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58.龍
しおりを挟む「うわあ。凄い・・・大きい」
佳音は、思わず口をぽかんと開けて上方を見あげた。
そこに漂っているのは、長大な龍。
「龍を見るのは初めてか?」
隣に立つシライに聞かれるも声には出せず、ただこくこくと頷き佳音は龍を見つめ続ける。
足、おっきい。
俺なんか、ひと蹴りで吹き飛んで木端微塵になりそう。
ああ、その前に鉤爪で一刺しだな。
それに、あの尻尾で弾かれたら一瞬で吹き飛んで木端微塵だろうし、身体で押しつぶされたら粉砕される。
つまり絶対敵わない。
いや、闘わないけど。
「では、乗ろう」
暫く龍を見つめる佳音を見つめていたシライはそう言うと、佳音の身体を抱きあげてそのままふわりと浮いて龍の頭の部分へ座った。
「すっご、高っ!」
地上から少し高い所を漂っているだけなのに、既に佳音には未知の高さで思わず後ろのシライにしがみ付いてしまう。
「落としはしない。安心しろ」
後ろからしっかりと佳音を抱き締めたシライの指示に従い、龍がゆっくりと上昇を始める。
「うわあ」
どんどん遠ざかる天空城の庭を下に見ていた佳音は、変わりゆくその景色に感嘆の声をあげた。
美しく澄んだ空気のなか、龍が蛇行するように進んで行く遥か向こうには山脈が連なり、眼下には湖や緑が広がっているのが見える。
「ここが、シライの域」
「そうだ。オレの眷属が数多く暮らしている」
「眷属。そっか。俺が一番の新入りだね」
悪戯っぽく言う佳音に、シライが大きく頷いた。
「そうだ。そして玉を使ってオレが眷属にした、唯一無二の存在だ」
「なあ、シライ。それって他の眷属からしたらどうなの?紛い物って思ったりしない?」
元は人間である自分のことを、仲間として迎えて貰えるのか不安だと佳音が言えば、シライが豪快に笑い飛ばす。
「そんな心配は不要だ。むしろ佳音をひと目見たいと思うだろうな。何しろこのオレが、玉まで使って伴侶としたのだから」
「ならいいけど。馴染めるように、俺も頑張るよ」
まずは天空城に居る眷属たちから、と決意を固める佳音をシライがそっと抱き締めた。
「不安なことがあれば、いつでも話ししてくれ。分からないことは聞いてくれればいいし、嫌なことがあれば言ってほしい」
「うん。よろしく」
「それでいい」
かいぐりとシライに頭を撫でられた佳音は、大きく息を吸って全身でシライの域を感じる。
「ここが、これから俺の生きる場所なんだな」
「もっと詳細に言えば、オレの隣だがな・・っ。佳音!」
にやりと笑って言ったシライの声が突然緊迫し、何が起こったか理解できないままに佳音も身を固くした。
「大丈夫だ。オレが必ず守る」
「え?何あれ」
力強いシライの言葉に頷き、頼りになるその腕に囲まれた佳音は、赤い炎が固まりのように近づいて来るのを信じられない思いで見つめる。
「あれは、炎の鳥だ」
「炎の鳥。ってことはまさか」
「ああ。火の神だ」
固い声で答えたシライは、腕のなかの佳音を安心させるように優しく抱き締め、未だ遠い火の神を睥睨した。
~・~・~・~・~・
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
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