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64.別視点のお話<合議>パトリック視点

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「疲れた」 

 仔犬もどきを洗い終えきれいに乾かすと、ちょうど休日なので早速、と街へ仔犬もどきに必要な物を買いに行こうとしたローズマリーを押しとどめ休むように言い聞かせてから、俺は自分の部屋へと転移した。 

 そしてそのまま、どさりとソファに倒れ込むように座ってしまう。 

 ローズマリーが消えた、という報告を受けたのが昨日の夕方、それから探知し続けて漸く見つかったのが今日の明け方、そしてそれからずっと仔犬もどきを洗い乾かしていたわけである。 

 ローズマリーは時間の感覚がずれてしまっているようで疲労も眠気も感じていないようだったけれど、俺の方はいくら体力魔力に自信があるとはいえ、流石に疲れを感じていた。 

 それにローズマリーもいくら自覚がないとはいえ、異空間に行って冒険して来たのだ。 

 精神的な疲労も大きい筈である。 

 なので、今日はこのまま休むのがいいだろうと判断した、のだが。 

『それならば、せめてお昼をご一緒したいです。お礼もしたいですし、その。もう少し一緒に・・いたくて』 

 最後、消え入るように、というか最後まで音に出来ないほど恥ずかしそうに希望を口にしたローズマリーは本当に可愛くて、そこが男子禁制の女子寮であることも忘れて速攻頷きそうになった。 

 それでも何とか理性を総動員して、ここは女子寮であるのでこれ以上の長居は、と断腸の思いで伝えればローズマリーが青くなった。 

 その時漸く、俺がローズマリーの部屋に居ることのおかしさに気づいたのだろう。 

 自分のせいで俺が規則を破った、とローズマリーは気にしていたが、そんな事は無い。 

 けれど、それは俺が俺の為にしたことだ、といくら言っても納得はできない様子だったので。 

『ローズマリーが黙っていてくれれば、ばれないから大丈夫』 

 と、囁いたら。 

『絶対に誰にも言いません!』 

 と、力強く言いながらこくこく頷くローズマリーが凄く可愛かった。 

 この笑顔を失うかもしれない、と思っていた時間を思い返すだけで胸が潰れるほどに辛く、無事で本当に良かったと改めて思い、ローズマリーの髪を撫でる手が震えてしまったほど。 

 けれど今ローズマリーはここに、俺の傍に居る。 

 何より大切なローズマリーを失わなかったことを漸く実感し、心底安堵した俺は、部屋に戻った途端脱力したように動くのが億劫になった。 

 お湯を使いたいと思いながら省略で自分に洗浄魔法を使い、着替えもせずにソファに沈んだまま、脳裏に浮かぶローズマリーの笑顔に包まれて幸せに眠りに就こうとした俺は。 

「お着替えしてくださいませ」 

 という侍従のロバートに眠りを妨げられ、眠ったまま着替えられる魔法や魔道具が欲しいと心の底から思った。 

 そして、その翌日である今日。 

 今日も休日ということで、今日こそはとばかりにローズマリーから『街へ行きたいです』と伝える連絡蝶が飛んで来た。 

 短い文言だったけれど、この短期間できちんと女子寮から男子寮の俺の元まで届けられるようになったローズマリーの実力は本当に凄いと思う。 

 ローズマリーの願いは何でも叶えたい俺だけれど、流石に昨日の今日ではローズマリーの精神的疲労も心配だったので一度は却下したものの、どうしても自分で選びたい、というローズマリーの要望に負け、俺と一緒に行くことを条件に許可した。 

 いや、ローズマリーに俺が許可を出すというのもおかしな話なのだが、婚約者なのでということにしようと思う。 

 それにしても、俺に黙って行動してしまえばそうも出来るのに、律儀に確認をするローズマリーが本当に可愛くて、ひとり悶えてしまった。 

 こんな姿はローズマリーに絶対に秘密だが、周りにいる使用人達の口からいつかばれるのだろうなと覚悟もしている。 

 ともあれ、今回仔犬もどきはローズマリーの侍女と護衛に任せ、俺はロバートだけを伴ってローズマリーと共に街へ買い物のために転移した。 

 品を選ぶローズマリーは真剣そのもので可愛かったし、店員の話を聞いては仔犬もどきには何がいいのか、と俺と相談しながら買うのも何だか夫婦になったみたいで嬉しかった。 

 そうして悩みながら買ったのは、仔犬もどきの寝床やクッション、首輪にリード、食事をするための皿や水を飲むための器、ブラシ等々。 

 そして俺は、約束通り仔犬もどきを洗うための液体石鹸と保護剤を買った。 

 ローズマリーは遠慮していたが、これこそは俺のためなので本当に気にしなくていいし、絶対に買わせて欲しいので笑顔で強行した。 

 ローズマリーに、俺の真意はばれていない。 

 まあ、ばれたところで苦笑されるか呆れられるかだけなのだが、俺にとってはだけではない。 

 ローズマリーに苦笑される、呆れられるなど考えたくも無い。 

 いつだって、頼れる婚約者でいたいのだ。 

 そしてその店で動物や飼育魔獣の餌も売っているのを見た俺は、そういえば仔犬もどきは何を食べるのかと気になってローズマリーにそっと聞いてみた。 

 すると、ローズマリーも不安に思い彼らに聞いたとのことで、その返事は、ローズマリーがくれるものなら何でも、だったそうだ。 

 ローズマリーが作ったものが一番だが、食事を盛りつけるとか運ぶとか、少しでも介入すればいいらしい。 

 ということで、今はローズマリーが作って食べさせているという。 

 羨ましい話だ。 

 しかし、不思議なことも言っていた、とローズマリーは首を傾げた。 

『でもね、すこしのあいだなら、たべなくってもだいじょうぶなんだよ!』 

『ながいあいだたべないと、ちからがなくなって、おおきくもなれないけど!』 

 少しの間なら食べなくとも問題は無い、という生き物。 

 その彼らのいうところの”少し”がどの程度の時間なのか、気になるところだと思う。 

 そもそも、誰に餌を貰うというのか。 

 自力で餌を得る、としても何処で何を? 

 疑問がまた増えた気がする。 

 そしてその夜。 

 『今戻った』というウィルトシャー級長の連絡蝶を受け取った俺は、早速で悪いと思いつつ、俺の部屋へ来てくれるよう、連絡蝶を返した。 




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