黄金の魔族姫

風和ふわ

文字の大きさ
上 下
37 / 145
第三章 魔族姫と白髪の聖女編

37:親交パーティ

しおりを挟む

 ノームが土の勇者と認められてから、彼はテネブリスにてエレナと共に魔法の修行に励むようになっていた。ちなみにシュトラール国王には自分が勇者であることをまだ話していないらしい。髪の色も変わっていないこともあって、信じてもらえる自信がないのだという。故に、こうして修行によって実力をつけてから話すつもりでいるようだ。

「──咲けブルム!」

 ノームが叫ぶ。ノームの魔力を流された魔花が勢いよく花開く。その大きさはエレナの手の平サイズといったところか。

「むぅ。まだエレナのように大きな花は咲かないか」
「そりゃまだ魔法使えるようになって一カ月でしょ? そんなにすぐ成長したら私の立場がないよ。それに私、ドリアードさん曰く魔力量は常人の魔族の二倍はあるらしいし」
「ほぉ。そもそも気になっていたのだが、エレナは一体誰の加護を受けているのだ?」
「さぁ。それは私も分からない。治癒魔法って普通に加護を受けても人間が創造できる魔力量じゃ使えないみたいなのよね」 
「なんだそれ」

 ノームが不思議そうに首を傾げる。これに関してはエレナ自身が一番気になっている事だ。
 エレナは今日のノルマである十本の魔花の苗を咲かせ終わると、布で汗を拭いた。ノームはまだ修行を始めて一カ月であるのでノルマは三本。彼もそれをたった今終わらせると地面に横たわり、大きく伸びをする。

「はぁ、はぁ……。エレナが十本魔花を咲かせている間に余はたったの三本だけか……」
「焦らない方がいいって。それよりノーム、ドリアードさんに色々と土魔法を教えてもらってるんでしょ? どんなことが出来るようになったの? 見せて見せて!」

 ノームは半身を起こすと、少しだけ顔を逸らした。エレナは「土魔法」という未知の可能性にキラキラ目を輝かせる。ノームはそんな彼女の輝きに耐え切れず、仕方なく地面に腕を伸ばした。

「──我が僕よイメス

 ノームがそう唱えるなり、彼の周りにボコッボコッと土が盛り上がる。球体に突出した土が自らの意思で転がり、次第に手足が生えた。思ったよりも丸っぽい土人形ゴーレム。ノームの土魔法はこれを意のままに動かせるとか。エレナはそんなゴーレム達に目の輝きが増した。

「嘘!? なにこれなにこれ!? すっごく可愛い!! コロコロしてる~!! おいで!!」

 エレナはゴーレムに手招きをする。するとその内の一人が「え? 僕?」という風な仕草をすると、トテトテとエレナの前に来た。エレナはそんな彼(彼女?)を膝の上に乗せて頭を撫でる。

「ふふふ、歩く姿も座る姿も可愛い」
「よ、余としてはそんな事を言われるのは心外だ! 本当はもっとこう、大きくて凛々しくて逞しい騎士の鎧を着た……」
「えー、これでいいよ。私は気にいっちゃった。ね? ゴーレムさん!」

 エレナは小さなゴーレムを抱きしめた。ゴーレムはエレナを母親と認識したのか、エレナの胸に抱き付く。ノームは慌ててそんなゴーレムをエレナから取り上げた。

「ちょっとノーム! 急にどうしたの!? もうちょっと貸してよ」
「だ、駄目だ! こ、このスケベゴーレムは駄目だ! もうエレナに近づかせるか! 解除メス!」
「あー! なんでゴーレムさんをもう土に戻すのよ!」

 エレナとノームがそんなやりとりをしていると、ノームの相棒であるグリフォン──レガンがノームに身体をすり寄せた。もうそろそろ帰るぞ、という意味らしい。ノームは重々しいため息を吐く。

「もうそんな時間か。今は特に城に帰りたくないな」
「何かあるの?」
「今度、シュトラールとスペランサで親交パーティがあるんだ。しかも余はもう十六になるからな。異性のパートナーとの同伴が求められる。落ちこぼれの余のパートナーになりたい女性もいない故、サラマンダーに色々言われるのさ。どうにか貴族の娘を見繕って形だけでも参加しなければならないが」
「あぁ、そういえばそんな時期だね。ふぅーん、パートナーか……」

 エレナはぼんやりと想像した。ノームがどこの誰かとも分からない女性とダンスを踊ったり、腕を組んだりしている姿を。持っていた布をぎゅっと握りしめる。どういうわけか胸がチクリチクリと痛んだ。「それは嫌だ」と心が叫んでいる。その場がしんと静かになった。

「……。……、正直、余はエレナ以外とは踊る気にもなれないんだがな」
「っ! え……」

 エレナはすぐに顔を上げる。見上げたノームの顔は逸らされて見えない。しかしその頬と耳に赤みがさしているのは分かった。思わずエレナの頬にも熱が宿る。

「……、ま、まぁ。無理な話だよな! ウィン様やレイナ様も参加するし、お前はスペランサに罪人として認識されているし、そもそもお前を嫌な気持ちにさせてしまうしな! ははは、余としたことが余計な事を言ってしまった! で、では、もう余は帰──」
「パパにお願いしてみる」
「えっ」

 ノームの身体が硬直する。エレナはそっと立ち上がると、真っ赤な顔でノームを見た。

「髪の色とかを変えて変装すれば問題ないと思う。パパの転移魔法の魔法陣を持たせてもらえれば、何かあったらすぐにテネブリスに逃げることができるし。……でもノームに迷惑かけるよね」
「め、迷惑なわけがないだろう! だがエレナはいいのか? ウィン様は……」
「それは大丈夫。私も彼もただ婚約者であっただけでお互い恋愛感情はなかったから。そもそも私、彼に殺されそうになったしね。断頭台のことを思い出すかもしれないけど、今の私にはパパや皆がいるからトラウマってほどじゃないし、」

 エレナは自分がやけに早口であることに気づいた。どうして自分はこんなに必死に親交パーティに参加しようとしているのか。万が一エレナがエレナであるとばれてしまった時、パートナーのノームの立場はどうなる? これは自分の我儘だ。エレナがそう自己嫌悪していると、ノームがエレナの手を握った。

「──じゃあ親交パーティの、余のパートナーになってくれるか? エレナ」
「え、あ、で、でも、もし私がエレナだってばれたら、ノームの立場が……」
「そこは大丈夫だ。余には一人だけ優秀な従者がいるからな。何とかしてくれるだろう。……なにより、余もお前と踊りたい。お前以外は嫌なんだ」
「!」

 ノームがエレナの手の甲にキスを落とす。そうして嬉しそうにはにかむと「返事を待っている」とレガンに飛び乗った。去っていくノームとレガンを見守ったエレナはノームの唇が触れた己の手の甲に悶えるしかなかった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...