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66.別視点のお話<同志>パトリック視点
しおりを挟む「ウェスト公子息。僕の家には<正当なる聖獣からの加護>というものが伝わっているのだが」
俺の話を考え込みながら聞いていたウィルトシャー級長が聞き終えてすぐ、ゆっくりと口を開いた。
「ああ。<精神、魔力、魔法精度、すべての条件を満たす者が、時、空間の合致を得たとき稀に聖なる森に巡り合い、そこでの試練を越えて聖獣との対面を果たし名付けを許された時、聖獣の言葉を解するようになり、加護を得ることが出来る>という、初代国王がその蛮行によって侵した、というあれだろう?」
俺の言葉に、ウィルトシャー級長が頷く。
「先ほどからの貴殿の話を聞いていると、ローズマリーはそれに当てはまると思う。ただ、最初から声が聞こえていたことや、聖なる森である筈の場所が、何故それほどに暗く淀んでいたのか、という疑問は残るが」
俺とまったく同じ見解をして、ウィルトシャー級長が考え込む。
「しかも、名付けを許されるというより請われたようだし、名を付けることによって固まって動かなかった二匹が動くようになり助けられた、というのも不思議だ」
考えつつ言うウィルトシャー級長が、更なる思考に沈んで行く。
「そうだな。最初から呼ばれたのは、同調力が高かったと考えることは出来ないだろうか。それに助けるという行為が試練だとすれば、そこでは魔法を使わず二匹の元へ辿り着くのが条件だったと考えることも出来る、とは思うが。聖なる森が淀んでいたうえ聖獣が囚われているなんて文書は読んだことがないし、仮説を立てるのも難しい」
「同感だ」
俺とウィルトシャー級長は、目を見合わせて深く息を吐いた。
「まあ、疑問点や判らない事はともかく。ウェスト公子息、その二匹に害意は感じられず、ローズマリーはその二匹を飼うつもりでいる、ということに間違いはないか?」
ひとまずは出来ることから、という切り替えをしたのだろうウィルトシャー級長が、現実的なことを尋ねてくる。
「ああ。あの二匹から害意はまったく感じないし、魔悪要素も無い。それにローズマリーは既に二匹に必要な物を買い揃えた。謎の部分は要注意として、まずはどのようにあの二匹を飼うかを考えるべきだな」
あの二匹に害意が無いことを重ねて伝えると、ウィルトシャー級長は安心したように眦を緩めた。
「貴殿がそう感じたのなら間違いないだろう。ローズマリーが飼いたいと言うのなら叶えてもやりたい。見た目が普通の仔犬なら、問題は瞳の色、ということか」
考え込むウィルトシャー級長に、俺は軽く手を挙げた。
「その対処方法なら考えてある。二匹の首輪に、瞳の色を変える魔道具を取り付ける。その上から飾りの宝石を付けてカモフラージュすれば、問題ないだろう」
俺が言えば、ウィルトシャー級長が難しい顔をする。
「確かに問題ないだろうが、貴殿が造るにしても用意するのに時間がかかるのではないか?」
発想はいいが現実的ではないのではないか、もしくはそれを実行するにしてもそれが完成するまでの対処法を考えなければならないのではないか、と言いたげなその表情に俺は椅子を立った。
「いや、大丈夫だ。もう既に魔道具は造ったし、宝石も良さげな物がある」
ウィルトシャー級長を安心させるため既に完成している魔道具を持って来て見せれば、ウィルトシャー級長は俺が予期した安心の表情ではなく、とてつもなく複雑な苦い顔になった。
「これが、姿変えの魔術式の応用で瞳の色だけを変える魔道具だと言うことは僕にも判る。だがしかし、これほど小さく薄く軽い物を造れるとは。以前から研究でもしていたのか?」
ウィルトシャー級長が、ため息を吐くように言う。
「いいや。貴公の言う通り、姿変えの魔術式を応用して、昨日造った。ああ、違法になるようなことはしていないから、安心していい」
隠すことでもない、と正直に言えばウィルトシャー級長が益々苦い顔になる。
「そうか、昨日一日で、か。そう言えば、焼却炉の記録魔道具も貴殿の作だったな」
しみじみ言い、しみじみ手元の瞳の色を変える魔道具を見つめていたウィルトシャー級長が、思考を切り替えるよう首を横に振った。
「すまない、貴殿の才能の凄さに嫉妬を越えて驚いてしまった。しかし、これがあればローズマリーも安心して、その二匹を散歩にも連れて行けるだろう。それで、ウェスト公子息。殿下には今回のこと、どうするつもりだ?」
「王家に知られれば、まず間違いなく面倒なことになるだろうからな。まずは、俺の家とポーレット侯爵家にこのことを伝え、今後のことを相談するつもりでいる。なので貴公も、沈黙していて欲しい。アーサー殿下に秘密を持つ、というのは心苦しいだろうが」
先に、ローズマリーを裏切ることは無い、と誓ってくれているウィルトシャー級長なので大丈夫と思いつつも俺が言えば。
「僕よりも殿下に近い貴殿の方が苦しいだろう。それよりもこの話、僕の両親にも伝えていいだろうか?ウェスト家、ポーレット家、両家の力だけでも王家に対抗できるだろうが、我がウィルトシャー家が加われば更に、という力を持てるだろう」
にやり、というウィルトシャー級長らしからぬ笑みを浮かべてそう言った。
「それはとても助かるが。本当にいいのか?」
もしその三家が手を組めば、王家より強大な力を持つことになる。
軍事的にも経済的にも、王家と言えど手出しができないほどに。
「聖獣が絡むことだ。我が家に残る記述通りなら、ローズマリーは初めて聖獣の加護を正当に受けし者、ということになる。王家から守るべき存在だ。祖の言葉を大切にする両親なら、絶対にそう判断する」
「ポーレット侯爵家にもあの記述があるのか、確認もしたいところだな。しかしウィルトシャー級長。王家にずっと黙っていることは恐らく不可能だが。ばれた時はどうする?」
やや揶揄を含んだ俺の言葉に。
「そんなもの、貴殿と同じ言葉を用意しているに決まっているだろう」
ウィルトシャー級長も、揶揄を含んだ声で答えた。
そして。
「「ローズマリーは聖獣の加護を得たのだろう、という予測はいたしましたが確定するに至らず、未確定な報告をするわけにもいかず、様子見としておりました」」
俺とウィルトシャー級長の声が、きれいに重なった。
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