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61.そは納得の

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「もう、よろしいでしょうかねえ。おふたりさん」 

 シライと佳音の視線が、自分へと向いたことに気づいた火の神が発した言葉に、佳音は大きく目を見開いた。 

「美少年君!言葉も態度も破落戸ごろつきみたいになっているよ!」 

「誰のせいだ、誰の!」 

「ふ。佳音に一喝されて、停止していたのも事実だろうが」 

「なっ」 

「え?そうなのか?」 

 揶揄するようにシライに言われ絶句した火の神を見、どうやら本当らしいと佳音は納得する。 

「そっか。驚かせたのなら悪」 

「うるさい!うるさい!うるさい!貴様なんか!貴様なんか!」 

 佳音の態度が癇に障ったか、火の神は叫びながら滅茶苦茶に攻撃を仕掛けて来た。 

「わっ。いい子だからちょっと落ち着いて!」 

「子ども扱いするな!!」 

 右に左に上に下。 

 次々に飛んで来る火矢や火針を浄化しようとした佳音の前で、それらがすべて霧散する。 

「おお。これが完全無効化ってやつ?最強だな」 

「無骨だがな」 

「無骨でいいじゃん」 

 防御なのだからそれでいい、という佳音の髪にシライがそっと触れた。 

「佳音の浄化は美しいからな。オレの術などつまらなぬと言われるかと思った」 

 佳音の浄化は、その際に花びらが舞う。 

 それがとても美しく好きだとシライが笑う。 

「シライの術がつまらない?そんな訳ないじゃん。シライの術だって、凄く綺麗なもの生み出すのもあるし。適材適所?用途に応じてってものじゃないのか?」 

「佳音。いいことを言ってくれる」 

「思ったことを言っただけだ、って・・・ちょっと、くすぐるなよ」 

「そういう反応も可愛い」 

「ちょっ、落ちたらどうすんだ、っての!」 

「落としはしない」 

「まあ確かに。落ちる感じはまったくないけど」 

 龍に乗っているというのに素晴らしい安心感だ、と笑う佳音にシライが微笑む。 

「龍での散歩もいいだろう?」 

「うん。空を龍で、なんて。ほんとに凄い。未だ夢見ているみたい」 

「夢ではない」 

 『ほら温かいだろう?』と、抱き寄せるシライに任せ佳音がその胸に寄り掛かれば、更に安定感が増す。 

「シライの音がする」 

「夢ではないと実感できたか?」 

「出来た」 

「だから!僕を無視するなって言っているだろう!」 

 苛立つ火の神が再び攻撃を仕掛けて来るも、今度は龍を操ってひらりひらりと避けてしまう。 

「何かこれ、楽しい!」 

 上下左右にゆったり流れるような龍の動きが楽しいと、佳音が瞳を輝かせる。 

「ならば、これはどうだ?」 

「え?・・っっっ!」 

 シライが言った瞬間、龍が頭から突き込むように急降下して、佳音は思わず息を詰め自分の腹に回されたシライの手を掴んだ。 

「佳音?」 

「うっわあ、びっくりした。こんなの初めて」 

「気分は悪くないか?」 

「大丈夫。むしろ楽しい!」 

 佳音がはしゃぐうちにも、シライは火の神の攻撃を無効化していく。 

「しかし鬱陶しいな。そろそろ締めるか」 

「え?締める?」 

「ああ。もっと集中して佳音を愛でたいからな」 

「だからといって、締めるというのはちょっと物騒な気が」 

 顔を引き攣らせて佳音が言うも、シライはけろりとしたまま真っ直ぐに火の神を見据えた。 

「直ぐに済む」 

「ちょっとシライ!?」 

「大丈夫だ。帰還させるだけだから」 

「あ、そうなの?なんだ、びっくりした」 

 もっと凄い何かが起こるのかと思った、と肩の力を抜いた佳音は、シライがその手をゆっくりと持ち上げるのを見た。 

 

 綺麗だよな。 

 腕も筋肉付いてて凄く力強いのに、しなやかっていうか。 

 武人らしい体つきなのに、貴人あてびとって感じが漂っているし。 

 はあ。 

 ずっと見ていられる。 

 

 シライは佳音を見ていると夢中になれると言っていたが、佳音に言わせればシライの方がずっと鑑賞に値する、と思いながらその美しく凛とした顔を眺めていると、今度は長い指が何かを描くように動く。 

「ふぇっ!?」 

 それと同時に発生したものに佳音は驚き、珍妙な声をあげてしまった。 

 

 む、紫の雷!? 

 

 シライの指が何かを描くように動く度、火の神へと紫のいかずちが降り注ぐ。 

 

 ば、ばりばり言ってる! 

 凄い稲妻、稲びかり! 

 あ、同じ意味か。 

   

 余りの威力に呆然となった佳音は、ひとりそのような事を思い、そして納得した。 

 

 そっか。  

 紫の雷で、シライ。 

 紫雷か。 

 白井さんじゃ、無かった。 

 

  

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