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第一章 非公式お茶会

21 魔法と魔物と言えば冒険者②

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Side:アシェル10歳 冬



装備も各々が勝手に持ち寄るのではなく役割別に必要なものを話し合い、戦闘スタイルと擦り合わせ、きっちり役割分担をしておいた。


エラートは侯爵家出身のため魔力はそれなりにあるものの、コンラート公爵家傍流のためか属性魔法は苦手としている。
生活魔法レベルでは問題ないようだが、攻撃魔法として使うのは難しい。
主な使用魔法は身体強化とストレージ。

騎士としての技術を学んでいることと、体格と膂力を活かして盾持ちの剣士役だ。
基本的にはタンクとして動いてもらいつつ、マリクと一緒に物理攻撃を叩き込むことになる。

装備は金属製の軽鎧に、中サイズのラウンドシールド。普段は片手持ちで、両手持ちにも切り替えられるバスターソードを武器とする。



マリクは獣人としてのスピードと爪と拳が武器だ。
厳密には牙も武器になりえるらしいのだが、牙まで使うときは獣化している時だけだと言われた。
公爵家出身で、母であるキルルは獣人の国ビースノートのお姫様だったらしく、保有する魔力量は多い。
魔法も中級までは使えるらしいのだが、普段使う魔法は身体強化とストレージ。

思い切り身体を動かして戦闘したい脳筋であるため、拳闘士としてスピードと物理で殴る近距離アタッカーだ。
武器は持たず、動きを阻害しない最低限の革鎧を装着する。



アークエイドは王族なので多量の魔力があり、剣の腕も立つ。剣術に関してはトリッキーな動きも多く、エラートが守るための剣だとすれば、アークエイドは自分を守るための剣である。
魔法は属性魔法は中級まで、水と闇魔法に関しては上級まで使える。身体強化をはじめ、無属性魔法もいくつか使えるようだ。

状況把握力も高く、本来であれば魔術師として行動しつつ指示を飛ばし、後衛が襲われたら守る事もできる人材なのだが。魔力が枯渇すると動けなくなるし、もし加護持ちだった場合に潜在消費というリスクを負うことになる。
何より前衛二人は基本的に脳筋で、本能と直感で突き進むタイプだ。細かい指示に従う性格ではない。
そのため剣で戦いつつ魔法を打ち込んでいく魔法剣士で、必要に応じて戦闘スタイルを切り替える中距離アタッカーとなる。

武器はブロードソードと取り回しのしやすい短杖ワンド、装備は金属の軽鎧。
髪の毛はマルベリー色のウィッグを着用し。ブレスレット型の魔道具で瞳の色は、サファイアブルーから瑠璃色に変える。



アシェルは普段錬金で鍛えている精度の高い魔力操作と、公爵家の多量の魔力を使い、全体のサポートを行うことになる。
主に攻撃に使える属性魔法も使えるが、どちらかというと補助や便利に応用して使える無属性魔法の方が得意である。

普段は攻撃力や防御力を上げる強化バフを仲間にかけ維持しつつ、敵に麻痺や速度低下などの弱体化デバフをかける。怪我をすれば創傷治癒ヒールをかけるか体力回復薬ヒールポーションの提供をする。
役割としては後方支援のバッファー兼サポーターだ。
火力は十分なパーティーだが、普段はバッファーとして活動しつつ。状況を見て遠距離から弓で攻撃するか、前線にでてダガーを使う。

武器は中杖ロッドとショートボウ。レッグアーマーには近距離護身用のダガー。
薬品を収納するためのホルスター付きの革ベストを防具代わりに装着し、隠すためのお尻が隠れる丈のマントを羽織る。
髪の毛はピアス型の魔道具で青みがかった銀髪からメルティーのような亜麻色に、瞳の色はブレスレット型の魔道具で、アメジスト色から葡萄色に変える。




冒険者登録と最初の活動日は4月の初週となった。
細かい日程はキルルが調整して、各家に使いを出してくれるらしい。

これだけのことを決めるのに、お昼になってしまった。

メルティーにほったらかしにしてしまった謝罪をしたが、楽しんで聞いていたらしく謝罪は要らないと言われた。

メアリーは想像以上に注意点が多く、内容も物騒だったせいか少し青ざめている。
メアリーから心配そうな視線を貰ったのは初めてのことで、不謹慎ながら少し嬉しくなった。





午後になるとエラートとマリクは、いつものように庭園に遊びに行ってしまう。
お腹が満たされた後も、書庫やサロンでじっとしているのは性に合わないらしい。

室内で過ごしているのは雨と雪が降っている日だけだ。
一度、雪の日にびちょびちょになって戻ってきた時は、二人ともキルルに怒られていた。

いつも通りアシェルとアークエイドは書庫に籠っている。

気候がいい時はエラート達と一緒に外に出て庭園を散歩したり、乗馬したりと身体を動かして遊んでいるのだが、冬は専ら本の虫だ。

いつもと違うことは、アークエイドの手には本ではなくピアッサーが握られていることだろうか。

(ピアス穴は太めの針でグサッとかと思ってたけど、ピアッサーなんてこの世界にあったんだ……授け子産かな?)

「アーク、そのピアッサーは僕にかな?」

「あれ、ピアッサーのこと知ってるんだな。アシェは穴開けてないよな。いずれ開けるつもりで調べてたのか?」

(ピアッサーってこっちじゃあまり認知されてないの?とりあえずアークの話に乗っておけば大丈夫かな。)

「あ、うん。ほら、お兄様達はピアス付けてるからさ。ちょっと気になってたんだ。でも開けたところで、別につけたいピアスがあるわけじゃなかったしさ。」

にこっと笑って見せた先には、悪戯っぽく瞳を輝かせたアークエイドが座っている。

「へぇ。じゃあ開けること自体は怖くないのか?」

「え、ピアッサーで開けるなら怖くないよ。そりゃぶっとい針で無理やりこじ開けます!みたいなのは怖いけどさ。」

「それは確かにな。」

二人してぐりぐりとこじ開けられるピアス穴を想像し、苦笑しあう。

「アシェのピアス穴……俺が開けてもいいか?」

「は?……あ、その、嫌だというわけじゃなくて。鏡さえあれば僕自分で開けれるよ?」

ピアッサーを見て思い出した前世の記憶では、学校卒業と同時にピアスの穴をあけたことがあったなというもの。親友とお揃いのものを身に着けるためだった。
もし前世と同じ仕組みであれば、ボタンを押し込むとバネの力でファーストピアスが貫通するはずだ。

冷やす派と冷やさない派がいるらしいが、個人的にはキンキンに冷やしてから開けると後から感じる痛みが酷かったので、冷やさずに一思いに開けるのがいいと思う。
冷やすのだってジンジンするので、どっちにしても痛いのなら一思いに開けた方がマシである。

「俺が開けてやりたいんだ、駄目か?」

すっと伸びてきた手で左耳にかかっていた髪の毛がかき上げられ、耳朶に少しひんやりした指先が触れる。

アークエイドの瞳には期待が見え隠れしながらも、真剣にアシェルを見つめていた。

(そんなにピアッサー使うの好きなのかな。アークも両耳に一つずつ付けてるものなぁ。それ以上開けるのは嫌なんだろうな。)

「……アークって嗜虐趣味ある?」

「あるわけないだろ。」

「良かった。あるって言われたらどうしようかと思ったよ。じゃあ開けてもらえる?っていうか、消毒薬持ってる?」

アークエイドは見たところピアッサーしか手に持っていない。
消毒用のアルコール綿が付属しているのだろうか。そう思って口にしたのだが、アークエイドはきょとんとしている。

清浄化クリーンじゃだめなのか?」

「え……まさかアーク……。ちゃんと消毒もせずにクリーンだけかけて、そのままばちんっってやったわけ?」

「あぁ、そういうものだろう?」

珍しくきょとんとしたまま首を傾げているアークエイドが可愛い。じゃなかった。

クリーンは無属性魔法で掃除に使ったり、お湯をふんだんに使えない庶民や、野営中の冒険者が身綺麗にするために使うことの多い魔法だ。

確かにかけた場所の余分な汚れ——皮脂や埃など——を取り除くことはできるが、殺菌や除菌という意味では万能ではない。

バイ菌と言われる細菌やウイルスもそうだが、人間の皮膚には常在菌といって、常に細菌が住み着いているのだ。
それらをクリーンで殺菌することは出来ない。

「詳しい話は割愛するけど、クリーンじゃ消毒にならないよ。穴開けた後ちゃんと消毒した?化膿しなかった?」

「化膿も何も、開けた後に創傷治癒ヒールで傷は塞いだぞ。」

そうだった。ここは魔法の世界だった。
でも、だからといって身体に傷をつけるのに、消毒をしない理由にはならない。

「ヒールは傷の治りを促すから、少しくらい雑菌が入ってても身体の免役が頑張ってくれるけど。穴を開けてすぐにヒールをかけたとしても、膿むときは膿むからね?たまに冒険者たちが、消毒もせず洗い流しもせずに覚えたてのヒールだけかけて、表面だけ綺麗に見える傷の中身は……って事例もあるんだからね?分かった??」

「……すまない。医務室から消毒薬を貰ってこよう。」

「別にいいよ、持ってるから。ちょっと待ってて。」

立ち上がろうとしたアークエイドを制止し、ベルト状のホルスターの中身を物色して目当ての一本を取り出す。

「これが消毒薬だよ。サーニャ、タオルを一枚くれる?」

無色透明の液体が入った試験管を見せつつ、壁際に控えていたサーニャからタオルを受け取る。

そのタオルと消毒薬入りの薬瓶を、アークエイドに手渡しながら手順の説明をした。

「タオルを耳の下にあてておいて、水分を吸わせる感じで最初に半分かけて、乾いたらピアッサーで穴開けて。開け終わったら、もう半分を振りかけてからヒールをかけてくれる?穴をあけるところにタオルが当たらないようにしてね。」

「解った。……ところでそのベルトには何が入ってるんだ?思ったより沢山入ってるんだな。」

アークエイドは喋りながらタオルを耳下に添えて、消毒薬をかけてきた。
まさかの不意打ちである。

ヒヤッとした液体が通り過ぎると、消毒薬が蒸発してすーすーする。
見えないところに急に液体をかけられたせいか、背中がゾクリとした。

「んっ、ホルスターの中身が気になるの?今入ってるのは、マナポーションが5本。ヒールポーションが2本に消毒薬が今使ったのと合わせて3本。あとは暗視ポーションが1本……かな。」

「足りない。——開けるぞ。」

小さく頷くとバチンっ!と大きな音が耳元で響き、世界の音が一瞬遠のいた。

音が戻ってくると同時に、ピアスが貫通した耳がじくじくと痛む。

ひんやりした消毒液をかけられ、アークエイドが小さく「『創傷治癒ヒール』。」と呟きながら耳に手をかざした。

ふわっとあたたかな光に包まれると、先程までの痛みは無くなっていた。

「終わりだ。」

「ありがとう、アーク。」

すっと手渡された手鏡で確認すると、左耳に直径3㎜程の透明感のある白色の石がついている。

「何色の石がいいか希望はあるか?無ければ俺が得意な魔力を込めるが。」

「ん?ピアスに魔力を込めるの?」

「あぁ。魔力を込めたピアスを贈ると、お守りになるって言われている。今は白く見えるその石は、籠めた魔力によって色が変わるんだ。」

「あぁ、それでアークはピアスを開けてくれたんだね。ありがとう。色もお任せするよ。」

ピアスにそんなファンタジーな習慣があったなんて知らなかった。

お兄様達の左耳のピアスはいつも水色の石がついたピアスがつけられているので、もしかしたらお守りとしてつけているのかもしれない。
よく考えると幼馴染達も皆左耳にピアスを付けていた。お洒落だなくらいにしか思っていなかったが。

再度アークエイドの手が伸びてきて、ピアスにかざされる。
ふんわりあたたかな光に包まれ、手鏡越しに見えたピアスは綺麗な漆黒だった。

「綺麗な黒だね。アークは闇魔法が得意だもんね。嬉しいよ、ありがとう。」

ニコッと笑いかけるとアークエイドが少し照れていた。のだが、すっと真顔になる。

どうしたんだろうと思っていると、アークエイドの指がホルスターの上をつつーっとなぞっていった。

「マナポーションだけ多くないか?あと……10本以上はいってるよな?」

「う……えーと……マナポーションが多いのは、ほら。お茶会メンバーって加護持ちがいる可能性もあるし、もしものためにもあった方がいいでしょ?実際リリィは加護持ちだったみたいだし。マナポーションに関しては、我が家は最低でも一本は持ち歩かないといけないものだし。」

さっきはピアスを付けてもらって流れたと思った話を蒸し返され、眼が泳いでしまう。

質問の一つには答えたが、腕を組んで隣に腰掛けている男は、この答えでは不服なようだ。
で?と続きを促される。

「……残りは……大丈夫。王宮で使うことは無いと思うから。少なくともアーク達に向けて使うようなものじゃないから。」

「つまり、危険性のあるものだと。」

「うぅ……人がせっかくオブラートに包んでるのに……。」

「で、何が入ってるんだ?あと4本。」

先ほどホルスターを触った時にだろうか。しっかり数えられている。

「えっと……ストレージに仕舞ったら聞かないでくれる?」

「それは無理な相談だな。」

やっぱりかーとガクッと肩を落とした。
きっとちゃんと答えるまで、この押し問答は続くに違いない。アークエイドはしつこいのだ。

覚悟を決めて深呼吸する。

「……誰にも言わないでね?」

「言わない。」

少し声を潜めて言えば、すぐに返事が返ってくる。

「一つは催吐薬……たまに治療にも使われるけど、結構強烈な吐き気がするからあまり使われない。基本的に魔物に食べられそうになった時に、敵の口に突っ込む目的で持ってる人が多いかも。あとは……。」

「……あとは?」

「……一つは……催涙液。……液状だけど空気に触れたら揮発する。目に入れば涙がでるし、吸い込めば呼吸しづらくなるし、肌に付着すれば焼けるように痛む。けど、生命を脅かすようなものじゃない。……もう一つが麻痺毒……。その、経皮吸収でも即効性があるやつで、局所麻酔として使えなくもない。もし服用させたいなら量を加減しないと、心臓麻痺とかで死んじゃうかも。……最後が結構強力な……筋弛緩剤。特殊な容器に入ってて、注射して使う。全身麻酔としても使われる薬剤なんだけど。今持ってるやつは人間相手に1プッシュするだけで、倒れるし、効きすぎると呼吸が止まって死んじゃう。最大4プッシュまで可能。——これで全部だよ。」

「……想像以上に凶悪なものを持ってるな……。」

自分でも説明しながら凶悪だな思ったが、何かあった時に使うことを考えると。少量でも十分に威力を発揮して使い勝手のいい、強力な薬剤になっただけだ。

余計な説明をべらべら喋った自覚もあるが、手持ちの種類を喋ってしまえば、その効果は予想がつくし隠すようなものでもない。
逆に情報を隠しすぎて、下手に誤魔化したとも思われたくなかった。

普段は何を備蓄しているのか聞いてくる人はまずいない。

冒険者でもないのにホルスターをつけている=メイディー家の人間という図式が成り立つからだ。

メイディー家の人間が薬瓶の入ったホルスターを身体のどこかに身に着けているのは、貴族の間では常識なのだ。

「うぅ……だから言いたくなかったんだよ。……僕、衛兵に捕まったりしない?一応護身用の催涙液以外は、医療用って言い張れなくもないんだけど?」

「言いふらすつもりはないから安心しろ。」

じっとアークエイドの顔を見てみるが、苦笑しているのは多分、おろおろしているアシェルを見てだろう。
瞳に侮蔑や嫌悪の負の色は見えないし、口先だけで誤魔化している感じでもない。
逆に知的好奇心を満たしたからか、心なしか満足気だ。

ほっと安堵の息を吐く。

必要だと思っていても、周りと違うということは嫌われる原因になりかねない。
友人達とは親しくなったからこそ、いつ嫌われてしまうかという不安も付きまとうのだ。

「ありがとう、アーク。」

微笑んでお礼をいうと、アークエイドもふっと笑顔をこぼしてくれた。
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