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36.漏れてきた情報
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近衛兵達がメルセルク伯爵の別邸から持ち帰った、人身売買に関する証拠品から、子供や少女を買った者達のリストが作られ、警備兵団、近衛騎士団、王宮騎士団の手によって、全ての顧客達が逮捕された。
その中には商会の会長や、王宮で務める法衣貴族、その下で働く上位文官、はたまた地方に領地を持つ地方貴族、その下で街を管理している代官まで、王国内の上流といわれる者達が多数いた。
それらが一斉に検挙されて捕まったのだから、王国内は大騒ぎとなり、庶民達の間で様々な噂が飛び交った。
しかし、この一件で「蜘蛛」の組織についての手がかりを失った。
王都に蔓延っていた闇市、人身売買の仕組みを潰せたのだから、結果的には良かったのだけど。
僕とエミリア姉上はローランド兄上から、自室で一週間の謹慎を申し渡された。
それから一週間後、アデル兄上がクライス達と共に、『プリミチブの樹海』から戻ってきた。
今回もリアムとルーネが護衛として荷を運んできてくれた。
近衛兵から報告を受けた僕は、城の広場へアデル兄上達を出迎えに行く。
すると旅に同行した全員の鎧や装備がボロボロになっていた。
どうやら新しい瘴気の沼を発見するのに、相当な苦労をしたようだね。
リアムとルーネはアデル兄上から礼金を受け取ると、王都で遊ぶと言って城から去っていった。
アデル兄上に捉まった僕は、『プリミチブの樹海』の中で、新しい瘴気の沼を発見するまでの一部始終を聞かされることに。
身振り手振りを加えて、どのように魔獣と対決したかを話しする、アデル兄上の顏はすごく嬉しそうだった。
そして次の日、自室の扉が開き、アデル兄上がニヤニヤと微笑みながら部屋に入ってきた。
「今、ローランド兄上から聞いてきたんだが、俺が城にいない間、イアンとエミリア姉上は面白いことをしていたらしいじゃないか。俺にも詳しく聞かせろよ」
「別に終わったことだからいいでしょ」
僕がそう言うと、アデル兄上はズカズカと近寄ってきて、僕の頭の両側に拳を当てて、すごい力でグリグリと動かす。
「イタイ! イタイ! イタイからやめてー」
「言え! 言えば許してやる!」
アデル兄上のグリグリ攻撃が痛すぎて、僕は「蜘蛛」の組織について、今までにあったことを全て白状した。
話しを聞き終えたアデル兄上は、目をキラキラさせて、片手の拳をギュッと握る。
「実体の掴めない「蜘蛛」の組織か。めちゃくちゃ面白そうだな。イアンとエミリア姉上は、ローランド兄上とシルベルク宰相の監視があるからジッとしてろ。俺が王宮騎士団を使って、その組織を探し出してやるよ」
「ちょっと待って!」
僕が止めるのも聞かず、アデル兄上は部屋を飛び出していった。
あの脳筋め、王宮騎士団を動かすつもりだよ。
まあ、前回と違って他国と争いになる危険性もないし、王国内のことであれば問題ないかな……
そう思い直した僕は、アデル兄上を放置しておくことにした。
それから一週間ほど経った頃、玉座の間へ呼び出された。
部屋の中へ入ると、ローランド兄上とシルベルク宰相が席に座っていた
ローランド兄上の対面にある席に座って首を傾げる。
「どうしたの?」
「我が王宮が秘密裡に諜報員を他国へ放っているのは知っているね」
「はい。他国からも王国内に多くの諜報員を潜ませていますよね」
この世界でも、他国の情報というのは大変に重要だ。
どの国が、どんな武器を作ったか、どの国がどんな道具を発明したか、些細なことで国の天秤は傾きを変えてしまう。
いち早く情報を掴んで、その状況について対策を立てるのは国として当たり前のことだ。
だから、どの国でも公にしない諜報員を抱えている。
僕が理解していると判断したのか、シルベルク宰相が口を開いた。
「エルファスト魔法王国に忍ばせた諜報員から緊急の知らせがあった。魔法王国の研究所から魔導士の一人が脱走したそうだ。そして国境を超えて我が王国に逃げ込んできているらしい」
魔導士というのは魔法士の上級職で、魔法陣の解析や考案することができる魔法士のことを差す。
エルファスト魔法王国は魔法士の育成に力を入れていて、魔導士になった者は全て魔法研究所に配属されていた。
魔法研究所は魔法王国の機密機関で、魔法陣などの情報が他国に漏れないように厳重に管理されている。
つまり、魔導研究所に入った魔導士は、簡単に外へ出歩いたりできないというわけだ。
その魔導士が魔法王国から逃亡し、王国内にいるということは、もし魔導士を保護して仲よくなれたら、王国内でも魔法陣を開発することができるかも。
これは千載一遇のチャンスだよね。
しかし、ちょっと疑問が残る。
「でも、どうして僕に相談するの?」
「王都の警備兵団を使えば、我々が魔導士を探していることが魔法王国に伝わりますな。城の近衛兵団、王宮騎士団を動かしても、また然り。そうなると魔法王国も黙っていないでしょう」
「表向きの行動ができないことはわかったけど、それならアデル兄上でもできるでしょ」
「アデルは今、「蜘蛛」の情報を掴むと言って、王宮騎士団と一緒に騒いでいる。ホントにアデルに魔導士の探索ができると思うか?」
脳筋で単細胞なアデル兄上なら、必ず騒ぎを起こしそう。
ローランド兄上は首を左右に振った後に、話を続けた。
「イアンが「蜘蛛」の組織の情報を追っていた時、街の中にイアンに協力する者達がいたと情報を受けている。その者達と一緒に魔導士の行方を探してほしい」
なるほどローランド兄上の意図が読めたぞ。
確かにカーネルさんであれば情報通だから、魔導士について何らかの情報を掴んでいるかもしれない。
またカーネルさんやオーランと会えると思うと、なんだか嬉しいな。
その中には商会の会長や、王宮で務める法衣貴族、その下で働く上位文官、はたまた地方に領地を持つ地方貴族、その下で街を管理している代官まで、王国内の上流といわれる者達が多数いた。
それらが一斉に検挙されて捕まったのだから、王国内は大騒ぎとなり、庶民達の間で様々な噂が飛び交った。
しかし、この一件で「蜘蛛」の組織についての手がかりを失った。
王都に蔓延っていた闇市、人身売買の仕組みを潰せたのだから、結果的には良かったのだけど。
僕とエミリア姉上はローランド兄上から、自室で一週間の謹慎を申し渡された。
それから一週間後、アデル兄上がクライス達と共に、『プリミチブの樹海』から戻ってきた。
今回もリアムとルーネが護衛として荷を運んできてくれた。
近衛兵から報告を受けた僕は、城の広場へアデル兄上達を出迎えに行く。
すると旅に同行した全員の鎧や装備がボロボロになっていた。
どうやら新しい瘴気の沼を発見するのに、相当な苦労をしたようだね。
リアムとルーネはアデル兄上から礼金を受け取ると、王都で遊ぶと言って城から去っていった。
アデル兄上に捉まった僕は、『プリミチブの樹海』の中で、新しい瘴気の沼を発見するまでの一部始終を聞かされることに。
身振り手振りを加えて、どのように魔獣と対決したかを話しする、アデル兄上の顏はすごく嬉しそうだった。
そして次の日、自室の扉が開き、アデル兄上がニヤニヤと微笑みながら部屋に入ってきた。
「今、ローランド兄上から聞いてきたんだが、俺が城にいない間、イアンとエミリア姉上は面白いことをしていたらしいじゃないか。俺にも詳しく聞かせろよ」
「別に終わったことだからいいでしょ」
僕がそう言うと、アデル兄上はズカズカと近寄ってきて、僕の頭の両側に拳を当てて、すごい力でグリグリと動かす。
「イタイ! イタイ! イタイからやめてー」
「言え! 言えば許してやる!」
アデル兄上のグリグリ攻撃が痛すぎて、僕は「蜘蛛」の組織について、今までにあったことを全て白状した。
話しを聞き終えたアデル兄上は、目をキラキラさせて、片手の拳をギュッと握る。
「実体の掴めない「蜘蛛」の組織か。めちゃくちゃ面白そうだな。イアンとエミリア姉上は、ローランド兄上とシルベルク宰相の監視があるからジッとしてろ。俺が王宮騎士団を使って、その組織を探し出してやるよ」
「ちょっと待って!」
僕が止めるのも聞かず、アデル兄上は部屋を飛び出していった。
あの脳筋め、王宮騎士団を動かすつもりだよ。
まあ、前回と違って他国と争いになる危険性もないし、王国内のことであれば問題ないかな……
そう思い直した僕は、アデル兄上を放置しておくことにした。
それから一週間ほど経った頃、玉座の間へ呼び出された。
部屋の中へ入ると、ローランド兄上とシルベルク宰相が席に座っていた
ローランド兄上の対面にある席に座って首を傾げる。
「どうしたの?」
「我が王宮が秘密裡に諜報員を他国へ放っているのは知っているね」
「はい。他国からも王国内に多くの諜報員を潜ませていますよね」
この世界でも、他国の情報というのは大変に重要だ。
どの国が、どんな武器を作ったか、どの国がどんな道具を発明したか、些細なことで国の天秤は傾きを変えてしまう。
いち早く情報を掴んで、その状況について対策を立てるのは国として当たり前のことだ。
だから、どの国でも公にしない諜報員を抱えている。
僕が理解していると判断したのか、シルベルク宰相が口を開いた。
「エルファスト魔法王国に忍ばせた諜報員から緊急の知らせがあった。魔法王国の研究所から魔導士の一人が脱走したそうだ。そして国境を超えて我が王国に逃げ込んできているらしい」
魔導士というのは魔法士の上級職で、魔法陣の解析や考案することができる魔法士のことを差す。
エルファスト魔法王国は魔法士の育成に力を入れていて、魔導士になった者は全て魔法研究所に配属されていた。
魔法研究所は魔法王国の機密機関で、魔法陣などの情報が他国に漏れないように厳重に管理されている。
つまり、魔導研究所に入った魔導士は、簡単に外へ出歩いたりできないというわけだ。
その魔導士が魔法王国から逃亡し、王国内にいるということは、もし魔導士を保護して仲よくなれたら、王国内でも魔法陣を開発することができるかも。
これは千載一遇のチャンスだよね。
しかし、ちょっと疑問が残る。
「でも、どうして僕に相談するの?」
「王都の警備兵団を使えば、我々が魔導士を探していることが魔法王国に伝わりますな。城の近衛兵団、王宮騎士団を動かしても、また然り。そうなると魔法王国も黙っていないでしょう」
「表向きの行動ができないことはわかったけど、それならアデル兄上でもできるでしょ」
「アデルは今、「蜘蛛」の情報を掴むと言って、王宮騎士団と一緒に騒いでいる。ホントにアデルに魔導士の探索ができると思うか?」
脳筋で単細胞なアデル兄上なら、必ず騒ぎを起こしそう。
ローランド兄上は首を左右に振った後に、話を続けた。
「イアンが「蜘蛛」の組織の情報を追っていた時、街の中にイアンに協力する者達がいたと情報を受けている。その者達と一緒に魔導士の行方を探してほしい」
なるほどローランド兄上の意図が読めたぞ。
確かにカーネルさんであれば情報通だから、魔導士について何らかの情報を掴んでいるかもしれない。
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