上 下
13 / 46
第一学年 第一学期

11 せっかく魔法学校に入学したのに王太子の犬になるとか悲しすぎる。【蓮SIDE】

しおりを挟む

 一体どうして、こうなってしまったのか。

「おい駄犬、早く余の荷物を持て!」
「は、はい! た、ただいまお持ちさせていただきますですーっ!」

 入学してから夢の魔法学校生活一日目。それだというのに、俺の心は雷雨であった。

 ……なぜかって? そりゃ相部屋があのレックスだったって時点で最悪だけど、そのレックスが予想以上に俺様野郎だったのさ。出会って早々俺に「今日からお前は俺の犬だ」なんて宣言しやがった。俺はそりゃ断りたかったさ。でもレックスの野郎、「余の言うことが聞けない駄犬はこの学園にいる資格はない」なんて言ってきやがったので渋々従うしかなかったんだ。ばあさんにも桜にも迷惑をかけたくなかった。
 そして断り切れなかった俺にレックスは口角を上げ、あれこれ命令してくるようになった。
 一番腹が立ったのはこいつとの相部屋の寝室だ! なんと俺とレックスの寝室にはベッドが一つしかない。その分馬鹿でかいベッドがどーんと寝室を占領している。つまりどういうことかというと、下民の俺は床で寝ろってわけだ。それならもう、レックスは特別待遇で一人部屋にしろって話。もうわけわかんねぇ。結局本当に床に布しいて寝た。床は固くて冷たくてもう最悪だった。これからの学園生活、俺はレックスの犬として過ごしていくなんて地獄にもほどがある。

 でも、いつかこいつと桜が結ばれるかもしれないんだ。兄として仲良くなっておくべきだろう。桜がレックスを攻略しやすいように俺がサポートしなきゃいけない時も来るかもしれない。そのためにも、今はレックスの犬になるしかない……。……つか、兄としてはこんな我が儘野郎に桜を渡したくないんだけど。
 まじない学の授業が終わり、俺はすぐにレックスの教科書諸々を鞄に押し込んでレックスの後をついていった。

「遅いぞ犬! 余の次の授業はなんだ」
「え、えぇっと……」

 昨夜レックスから渡されていたレックスの週間スケジュールを目に通す。って、俺はこいつの秘書かマネージャーかっての! 犬だけど!

「じゅ、授業はとってないみたいです。その代わり、オディオさんと会談があるって……」
「あぁ、そうだったな。ついてこい間抜け」
「~~~~っ」

 俺はそのイケてる金髪を今にも毟ってやりたい欲でいっぱいになったが、唇を噛みしめなんとか我慢した。
 ……ふっ、桜がお前を推していてよかったなレックス。じゃないとお前、HAGEになっていたぜ……。
 それにしても桜の方は大丈夫なんだろうか。同じ授業を選択しなかったのか、全然会わない。まぁ、俺も妹離れするべきなんだろうけどさ……。
 そんなことを考えていると、なんともまぁ〝貴族らしさ〟が出ている扉の前に辿り着く。ゲームで背景としてよく見たことがある扉だったのですぐにここが生徒会室だと分かった。学校の運営や企画はレックスが王になるために必要な経験だろうってことで確かレックスは高等部一年生ながらに生徒会長に任命されたはず。そこで思い出したのだが、先程でてきたオディオという名前。あれは確か──。
 レックスがそっと扉の魔法陣に手を当てる。すると扉が勝手に開いた。

「余に続けて入れ」
「は、はい」

 置いていかれないように必死についていけば、扉がまた勝手に閉まる。部屋の中は大体が整理整頓はされていたものの、中央にある大きな円卓テーブルにはぎっしりとなんらかの書類が積まれていた。俺はその円卓テーブルの一角に人影を見つける。

「オディオ、すまないな。一人で仕事を任せてしまったか」
「! レックス様」

 眼鏡をかけた銀髪頭のインテリイケメン──オディオ・アゴニー・ヘイトリッド。何故俺がこいつの名前をすぐに分かったというと、勿論こいつもレックスに続く攻略対象キャラであるからだ。確かレックスの最有力側近候補で、レックスが最も信頼している男なんだっけ。レックスより一つ年上で、レックスが来るまではオディオが生徒会長を努めていたとかなんとか。
 そんなオディオはレックスの後ろにいる俺を見るなり、不快そうに顔を歪めた。

「レックス様。その下民は一体?」
「あぁ、こいつは余の犬よ。貴族共を傍につかせてもよいが、あいつらはキャンキャンうるさくてかなわんし、何より下心が見え透いていい気分はしないしな。派閥やらなんやらにも関係ない下民を侍らせるのが一番楽でよかろう」
「……それならば僕の方が適任では?」
「お前は働き過ぎだ」

 オディオはぐっと唇を噛みしめた。そして俺のことをキッと睨む。
 なんだこいつ。俺だって好きでこいつの犬やってんじゃねーっての! ばーかばーか!
 心の中で小学生みたいな悪態をつくと、レックスは俺に手のひらを掲げ、「待て」と言った。

 ……聞きましたか皆さん? この金髪野郎、俺に今「待て」っつったよ? 「待て」って!! なんだよ待てって俺は犬か! 犬だけど!!

 がっくりと肩を下ろす。頭を抱えて、埃臭い部屋の隅の方に寄りかかった。
 レックスとオディオを見れば、書類を見ながら何やら難しい単語を投げやって会話している。生徒会の仕事ってやつだろうな。
 ゆっくりする時間ができた今気づいたのだが、レックスのやつ、今日一日どうにもしっかり休んでいないような気がする。授業の合間があればああやって何らかの仕事をしたり、はたまた自習をしたり……。それをあんな涼しそうな顔でこなすんだから大したヤツだ。
 画面上では、生徒会長とか次期国王とか簡単に言えるけど、本当は一人の人間に背負えるようなものではないってことをしみじみ感じる。

 ……ま、俺には関係ないけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん
恋愛
ヒロインに婚約者の王太子の心を奪われて嫉妬のあまりにいじめという名の悪意を振り撒きまくった公爵令嬢は突然ここが乙女ゲー『どきエデ』の世界だと思い出す。既にヒロインは全攻略対象者を虜にした逆ハーレムルート突入中で大団円まであと少し。婚約破棄まで残り二十四時間、『どきエデ』だったらとっくに詰みの状態じゃないですかやだも~! だったら残り一日で全部の破滅フラグへし折って逃げ切ってやる! あわよくば脳内ピンク色のヒロインと王太子に最大級のざまぁを……! ※Season 1,2:書籍版のみ公開中、Interlude 1:完結済(Season 1読了が前提)

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

処理中です...