのことを気にかけている。
特に“授け子”だから心配なのだろう。

「その座り方でどうのってのは分からないが、これだけ言うんだ。女だということは受け入れよう。」

言いながらデュークはすっとしゃがんだ。アシェルの目の前で。
え、なんで?リリィの前でじゃなくて?と少し混乱していると、デュークが口を開いた。

「で、なんでアシェはリリィの話の内容が理解できたんだ。」

「え?」

唐突な問いにアシェルは戸惑ってしまう。

「何か変なこと言ったかしら?」

リリアーデにもデュークの言葉の意味が分からないようだ。

「リリィは“授け子”だから抵抗ないみたいだけど、残念ながらヒューナイト王国に地面に座る文化はないんだ。椅子に座る文化だからね。座ったとしても正座はしないし、知らない。足を延ばすか、よくて胡坐までだ。」

怒られているし、リリアーデが正座したので合わせたが、この国の文化ではあり得ないらしい。
そういった文化のことを失念していた。

「ついでに女の子座り?だったか。同じ理由でその単語は通じない。……お前はだ?」

少しの違和感も逃さないと言わんばかりの、エメラルドグリーンの強い視線に射すくめられる。
デュークはアシェルが前世の記憶を持っている。もしくは類似する知識を得ていることを、ほぼ確信している口調だ。

これで誤魔化すと余計なことになるだろうし、友人としてもやっていけなくなるだろう。

アシェルは大きな深呼吸を一つして話し始めた。

「確かに僕は“授け子”じゃないよ。……産まれた時からちょっと違う知識が残っていて、さっきみたいにキーワードなんかで、それに関する記憶がちょっと出てくる程度の記憶。だから、“授け子”みたいなハッキリした記憶ではないんだ。私の記憶はすごく曖昧で、物心ついたときには混じってる状態だったから。嘘をついたり騙してるんじゃなくて、今も昔もこれが僕だよ。」

頭のおかしい子だと思われただろうかと、内心びくびくする。
ただ、身近に授け子がいるぶん受け入れやすいはずだとも思う。

「前世の記憶持ちか……。アシェの前世では男装したり、女性同士での恋愛・結婚もあり得るのか?」

真剣な表情のデュークは、もしかしてリリアーデを盗られるんじゃないか心配しているのかと思う。
大事な双子の姉で婚約者を盗られたくはないだろう。

「男装も女装もないよ、そもそも女性もズボンをはいていたし。女装の場合、男性がスカートや化粧で飾るから分りやすかったけど。見た目をそこまで気にしたことはないかも。この世界ほどハッキリと男女の装いが分かれてはないんだ。」

「今のアシェを見てて思うのはヅカね。女性が喜びときめく仕草をしている男装の麗人!」

「そう言われてみればそうかも。観たことはないけど、男役がその辺の男よりもかっこよくて男らしいんでしょ。」

「そうそう。お芝居の内容もだけど、かなり仕草とかかっこいいわ!」

「一度くらい見ておけばよかったかな。あぁ、それと同性同士の恋愛をする人はいたけど、私の住んでいた日本では結婚は認められてなかったよ。」

「アシェも日本出身?あ、じゃないと正座とか色々通じないか。同性同士の恋愛・結婚なんて、一般庶民からしたら二次元だけの話よね。」

「うん。ああいうのは物語の中だから楽しいのだと思うよ。偏見はないけど、いてもマイナーだし、世間的にすごく肩身が狭いんじゃないかな。」

デュークを置いてけぼりにして、前世についての会話が続いていく。
その中にいくつか解らない単語があったデュークは、ため息を吐きながら立ち上がった。

「もういい。理由も分かったから、二人とも立ってくれ。」

パンパンと下草を払いながら立ち上がる。

「二人で逢瀬をしていたわけじゃないのは理解したから、話を戻す。リリィは魔力を使いすぎだ、バカ。」

ぽかっとデュークの拳がリリアーデの頭を殴った。
痛いーと頭をさすりながら、リリアーデは涙目を浮かべている。

「で、アシェの匂いは強かったんだな?」

「うん……マナポーション分けてもらったのもあると思うけど……。理性は少し残ってたとはいえ、ほら。わたくしが吸ったのに、アシェはぴんぴんしてるでしょ。デューク程じゃないけど、かなり相性は良いほうだと思うわ。」

それは相性が良く無かったら、アシェルは魔力枯渇を起こしていたということだろうか。

そうか。とデュークが考え込んだと思ったら、アシェルに向き直った。

「これから王立学院に入ることになる。なるべく僕が近くにいるつもりだが、授業によっては傍に居れないこともある。大丈夫だと思うが、その時はリリアーデの回復を手伝ってやってもらえないか?知らない人間に頼むより、信頼できる友人にお願いしたい。」

深く下げられた薄緑色の頭に、アシェルの方が困惑してしまう。

「それくらい友達なんだから。助けるのは当たり前だよ。僕にできる事ならなんでも頼って。」

そういってにこっと微笑んだ先には、ほっとした表情を浮かべたデュークが立っていた。
デュークが過保護すぎる理由も分かってしまったし、さすがにあの状態のリリアーデを見て放っておける自信はない。

「誤解も解けたみたいだし、そろそろサロンに戻る?」

「あぁ、そういえば呼びに来たんだった。」

「あら、じゃあ急がないと。あ、この夜会での滞在の間……明日か明後日だけど、アシェと会いたいわ。色々話を聞いてみたいの。」

三人で足早にサロンに向かう。

「あぁ、だったら我が家に招待するよ。知ってると思うけど、メイディー家に13時頃でどう?……ちなみに男装と女装、どちらを希望?」

「ちゃんとドレスも着るのね!ドレスでお願いしたいわ。女子トークをしたいのよ。」

分かった。と頷くと、リリアーデは満面の笑みを浮かべた。
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