上 下
59 / 62

58.龍

しおりを挟む
 

 

 

「うわあ。凄い・・・大きい」 

 佳音は、思わず口をぽかんと開けて上方を見あげた。 

 そこに漂っているのは、長大な龍。 

「龍を見るのは初めてか?」 

 隣に立つシライに聞かれるも声には出せず、ただこくこくと頷き佳音は龍を見つめ続ける。 

 

 足、おっきい。  

 俺なんか、ひと蹴りで吹き飛んで木端微塵になりそう。 

 ああ、その前に鉤爪で一刺しだな。 

 それに、あの尻尾で弾かれたら一瞬で吹き飛んで木端微塵だろうし、身体で押しつぶされたら粉砕される。 

 つまり絶対敵わない。 

 いや、闘わないけど。 

 

「では、乗ろう」 

 暫く龍を見つめる佳音を見つめていたシライはそう言うと、佳音の身体を抱きあげてそのままふわりと浮いて龍の頭の部分へ座った。 

「すっご、高っ!」 

 地上から少し高い所を漂っているだけなのに、既に佳音には未知の高さで思わず後ろのシライにしがみ付いてしまう。 

「落としはしない。安心しろ」 

 後ろからしっかりと佳音を抱き締めたシライの指示に従い、龍がゆっくりと上昇を始める。 

「うわあ」 

 どんどん遠ざかる天空城の庭を下に見ていた佳音は、変わりゆくその景色に感嘆の声をあげた。 

 美しく澄んだ空気のなか、龍が蛇行するように進んで行く遥か向こうには山脈が連なり、眼下には湖や緑が広がっているのが見える。 

「ここが、シライの域」 

「そうだ。オレの眷属が数多く暮らしている」 

「眷属。そっか。俺が一番の新入りだね」 

 悪戯っぽく言う佳音に、シライが大きく頷いた。 

「そうだ。そして玉を使ってオレが眷属にした、唯一無二の存在だ」 

「なあ、シライ。それって他の眷属からしたらどうなの?紛い物って思ったりしない?」 

 元は人間である自分のことを、仲間として迎えて貰えるのか不安だと佳音が言えば、シライが豪快に笑い飛ばす。 

「そんな心配は不要だ。むしろ佳音をひと目見たいと思うだろうな。何しろこのオレが、玉まで使って伴侶としたのだから」 

「ならいいけど。馴染めるように、俺も頑張るよ」 

 まずは天空城に居る眷属たちから、と決意を固める佳音をシライがそっと抱き締めた。 

「不安なことがあれば、いつでも話ししてくれ。分からないことは聞いてくれればいいし、嫌なことがあれば言ってほしい」 

「うん。よろしく」 

「それでいい」 

 かいぐりとシライに頭を撫でられた佳音は、大きく息を吸って全身でシライの域を感じる。 

「ここが、これから俺の生きる場所なんだな」 

「もっと詳細に言えば、オレの隣だがな・・っ。佳音!」 

 にやりと笑って言ったシライの声が突然緊迫し、何が起こったか理解できないままに佳音も身を固くした。 

「大丈夫だ。オレが必ず守る」 

「え?何あれ」 

 力強いシライの言葉に頷き、頼りになるその腕に囲まれた佳音は、赤い炎が固まりのように近づいて来るのを信じられない思いで見つめる。 

「あれは、炎の鳥だ」 

「炎の鳥。ってことはまさか」 

「ああ。火の神だ」 

 固い声で答えたシライは、腕のなかの佳音を安心させるように優しく抱き締め、未だ遠い火の神を睥睨した。 

 

 

~・~・~・~・~・ 

 

 

あけましておめでとうございます。 

本年もよろしくお願いします。 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

ファミリア・ラプソディア

Tsubaki aquo
BL
数年来の恋にこっぴどく敗れたヘタレ青年・洞谷伝(どうや・でん)は、人生のどん底にいた。 そんなある日、何故か行きつけのバーで超絶イケメンな頼久類(らいく・るい)に猛烈アプローチを受ける。 初めは警戒していた伝だが、類の不思議な魅力に惹かれ、ついにふたりは恋人同士に。 情熱的な夜を過ごした翌朝、伝は類から「家族に会って欲しい」と告げられる。 急展開にパニックになるものの、結婚は勢い!(?)と了承するが…… なんと、彼の言う「家族」は肉親のことではなくパートナー×3のことだった!? 歪で愛おしい家族の物語。 +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+ アダルトシーンには、タイトルナンバリングに「*」マークがついてます。 +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+ 更新内容予定 chapter1 出会い編 chapter2 日常ドラマパート chapter3 高校生編 chapter4 家族編 chapter5 日常アフターストーリー +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+ 星名あんじ様(https://twitter.com/seina_anji_work)、 この度は素敵なイラストを誠にありがとうございました>< GURIWORKS様(https://twitter.com/guriworks)、 この度も素敵なタイトルを誠にありがとうございました>< こちらの作品は、なろう、ピクシブにも投稿しています。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

俺は、魔力0の最弱魔族!

sizuma
ファンタジー
自分で言うのも何だが、俺、エスタは超優秀な魔族だ。 頭は滅茶苦茶よくて成績優秀。運動神経も抜群。 大人が徒党を組んで討伐するハイオークという強力な魔物を齢10歳で討伐するほどの戦闘センスを持ち合わせていて、武術も同年代とは頭3つ抜けて秀でている。 そんな将来の魔王候補筆頭(自称)で、地元で神童とも言われた俺は、今年から国一番の教育機関であるオルエイ高等学園へと入学することになった。 胸を躍らせ、配属クラスを聞く俺。 オルエイのクラス分けは実力で決められるので、俺は当然上のクラスになれるだろうと信じてやまなかった。 しかし結果は残酷だった。 「配属先はFクラスです。」 「…え?」 なんと、一番実力が低いとされるFクラスへと振り分けられてしまったのだ。 そこで感じた学校全体で行われるFクラスの差別に、性格の悪い貴族や先生達。 俺は決意した。 絶対上のクラスに成り上がってやる! これは、魔力を持たずして生まれた秀才エスタが、オルエイ学園にて成り上がっていく物語。 ※途中からシリアス多め。案外純愛。

クロイと魔法の言葉

花野風月子
絵本
AIと書きました。 絵のない絵本です。心の中に独自の風景やキャラクターが生まれることを願っています。 「クロイと魔法の言葉」は、言葉の力とその大切さを、魔法の要素を交えながら描いた心温まる物語です。

処理中です...