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17.三大商会との商談

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ローランド兄上と話して二日後、魔導車についてのエルファスト魔法王国との交渉は打ち切られた。
そして二日後、王宮にクリトニア王国内にある王宮御用達の三大商会の会長が呼び出された。

大商会との交渉についてはシルベルク宰相が直々に対応するという。
僕は後学のためとして、交渉の場を見学することを許された。

交渉の場は王宮騎士団の訓練所を使って行われた。
王宮騎士団の兵士が運転する魔導車を見て、大商会の会長達は目を見開いて驚いていた。
その中の一人、カッセル商会のカッセル会長が興奮の声をあげる。

「これはスゴイぞ! 馬車の何倍も早く走れるなんて、これで遠方からの荷も早く運べることができる」

「この魔導車の荷馬車があれば、もっと大量の荷を運べますな」

カッセル会長の隣にいたメルトン商会のメルトン会長も、両手を握って大きな声をだす。

ふふふ……さすが大商会の会長さんだね。良いところに目がつくね。
既に魔導荷馬車と、魔導車につなげる連結荷馬車は完成させてある。
もっともっと気に入って、魔導車をたくさん購入してね。

一通り魔導車の運転を見終わった大商会の三名は、僕とシルベルク宰相と共に訓練所から王宮の会議室へと場所を移した。
三人を目の前にして、シルベルク宰相は一つ咳払いをする。

「では魔導車についての商談に入る。魔導車の王宮からの卸し金額は光金貨一枚だ。それを各商会にて光金貨一枚、白金貨一枚として販売してもらいたい。白金貨一枚が商会の取り分ということになる」

「ちょっと待っていただけませんかな。商品を売るには、人件費、店舗費など様々な経費がかかってきます。経費の額はそれぞれの商会よっても違います。なので魔導車一台あたりの利益まで契約に盛り込まれると、商会としての動きが取れません。魔導車の販売価格については、商会のほうで決めさせていただきたい」

シルベルク宰相の言葉に反応したのは、ランクル商会のランクル会長。
ランクル商会はクリトニア王国の王都を中心に商売を展開している商会で、ランクル会長は強欲として知られている人物だ。

光金貨一枚は一千万円ほどで、白金貨一枚は約百万円。
一千万円の商品を売って百万円の利益なら商会の取り分として十分だと思うけど、ランクル会長は納得できないらしい。

するとランクル会長の隣に座っていたメルトン会長が追随する。

「左様。我が商会は王都だけでなく、王国内や他国へも店舗展開しております。場所によって売値を変えるのは商人の常。それを一律にされては、私共も状況に応じた対応が取れません。どうか、その点を踏まえてご配慮のほどを」

メルトン会長を長とするメルトン商会は、バルドハイン帝国に太いパイプを持っている。
たぶん魔導車をバルドハイン帝国内で売るつもりなのだろう。

カッセル商会のカッセル会長は黙って皆の話を聞いていた。

シルベルク宰相は三人を見回し、大きく頷く。

「二人の言い分はわかった。それではこうしよう。王宮からの利益提案はあくまで白金貨一枚。しかし商売の方法によって、幾ら経費がかかるかわからん。その部分においては商会独自の判断で価格の上乗せをしてもよいと契約書に盛り込もう」

その言葉にランクル会長、メルトン会長、カッセル会長の三人は深く頷く。
僕はその三人の表情を見て、ほくそ笑む。

僕とシルベルク宰相は商会の会長達と交渉する前日、二人で話し合いを行っていた。
その中で会長達が、利益について不満を漏らすことは予想していたのだ。

王宮側としては、魔導車を卸したことで入ってくる利益が重要なわけで、魔導車の販売価格についてはさほど問題ではない。

ただ、商会が勝手に売値をつけたとあっては、王宮が何も指導していないことになる。
もし、商会が魔導車の値段を吊り上げ、そのことが問題視された時、契約書に値段を抑制した旨の記載があれば、王宮の責任とはならない。

たぶん商会はバルドハイン帝国やエルファスト魔法王国にも魔導車を売るだろう。
そのことで他国から文句を言われた時、王宮は商会を抑制したということができる。
あくまで保険だけどね。

シルベルク宰相と三人の商会長との間で契約書が取り交わされ、会議での交渉は終わった。
そしてランクル会長とメルトン会長の二人は足早に部屋を出ていった。

しかし、カッセル会長はまだ席に座っている。

不思議に思っていると、カッセル会長が椅子から立ち上がり厳しい表情をする。

「魔導車は画期的商品だが値段が高い。多くの商人達は高価すぎて手を出せない。その点はどうされるのか?」

魔導車値段、光金貨一枚。
これは貴族達が購入することを想定しての値段だ。
ギリギリ手の届かない値段ではないが、高価な商品ではある。

カッセル会長の問いに、シルベルク宰相は難しい表情で、僕に視線を送ってくる。

僕は片手をヒラヒラと振った。

「魔導車は貴族や商会の間では人気商品になるだろうね。でも小さな規模の商会や商人や一般庶民には広まらないだろうね。王宮としては、そこは問題視していないんだ」

「と申しますと?」

「魔導車が王国内で人気になり、ある程度の金持ち達が馬車から魔導車に乗り換えるだろ。すると馬車は売れなくなり、今まで高値だった馬車の値段も手頃な金額になるよね。そうなれば、これまで馬車を持てなかった商人達も手が届くだろう。僕は馬車を作る業者を倒産させたくないんだ」

「なるほど、それならば個人の商人達にも恩恵は届きますね」

カッセル会長は得心したように微笑み、丁寧に頭を下げると会議室から去って行った。

カッセル商会は個人で商売を営む者達を多く傘下に抱えている。
その者達にとって、魔導車は高価で手が出ないことを思い悩んだのだろうな。

大商会の中にも良い商人がいるんだね。 
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