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第2章 クリス・サン・エーデルシュタイン編
第11話:突然の訪問者①
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クリスがカインを連れて来てから、彼は言葉通り毎日ヴィエルジュ家を通った。
王太子の彼は暇ではないというのに、毎日毎日ディアの好きそうな茶葉を持ってヴィエルジュ家にやってくるその姿は健気という他ない。
それほどリオンの事が好きなのだろうとディアは勝手に解釈していた。
──故に、ディアとクリスの会話には度々すれ違いが起こっている。
「ディア、今日も魔花法で修行しているのかい? よかったら僕も、」
「あっ! クリス様! お兄様なら自室にいらっしゃいますわ! 私の事は放っておいてくださいまし! ちゃんと分かってますから! ささっ、どうぞ!」
「……えっ、あ……」
クリスはディアの言葉の真意を尋ねようとしたが、やけにキラキラと目を輝かせているディアに逆らうこともできず、そのままリオンの部屋に向かってしまう。ディアはその後ろ姿を満足気に見守った。
その後にクリスとリオンが部屋で何を話しているのかと妄想を膨らますのがディアの日課だった。
そんなディアを見て、侍女のリンが背後でクリスを憐れんでいるとも知らずに……。
──しかし、今日は様子が違った。
今日はリオンが屋敷にいないというのにクリスが訪ねてきた。
ディアは首をひねる。どうしてリオンという目的がないのに、訪問してきたのだろうと。
キョトンとしているディアにクリスは顔を真っ赤にして、目を泳がせる。
「ディア。今日こそは君が僕に庭を案内してくれないかな」
「で、ですが……お庭については私よりもお兄様の方が詳しいので、」
「ぼ、僕は!! その、君に、案内してほしいんだ……!」
予想外のクリスの言葉にディアは「はぁ……」と困惑する。
ここでリンが一つ助け船を出した。
「ディア様。一応貴女はクリス殿下の婚約者なのです。たまには二人きりでいませんと、逆に周囲に怪しまれてしまわれます」
「あぁ、なるほど。世間体もありますものね……。うっかりしていたわ! 申し訳ございません、クリス殿下!」
若干理解している意味が違う気がする。クリスはそれを感じ取っていたが、とりあえずディアが庭を案内してくれるなら、と口を噤んだ。
ヴィエルジュ家の庭は広い。大陸各地の美しい植物が生き生きと咲き誇っている。
その中で、隣にはどの花より美しい“推しの顔”がそこにはある。これほど幸せなことがあるだろうか。
まるで自分が乙女ゲームの主人公になった気分で、ディアは乙女として──否、純粋に彼のファンとして浮かれていた。
(嗚呼、推しの顔がこんなに近くに……! 秒ごとでお金を支払わないといけないレベルの美しさだわ! 身分上問題がなければ、その腰や胸元に札束をねじ込みたいぐらい……!)
「ディア。この花はなんというんだい? 綺麗な青色だね」
「あぁ、これは──この辺り一帯のお花は全て私が咲かせた魔花ですわ」
ディアがそう言うと、クリスは目を丸くする。
「こ、これ全部君が咲かせたのかい?」
「はい。カインさんが魔法の特訓につきあってくださるので、ここ最近は特に増えました」
「そうなんだ。やっぱりカインを君に紹介してよかったよ! ところで気になったんだけど、魔花は青いものが特に多いね」
「ああ、それは……私が魔法を使う時は常にクリス様のことを考えているので……。それで、殿下の瞳の色になったんだってカインさんが言っていました」
(まぁ、クリス様のために魔法を学んでいるようなものだし)とディアは何気なく言っただけなのだが──クリスがその言葉をどう受け取ったかは言うまでもない。
ただでさえピンク色の頬がさらに赤みを増し、クリスは思わずディアに顔を見られないように彼女に背を向ける。
「……僕は君を誤解していたようだ」
「え?」
「僕は正直、少し前までの君を傲慢で我儘な女性だと思っていた」
(いや、本当にその通り! ゲームのディアは幼い頃ドレスの色が気に入らないとパーティで泣きわめいたり、他の令嬢のドレスを欲しがって、他人のドレスを破ったりしたって語られていたし……。そういう印象を持つのは当たり前ですわよ、クリス様!)
ディアはうんうんと頷く。
そんなディアを背に、クリスは真っ赤な顔で言葉を続けた。
「でも、今の君は違う。カインとの対決の時のように……僕のことをあんなに想ってくれる君を、い、今は……その、い、愛しいと思っているんだ」
ディアは思わずフリーズしてしまう。クリスが恐る恐る振り返り、ディアを真っ直ぐ見つめてくる。その熱っぽい瞳にディアも思わず顔が熱くなった。
憧れの推しにド直球な口説き文句を吐かれてしまえば、誰でもそうなってしまうだろう。
……しかしディアにとってクリスは神のような存在、自分とは次元の違う存在なのだ。
彼の事を愛している言えど、自分と彼のロマンスを想像することができなかったのが本音。
(いや、いやいやいやいやいやいやっ!! そもそもクリス様が私なんかに惚れるわけがないわよ、それは解釈違い! きっと、クリス様は何か勘違いをなさってるんだわ!!)
一瞬でも真に受けてときめいてしまった自分に傲慢もほどほどにしなさいとツッコミをいれつつ、ディアは冷静を装った。
「く、クリス様には私なんかよりももっともっと素敵な(殿)方がおられます……!」
「えっ。それってどういう──」
──その時、だった。
「──みーつけた」
背後から、クスクスと女の笑い声。
ディアは声の方に振り返り、時が止まったかのように絶句してしまった。
(どうして、ここにいるの?)
突然現れた女を警戒し、クリスがディアを守るように立ち塞がる。
「誰だ、君は? 見かけない顔だね。ディア、知り合いかい?」
「い、いえ……初対面ですわ!!」
(そうよ! 初対面のはずよ! そもそも彼女は戴聖式で現れなかったんじゃなかったの?)
ディアは顔を真っ青にして、動揺する。
現れた女とディアは初対面ではある。
だが、目の前の女の名前をディアは知っていた。
だが、ありえない。何故なら、ディアの目の前にいるのは──!!
「──ニコル?」
王太子の彼は暇ではないというのに、毎日毎日ディアの好きそうな茶葉を持ってヴィエルジュ家にやってくるその姿は健気という他ない。
それほどリオンの事が好きなのだろうとディアは勝手に解釈していた。
──故に、ディアとクリスの会話には度々すれ違いが起こっている。
「ディア、今日も魔花法で修行しているのかい? よかったら僕も、」
「あっ! クリス様! お兄様なら自室にいらっしゃいますわ! 私の事は放っておいてくださいまし! ちゃんと分かってますから! ささっ、どうぞ!」
「……えっ、あ……」
クリスはディアの言葉の真意を尋ねようとしたが、やけにキラキラと目を輝かせているディアに逆らうこともできず、そのままリオンの部屋に向かってしまう。ディアはその後ろ姿を満足気に見守った。
その後にクリスとリオンが部屋で何を話しているのかと妄想を膨らますのがディアの日課だった。
そんなディアを見て、侍女のリンが背後でクリスを憐れんでいるとも知らずに……。
──しかし、今日は様子が違った。
今日はリオンが屋敷にいないというのにクリスが訪ねてきた。
ディアは首をひねる。どうしてリオンという目的がないのに、訪問してきたのだろうと。
キョトンとしているディアにクリスは顔を真っ赤にして、目を泳がせる。
「ディア。今日こそは君が僕に庭を案内してくれないかな」
「で、ですが……お庭については私よりもお兄様の方が詳しいので、」
「ぼ、僕は!! その、君に、案内してほしいんだ……!」
予想外のクリスの言葉にディアは「はぁ……」と困惑する。
ここでリンが一つ助け船を出した。
「ディア様。一応貴女はクリス殿下の婚約者なのです。たまには二人きりでいませんと、逆に周囲に怪しまれてしまわれます」
「あぁ、なるほど。世間体もありますものね……。うっかりしていたわ! 申し訳ございません、クリス殿下!」
若干理解している意味が違う気がする。クリスはそれを感じ取っていたが、とりあえずディアが庭を案内してくれるなら、と口を噤んだ。
ヴィエルジュ家の庭は広い。大陸各地の美しい植物が生き生きと咲き誇っている。
その中で、隣にはどの花より美しい“推しの顔”がそこにはある。これほど幸せなことがあるだろうか。
まるで自分が乙女ゲームの主人公になった気分で、ディアは乙女として──否、純粋に彼のファンとして浮かれていた。
(嗚呼、推しの顔がこんなに近くに……! 秒ごとでお金を支払わないといけないレベルの美しさだわ! 身分上問題がなければ、その腰や胸元に札束をねじ込みたいぐらい……!)
「ディア。この花はなんというんだい? 綺麗な青色だね」
「あぁ、これは──この辺り一帯のお花は全て私が咲かせた魔花ですわ」
ディアがそう言うと、クリスは目を丸くする。
「こ、これ全部君が咲かせたのかい?」
「はい。カインさんが魔法の特訓につきあってくださるので、ここ最近は特に増えました」
「そうなんだ。やっぱりカインを君に紹介してよかったよ! ところで気になったんだけど、魔花は青いものが特に多いね」
「ああ、それは……私が魔法を使う時は常にクリス様のことを考えているので……。それで、殿下の瞳の色になったんだってカインさんが言っていました」
(まぁ、クリス様のために魔法を学んでいるようなものだし)とディアは何気なく言っただけなのだが──クリスがその言葉をどう受け取ったかは言うまでもない。
ただでさえピンク色の頬がさらに赤みを増し、クリスは思わずディアに顔を見られないように彼女に背を向ける。
「……僕は君を誤解していたようだ」
「え?」
「僕は正直、少し前までの君を傲慢で我儘な女性だと思っていた」
(いや、本当にその通り! ゲームのディアは幼い頃ドレスの色が気に入らないとパーティで泣きわめいたり、他の令嬢のドレスを欲しがって、他人のドレスを破ったりしたって語られていたし……。そういう印象を持つのは当たり前ですわよ、クリス様!)
ディアはうんうんと頷く。
そんなディアを背に、クリスは真っ赤な顔で言葉を続けた。
「でも、今の君は違う。カインとの対決の時のように……僕のことをあんなに想ってくれる君を、い、今は……その、い、愛しいと思っているんだ」
ディアは思わずフリーズしてしまう。クリスが恐る恐る振り返り、ディアを真っ直ぐ見つめてくる。その熱っぽい瞳にディアも思わず顔が熱くなった。
憧れの推しにド直球な口説き文句を吐かれてしまえば、誰でもそうなってしまうだろう。
……しかしディアにとってクリスは神のような存在、自分とは次元の違う存在なのだ。
彼の事を愛している言えど、自分と彼のロマンスを想像することができなかったのが本音。
(いや、いやいやいやいやいやいやっ!! そもそもクリス様が私なんかに惚れるわけがないわよ、それは解釈違い! きっと、クリス様は何か勘違いをなさってるんだわ!!)
一瞬でも真に受けてときめいてしまった自分に傲慢もほどほどにしなさいとツッコミをいれつつ、ディアは冷静を装った。
「く、クリス様には私なんかよりももっともっと素敵な(殿)方がおられます……!」
「えっ。それってどういう──」
──その時、だった。
「──みーつけた」
背後から、クスクスと女の笑い声。
ディアは声の方に振り返り、時が止まったかのように絶句してしまった。
(どうして、ここにいるの?)
突然現れた女を警戒し、クリスがディアを守るように立ち塞がる。
「誰だ、君は? 見かけない顔だね。ディア、知り合いかい?」
「い、いえ……初対面ですわ!!」
(そうよ! 初対面のはずよ! そもそも彼女は戴聖式で現れなかったんじゃなかったの?)
ディアは顔を真っ青にして、動揺する。
現れた女とディアは初対面ではある。
だが、目の前の女の名前をディアは知っていた。
だが、ありえない。何故なら、ディアの目の前にいるのは──!!
「──ニコル?」
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