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39.魔導士の少女
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意を決して、僕はサイラス組長の瞳を見つめる。
「僕達は「黒鴉」を潰すつもりはありません。できれば今後、協力関係になりたいと考えています」
「ほう……王宮と「黒鴉」が……どういう風の吹き回しだ?」
「先日、僕達は「蜘蛛」の存在を知りました。悪の限りを尽くす「蜘蛛」に王国を荒されるのは許せません。だからといって王国の暗部については王宮の手は届かない。だから「蜘蛛」と対立している「黒鴉」と協力関係になりたいんです。これは僕の個人的な思いですけど」
「王国から「蜘蛛」を追い出したいから、「黒鴉」に王国の暗部を切り盛りしてほしいってことか。結果的に王宮の犬になれと言われるようにも聞こえるがな」
「それは違います。カーネルさんから「黒鴉」について少し聞きました。「黒鴉」は庶民から金を巻き上げるような金持ちや貴族しか狙わないって。だから協力関係になりたいんです。しかし人身売買や薬物売買などの誤った方向へ勢力を伸ばすなら、その時はもちろん、王宮は「黒鴉」を取り締まります」
「なるほど、姉も弟も似た者揃いということか。わかった、王宮とは手を組まないが、お前達二人とは協力関係になってやろう。奴に会わせてやる、一緒に来い」
そう言ってサイラス組長は立ち上がって、部屋を出て行った。
僕とエミリア姉上は顔を見合わせて喜び、慌ててサイラス組長の後を追った。
サイラス組長が柱にある取っ手をおろすと、ギギギという音がして壁が移動し、下へと通じる階段が姿を現した。
サイラス組長に続いて僕達二人も階段をおりる。
カーネルさんとオーランは追いかけてこないので、たぶん部屋で休んでいるのだろう。
地下の長い廊下を歩いて、奥の扉を開けて中に入ると、黒髪を後ろで一つに束ねた少女が座っていた。
バサバサの黒髪の人と聞いていたから、もっと研究員って感じの陰キャな男性をイメージしていたんだけど……少女だったのか。
サイラス組長が黒髪の少女に声をかける。
「出ろ。お前を引き取りたいって奴等が来た」
「エルファスト魔法王国ですか?」
「違う。クリトニア王国の王宮だ。城の中なら暗殺者に狙われることも少ない。さっさと行け」
「イヤです。サイラス様の元を離れたくありません」
黒髪の少女は頬を紅潮させ、潤んだ瞳でサイラス組長を見る。
ああ……この表情は、もしかすると組長に惚れちゃってるのかも……
サイラス組長は目つきは悪いけど相当なイケメンだし、それに危険な香りがするところもカッコいいからな。
黒髪の少女が惚れるのもわかるような気がする。
そんな少女の気持ちを気にすることなく、サイラス組長はその少女の黒髪を引っ張る。
「迎えがきたんだから、さっさと出ろ」
「イタイ、イタイ! そんなに乱暴にされると癖になりますー!」
サイラス組長は少女を部屋から引きずり出すと、強引に脇に抱えて廊下を歩き出した。
そして部屋に着くと無造作に少女を畳に放り投げた。
畳に転がった少女は、ウットリした表情を浮かべている。
「……そんな激しいところも好き」
その様子を呆然と見ていると、エミリア姉上が少女に近づいて肩に手を置いた。
「あなたがエルファスト魔法王国の魔導士なの? もしそうだったら、あなたを迎えに来たの。私はクリトニア王国の王宮の者よ。あなたを保護するわ」
「イヤです。どうせクリトニア王国でも閉じ込められて、魔法陣の研究ばかりさせられるんです。そんな生活なんてイヤです。私は街で買い物もしたいし、色々な街へも旅に行きたいし、それに激しい恋がしたいの」
少女は目をカッと見開き、両拳を握りしめて断言した。
それにエミリア姉上がウンウンと賛同して頷く。
「わかるわー。やっぱり年頃の女性にとって恋は欠かせないわよね。恋のない人生なんて、スパイスも調味料もない料理と一緒だわ」
「わかってくれるんですね。だから私はサイラス組長と離れたくないんです」
「わかったわ。私もイアンの側から離れたくないもの」
女子二人はなんだか意気投合して、両手で強く握り合っている。
そしてエミリア姉上は僕の隣へ戻ってきた。
「彼女の意志は硬いわ。説得は不可能ね」
さっきから二人の話を聞いていたけど、微塵にも説得した部分はなかったよね!
畳の上にドカリと胡坐をかいたサイラス組長が、少女を指差す。
「こいつ等と一緒に王宮に行かねーなら、お前とは二度と会わねーぞ」
「謹んで、ご一緒させていただきますー!」
今までの態度を豹変させて、少女は姿勢を正して、頭を畳にこすり付けてた。
組長の一言で、こんなに態度が変わるなんて、恋する女の子のパワーってすごいな!
「僕達は「黒鴉」を潰すつもりはありません。できれば今後、協力関係になりたいと考えています」
「ほう……王宮と「黒鴉」が……どういう風の吹き回しだ?」
「先日、僕達は「蜘蛛」の存在を知りました。悪の限りを尽くす「蜘蛛」に王国を荒されるのは許せません。だからといって王国の暗部については王宮の手は届かない。だから「蜘蛛」と対立している「黒鴉」と協力関係になりたいんです。これは僕の個人的な思いですけど」
「王国から「蜘蛛」を追い出したいから、「黒鴉」に王国の暗部を切り盛りしてほしいってことか。結果的に王宮の犬になれと言われるようにも聞こえるがな」
「それは違います。カーネルさんから「黒鴉」について少し聞きました。「黒鴉」は庶民から金を巻き上げるような金持ちや貴族しか狙わないって。だから協力関係になりたいんです。しかし人身売買や薬物売買などの誤った方向へ勢力を伸ばすなら、その時はもちろん、王宮は「黒鴉」を取り締まります」
「なるほど、姉も弟も似た者揃いということか。わかった、王宮とは手を組まないが、お前達二人とは協力関係になってやろう。奴に会わせてやる、一緒に来い」
そう言ってサイラス組長は立ち上がって、部屋を出て行った。
僕とエミリア姉上は顔を見合わせて喜び、慌ててサイラス組長の後を追った。
サイラス組長が柱にある取っ手をおろすと、ギギギという音がして壁が移動し、下へと通じる階段が姿を現した。
サイラス組長に続いて僕達二人も階段をおりる。
カーネルさんとオーランは追いかけてこないので、たぶん部屋で休んでいるのだろう。
地下の長い廊下を歩いて、奥の扉を開けて中に入ると、黒髪を後ろで一つに束ねた少女が座っていた。
バサバサの黒髪の人と聞いていたから、もっと研究員って感じの陰キャな男性をイメージしていたんだけど……少女だったのか。
サイラス組長が黒髪の少女に声をかける。
「出ろ。お前を引き取りたいって奴等が来た」
「エルファスト魔法王国ですか?」
「違う。クリトニア王国の王宮だ。城の中なら暗殺者に狙われることも少ない。さっさと行け」
「イヤです。サイラス様の元を離れたくありません」
黒髪の少女は頬を紅潮させ、潤んだ瞳でサイラス組長を見る。
ああ……この表情は、もしかすると組長に惚れちゃってるのかも……
サイラス組長は目つきは悪いけど相当なイケメンだし、それに危険な香りがするところもカッコいいからな。
黒髪の少女が惚れるのもわかるような気がする。
そんな少女の気持ちを気にすることなく、サイラス組長はその少女の黒髪を引っ張る。
「迎えがきたんだから、さっさと出ろ」
「イタイ、イタイ! そんなに乱暴にされると癖になりますー!」
サイラス組長は少女を部屋から引きずり出すと、強引に脇に抱えて廊下を歩き出した。
そして部屋に着くと無造作に少女を畳に放り投げた。
畳に転がった少女は、ウットリした表情を浮かべている。
「……そんな激しいところも好き」
その様子を呆然と見ていると、エミリア姉上が少女に近づいて肩に手を置いた。
「あなたがエルファスト魔法王国の魔導士なの? もしそうだったら、あなたを迎えに来たの。私はクリトニア王国の王宮の者よ。あなたを保護するわ」
「イヤです。どうせクリトニア王国でも閉じ込められて、魔法陣の研究ばかりさせられるんです。そんな生活なんてイヤです。私は街で買い物もしたいし、色々な街へも旅に行きたいし、それに激しい恋がしたいの」
少女は目をカッと見開き、両拳を握りしめて断言した。
それにエミリア姉上がウンウンと賛同して頷く。
「わかるわー。やっぱり年頃の女性にとって恋は欠かせないわよね。恋のない人生なんて、スパイスも調味料もない料理と一緒だわ」
「わかってくれるんですね。だから私はサイラス組長と離れたくないんです」
「わかったわ。私もイアンの側から離れたくないもの」
女子二人はなんだか意気投合して、両手で強く握り合っている。
そしてエミリア姉上は僕の隣へ戻ってきた。
「彼女の意志は硬いわ。説得は不可能ね」
さっきから二人の話を聞いていたけど、微塵にも説得した部分はなかったよね!
畳の上にドカリと胡坐をかいたサイラス組長が、少女を指差す。
「こいつ等と一緒に王宮に行かねーなら、お前とは二度と会わねーぞ」
「謹んで、ご一緒させていただきますー!」
今までの態度を豹変させて、少女は姿勢を正して、頭を畳にこすり付けてた。
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