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33.桜桃
しおりを挟む「佳音。口を開けろ」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべるシライの手にあるのは、籐の籠。
そして、その反対の手の指が摘まんでいるのは桜桃。
うん。
シライが俺に餌付けの如く食べさせようとしている、というのを除けば、籐の籠に入ったさくらんぼを食べる、っていうのは普通。
でも。
「なんで寝台で?さくらんぼ食べたいなら、卓で食べればいいんじゃないか?」
寝台でさくらんぼを食べようとする、その意図が分からないと佳音は首を傾げる。
「卓で食べるのは普通だろう。本当なら桃が良かったのだが、佳音が寝台や寝衣、それに指を汚すのを気にするだろうから、と桜桃に・・・・あ」
なるほど、桃からの発想で桜桃か、でもなんでわざわざ寝台で?と佳音が尚も首を傾げつつ聞いていると、シライが何かに気づいたように固まった。
「なに?どうかしたの?」
よもや桜桃に毒でも仕込まれて、とでも言いたくなるような緊張感に佳音も背筋を伸ばす。
まあ、この天空城で毒とか無いだろうけど、襲って来る輩は居たから。
って、あの襲撃者も神様だけど。
神官時代、すべての神に感謝と祈りを捧げていた佳音は、シライと接するようになって神も人と同じように感情を揺らしたりするのだと知り、更に火の神との遭遇によって神にも個性があるのだと強く思った。
シライと火の神様じゃ雰囲気も全然違ってたよな。
シライの方がずっと大人っぽかったし。
ていうか、火の神様が子供っぽいのか。
でも、ふたりとも凄い力を持っているのは確かだよな。
まあ、だから神様なんだろうけど。
有体に言うなら、思ってたのと違う神達に驚きの毎日を送る佳音は、今またこれまで見たこともないような難しい顔で桜桃を見つめるシライの言葉を待つ。
なんだろ。
取り返しのつかない失敗でもしたかのような顔。
「別に、桃でもよかった」
「は?」
一体シライは何に気づき、何を思案しているのかと息詰めて見つめる佳音の耳に届いた予想外の言葉に、佳音は間抜けな声を出した。
「いやむしろ桃がよかった。桃の甘露を纏った佳音の指をオレが口に含み、オレの指に絡んだ桃の露を佳音が舌で舐めとる。オレの指を夢中で舐める佳音はどれだけ可愛かっただろう。ああ、失敗した」
「・・・・・」
本気で絶望に打ちひしがれているシライを暫く呆然と見つめた佳音は、大きくため息を吐くと籠の籠に入った桜桃に手を伸ばす。
「シライってほんんっとうに格好いいのに、何その残念な思考」
「残念な思考とは何だ。佳音の可愛い姿を見損なったんだぞ?大きな落ち度だろう」
「はいはい、残念残念。大体、俺を可愛いとかいうのがそもそもおかしい。まあ、確かに桃の露を舐めとるシライは格好いいだろうけど・・・・ん、できた!」
もごもごと口を動かし、桜桃の茎を口のなかで器用に結んだ佳音は、それを懐紙に出した。
「口のなかで結んだのか」
「うん。あんまお行儀よくないかもだけど、この特技を見られたってことで無念が晴れたりしない?」
どう?どう?と佳音が尋ねればシライが、ふっと笑う。
お、いい感じ?
これだけ押しつけがましくすれば、仕方なくでも受け入れてくれるよね?
いつまでも無念と落ち込んでほしくない思いを込めて、佳音がシライを見あげる。
「可愛い奴。では、オレにも食べさせてくれ。茎付きで」
「え?外した方が食べやすくない?って、ああそうか。シライも結んでみたいのか」
茎を外し、実だけをシライに食べさせようとしていた佳音は、シライこそ可愛い、とひとり納得して茎付きの桜桃をシライの口に入れた。
その際、ぱくっと佳音の指ごと食べられるのは最早通常。
「っ」
一瞬ぴくっとするも、佳音は何気なさを装って指を引き抜いた。
うぐっ。
わざと唇すぼめて指を舐めるとか、やめて欲しい。
自覚ないんだろうけど、えろ格好いいんだっての。
それでも、自分だけが動揺するのは悔しい、と必死で平常を装う。
「じゃあ佳音。結んでみてくれ」
すると、桜桃を食べ終えたシライが種を出してそう言った。
「ああ。見本ってこと?でも口のなかだから、やって見せるっていうのは難しいかな」
出来ないこともない、か、いや無理か、と考えつつ言う佳音に、シライがそれはいい笑顔を見せる。
「だから、オレの口のなかで、やってみてくれ」
「っ!!」
何か、とんでもない事を聞いた、と佳音が思った時にはシライにしっかりと唇を塞がれ、素早い動きで舌を絡め取られてシライの口腔へと引きずり込まれる。
くちゅくちゅと舌を絡める、その間にある桜桃の枝。
「んっ」
シライの要望通り何とかそれを結ぼうとするも、他人の口腔では難しい。
しかも、結んでほしいのか欲しくないのか、シライの舌が佳音の舌に絡みつき口蓋を舐めあげていて、結ぶ動きの邪魔をする。
「んっ・・・ふぅっ」
シライの舌に纏わり付かれつつ、桜桃の茎を結ぼうと夢中になった佳音は、いつのまにかシライの両肩に縋り付き、その腰をシライに撫でられていることにも気づかない。
「佳音」
そんな佳音に愛し気に口づけ、シライはその手を腰から背へと滑らせ、背から腰へと滑らせて、寝衣の裾を乱す。
「んぁっ」
乱れた寝衣から入り込んだシライの手が佳音の腿を撫で、その感触に身悶えた佳音の舌がシライの口腔から抜け落ちた。
「佳音」
そのまま崩れ落ちそうになる佳音を支え、再び口づけながらシライが佳音の寝衣を脱がす。
「まだ・・むすべてないよ・・?」
「ああ。今度は佳音の口のなかで、教えてくれ」
「ん・・・」
亡羊とするまま、佳音はシライの舌を受け入れた。
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