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21.選んだ衣は
しおりを挟む「佳音様。どちらのお衣装にいたしましょうか」
どこかうきうきとした様子で尋ねて来る蘭に促され、開かれた箪笥のなかを見た佳音が固まった。
「凄い数のお衣装だね」
「すべて、天空神様が佳音様のためにご用意されたものです」
我が事のように嬉しそうに言った蘭に、佳音は目を瞠る。
「え!?これ全部、俺のってこと!?シライのじゃなくて?」
「はい。天空神様のお衣装は、隣の箪笥になります」
言いつつ蘭が佳音を見た。
「そ、そうなんだ」
「はい。天空神様は、佳音様をお迎えなさるのをそれは楽しみにしていらっしゃいましたから」
念願が叶って自分も嬉しい、と言う蘭が数枚の衣を見せてくれる。
「ど、どれも綺麗だけど、俺に似合うかって言ったら」
「お気に召しませんか?」
「そうじゃなくて、衣が俺を気に入らないんじゃないか、って話!」
完全に衣に着られた状態になる!と宣言した佳音に、蘭が微笑む。
「佳音様は、本当にお可愛らしいですね。天空神様と交わされる会話でも知っておりましたが」
「うぐっ。可愛い、って。蘭みたいな年下の可愛い子に言われたくない」
杏は恐らく同じ年くらい、蘭は少し年下、と見ていた佳音が言えば、蘭がまた笑った。
「わたくしは、佳音様より永く存在しているかと」
「え!?」
「眷属は、地上の方と寿命が違いますので」
蘭に言われ、佳音はまたひとつ自分の常識が覆るのを感じる。
「そっか。神様の眷属だもんね。ってことは、神様であるシライもってこと?」
「はい」
「そっかあ」
「佳音様。こちらの衣などいかがでしょう?」
なんか異世界の話みたい、あ、ここは天空城だった、と遠い目をする佳音に蘭が広げて見せたのは、紗のように少し透けた感じのある薄桃色の衣で、帯は若竹色。
一番上に羽織る衣らしく、生地にはうっすらと地模様も入っていて、清楚で気品がある。
「すっごく綺麗だけど、それこそ俺に似合わないよ」
「そんなことはございません。当ててごらんになりますか?」
問いかけながら既に佳音の肩に衣を当てる蘭に苦笑していると、その前に姿見が用意された。
「お。似合わないでも、ない?」
満更でもないかも、と鏡を見る佳音に蘭が大きく頷く。
「佳音様は色白でいらっしゃいますから、淡いお色もお似合いになります」
「そっか。じゃあ、これにしようかな」
「かしこまりました」
それですと中の袷は、袴は、と選び、漸く蘭に着付けてもらった時には既に昼近くになっていた。
それにしても、この足枷凄すぎ。
仕組みぜんっぜん解らないけど、凄いのだけはよく分かる。
袴も穿き替える、となった時点で足枷があるから無理だと気づいた佳音だが、何の障害も無く着替えられてしまった。
その事実に感動さえ覚え、佳音は改めて足枷を撫でてみる。
「お痛みになりますか?」
すると、そんな佳音の行動を見た蘭が気づかわし気な声を出した。
「ううん。ただ、この足枷凄いな、って思って。着替えも出来ちゃったから」
少しも痛くないよ、むしろ心地いい、と言えば蘭が嬉しそうに笑う。
「天空神様が、佳音様のために作り上げられたものです。着ける事は避けられませんので、せめてご不便のないように、とあらゆる想定をされていらっしゃいました」
「え!?そうなの?シライってば凄い」
万能足枷は、まさかのシライ特製だった、と目を丸くする佳音を蘭が優しく見守る。
「シライ、忙しいだろうに俺のこと凄く考えてくれたんだな。あ、そういえばさ、シライっていつもは何処でお昼ごはん食べているの?」
「普段は、執務室で召し上がっていらっしゃいます。あそこには、大きな水鏡がありますので」
くすりと笑って言った蘭が、不意に真顔になった。
「佳音様。天空神様がお戻りになられるようです」
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