溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)

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三十九、御白州 2 ~自爆~

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「これより、昨日さくじつの狩猟大会での襲撃事件及び、先だってのアギルレ公女毒殺未遂事件について詮議を行う。王太子、報告せよ」 

「はい」 

 王妃と共に現れた国王の宣言により始まった詮議。 

 レオカディアは、その内容を、少しの驚きをもって聞いた。 

 

 私の毒殺未遂の件、って。 

 あの、王妃陛下の名を使ってヒロインにお茶会に招かれた時のよね? 

 あれも、今日一緒に解明するの? 

 

 『確かに、あの件にもヒロインは関わっているけれど、ミゲラ王女殿下は?・・・もしかして、あれにも関与していたということ?』と考えていたレオカディアは、そのヒロイン、ピアとミゲラ王女双方から、強い憎しみの視線を浴びさせられていることに気が付いた。 

  

 うん。  

 憎しみは、私ひとりに向いている感じね。 

 大歓迎よ。 

 

 エルミニオに害が及ばないなら、それが一番と、レオカディアは自然な表情でふたりを見つめ返す。 

「それでは報告します。まずは、王城で起きたアギルレ公爵令嬢の毒殺未遂事件。この時、実行に及んだのは、ドゥラン男爵令嬢と王城の侍女だけでしたが、ふたりだけの犯行にしては無理が多い点から慎重に調査した結果、この事件にも、バリズラ国第四王女ミゲラ殿下、及びバリズラ国が関わっていることが判明しました」 

 未だ、公に有罪と確定していないため、殿下や令嬢と付けなければならないのが苦痛だと言わぬばかり、エルミニオの声が微妙な響きになっているのに気づき、レオカディアは、こんな場であるにも関わらず口元が緩みそうになってしまった。 

 

 エルミニオ様ってば、本当に嫌そう。 

 名前を言う時に、音にはしないで《妄想》とか《迷惑》って付けているのが凄い。 

 ・・・あ、国王陛下も気づいていらっしゃるのね。 

 

 詮議の報告を聞いている最中とあって、真っすぐ前を向いている関係上、横目でちらりと確認するしかないが、国王も少々困ったような顔をしながら、おかしみを堪えているのが見て取れ、レオカディアはほっと安堵の息を吐く。 

 

 これなら、後で少し注意されるだけで済みそう。 

 よかっ・・・・。 

 

「ちょっと待ってよ!その、何とかいう公爵令嬢の毒殺未遂事件に、なんであたしが関わっているって言うのよ!知らないわよ、そんな女」 

 流石に詮議の場で、未だ有罪と確定していない者相手に、秩序を崩すような真似をすれば国王として見逃すことは出来ないが、これくらいは許すということなのだろうと、安堵するレオカディアの思考に、ミゲラ王女の叫びが被った。 

 

 な、なに? 

 え? 

 私を知らない? 

 それ、本気? 

 実物を知らなくても、名前は知っているから襲ったんじゃないの? 

 私が、エルミニオ様の婚約者だから。 

 

「そんな女、ではない。私の婚約者である、アギルレ公爵令嬢だ。私の婚約者を知らない?そうか、では、昨日の狩猟大会でも、知らずに襲ったというのか?」 

「エルミニオの婚約者?あ、じゃあその女が、何とか公爵令嬢なの!?」 

 指さし叫んだミゲラ王女を、護衛がすぐさま取り押さえる。 

「ちょっと何すんの!放しなさいよ!あたしは、あの厚顔無恥女に用事があんのよ!なによ、公爵令嬢如きがエルミニオの婚約者って!エルミニオに相応しいのは、あたしよ!いいから放しなさいってば!あの女に分からせてやるんだから!」 

「ちょっと、ちょっとお姫様。エルミニオには、男っぽい話し方をした方がいい、って教えてあげたでしょ。正妃様になれなくてもいいの?」 

 そして、抑えられつつも暴れ続けているミゲラ王女に、ピアがそう囁く。 

「だって、しゃくじゃない!狩猟大会って言ったって、あの女は矢を運ぶだけだったんでしょ!?そんなの、参加しているって言わないわよ!あたしは、自分で弓が引ける。エルミニオには、あたしの方が相応しい!」 

「引けないから、引かないわけではない。薔薇祭での狩猟大会では、女性が直接狩りを行うことは出来ない規則となっている」 

「知らないわよ、そんなの」 

「だからお姫様、言葉遣い。もう。格好は、狩人みたいで割といけてるのに」 

  

 ふむ。 

 男っぽい言葉遣いをエルミニオ様が好む、ねえ。 

 もうそんな問題じゃないと思うんだけど、今でも正妃、側妃になれるって思っているところが凄いわよね。 

 ・・・・・それにしても。 

 ここまでヒロインが言うってことは、エルミニオ様って、本当に男っぽい女性が好きなの? 

 なにそれ。 

 どこ情報? 

 私、知らないんだけど。 

 

 これは、後でエルミニオに確認すべきなのか、否、しかしもし仮に本当にエルミニオが男っぽい女性が好きだとしても、自分にはどうしようもない、と思い悩むレオカディアは、エルミニオが『ああ、因みにディア・・・んんっ。レオカディア・アギルレ公爵令嬢は、弓が得意だ』と詮議の場で堂々とさらっと婚約者自慢をしたことを聞き逃してしまった。 

 因みに、少し照れた、それでいて誇らしげな様子でレオカディアを見たことにも気づいていない。 

 今のレオカディアにとって、エルミニオが本当に男っぽい女性が好きなのかどうかが、最重要問題なのである。 

 そんなレオカディアの思考は続く。 

 

 そもそもが私、男装の麗人って感じじゃないのよね。 

 平凡な顔ももちろん、体つきも。 

 

 どちらかと言えば女性らしい体つきをしている我が身を思い、レオカディアはそっと息を吐いた。 

「ねえねえ、エルミニオぉ。レオカディアってばね、きのう、ヘラルドと森でふたりきりになったんだよ。他には、だあれもいないの。これって、浮気じゃないの?エルミニオっていう婚約者がいるのに、浮気なんて。すぐに罰しなくちゃだね」 

 

 え? 

 確かに、馬が暴走してヘラルドとふたりになったけど。 

 ・・・・・どうして、彼女が知っているの? 

 

 暫く、エルミニオ様は本当に男っぽい女性が好きなのか、という最重要問題に取り組んでいたレオカディアは、ピアの言葉にはっと我に返る。 

 

 あの時、馬の顔先に何かが飛んできて、驚いた馬が暴走した。 

 そして、振り落とされる前にヘラルドに救助され、馬とレオカディアが落ち着くまでふたりでいた。 

 その間もその後も、確かに誰もいなかった。 

 それらすべては事実だが、そのことをピアが知っている筈もない。 

 その場にいなかったピアが知っている、それが意味すること。 

「ほう。私の婚約者がそのような状況に陥ったと、何故そなたが知っている?」 

「だって!エルミニオから引き離してくれるって言ったんだもん!レオカディアが乗っている馬の顔の当たりに何か粉っぽいものを投げて、暴走させるから、って。上手くすれば、レオカディアは落馬するし、そうでなくともエルミニオからは遠い所まで移動させられるって!」 

 揚々と話すピアの言葉に、レオカディアは咄嗟にピアの隣に居るミゲラ王女へと視線を向けるも、ミゲラ王女には動揺するそぶりも見えない。 

 

 昨日の襲撃の件は、ミゲラ王女殿下に関係ないということ? 

 でも、ヒロインと一緒に、エルミニオ様とセレスティノの前に現れた、って言っていたわよね。 

 どういうこと? 

 

「レオカディア・・・私の婚約者を私から引き離す、か。誰が、そのような計画を?」 

「お父様よ!どこか、偉い人が協力してくれるから、大丈夫、絶対って!ピアのお父様は、凄いんだから!」 

 

 なるほど。 

 偉いひとが協力、ね。 

 それって、お茶会の毒もその人経由で入手したってこと? 

 というか、今ヒロインは、自分の父親の計画で、私の馬を暴走させたって自白したと思うんだけど、大丈夫? 

 

「そうか。では、私の婚約者。レオカディア・アギルレ公爵令嬢が乗る馬を暴走させたのは、ドゥラン男爵の計画によるものということで、間違いないか?」 

 エルミニオが、弱冠優しいともいえる口調で聞いてくれたのが嬉しいのだろう、ピアは喜び勇んで頷いた。 

「間違いないわ!ね!これって、ピアが正妃様になれるってこと!?」 

「ちょっと待ってよ!なんで、あんたんちの父親が凄いみたいになってんのよ!あたしのパパの力がなければ、何も出来ていないくせに!正妃はあたしに決まってんでしょ!」 

 

 え。 

 こっちも自爆? 

 

 容疑者ふたりが、きゃんきゃんと言い合うさまを見て、レオカディアは口をぽかんと開きそうになった。 

 

 詮議の場で、複数の容疑者が罪を擦り付け合う、っていうのは聞いたことあるけど。 

 これって、首謀者は自分の親だ、って主張し合っているのよね? 

 なんか、不思議な光景だけど・・・・って。 

 ・・・・え? 

 エルミニオ様? 

 

 詮議はこのままで大丈夫なのか、否、罪の告白を本人がしているのだからいいのか、と思いつつ隣のエルミニオを見たレオカディアは、エルミニオが、まるで獲物を捕らえた狩人のような目をしているのを見て、すべてを悟った。 

 

 ああ・・・つまり。 

 すべては、エルミニオ様の手の上ということね。 

 ・・・・・もしかして、私も転がされているのかな。 

 

 そう思ったレオカディアは知らない。 

 その後ろで、セレスティノとヘラルドが苦笑してそんなレオカディアを見ていたことを。 

『いや。レオカディア相手の場合に限り、殿下は自分の方が、レオカディアの手の上で、自ら喜んで転がっている』 

 それが、側近であり親友であるふたりの、偽らざる本音だった。 


~・~・~・~・~・~・
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