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49.そもそも

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「ん?佳音が人間の男だということは知っているぞ。だからこそ、ぎょくを与えたのだろう?」 

 佳音こそ何を言っている、と不思議そうな顔で言うシライに、佳音はますます戸惑う。 

「えーと?つまり、どういうこと?」 

「オレは、佳音が人間の男だと知っている。だからこそ、玉を与えた」 

 噛んで含めるようにシライが言うも、その説明は前のものと変わらず佳音には理解できない。 

「天空の神様。もしかして、佳音様は玉の意味を分かっていないのではありませんか?」 

 人間の男だから玉を与えた、と言われ首を捻り続ける佳音に、ヒスイがあっと声をあげた。 

「意味が分かっていない?」 

 どういうことだ、と訝しい顔をするシライにヒスイが真顔で尋ねる。 

「そもそもの話です。玉のこと、佳音様にきちんと説明しましたか?」 

「したに決まっているだろう!これを佳音の胎内に入れて、オレの精を注いでこの地に馴染ませるのだと」 

 そんなもの、しっかり説明したに決まっている、と胸を張るシライにカハが胡乱な目を向けた。 

「雑だな。それで、誤解が生じたのだろう。先ほど佳音は言っていたではないか。ぎょくを入れ、馴染んだ後に生贄とされるのだと」 

「なっ。そうなのか?佳音」 

 焦ったように言うシライに、惑いながらも佳音が頷く。 

「だって、逃げられないように足枷もされたし」 

「ああ、それは誤解の原因の第一ですよね。私も、我らが眷属にこのような物を、と怒りを覚えましたから」 

 その時を思い出したかのように、ヒスイの視線が鋭くなった。 

「俺は、怒りっていうより哀しかったかな。こんなもの着けなくても逃げないのに、って」 

「ん?逃げられないように。ある意味、それは正しいかもしれませんね。佳音様が主だけを見るように」 

 視線を落とす佳音にシライが何か言うより早く、蓮がふむふむと頷く。 

「碌に説明もせず、無理矢理囲って己のものにするとは、下賤な」 

 そしてカハは、侮蔑の目をシライに向けた。 

「無理矢理ではない。それなのに、下賤とは何だ、下賤とは」 

「そうであろう。佳音は、願いの代償のつもりで貴殿に身を捧げたのだ。否やなど言えるはずもない。それつまり、贄であろうが」 

「なっ」 

 そんなつもりは微塵も無かったシライの前で、カハが佳音を抱き寄せる。 

「恐ろしい思いをしたな」 

「覚悟はしていたけど、恐ろしくは無かったよ。シライやみんなは凄く優しかったから、生贄にも優しい世界だって思っていた」 

 佳音の言葉に、カハが目を細めた。 

「そうか。優しかったか」 

「うん。それに、衣食住も高貴なひとみたいな扱いで、足枷だって凄い特別仕様だから、俺は余程大切な生贄なんだって」 

 しんみりと言う佳音の目を、カハが覗き込む。 

「それだがな、佳音。我らは人間を喰うたりせぬ」 

「え?」 

「人間の魂も肉も、食すことは無い」 

「じゃああの話は、戒めとかそういうことなのかな。あれ、でも」 

 かつて読んだ書物を思い出し、佳音は小さく呟くと何かに気づいたように顔をあげた。 

「どうした?佳音」 

「カハ様。でもシライは、俺を食べるって。味見もされて」 

「それは、肉体を喰らうという意味ではないな」 

「え?」 

 食べるとは、他に何か意味があっただろうかと考える佳音に、シライが大きく頷く。 

「そうだぞ、佳音。あれは、佳音をオレが可愛がるという意味だ」 

「可愛がる?」 

「ああ。寝台や湯殿で精を注いだ、あれだ」 

「そうなんだ。でもあれって、どちらかというと俺がシライを食べているよう・・っ!」 

 それでもきょとんとしていた佳音は、とどめのようなシライの言葉に漸く理解した、けれど、と普通に言いかけて途中で発火した。 

「佳音。そんな可愛い顔を他の奴等に見せるな」 

 両手で顔を覆った佳音を皆から隠すようにシライが抱き寄せれば、カハが小さくため息を吐く。 

「佳音よ。父は複雑だ」 

「うう。恥ずかしい」 

「これで理解したか?佳音は生贄などではない」 

 ぽんぽんと背中をあやすように優しく叩かれ、佳音は漸く顔をあげた。 

「うん。生贄じゃないことは理解した、けど」 

「けど?」 

「じゃあ、俺ってシライのなに?」 

 邪気の無い目で問われ、シライは再び固まった。 

  

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