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第五章 エレナと造られた炎の魔人
102:過去を覗く
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「え、エレナ様!?」
魔王の転移魔法によってシュトラール城の中庭に移動したエレナ、ノーム、魔王。中庭には枢機卿と城の兵士達が待機していた。枢機卿はエレナを見るなり、顔色を変える。どうしてここに、とでもいいたげだ。理由を説明すると枢機卿は難しい顔をした。
「話は分かりました。しかし今のヘリオス王はとても話せる状態じゃありません。サラマンダー殿下がいなくなったショックが彼の理性を吹き飛ばしてしまっている」
「分かってます。それでも私達はヘリオス王と話さなければなりません。トゥエルとレブン。サラマンダーを攫ったあの二人の事を知れば、何もわからない今の状況を打開することができるかもしれませんから」
エレナの強い言葉に枢機卿は少しの間、口を閉じた。そして「分かりました」と呟くと、エレナ達と共にヘリオスの私室へ向かう。ヘリオスの私室は分かりやすく、他のドアよりも黄金に輝く豪華な造りになっていた。私室の前で一行は一息つく。ドアの向こうからガラスの割れる鋭い音が聞こえてきた。彼の癇癪はまだ収まっていないらしい。ノームの手が震えていたので、エレナがその手を握った。
「ノーム、大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。……余は、サラマンダーを救うんだ。父上に臆していては話にならない」
意を決し、ノームが強く握り締めた拳でドアをノックする。そして一行はヘリオスの私室へ足を踏み入れた。そこには──鋭い眼光でこちらを睨みつける、ヘリオス・ブルー・アドラシオンが。その迫力にエレナは思わず唾を飲み込んだ。枢機卿が痛いほど静まり返った場をフォローするように穏やかな声を出す。
「ヘリオス陛下。サラマンダー殿下捜索の定期報告でございます」
「……聖女も来たのか」
聖女。エレナは最初、その二文字が自分を表しているものだとは思わなかった。しかし鋭い視線の餌食になっていることに気づくなりそれを理解する。視線が痛いとは今この状況のことを言うのだと思い知った。
「へ、ヘリオス陛下。この度は私の勝手な行動を深く、深く謝罪いたします。誠に、申しわけ──」
「不快だ」
「っ、」
ヘリオスの氷の第一声にエレナは言葉が詰まる。しかし中途半端に曲げた腰をそのままにするわけにもいかず、深く頭を下げた。ヘリオスは歯をくいしばり、力いっぱい机に拳をぶつける。
「余が欲しているのは謝罪などではない、サラマンダーだ! どうせ、サラマンダーは見つからんのだろう!? よもや本当は悪魔などではなく、お前らテネブリスが我が息子を監禁しているのではあるまいな!?」
「……お言葉だがヘリオス王。そんなことをしてもテネブリスに利はない。もし不安だと言うなら、我が城にシュトラールの兵を置くのはどうだろうか。我はそれで一向にかまわない」
「ふん、誰が魔王の城に易々と自国の兵士を行かせるものか」
ヘリオスの魔王への態度にエレナは唇を噛み締めた。だが彼の態度は自分が原因でもあるため、何も言い返すことはできない。……と、ここで怒りで我を忘れかけているヘリオスが気になることを口にする。
「もし我がサラマンダーが殺されたら、テネブリスはどう責任を取ってくれるというのか!! 余がアレにどれだけ金をかけたと思う!? アレはシュトラールの最高傑作だぞ!!」
「……最高、傑作?」
彼の言葉にその場にいたヘリオス以外の全員がポカンとする。ヘリオスはしまったと言わんばかりの表情を浮かべると、「とにかくだ!」と話を誤魔化した。しかしノームがそれを許さない。弟を作品扱いされたノームの表情に怒りが浮かぶ。
「父上。サラマンダーが最高傑作とはどういうことですか」
「……お前は知らなくていいことだ」
「そんなことはない。余はアレの兄です。知る権利がある! それに父上、貴方はまだ余からの質問に答えていない。レブンとトゥエルとは何者なのですか? 何か知っているのでしょう!」
「その質問は二度とするなと言ったはずだ。貴様は余に歯向かうのか、ノームッッ!!」
ヘリオスの怒鳴り声にノームの体がビクリと震えた。すかさずエレナがノームの腰に手を置いて、真っ直ぐヘリオスを見る。ノームはそんなエレナの横顔に心が奮い立つと、共にヘリオスを射抜いた。そんな二人の瞳の強さにヘリオスは一瞬怯んでしまう。
「ヘリオス王。その口ぶりからして、貴方はサラマンダーを攫ったレブンとトゥエルという青年二人について何か知っておられるのですね? 捜索の手掛かりとして教えていただけませんか」
「知らん! 余はお前達に何も話すことはない! ふ、不快だ! さっさとここを立ち去れ!!」
その後、枢機卿がいくら説得しても頑なに会話を拒むヘリオスに場は硬直した。このままでは埒が明かない。エレナが焦る気持ちを必死に抑えてどうしようかと思考を巡らせた時──彼女の首元の宝石が輝いた。そこから飛びだしたのは勿論ルーだ。ルーは華麗に床に着地すると、ヘリオスの机に飛び乗る。突然の相棒の登場に呆気にとられたエレナがハッとした。
「な、なんだこいつは!」
「ちょっと、コラ、ルー! やめなさい!」
エレナが慌ててルーを抱き上げようとするが──その前に、ルーの額の宝石が一際強く輝く。そしてその輝きに当てられたエレナ達の瞼の裏に、とある褐色肌の若い男の顔が浮かび上がる。頭を抱えて、何かを察したヘリオスが「見るな!」と叫んだ。
エレナ達の頭の中で流れる幻覚の男。それは確かに若き日のヘリオスであった……。
魔王の転移魔法によってシュトラール城の中庭に移動したエレナ、ノーム、魔王。中庭には枢機卿と城の兵士達が待機していた。枢機卿はエレナを見るなり、顔色を変える。どうしてここに、とでもいいたげだ。理由を説明すると枢機卿は難しい顔をした。
「話は分かりました。しかし今のヘリオス王はとても話せる状態じゃありません。サラマンダー殿下がいなくなったショックが彼の理性を吹き飛ばしてしまっている」
「分かってます。それでも私達はヘリオス王と話さなければなりません。トゥエルとレブン。サラマンダーを攫ったあの二人の事を知れば、何もわからない今の状況を打開することができるかもしれませんから」
エレナの強い言葉に枢機卿は少しの間、口を閉じた。そして「分かりました」と呟くと、エレナ達と共にヘリオスの私室へ向かう。ヘリオスの私室は分かりやすく、他のドアよりも黄金に輝く豪華な造りになっていた。私室の前で一行は一息つく。ドアの向こうからガラスの割れる鋭い音が聞こえてきた。彼の癇癪はまだ収まっていないらしい。ノームの手が震えていたので、エレナがその手を握った。
「ノーム、大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。……余は、サラマンダーを救うんだ。父上に臆していては話にならない」
意を決し、ノームが強く握り締めた拳でドアをノックする。そして一行はヘリオスの私室へ足を踏み入れた。そこには──鋭い眼光でこちらを睨みつける、ヘリオス・ブルー・アドラシオンが。その迫力にエレナは思わず唾を飲み込んだ。枢機卿が痛いほど静まり返った場をフォローするように穏やかな声を出す。
「ヘリオス陛下。サラマンダー殿下捜索の定期報告でございます」
「……聖女も来たのか」
聖女。エレナは最初、その二文字が自分を表しているものだとは思わなかった。しかし鋭い視線の餌食になっていることに気づくなりそれを理解する。視線が痛いとは今この状況のことを言うのだと思い知った。
「へ、ヘリオス陛下。この度は私の勝手な行動を深く、深く謝罪いたします。誠に、申しわけ──」
「不快だ」
「っ、」
ヘリオスの氷の第一声にエレナは言葉が詰まる。しかし中途半端に曲げた腰をそのままにするわけにもいかず、深く頭を下げた。ヘリオスは歯をくいしばり、力いっぱい机に拳をぶつける。
「余が欲しているのは謝罪などではない、サラマンダーだ! どうせ、サラマンダーは見つからんのだろう!? よもや本当は悪魔などではなく、お前らテネブリスが我が息子を監禁しているのではあるまいな!?」
「……お言葉だがヘリオス王。そんなことをしてもテネブリスに利はない。もし不安だと言うなら、我が城にシュトラールの兵を置くのはどうだろうか。我はそれで一向にかまわない」
「ふん、誰が魔王の城に易々と自国の兵士を行かせるものか」
ヘリオスの魔王への態度にエレナは唇を噛み締めた。だが彼の態度は自分が原因でもあるため、何も言い返すことはできない。……と、ここで怒りで我を忘れかけているヘリオスが気になることを口にする。
「もし我がサラマンダーが殺されたら、テネブリスはどう責任を取ってくれるというのか!! 余がアレにどれだけ金をかけたと思う!? アレはシュトラールの最高傑作だぞ!!」
「……最高、傑作?」
彼の言葉にその場にいたヘリオス以外の全員がポカンとする。ヘリオスはしまったと言わんばかりの表情を浮かべると、「とにかくだ!」と話を誤魔化した。しかしノームがそれを許さない。弟を作品扱いされたノームの表情に怒りが浮かぶ。
「父上。サラマンダーが最高傑作とはどういうことですか」
「……お前は知らなくていいことだ」
「そんなことはない。余はアレの兄です。知る権利がある! それに父上、貴方はまだ余からの質問に答えていない。レブンとトゥエルとは何者なのですか? 何か知っているのでしょう!」
「その質問は二度とするなと言ったはずだ。貴様は余に歯向かうのか、ノームッッ!!」
ヘリオスの怒鳴り声にノームの体がビクリと震えた。すかさずエレナがノームの腰に手を置いて、真っ直ぐヘリオスを見る。ノームはそんなエレナの横顔に心が奮い立つと、共にヘリオスを射抜いた。そんな二人の瞳の強さにヘリオスは一瞬怯んでしまう。
「ヘリオス王。その口ぶりからして、貴方はサラマンダーを攫ったレブンとトゥエルという青年二人について何か知っておられるのですね? 捜索の手掛かりとして教えていただけませんか」
「知らん! 余はお前達に何も話すことはない! ふ、不快だ! さっさとここを立ち去れ!!」
その後、枢機卿がいくら説得しても頑なに会話を拒むヘリオスに場は硬直した。このままでは埒が明かない。エレナが焦る気持ちを必死に抑えてどうしようかと思考を巡らせた時──彼女の首元の宝石が輝いた。そこから飛びだしたのは勿論ルーだ。ルーは華麗に床に着地すると、ヘリオスの机に飛び乗る。突然の相棒の登場に呆気にとられたエレナがハッとした。
「な、なんだこいつは!」
「ちょっと、コラ、ルー! やめなさい!」
エレナが慌ててルーを抱き上げようとするが──その前に、ルーの額の宝石が一際強く輝く。そしてその輝きに当てられたエレナ達の瞼の裏に、とある褐色肌の若い男の顔が浮かび上がる。頭を抱えて、何かを察したヘリオスが「見るな!」と叫んだ。
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