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第一章 エレナの才能開花編
19:やり遂げる
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「──ほらよ」
「!」
エレナの唇に何かが宛がわれる。見るとそれは、木製のコップ。本能のまま口を開けるとひんやりと冷えた水がエレナの喉に流れ込んでいった。エレナは水が現れた方へ顔を向ける。そこには左目を切り傷で潰されているドワーフの男性がいた。確か彼はテネブリス城のコック長だったはずだ。彼はいつもエレナの部屋に料理を運んでくれるので顔をよく覚えていた。……尤も、その際毎度ぶっきらぼうの態度だった上に名前すら教えてもらえなかったのだが。
しかし今はそんな彼が、気まずそうにエレナの顔色を窺っている。
「……気が利かなくてすまんな。水がもっと飲みたいなら言え。簡単に口に運べる料理も部下達に作らせてっからよかったら食ってくれ」
「! え……」
「あー、なんつーかよ。オレは今からお前を援助させてもらう。今までの非礼の侘びにもならないがな。……虫がいいとは自分でも思ってるさ。だが、今はとにかくお前の力になりてぇ! 何でも言ってくれや」
エレナは目を丸くする。しかし魔族達の変化はこれだけではない。コック長の行動をきっかけに、周囲にいた魔族達が少しずつ、それぞれのやり方でエレナを応援し始めたのだ。
例えばハーピー達は己の自慢の喉を生かして癒し効果があるという歌声を響かせた。ラミア達はエレナが無事にやり遂げるようにと独自の祈りのダンスを踊る。ゴブリンやドワーフは竜人に乗ってエレナに美味しいものを食べさせる為、わざわざ森へ果実を採りに行った。
……そして最後にエレナを城から追い出そうとしたエルフ達。彼らは居心地が悪そうにしつつもマモンの身体を取り囲む。
「エルフさん……、?」
「ふ、ふん! 我々は少しでもマモンの傷が早く治る様に薬を塗っているだけだ。一応この城の医療班は我らエルフなのでね!」
「……おい、ちょっと待て!」
ドリアードが眉を顰めた。どうやら彼らの態度が気に入らないらしい。
「先程こっそり話を聞いていたが、エレナを我が森に追い出したのはお前らだと言うじゃないか。だというのにその態度はなんだ! 偉っそうに!!」
「っ……そ、それは……、」
エルフ達の手が止まる。エレナはドリアードの名前を呼んで、首を横に振った。ドリアードが怒りが収まらないとばかりにエルフ達を指差し、声を張り上げる。
「え、エレナ! こいつらは其方を間接的にとはいえ、殺そうとしたのだぞ?! わ、我は友人として、其方の代わりにこいつらを……」
「ドリアードさん。気持ちは凄く嬉しいけれど……っ、今はエルフさん達の助けも必要、だから……っ、私の為に怒ってくれてありがとう……っ、はぁ、」
「! す、すまん。今そういうことをしている場合じゃなかったな。其方が苦しんでいるのだ。……だが我はエルフ達がちゃんとエレナに謝るまで許さんからな!」
「……っ、」
エルフ達はドリアードの一睨みに何も言い返せなかった。そのまま黙って粘ついた白い液体を腕の断面に塗り始める。どうやら消毒をしているらしい。
エレナは疲労に耐えつつも、周囲で慌ただしく働く魔族達に密かに涙が出そうになった。彼らに認めてもらえたとは思ってはいない。しかしこの場所に立っていることを許されただけでも大きな進歩だろう。
──だが。
「……っ、はぁ、うっ……!」
今までの息苦しさに加えて、エレナの全身にこれまでとは比較にならない激痛が現れだした。まだ治癒魔法に慣れていない身体が悲鳴を上げているのだ。嬉し涙が痛みに耐える生理的な涙へと変わっていく。歯を必死に食いしばる。
(痛くて痛くて堪らない! 足が、震えて、もう……っ、)
エレナの身体がフラリと崩れる。ドリアードがエレナの名を叫んだ。しかしエレナの身体が地面に倒れる前に、何者かが彼女を支える。
「エレナ……、」
魔王の太い腕がエレナの背中に寄り添っていた。エレナの顔を覗きこむ彼は骸骨頭が故に無表情だ。しかしその目の赤い光がやけに激しく蠢いていることからおそらくエレナを心配しているのだろう。エレナはそんな魔王に強がり半分で口角を上げた。
「支えてくれてありがとう。もうしばらくそうしていて。もう一回、マモンに治癒魔法をかけなおすから」
「……我は、無理しようとする我が子を父親として止めるべきなのだろうか」
エレナは首を横に振り、再度マモンに両手の平を掲げる。そして腹の底から呪文を叫んだ。痛みと苦しみがエレナを再び襲う!
「止めないでよ、パパ! 私は……私は……、今は、無理しなきゃいけないと思うの……っ、! 大事な友達を失いたくないし、やっと魔族の皆が応援してくれているのだから応えたい! それにこれがパパの娘だどうだ見たかって胸を張って言えるようになりたい! ここで無理しなきゃいけない理由が私には沢山あるから……っ!」
「……、……分かった。そうしよう。ちゃんと見ている。一瞬たりとも、娘の勇姿を見逃すものか」
そんな魔王の言葉にエレナは奮い立つしかない。嬉しくて、嬉しくて堪らなかった。
……と、ここでだ。マモンに変化があった。それに一番に気づいたのはエレナだった。今まで引っかかっていた何かが解けたような爽快感と共に、エレナの魔力がさらに大量にマモンへ流れていく。ドリアードが目を丸くした。
「え、エレナ! ま、ままマモンの魔力回路が今、完全に修復されたぞ! これで今までよりも魔力の通りがよくなるだろう! もうすぐだ! ほら、見てみろ!」
ドリアードの言葉通り、破壊されたマモンの腕が、ほんの少しずつではあるが再生し始めた。断面から徐々に肉が生み出されて、“腕”を形成していく。目を凝らさなければ分からないようなスピードだが、確かに進んでいる。魔族達が興奮して歓喜の声を上げた。そしてエレナに精一杯の声援を送る。
エレナはそこでその声に応えるように──さらに、無理を重ねることにした。
「──癒せ!!!!」
魔法の追加詠唱だ。エレナの身体の負荷が倍になる代わりに、治癒の速さも増していく。
(これが、ラストスパート──!)
エレナは両手足に魂を籠めた。もう二度とふらつかないぞと、もう二度と背後の魔王に情けないところは見せるもんか、と。
そこから、さらに時間が経つ。真っ暗闇だったテネブリスに光が差し始める。
そして──。
「…………っ、あ……っ」
エレナの意識が完全に沈み、身体は魔王の腕の中へ。魔族達が一瞬静まり変えった。しかし、次の瞬間──!!
「──やりやがったぞあいつ!! マモンの腕が!! 腕があるぞぉおおおお!!」
その場に居合わせた者達が互いを抱きしめ、踊る。その中心にいるマモンの右腕が、昨日何もなかったかのように綺麗に再生されていたのだ。魔王は今の感情を言葉にできないまま、腕の中のエレナを見つめた。
「……エレナ、よくやったな」
「……、」
エレナからの返事はない。しかし意識を失ってなお、エレナは微笑む。
約十時間、苦痛と戦った彼女の誇らしげな顔が朝焼けの強い日光に照らされた──。
「!」
エレナの唇に何かが宛がわれる。見るとそれは、木製のコップ。本能のまま口を開けるとひんやりと冷えた水がエレナの喉に流れ込んでいった。エレナは水が現れた方へ顔を向ける。そこには左目を切り傷で潰されているドワーフの男性がいた。確か彼はテネブリス城のコック長だったはずだ。彼はいつもエレナの部屋に料理を運んでくれるので顔をよく覚えていた。……尤も、その際毎度ぶっきらぼうの態度だった上に名前すら教えてもらえなかったのだが。
しかし今はそんな彼が、気まずそうにエレナの顔色を窺っている。
「……気が利かなくてすまんな。水がもっと飲みたいなら言え。簡単に口に運べる料理も部下達に作らせてっからよかったら食ってくれ」
「! え……」
「あー、なんつーかよ。オレは今からお前を援助させてもらう。今までの非礼の侘びにもならないがな。……虫がいいとは自分でも思ってるさ。だが、今はとにかくお前の力になりてぇ! 何でも言ってくれや」
エレナは目を丸くする。しかし魔族達の変化はこれだけではない。コック長の行動をきっかけに、周囲にいた魔族達が少しずつ、それぞれのやり方でエレナを応援し始めたのだ。
例えばハーピー達は己の自慢の喉を生かして癒し効果があるという歌声を響かせた。ラミア達はエレナが無事にやり遂げるようにと独自の祈りのダンスを踊る。ゴブリンやドワーフは竜人に乗ってエレナに美味しいものを食べさせる為、わざわざ森へ果実を採りに行った。
……そして最後にエレナを城から追い出そうとしたエルフ達。彼らは居心地が悪そうにしつつもマモンの身体を取り囲む。
「エルフさん……、?」
「ふ、ふん! 我々は少しでもマモンの傷が早く治る様に薬を塗っているだけだ。一応この城の医療班は我らエルフなのでね!」
「……おい、ちょっと待て!」
ドリアードが眉を顰めた。どうやら彼らの態度が気に入らないらしい。
「先程こっそり話を聞いていたが、エレナを我が森に追い出したのはお前らだと言うじゃないか。だというのにその態度はなんだ! 偉っそうに!!」
「っ……そ、それは……、」
エルフ達の手が止まる。エレナはドリアードの名前を呼んで、首を横に振った。ドリアードが怒りが収まらないとばかりにエルフ達を指差し、声を張り上げる。
「え、エレナ! こいつらは其方を間接的にとはいえ、殺そうとしたのだぞ?! わ、我は友人として、其方の代わりにこいつらを……」
「ドリアードさん。気持ちは凄く嬉しいけれど……っ、今はエルフさん達の助けも必要、だから……っ、私の為に怒ってくれてありがとう……っ、はぁ、」
「! す、すまん。今そういうことをしている場合じゃなかったな。其方が苦しんでいるのだ。……だが我はエルフ達がちゃんとエレナに謝るまで許さんからな!」
「……っ、」
エルフ達はドリアードの一睨みに何も言い返せなかった。そのまま黙って粘ついた白い液体を腕の断面に塗り始める。どうやら消毒をしているらしい。
エレナは疲労に耐えつつも、周囲で慌ただしく働く魔族達に密かに涙が出そうになった。彼らに認めてもらえたとは思ってはいない。しかしこの場所に立っていることを許されただけでも大きな進歩だろう。
──だが。
「……っ、はぁ、うっ……!」
今までの息苦しさに加えて、エレナの全身にこれまでとは比較にならない激痛が現れだした。まだ治癒魔法に慣れていない身体が悲鳴を上げているのだ。嬉し涙が痛みに耐える生理的な涙へと変わっていく。歯を必死に食いしばる。
(痛くて痛くて堪らない! 足が、震えて、もう……っ、)
エレナの身体がフラリと崩れる。ドリアードがエレナの名を叫んだ。しかしエレナの身体が地面に倒れる前に、何者かが彼女を支える。
「エレナ……、」
魔王の太い腕がエレナの背中に寄り添っていた。エレナの顔を覗きこむ彼は骸骨頭が故に無表情だ。しかしその目の赤い光がやけに激しく蠢いていることからおそらくエレナを心配しているのだろう。エレナはそんな魔王に強がり半分で口角を上げた。
「支えてくれてありがとう。もうしばらくそうしていて。もう一回、マモンに治癒魔法をかけなおすから」
「……我は、無理しようとする我が子を父親として止めるべきなのだろうか」
エレナは首を横に振り、再度マモンに両手の平を掲げる。そして腹の底から呪文を叫んだ。痛みと苦しみがエレナを再び襲う!
「止めないでよ、パパ! 私は……私は……、今は、無理しなきゃいけないと思うの……っ、! 大事な友達を失いたくないし、やっと魔族の皆が応援してくれているのだから応えたい! それにこれがパパの娘だどうだ見たかって胸を張って言えるようになりたい! ここで無理しなきゃいけない理由が私には沢山あるから……っ!」
「……、……分かった。そうしよう。ちゃんと見ている。一瞬たりとも、娘の勇姿を見逃すものか」
そんな魔王の言葉にエレナは奮い立つしかない。嬉しくて、嬉しくて堪らなかった。
……と、ここでだ。マモンに変化があった。それに一番に気づいたのはエレナだった。今まで引っかかっていた何かが解けたような爽快感と共に、エレナの魔力がさらに大量にマモンへ流れていく。ドリアードが目を丸くした。
「え、エレナ! ま、ままマモンの魔力回路が今、完全に修復されたぞ! これで今までよりも魔力の通りがよくなるだろう! もうすぐだ! ほら、見てみろ!」
ドリアードの言葉通り、破壊されたマモンの腕が、ほんの少しずつではあるが再生し始めた。断面から徐々に肉が生み出されて、“腕”を形成していく。目を凝らさなければ分からないようなスピードだが、確かに進んでいる。魔族達が興奮して歓喜の声を上げた。そしてエレナに精一杯の声援を送る。
エレナはそこでその声に応えるように──さらに、無理を重ねることにした。
「──癒せ!!!!」
魔法の追加詠唱だ。エレナの身体の負荷が倍になる代わりに、治癒の速さも増していく。
(これが、ラストスパート──!)
エレナは両手足に魂を籠めた。もう二度とふらつかないぞと、もう二度と背後の魔王に情けないところは見せるもんか、と。
そこから、さらに時間が経つ。真っ暗闇だったテネブリスに光が差し始める。
そして──。
「…………っ、あ……っ」
エレナの意識が完全に沈み、身体は魔王の腕の中へ。魔族達が一瞬静まり変えった。しかし、次の瞬間──!!
「──やりやがったぞあいつ!! マモンの腕が!! 腕があるぞぉおおおお!!」
その場に居合わせた者達が互いを抱きしめ、踊る。その中心にいるマモンの右腕が、昨日何もなかったかのように綺麗に再生されていたのだ。魔王は今の感情を言葉にできないまま、腕の中のエレナを見つめた。
「……エレナ、よくやったな」
「……、」
エレナからの返事はない。しかし意識を失ってなお、エレナは微笑む。
約十時間、苦痛と戦った彼女の誇らしげな顔が朝焼けの強い日光に照らされた──。
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