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第四章 エレナと桃色の聖遺物
87:その言葉は信頼の証
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「リリィ、貴方の家族を信じて──!!」
「──っ!!」
リリィがエレナを見下ろす。その瞳は未だ苦痛と恐怖で歪んでいた。それを察したエレナはリリィを安心させる為に笑ってみせる。
「リリィ、おいで! 私はリリィが何者であっても、これから何があっても、貴方と一緒にいる! もう離してって言っても離してあげないんだから!」
「え、れ、な……」
リリィは大粒の涙をポロポロ溢した。リリィの瞳が炎の海へと化した禁断の大森林が映す。ここはエレナとリリィが出会った思い出の場所で、いつもの遊び場だったはずなのに……。それをたった今破壊したのは自分自身なのだ。エレナがこんな化け物じみたリリィの姿を見て尚、家族だと言って手を伸ばしてくれることはとても嬉しい。リリィだってそんな彼女を信じたい。だがリリィが彼女に触れてしまえば、今もなお自分の中で肥大している力がエレナに牙を向くのは避けられないだろう。リリィはそう思うと動けなくなるのだ。
──と、そこで再びリリィの身体が熱を帯び始める。これはリリィが大爆発を起こす前兆だ。リリィは唇を噛みしめた。
「エレナぁ! 離れて! リリィ、また、爆発する!」
「!」
身体の熱をどうにかして収めようとするが収まるどころかヒートアップしてしまう。このままでは直下にいるエレナが死んでしまう! 嫌だ嫌だと泣き叫ぶリリィ。そしてリリィの身体が光を放ったと思えば──爆発音。炎の渦がリリィから解放され、周囲に広がっていく。リリィはエレナに手を伸ばした。
「嫌だ嫌だ嫌だ! エレナぁ──!!!」
「──大丈夫だ、リリィ!」
「!」
──その時、リリィの周囲を黒い霧が覆う。
炎の渦はその霧に触れると、一瞬動きを止めた。しかし渦の勢いを押し殺せないまま霧が打ち消されていく。するとまた霧が現れるのだ。何重にも重なった黒い霧──魔王の闇魔法が炎の渦を徐々に押し殺していく。それを繰り返せば何事もなかったかのように力の失った炎の渦が空気に溶け込んでいった……。
リリィはポカンと口を開ける。エレナの隣には魔王がいた。魔王もリリィを見上げている。
「大丈夫だ、リリィ。我がお前の力を食い止めてみせる。もうお前は誰も傷つけることはないのだ。すまなかった。お前がこうなってしまったのは制御の役割を果たせなかった我のせいだ。お前のせいではない」
「パパ……」
「ほらね、リリィ。もう大丈夫だよ。パパがリリィも私も皆も守ってくれるから。自分で降りてこれる? なんなら私がそっちにいこうか?」
「…………っ」
リリィは恐る恐るエレナに手を伸ばすが──
【──そんなこと、ボクの血が許すはずがないよねぇ?】
その声と共に、リリィの全身に今までとは比にならないほどの激痛が走った。セロの魔力の侵食のスピードが一気に上がったのだ。再度リリィの身体が痙攣を開始する。仰向けになったかと思えば腰を曲げたり、身体の中にいる邪悪なものに悶え苦しむリリィ。脳みそがぐちゃぐちゃにかき混ぜられているようだった。
──嫌だ嫌だ! リリィは、エレナと一緒にいたいだけなのにどうして邪魔をするの!?
──苦しいよ、痛いよっ! もうやめて、もう嫌だ!
──リリィはこのまま悪魔になんかなりたくないっ! そうなったらそれこそもう皆と一緒にいられない……っ!
リリィの中で、散らばった記憶の欠片が黒く染まっていく。薄暗い土の中を飛び出した際の日光の強さ、リリィを歓迎する乾杯の音、自分の為に流された優しい涙、固く冷たいのに心地よいと思ってしまう骨のむき出しになった手、いつだって瞼を閉じれば最初に思い浮かぶ金髪……その全てが闇の中に飲み込まれてしまった。足掻いても足掻いても暗闇の海から抜け出せないのだ。このままではリリィは溺死してしまう。
嗚呼、嗚呼、どうしたものか。こうなってしまっては、リリィに残された最後の手段は──
「──エレナぁ!! パパぁ!! 助けてぇえ!!」
──そう。助けを呼ぶことだ!
今まで自分でどうにかしようとしてきたリリィがこの時初めて、本当の意味で家族を信頼したのだ。そんなリリィの叫びにエレナと魔王が応えないわけがない。自分の名を呼ばれて、思わず目を開けるリリィ。するとあのサラの大槌が凄い勢いでこちらに飛んできているではないか。サラの大槌には魔王の魔法陣が浮かび上がっていた。そしてそこから、エレナ自身が飛び出してくる。
「捕まえたっ!」
「っ、エレナ、」
大槌から飛び出してきたエレナの身体がリリィの頭を抱きしめる。そして次にエレナはリリィを救うための合言葉を腹の底から唱えた。
「──癒せ!」
二人の身体が黄金色の光に包み込まれていく。その場にいた全員が今までの比にならない強い輝きを放つソレに目を奪われるしかなかった……。
***
しおりをつけて読んでくださっている方々、いつもありがとうございます。
誰かがこの「黄金の魔族姫」を読んでくれているんだ、楽しんでくれているんだと執筆の励みになります。これからもよろしくお願いします。第四章もラストスパートです。
「──っ!!」
リリィがエレナを見下ろす。その瞳は未だ苦痛と恐怖で歪んでいた。それを察したエレナはリリィを安心させる為に笑ってみせる。
「リリィ、おいで! 私はリリィが何者であっても、これから何があっても、貴方と一緒にいる! もう離してって言っても離してあげないんだから!」
「え、れ、な……」
リリィは大粒の涙をポロポロ溢した。リリィの瞳が炎の海へと化した禁断の大森林が映す。ここはエレナとリリィが出会った思い出の場所で、いつもの遊び場だったはずなのに……。それをたった今破壊したのは自分自身なのだ。エレナがこんな化け物じみたリリィの姿を見て尚、家族だと言って手を伸ばしてくれることはとても嬉しい。リリィだってそんな彼女を信じたい。だがリリィが彼女に触れてしまえば、今もなお自分の中で肥大している力がエレナに牙を向くのは避けられないだろう。リリィはそう思うと動けなくなるのだ。
──と、そこで再びリリィの身体が熱を帯び始める。これはリリィが大爆発を起こす前兆だ。リリィは唇を噛みしめた。
「エレナぁ! 離れて! リリィ、また、爆発する!」
「!」
身体の熱をどうにかして収めようとするが収まるどころかヒートアップしてしまう。このままでは直下にいるエレナが死んでしまう! 嫌だ嫌だと泣き叫ぶリリィ。そしてリリィの身体が光を放ったと思えば──爆発音。炎の渦がリリィから解放され、周囲に広がっていく。リリィはエレナに手を伸ばした。
「嫌だ嫌だ嫌だ! エレナぁ──!!!」
「──大丈夫だ、リリィ!」
「!」
──その時、リリィの周囲を黒い霧が覆う。
炎の渦はその霧に触れると、一瞬動きを止めた。しかし渦の勢いを押し殺せないまま霧が打ち消されていく。するとまた霧が現れるのだ。何重にも重なった黒い霧──魔王の闇魔法が炎の渦を徐々に押し殺していく。それを繰り返せば何事もなかったかのように力の失った炎の渦が空気に溶け込んでいった……。
リリィはポカンと口を開ける。エレナの隣には魔王がいた。魔王もリリィを見上げている。
「大丈夫だ、リリィ。我がお前の力を食い止めてみせる。もうお前は誰も傷つけることはないのだ。すまなかった。お前がこうなってしまったのは制御の役割を果たせなかった我のせいだ。お前のせいではない」
「パパ……」
「ほらね、リリィ。もう大丈夫だよ。パパがリリィも私も皆も守ってくれるから。自分で降りてこれる? なんなら私がそっちにいこうか?」
「…………っ」
リリィは恐る恐るエレナに手を伸ばすが──
【──そんなこと、ボクの血が許すはずがないよねぇ?】
その声と共に、リリィの全身に今までとは比にならないほどの激痛が走った。セロの魔力の侵食のスピードが一気に上がったのだ。再度リリィの身体が痙攣を開始する。仰向けになったかと思えば腰を曲げたり、身体の中にいる邪悪なものに悶え苦しむリリィ。脳みそがぐちゃぐちゃにかき混ぜられているようだった。
──嫌だ嫌だ! リリィは、エレナと一緒にいたいだけなのにどうして邪魔をするの!?
──苦しいよ、痛いよっ! もうやめて、もう嫌だ!
──リリィはこのまま悪魔になんかなりたくないっ! そうなったらそれこそもう皆と一緒にいられない……っ!
リリィの中で、散らばった記憶の欠片が黒く染まっていく。薄暗い土の中を飛び出した際の日光の強さ、リリィを歓迎する乾杯の音、自分の為に流された優しい涙、固く冷たいのに心地よいと思ってしまう骨のむき出しになった手、いつだって瞼を閉じれば最初に思い浮かぶ金髪……その全てが闇の中に飲み込まれてしまった。足掻いても足掻いても暗闇の海から抜け出せないのだ。このままではリリィは溺死してしまう。
嗚呼、嗚呼、どうしたものか。こうなってしまっては、リリィに残された最後の手段は──
「──エレナぁ!! パパぁ!! 助けてぇえ!!」
──そう。助けを呼ぶことだ!
今まで自分でどうにかしようとしてきたリリィがこの時初めて、本当の意味で家族を信頼したのだ。そんなリリィの叫びにエレナと魔王が応えないわけがない。自分の名を呼ばれて、思わず目を開けるリリィ。するとあのサラの大槌が凄い勢いでこちらに飛んできているではないか。サラの大槌には魔王の魔法陣が浮かび上がっていた。そしてそこから、エレナ自身が飛び出してくる。
「捕まえたっ!」
「っ、エレナ、」
大槌から飛び出してきたエレナの身体がリリィの頭を抱きしめる。そして次にエレナはリリィを救うための合言葉を腹の底から唱えた。
「──癒せ!」
二人の身体が黄金色の光に包み込まれていく。その場にいた全員が今までの比にならない強い輝きを放つソレに目を奪われるしかなかった……。
***
しおりをつけて読んでくださっている方々、いつもありがとうございます。
誰かがこの「黄金の魔族姫」を読んでくれているんだ、楽しんでくれているんだと執筆の励みになります。これからもよろしくお願いします。第四章もラストスパートです。
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