悪役令嬢の腰巾着で婚約者に捨てられ断罪される役柄だと聞いたのですが、覚悟していた状況と随分違います。

夏笆(なつは)

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95.一撃必殺といい嫁の関係の謎、なのです。

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「よく来たね、ローズマリー!ローズマリーの方から来てくれるなんて嬉しいよ。もう少し待て、とか言われてしまって俺からは行けなかった・・・って、ローズマリー。それ、なに?」 

 無事パトリックさまの部屋に着き、マーガレットが訪問を告げれば、すぐにロバートさんが出てくれ、その背を追いこすように満面笑みのパトリックさまが来てくださった。 

 そうして、抱き締めないばかりに歓迎してくださったパトリックさまは、私の腕に居るテオとクリアの頭に乗ったウエハースさんとアップルパイさんを見て固まってしまわれる。 

「こちらのおふたりは、この地の精霊さんで、ウエハースさんとアップルパイさんとおっしゃいます。ウエハースさん、アップルパイさん、こちらは公爵家ご嫡男のパトリックさまです」 

『おれたちのことは呼び捨てでいいぞ、ローズマリー』 

『はい。呼び捨ててください、ローズマリー』 

「なんだ。自分達は、既にしてローズマリーを呼び捨てにしているのか。それはずうずうしいだろう。しかも、俺が知らない間にとは更に許し難い。それに、精霊という割に薄汚れているようだが。本当に嘘偽りないのか?」 

『偽りなどない!貴様、我らの尊厳を貶める気か!』 

 初対面なのに、お互いに挨拶することもなく、それどころかとてつもなく険悪な雰囲気が漂って私は戸惑ってしまう。 

 それでも、ウエハースさんとアップルパイさんの姿が見え声も聞こえるらしいパトリックさまは、心底面白くなさそうな顔をしながらも、私たち全員を部屋に招き入れてくれた。 

「・・・それで、ローズマリーにお前達のために菓子を作れと言うのか」 

 勧められたソファに座り、ウエハースさんとアップルパイさんの事情を説明すると、パトリックさまはふたりを見て苦い顔になる。 

『貴様に作ってくれ、とは言っていない。それにローズマリーは、公爵の許可が下りれば作ってくれると言っている。貴様は直接には関係ない』 

「しかしそれは、ローズマリーと俺の時間が削れる、ということだろう。直接関係大ありだ」 

『狭量だな』 

「ほう。父公爵の許可は要らないと?」 

『偉そうに言うが、お前が公爵な訳ではないだろう。ローズマリー、こんな奴放っておいて、直接公爵に聞けばいいではないか』 

 ぽんぽんと小気味よく言葉が飛び交うのを聞いていると、いきなり私の方へ飛び火して来た。 

「それは出来ません。確かにわたくしは、出来るならあなた方の為に動きたいと思っています。ですが、パトリックさまがいらっしゃるのに、公爵さまに直接お願いする訳にはいきません。それに何より、わたくしにとってはパトリックさまの許可が一番大切なのです」 

 私がきっぱりと言うと、隣に座るパトリックさまが嬉しそうに私の手を取り、ゆるく抱き寄せた。 

「ああ、ローズマリー。俺は幸せだよ。君が作ると言うなら、そうできるようにする。ローズマリーの願いなら、必ず叶えるよ」 

「ありがとうございます、パトリックさま。わたくしでお役に立てるなら、そうしたいと思っています」 

「うん、分かった。ローズマリー。すぐ、父上に許可をもらいに行こう」 

 先ほどまでの不穏な態度を一瞬でかき消したパトリックさまは、そう言ってすぐにも行こうと私の手を引き立ち上がる。 

『『伴侶馬鹿』』 

 そして幸せそうに笑み零すパトリックさまに、アップルパイさんとウエハースさんが呆れたように首を振り、ため息を吐いた。 

 

 
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