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一章
〈10〉私は決して怪しい者ではございません(4)
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(あれ……私何言って――)
女子生徒たちは、顔を真っ赤にした。……火を噴きそうなほどだ。そして、悔しそうにこちらを一瞥してから、逃げていった。
彼女たちがいなくなって閑散とした現場で、ロベリアは額に手を当てた。
(や、やってしまったわぁぁぁぁ! これのどこが穏便? これじゃ私、ヒーロー気取りのとんだでしゃばりじゃない。土下座でも土下寝でも賄賂でもなんでもしてお引き取りいただく手はずだったのに私ったら……)
公爵令嬢が土下座とは、プライドも恥もないのか。先程まで散々貴族としての礼節を説いていたというのに、情けない有り様である。
だらだらと顔に汗を流し、天を仰ぐロベリア。できるだけ目立たず、敵を作らず、高貴な身分を鼻にかけずひっそりこっそり生きるを信条にしていたというのに。今更後悔してももう遅い。
「ロベリア様…………っ」
「!」
はっと我に返り、ナターシャを見る。彼女は両目から洪水のように涙を流している。もう、彼女のことを泣かせるのは何度目のことか。
「うっ……ひくっ……うう……っ。格好、よかったです……っ。わた、しのために……ありがとうございます、ロベリア様…………っ」
「ああ、もう、泣かないで? 可愛い顔が台無しよナターシャ。私は当然のことをしただけ」
「私……ロベリア様にはお礼のしようがありません……。ひとりぼっちの私に声をかけてくださって、優しいご友人を紹介していただいた上に、今日はフローリア様から庇ってくださいました。……作らなくていいはずの敵まで作って……」
(うっ……傷を抉らないでちょうだい……)
ロベリアは頬をひきつらせる。しかし、そんな彼女の内心を知らないナターシャが続ける。
「私……あなたになんの恩返しもできていません……」
か細く呟いた彼女の頭を、ロベリアがそっと撫でた。
「その気持ちだけ、ありがたく受け取らせていただくわ。持ちつ持たれつ……困っている時はお互い様よ」
「で、でも……私ばっかり助けてもらって……」
「それでいいのよ。もしいつか、困っている人がいたら、あなたが誰かに助けられた分、手を差し伸べてあげなさい。きっと、世の中ってそういう風にできてるものだと思うわ。私に何かしてくれる必要なんてないの」
納得いかない様子で俯く彼女に、ロベリアはこう続けた。
「さっきも言ったけれど、ナターシャは私の大切なお友達なの。守らせてちょうだい」
「…………!」
ナターシャは瑠璃色の瞳を見開き、子どものように泣きながら抱きついた。涙でぐしゃぐしゃの彼女の顔をハンカチーフで拭く。
「ロベリアさまぁ……っ、私……ロベリア様のことが、大好きです……っ」
「ふふ。ありがとう――私もよ。もう……鼻水を拭きなさい」
「ずみまぜん……」
ロベリアは彼女の華奢な身体をそっと包んだ。
女子生徒たちは、顔を真っ赤にした。……火を噴きそうなほどだ。そして、悔しそうにこちらを一瞥してから、逃げていった。
彼女たちがいなくなって閑散とした現場で、ロベリアは額に手を当てた。
(や、やってしまったわぁぁぁぁ! これのどこが穏便? これじゃ私、ヒーロー気取りのとんだでしゃばりじゃない。土下座でも土下寝でも賄賂でもなんでもしてお引き取りいただく手はずだったのに私ったら……)
公爵令嬢が土下座とは、プライドも恥もないのか。先程まで散々貴族としての礼節を説いていたというのに、情けない有り様である。
だらだらと顔に汗を流し、天を仰ぐロベリア。できるだけ目立たず、敵を作らず、高貴な身分を鼻にかけずひっそりこっそり生きるを信条にしていたというのに。今更後悔してももう遅い。
「ロベリア様…………っ」
「!」
はっと我に返り、ナターシャを見る。彼女は両目から洪水のように涙を流している。もう、彼女のことを泣かせるのは何度目のことか。
「うっ……ひくっ……うう……っ。格好、よかったです……っ。わた、しのために……ありがとうございます、ロベリア様…………っ」
「ああ、もう、泣かないで? 可愛い顔が台無しよナターシャ。私は当然のことをしただけ」
「私……ロベリア様にはお礼のしようがありません……。ひとりぼっちの私に声をかけてくださって、優しいご友人を紹介していただいた上に、今日はフローリア様から庇ってくださいました。……作らなくていいはずの敵まで作って……」
(うっ……傷を抉らないでちょうだい……)
ロベリアは頬をひきつらせる。しかし、そんな彼女の内心を知らないナターシャが続ける。
「私……あなたになんの恩返しもできていません……」
か細く呟いた彼女の頭を、ロベリアがそっと撫でた。
「その気持ちだけ、ありがたく受け取らせていただくわ。持ちつ持たれつ……困っている時はお互い様よ」
「で、でも……私ばっかり助けてもらって……」
「それでいいのよ。もしいつか、困っている人がいたら、あなたが誰かに助けられた分、手を差し伸べてあげなさい。きっと、世の中ってそういう風にできてるものだと思うわ。私に何かしてくれる必要なんてないの」
納得いかない様子で俯く彼女に、ロベリアはこう続けた。
「さっきも言ったけれど、ナターシャは私の大切なお友達なの。守らせてちょうだい」
「…………!」
ナターシャは瑠璃色の瞳を見開き、子どものように泣きながら抱きついた。涙でぐしゃぐしゃの彼女の顔をハンカチーフで拭く。
「ロベリアさまぁ……っ、私……ロベリア様のことが、大好きです……っ」
「ふふ。ありがとう――私もよ。もう……鼻水を拭きなさい」
「ずみまぜん……」
ロベリアは彼女の華奢な身体をそっと包んだ。
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