トルサニサ

夏笆(なつは)

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16、語らい

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「サヤ。付き合ってくれて、ありがとう」 

「ううん。まあ、当然というか」 

 自分が不用意に言った<運命>という言葉が、珍しくもナジェルを不機嫌にさせてしまった自覚のあるサヤは、口元をやや引き攣らせてそう答えた。 

「早速だが、行きたい場所がある」 

「行きたい場所?」 

 今日の訓練をすべて終えた訓練棟で、次々帰って行く仲間を見送ったサヤとナジェルは今、ふたりきりとなった廊下で向かい合って話をしている。 

 サヤとしては、当然あの<運命>発言について、問い詰められる、もしくは関与しないでほしいとはっきり告げられるものと思っていたのだが、何だか風向きが違うと首を捻った。 

「ああ。サヤは、この場所を知っているか?」 

 そんなサヤの内心の疑問に気付かない風で、ナジェルはそう言うと、とある映像をサヤの脳裏へと送り込む。 

 

 あ、ここってあの。 

 私が、自殺希望者さんと間違えて、犯罪者になりかけた所じゃない。 

 

「知っているわ。シンクタンクよりにある、海岸の岩場でしょう?」 

 あの時は危なかった、そして恥ずかしかったけど、星空はきれいだったし、妙に心地が良かった、と思い出すサヤに、ナジェルが頷きを返した。 

「なら、跳べるな?」 

 知っている場所なら容易いだろうと言うナジェルに、サヤはもちろんと頷く。 

「ええ。問題ないわ」 

 答えつつ、その場所を探知し、サヤは今すぐにも跳べる準備を終えた。 

「では、行くぞ」 

「りょうか・・・って、相変わらず早い」 

 微笑み言った、と思った時には既にナジェルの姿は消えていて、サヤは苦笑してしまう。 

「ちょっとは待っていてよ、って。私が行かなかったら、どうするつもりなのかな・・って、そんな心配、微塵もしていないか」 

 ナジェルは、能力が高いがゆえに瞬間移動の発動もスムースで、軌道にブレも無い。 

 そして更に、後に続くサヤのために残してくれた先導の軌跡を見つけて、サヤはその細かな心遣いに感動した。 

「本当に凄い。見目もいいし、優秀だし・・・ああ、やっぱりナジェルの運命の相手が気になる」 

 今、正に釘を刺されに行こうというのに懲りないサヤは、なるべく踏み込み過ぎないようにしよう、と一応の覚悟を決めて、くだんの岩場へと跳んだ。 

「・・・ナジェル?何をしているの?」 

 仁王立ちで待ち構えられていても驚かない、 

 そんな決意で移動したサヤは、そこで何かを覗き込んでいるナジェルの姿を認め、気が抜ける思いを味会う。 

「ああ・・サヤ。来たか。ちょっと、これを見てくれ」 

 長身を折り畳むようにして何かを見つめているナジェルが、体勢はそのまま、サヤへと声をかけた。 

「え?そこに、何かあるの?」 

「ああ。サヤに見せたいものがある」 

「私に、見せたいもの?」 

 こんな岩場に何が、と首を捻りながら歩いたサヤは、ナジェルが覗き込むそれを見て、歓喜の声をあげる。 

「わあ!すっごく可愛い!」 

 即座にナジェルの隣に座り込んだサヤが一心に見つめる先にあるのは、濃い藍色の可憐な花。 

「こんな岩場に、花が咲くのね」 

 潮風に晒され、土も碌に無いような、植物にとっては過酷と言ってもいい場所で、それでも花を咲かせる。 

 そんな植物にそっと触れれば、逞しい命に触れたような気がした。 

「私も、こんな風にありたい」 

 異能だから何だ、くらい言えるような自分への自信が欲しいと、サヤは切実に思う。 

 高い能力値を誇るがゆえに問題を起こすレミアが、それが自分だと受け入れているように、アクティスに異能だと言われても、だからどうしたと言い返せるくらいの気概が欲しい。 

「僕も、この花のように強くありたいと思う。だがな、サヤ。疲れた時には、休んでもいいと思ってもいる」 

「ナジェル?」 

 可愛い藍色の花を見つめる、ナジェルの優しい藍色の瞳。 

「他者の悩みや苦しみを、同じように感じることは出来ない。ましてや、分かるなど言えるはずもない。それでも、休む場所にはなれる、いや、なりたい」 

 花を揺らす穏やかな風が、サヤの頬を優しく撫でる。 

「悩むなとは言わない。だが、ひとりで自分を追い詰めるな。それを、伝えたかった」 

 心に沁み入るようなナジェルの穏やかな声に、サヤは呼吸を思い出したような心地を覚えた。 

「ありがとう」 

 自ら異能ではと恐怖する現状を、受け入れるには時間がかかるだろう。 

 それでも、前向きに考えられるようにしたい。 

 そんな思いを込めて言ったサヤに、しかしナジェルは口元をゆがめて首を横に振った。 

「これは、僕の自己満足に過ぎない」 

「そんなことないわ。だって私、呼吸が楽になったもの」 

 そう言ってサヤは、無理のない明るい笑みを浮かべた。 

「私ね。私こそは、自分が異能なんじゃないか、って思っているの。小さな頃から、ひとの能力がつぶさに判ったし、感覚が鋭利になった時には、相手の行動の先が感じ取れるから」 

「ん?それは、君が有能だからだろう?それだけ、能力が高いということだ」 

「でも、ナジェルも驚いたでしょう?私が、ブロックを崩して聞いちゃったから」 

 あの訓練の時、アクティスだけでなくナジェルも驚いていた、とサヤは記憶を辿る。 

「確かに驚いた。僕は、あのブロックを破られたことが無かったからな。いや、凄いと思った」 

「ナジェルとアクティスのブロックを崩すなんて。私、誇れちゃうってことかな」 

 異能だと思えば、怖い。 

 しかし、何が怖いと突き詰めれば、それは異能と人から言われ恐怖されて距離を置かれること。 

「その通りだな。僕とアクティスが何と言われているか、知っているか?双璧だぞ?おまけに、決して崩れることのない牙城だそうだ。サヤは、それを崩せる存在ということだな」 

「光栄だわ」 

 冗談のように言い合いながら、サヤは言葉にすればするほど、自分の能力は然程忌避するものではないのかもしれないと感じる。 

「でも、気持ち悪いとは思わない?私、人の能力残量とか得意な物まで判るのよ?」 

「気持ち悪いか?僕も、相手の能力の高低くらいなら判るし、意識せず誰かの思念が聞こえてしまうこともある。それに、相手が攪乱するよう、意識して用いることもある」 

「相手を、攪乱?」 

 まるで戦術、と息を呑んだサヤに、ナジェルが苦笑した。 

「僕たちは、軍人になるのだが?」 

「そ、そうだけど。そうか、戦術に」 

「それでみると、能力は高ければ高いほど有利だ。相手の上を行けるのだからな」 

 言いつつ、ナジェルは自分が実際に意識して能力を用いる相手、アクティスを思い浮かべる。 

「なるほど。ねえ、ナジェル。すごく実感籠っているけど、もしかしてその具体的な相手ってアクティス?」 

「大正解だ。僕とアクティスは、いつも思念で情報を混乱させあって、狐と狸の化かし合いのようなことをしている」 

「狐と狸」 

 この場合、どちらが狐でどちらが狸だろう、どちらも見た目はしゅっとして狐っぽいけれど、などとサヤは呑気な想像をした。 

「だからな、サヤ。何も怖がることなどない。能力の高さは、強みでしかないのだから」 

「うん。ありがとう、ナジェル」 

 気持ちが軽くなった、と心から感謝したサヤは、はたと動きを止める。 

「どうかしたか?」 

「ええと、ナジェル。話ってそれだけ?」 

 『出歯亀事件への苦情というか、介入禁止の言葉は?』と思うサヤに、ナジェルが挙動不審になった。 

「そ、それだけとは?」 

「うん。この間、私がうっかり言った言葉で、ナジェルを怒らせてしまったでしょう?気になってはいたの」 

 こうなったら、自分から切り込んで謝罪してしまおう、でも首を突っ込むというか、経緯は知りたいと思いつつ、サヤは言葉を紡ぐ。 

「怒ってなどいない。ただ、動揺して・・すまない。急に転移してしまって、嫌な思いをさせたな」 

「怒っていない?本当に?」 

 信じてもいいか、とサヤがナジェルの目を覗き込めば、何となく体を逸らしながらも頷きが返り、サヤは安堵の笑みをこぼした。 

「よかった。でも、迂闊なことを言ってごめんなさい。これからは、気を付けるわね」 

「ああ、まあ。然程、気にしなくていい」 

「ありがと」 

 

 ふふ。 

 ナジェルってば、運命の相手を想っているのかな。 

 視線が動き回って、何か可愛い。 

 

 落ち着きあるナジェルでも、運命の相手を想うとこんな風になるのか、とサヤは赤くなったナジェルの耳から目を離せずにいた。 

 
~・~・~・~・~・~・
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