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34.メルセルク伯爵の別邸

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僕、エミリア姉上、オーランの三人は廃墟を出て、大通りを通り抜け、貴族地域にあるメルセルク伯爵の別邸を目指して駆け走った。

伯爵の別邸は高い壁に囲まれ、門には傭兵らしい者達が警護していた。

その者達をどうやって眠らせようかと思案していると、いきなりエミリア姉上を肩に背負い、オーランは何の躊躇もなく壁に向けて跳躍した。

突然のことに驚いた姉上が両手で口を押えて足をばたつかせている。
そして、そのまま二人は壁の向こうへ消えていった。

門を警備している者達が動かないのを確認して、僕も「暗殺者」のスキルを開放して跳躍する。

壁を超えて着地すると、エミリア姉上は黙ったまま、両拳を握りしめてオーランを睨んでいた。
それを気にする様子もなく、オーランは僕に指で合図を送ると、サササッと邸の裏手へと走っていく。

さすがは「殺し屋」だけあって、邸に忍び込む動作に淀みがない。

僕はエミリア姉上の背中にポンと手を置き、一緒にオーランの消えた方向へ走った。
邸の裏手へ回ると、勝手口の扉が開かれていて、既にオーランは中へ入ったようだ。

僕達二人は足音を立てないように、身を低くして慎重に廊下を歩いていく。
すると階段の手前で、オーランが片膝をついて僕達を待っていた。

「イアン達はここにいて。私は邸の者達を一掃する」

「オーラン、なるべく殺さないでほしい。もしかすると「蜘蛛」に繋がる情報を持っている者がいるかもしれないから」

「善処する」

オーランはコクリと頷くと、一瞬のうちに姿を消した。
オーランがどんな加護を持っているのか聞いたことはないけど、僕の「暗殺者」の加護に匹敵する加護を持っているのかもしれないな。

しばらく身を屈めて待っていると、オーランが二階から階段を下りてきた。

「メルセルク伯爵は自室にいたから、気絶させておいた」

「他の者達は?」

「誰の命も狩っていない」

どうやらオーランは僕のお願いを守ってくれたようだ。

僕とエミリア姉上が伯爵の元へ向かおうと階段をのぼりかけると、オーランは「地下を見てくる」と言って、また一瞬で姿を消した。

邸の中を先回りして、僕達の負担にならないように邪魔になる者達を排除してくれるようだ。

オーランは無口だけど優しいね。

二階へ行くと、廊下に傭兵風の男達が倒れていた。
どの顔も白目を剥いているけど、ただ気絶しているだけだよね。

開いてる扉から部屋の中を覗くと、使用人らしき女性が床に倒れている。

一つ一つの部屋を確かめながら廊下を進んでいき、廊下の一番奥の扉を開けると、天井にはシャンデリアが吊るされていて、床に赤い絨毯が敷かれた豪華な部屋だった。

そっと部屋の中へ入っていくと、巨大なベッドの上に肥満体型の髪が薄い男と、全裸の女子が倒れていた。

どうやら倒れている男の方がメルセルク伯爵のようだ。

女子のほうは、僕より年上、エミリア姉上よりも年下ぐらいかも。
深夜だから女子と情事に及ぼうとしていたんだろうな。

その姿を見た次の瞬間、強引に僕の両目を、エミリア姉上が手で塞ぐ。

「イアンは見ちゃダメ」

「目が見えないと探し物ができないよ」

「それでも見ちゃダメ」

「ベッドには目を向けないから」

僕の言葉を信じたのか、エミリア姉上は両目から手を放してくれた。
僕と姉上は手分けして、「蜘蛛」にまつわるモノはないか、部屋中をくまなく探す。

窓際に置かれている大きな机の引き出しも丁寧に調べる。

領地での不正な増税の証拠や、貴族や商会への資金の流れを示す証拠はあったけど、闇市や人身売買に関するモノはなかった。

机を調べ終えて顔を上げると、エミリア姉上が本棚を調べていた。
そして一冊に押し込んだ途端、ギギギという音を立てて本棚が横へ移動し、隠された部屋が現れた。

「イアン、隠し部屋があったわ」

驚いているエミリア姉上と一緒に部屋に入る。
そこには羊皮紙に書かれた書類が積まれていた。

その他にも金貨以上の貨幣の入った大きな木箱、豪華な装飾品、宝石などもたくさん隠されていた。

書類をとって内容を読むと、どこの誰が、どのような子供や少女を幾らで購入したか書かれていた。

僕は羊皮紙を握り、興奮してエミリア姉上を見る。

「これは人身売買に関する書類だ」

「やっぱりメルセルク伯爵が闇市の元締めだったのね」

エミリア姉上は厳しい表情をして目を細める。

僕達は他に証拠はないか隠し部屋をくまなく調査した。
そして外で出てくると、オーランが静かに佇んでいた。

「地下に子供、少女がいる」

やはりまだ、邸の中に子供や少女が囚われていたのか。

僕とエミリア姉上は顔を見合って頷き、オーランの案内で地下へと向かった。
階段を下りていくと、鉄の柵で仕切られた部屋が幾つもあった。

その柵の中に、裸の子供や少女達が暗い目をして座っている。
体中に傷がある子や、足首を切断されている子もいた。

闇市で売り物にするはずだった子供達や少女達のはずなのに、どうしてこんな酷い仕打ちができるんだろう。

オーランが短剣で柵の鍵を壊し、エミリア姉上は柵の中に入って、「聖女」の加護を開放して子供達を癒していく。

このまま子供や少女達を放置しておくこともできない。
僕は考えた末、近衛兵団長のリシリアに応援を頼むことに決めた。
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