97 / 136
96.続 一撃必殺といい嫁の関係の謎、なのです。
しおりを挟む「精霊に土地神、か。そのような存在のことなど、聞いたことも無い」
「ですが実際、今目の前に居るではないですか。父上」
唸るフレッドお義父さまに、パトリックさまが取り成すようにおっしゃってくださるも、フレッドお義父さまは難しいお顔でアップルパイさんとウエハースさんを見つめている。
「パトリックの言う通りですわ、お父様。聖獣が実在するのですもの。精霊が居たとしても不思議ではないわ」
空想世界のお話のようね、と言いながらカメリアさまはウエハースさんとアップルパイさんに、にこやかにご挨拶された。
それに対し、ウエハースさんとアップルパイさんも丁寧に挨拶を返す。
そんななかでも、フレッドお義父さまの疑念は消えないご様子で。
「何か、悪事を働いて封印されていたのではないのか?」
『違う!土地神様が復活されれば、この地はもっと豊かに栄える!』
「さほど悪い土地ではないよ、今も」
渋い顔で厳しい言葉をおっしゃったフレッドお義父さまに、ウエハースさんが噛み付くように答え、それに対しまたフレッドお義父さまが挑発するように言い募られる。
あ、検知の魔法。
そうしてフレッドお義父さまがウエハースさんと言いあらそ・・・お話しされているのをはらはらと見ていた私は、ロータスお義母さまがウエハースさんとアップルパイさんに検知の魔法をおかけになったことに気が付いた。
そうか。
それで、フレッドお義父さまが挑発するような言葉をかけていらしたのだわ。
相手に邪な”気”があれば、その激した心に表れ易い。
そのための挑発であり、今のはおふたりの連携だったのだと私は心底感心してしまった。
事前に何も相談なく、こうして自然に互いの力を合わせることが出来る。
そんな関係にパトリックさまと私もなれたらいい、と強い憧れを持った。
「フレッド。悪い”気”はありませんわ」
そしてロータスお義母さまがおっしゃった言葉に、フレッドお義父さまも頷かれる。
「分かった。精霊殿、検知をかけるなど試すようなことをして悪かった」
フレッドお義父さまが頭をお下げになれば、ウエハースさんとアップルパイさんが一瞬ぽかんとしてから同時に首を横に振った。
『そうか、検知か。正直だな。検知されるなど不快に思わないでもないが、まあ構わない。当主として、必要なことなのだろう』
やはり力が落ちているのか、と検知されている事実に気づけなかったことこそをウエハースさんが憂う。
『わたしたちに邪心が無いと判断されたのなら、改めてお願いします。わたしたち、ローズマリーが必要なんです』
そしてアップルパイさんが、両手を組んでフレッドお義父さまに祈るように懇願すれば、何故かパトリックさまが私の肩をひしと抱き寄せた。
「ローズマリーは渡さない」
その強い声に驚いて見上げれば、パトリックさまが厳しい瞳でウエハースさんとアップルパイさんを見ている。
『なっ!菓子を作って欲しい、と言っているだけだろう!ほんと心狭いな、お前!』
「分からないじゃないか。ローズマリーは、聖獣に選ばれるほどなんだ。油断すれば、俺が手を出せない世界へ、また連れて行かれてしまうかも知れない」
悲壮にさえ見えるパトリックさまの表情とその声に、私はテオとクリアと出会ったときのこを思い出した。
あのとき、私は確かに理屈では理解できない森に迷い込んだ。
そしてパトリックさまの力で私はこの現世に戻って来ることが出来て、とても感謝しているし、パトリックさまも安堵された。
それでもパトリックさまは、直接自分が行けない場所に居る私を案ずることしか出来なくて、随分と歯がゆい思いをされたのだろう。
そして、その再発を恐れていらっしゃるのだろう。
分かっているようで分かっていなかった、その苦悩の深さを見た気がして、私はパトリックさまの袖を、ぎゅ、と握った。
「わたくし、何処にも行きませんわ。ずっとパトリックさまのお傍におります」
真っ直ぐに瞳を見て言えばそのはしばみ色の瞳が緩んで、言葉は無くともしっかりとパトリックさまの袖を掴む手に手を重ねてくれる。
ああ。
私は、本当に幸せ者です。
「ああもう、なにこのローズマリーの可愛さ!パトリックも溶けるのではと思うほどに幸せそうで、でも男前とか!今のふたりを記録映像に残しておきたいくらいだわ!」
私の目を見つめる、やわらかくあたたかなパトリックさまの瞳が嬉しくて、そのまま見つめ合っていると、弾けるようなカメリアさまの声がして、私ははっと我に返った。
今ここに居るのは、私とパトリックさまだけではない。
ふたりだけではないどころか、初対面のウエハースさんやアップルパイさんが居るうえに、公爵家の皆さまが見ていらっしゃる前で恋愛脳全開してしまったことが恥ずかしく申し訳なく、私はそっとパトリックさまから放れよう・・・として失敗する。
「昔の私達を見ているようだな、ロータス」
「何を仰っているのです。貴方は、今でも変わらないではないですか」
「それはそうだろう。私の、君への想いが色褪せることなど無いのだから」
ん?
あら?
しかし、恋愛脳全開になっているのは私とパトリックさまだけではないようで、私たちを温かく見守ってくださるおふたりの仲良いご様子に、私もほっこりとなった。
フレッドお義父さまに抱き寄せられ、頬にキスを受けて照れていらっしゃるロータスお義母さまが可愛い。
私も、パトリックさまとずっと仲良くいられますように。
思い、パトリックさまの手に指を添わせれば、パトリックさまは私の手を優しく握り込んでくれた。
0
お気に入りに追加
263
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
秋月乃衣
恋愛
幼くして母を亡くしたティアリーゼの元に、父公爵が新しい家族を連れて来た。
自分とは二つしか歳の変わらない異母妹、マリータの存在を知り父には別の家庭があったのだと悟る。
忙しい公爵の代わりに屋敷を任された継母ミランダに疎まれ、ティアリーゼは日々疎外感を感じるようになっていった。
ある日ティアリーゼの婚約者である王子と、マリータが思い合っているのではと言った噂が広まってしまう。そして国から王子の婚約者を妹に変更すると告げられ……。
※他サイト様でも掲載しております。
モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう
冬月光輝
恋愛
ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。
前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。
彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。
それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。
“男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。
89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる