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4.味見
しおりを挟むなんか、思ってたのと違う。
ちゅくちゅくと優しくシライに唇を吸われて、佳音は混乱する頭で考える。
え?
俺って生贄だよな?
さっき、シライも俺を食べるって言ってたし。
でもなんだ?
この状況。
もしかしたら肉体を食すというより、精気を吸うとか魂を取り出すとかいったことなのかとも思うが、それもどうやら違う。
意識が遠くなる、なんてことも無い、な。
ああ、でも。
違う意味で気が遠くなりそうだけど。
佳音の頬や肩に触れるシライの手はどこまでも優しく丁寧で、佳音の呼吸を気遣いつつ繰り返されるうち深くなってきた口づけは心地いいばかりで、魂を抜き出される様子も無い。
「ああ。佳音の唇は甘いな。それに、いつまでも触っていたくなる肌だ」
言いつつ、名残惜し気にするりと佳音の肌を撫で、唇をちゅっと吸いあげてシライはそっと佳音の身体から手を離した、と思ったら、優しくゆったりと抱き寄せる。
「し・・シライ?」
「味見だからな。ここまでにしておかねばならぬ・・ならぬのだが・・ああ放し難い」
すりすりと佳音の頬に自らのそれを擦り寄せ、シライが佳音の耳元で甘く囁く。
その声から、かなりシライが葛藤していることが分かって佳音はそっとその背に手を回した。
「今、食べるわけにはいかないのか?」
肉体にしろ魂にしろいずれ食べられるものならば今でもいいのでは、と口にした佳音にシライが大きく反応する。
「それは駄目だ。絶対に。佳音。お前はオレを、手順も踏まずにそのような行為をするなど、佳音を愚弄するような男だと思っているのか?」
「ぐ、愚弄なんて思ってない。ただ、後でも今でも同じなんじゃないか、って」
突然怒りを帯びたシライに驚き、佳音はふるふると首を横に振った。
いっそ思い切り潔く、と佳音は思っただけなのだがシライの機嫌は直らない。
「本当は、オレのものになるのが嫌なのか?」
「そんなことない!」
自分だけ願いを叶えてもらってそれはない、と佳音はきっぱり否定する。
「では、自棄になっているのではないか?初めてなのだろう?恐怖が過ぎるあまりにそのような言動をとっているようなことは?」
初めて?
怖い?
そんなん、決まってんだろ。
生贄なんて初めてに決まっているし、食べられるのは怖いに決まっている、と佳音は妙に開き直った。
「それはある。いっそひと思いにやってもらった方が、って思っているから」
「ひと思いに、って佳音・・・ああ、分かった。ひと思いに貫いてやる。だが焦るな。オレも堪えるから」
つ、貫くって。
何かで心の臓を突き刺されるのか!
思えば恐怖だが、心の臓を一突きならそう痛みを感じる間もなく逝けるのでは、と鋭利な刃物に自分の胸を突かれる想像をしていると、シライがこつんと佳音の額に自分の額を合わせた。
「ああ。真、耐えがたい」
そして心底辛そうに強く瞳を閉じ、ぎゅっ、と佳音を抱き締めると、シライは思い切ったように佳音を離し、その手を引いて角盥が乗ったのとは別の卓へと向かう。
「この部屋、ほんとに広いよな。なんか凄く豪華だし」
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そしてそこに設えられている家具も、重厚で逸品揃い。
畳敷きの方には、大人が三人は余裕で寝られそうな大きくて寝心地良い寝台に、どっしりとした円卓。
円卓の周りには見るからに座り心地の良さそうな座布団も置いてある。
そして床の方には水鏡である角盥が乗せられた小さめの卓、それから食事をするためと思しき大きな卓と二脚の椅子。
それらどれもが雅な造りで、派手さは無く落ち着くものの、ひとつひとつが高価な品であろうことは無知な佳音にも容易に知れる。
「気に入らぬか?」
「まさか!何か、落ち着かないだけだよ」
これまで、神殿の支持者である支配層の人達の家に招かれたこともある佳音が、それらどの家とも比べるべくもない落ち着きのある部屋に好感を持っている、と素直に告げれば、シライは嬉しそうに佳音の頭に唇を落とした。
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