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19.抽選くじ開催

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魔導車工場の建設が始まって一ヵ月、やっと工場が完成して稼働を始めた。

そして地方を回っていたアデル兄上とエミリア姉上も旅から戻ってきた。

二人の話では、地方貴族達はこぞって魔導車の購入したいと言い、魔導車二十台を持っていったが、すぐに売れてしまい、地方ではまだ魔導車を欲している貴族達が多くいるという。

エミリア姉上いわく、地方貴族の全員が魔導車に乗り換える可能性もあるらしい。

クリトニア王国には百を超える男爵以上の地方貴族がおり、その下に街を管理する代官を務める騎士爵、準男爵がいる。

その全員が魔導車に乗り換えるとなると、それなりの数になるだろう。

顧客が確保できるのはいいことだけど、見栄の張り合いの道具にされるのは考えものだよね。

それから二週間が経ち、工場では車体番号が振られた魔導車五十台が完成した。
後の二週間で五十台の完成品が増える予定だ。

そのことを受けて、王城では公開抽選会が実施されることとなった。
地方貴族達にも平等に情報が伝わるように、王城から伝令が各地方へと走った。

そして抽選会当日、王城の王広間には王国内から集まった貴族達、または貴族の使者達が厳めしい表情で席に並ぶ。

法衣貴族は王都内に邸があり、有力な地方貴族も王都に別邸を持っている。
しかし、王都に邸を持っていない地方貴族や、その使者達は宿に泊ってまで抽選会に参加しているという。

なんだか思っていたより、大事になちゃったな。

広間の前方にある演壇の上には抽選クジの入った箱が置かれ、シルベルク宰相は真剣な表情で、貴族達に視線を送っている。

「では、これより魔導車購入抽選会を始める。クジの数は人数分用意しているが、完成した魔導車については百台しかない。車体番号と抽選番号が一致した者が今回の購入者となる。その他の者達は、抽選番号と一致する車体番号の魔導車が完成した時点での受け渡しとなる。ではエミリア殿下、壇上にお越しください」

名前を呼ばれたエミリア姉上、その後ろに続いてアデル兄上、僕が壇上にあがる。

どうして僕達も参加しているかというと、抽選会があることを説明した際に、二人から参加したいと言われたからだ。

お祭り好きの二人が知ったら、黙っていないとは思っていたけど予想通りになった。

エミリア姉上は演壇の前に立ち、貴族一人一人の名前を呼ぶ。
僕には無理だけど、エミリア姉上は王国内の貴族の名前を覚えているのだ。

名前を呼ばれた貴族、またはその使者は、椅子から立ち上がり演壇の上から抽選くじを引いていく。

その抽選くじの番号と貴族の名前を文官の一人が羊皮紙に書き留め、もう一人の文官が事前に用意していた魔導車百台の車体番号と照らし合わせて、今回の購入者かどうかを確かめる。

そして、その結果をアデル兄上に伝え、アデル兄上は抽選結果を大声で発表していった。

その抽選結果で魔導車を手に入れた貴族は嬉々とした表情をし、手に入らなかった貴族達は不満な表情をして席に戻っていった。

小休憩を挟みながら抽選会は約三時間で終了となった。

最後にシルベルク宰相が演壇に立ち、貴族達への挨拶を行う。

「今回の抽選にて魔導車を手に入れられた者、手に入らなかった者、それぞれの結果となったが、これも全て時の運である。くれぐれも王宮または王家に不満を持つことのないように。それと補足ではあるが、これより二週間後から作られる魔導車については、王都の大商会に納品する予定である。もし一刻も早く魔導車を手に入れたいのであれば、大商会に赴かれて商談するのがよいであろう。では、これで抽選会を終了する」

シルベルク宰相の言葉を聞いた、抽選に外れた貴族達は、必死の形相で大広間から走り去っていった。

あの調子なら、大商会も対応に困るかもしれないけど、そこは見なかったことにしよう。

抽選会が終わって以降も、抽選会に参加できなかった貴族の使者が王城に訪れ、魔導車を売ってくれるようにと嘆願が多く寄せられたが、その全てに大商会から購入するようにシルベルク宰相は言い渡したそうだ。

魔導車の工場が稼働し始めて三か月ほど、やっと貴族達の熱も収まってきたようだ。

大商会達からの報告では、王国内の中堅どころの商会や、金を持っている商人達が、魔導車の購入を検討しているようで、まだまだ需要は伸びそうだけど。

それに魔導車に積まれている魔池(瘴気の水に魔石を沈めた電池)は、走行距離で差異はあるけど、計算上では一年に一回の交換が必要である。

魔導車の購入率が下がっても、魔池の交換により利益は発生するし、魔導車が故障すれば、修理代金や部品交換で利益が生まれるわけだ。

さて、貴族達が購入してくれたおかげで、随分と利益金が貯まったね。

僕は魔導車の売上報告書を持って、玉座の間にいるローランド兄上の元へ向かう。
部屋に入ると、ローランド兄上はシルベルク宰相と話し合いの最中だった。

「イアンか。いきなりどうした?」

「ちょっと相談したいことがあって、この書類を見てください」

僕の言葉に不思議そうに首を傾げるローランド兄上へ歩み寄り、持っている報告書を突き付けた。

そう……これが魔導車のアイデアを思いついた時から、僕が温めていた提案だ。
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